十六夜 さ。
それが今の私の名前だ。
この間どこぞの胡散臭い神様が現れて、
「あなたの『やく』を貰ってあげるわ~」
そう言われたのが運の尽きだった。
「何も名前から持って行かなくてもいいじゃないっ…!」
私は泣いた。
今時『さ』なんて名前があるものか。
というか今どころか昔もねぇよ。
「そう落ち込まないのよ、元咲夜」
「お嬢様…」
お嬢様は私の肩にぽん、と手を置いた。
「名前を取られたのは何もあなただけじゃないわ。
あのスキマ妖怪なんて『もゆかり』になったわよ」
ということはその式は『もらん』か。
九尾の狐が、今やイギリス人と化したこの世の中。
世知辛いにも程がある。
「しかし、お嬢様…私は名前を取り戻したいんです!
お嬢様に頂いた名前をあんな厄神に取られるなんて…!」
「そう、元咲夜…あなたがそこまで言うなら止めないわ」
お嬢様がブン屋から聞いた情報によると、
あの厄神は拾ったやくを片っ端から川に流しているらしい。
私は紅魔湖を渡り、川の流れをさかのぼり、
途中不自然な分岐を見つけ、その流れを追って森の中に入っていくと―
そこには小さな池があり、池の中から大妖精が現れた。
「あなたが落としたのは『蓬莱山輝夜』のやくですか?
それとも『鈴仙・優曇華院・イナバ』のやくですか?」
なんと、輝夜もやくを取られていたとは。
じゃあ今は『蓬莱山 か』と呼べばいいのだろうか。
濁点が余るから、『蓬莱山 が』かもしれない。
しかし、あの月の兎にやくはあっただろうか…?
ああ、『ざやく』のやくか。
「違います。私が探しているのはそのどちらでもありませんわ」
私は正直にそう答えた。
…ってあれ?正直に答えたら―
「よく正直に答えてくれましたね。
あなたには、他の方が落としたやくも全て差し上げます」
「え、ちょ、ちょっと待って―」
いざやくよいやく さくやくや。
それが今の私の名前だ。
「そんなにやくはいらないのよっ…!」
私は泣いた。
お嬢様にも相談したが、「語呂がいいじゃない」と一蹴された。
なぜ私がこんな目に遭わなければならないのだろう。
それもこれも、他の連中が名前を簡単に取られるのが悪い。
というか、あの厄神は人間からやくを取るのが仕事ではなかったか。
「被害者は私を含めて5人か…ってあれ?」
八雲 藍、八雲 紫、
蓬莱山 輝夜、鈴仙・優曇華院・イナバ、
そして私、十六夜 咲夜。
単純計算によれば、5つのやくが余っているはずだ。
しかし私の名前にやくは4つ。
これは何かがおかしい。
私は一人、つぶやいた。
「ヤクが足りないわ…」
その後、麻薬常習犯と勘違いされた私が
紅魔館を追放されたのは言うまでもない。
着眼点といい内容の滑りといいオチも上手くて、正直ビビッた
腹筋が元に戻らないw
俺もうこの名前一生頭から離れないわwww
この不憫なさくやくやさんに幸あらんことを
いえ勿論褒め言葉ですよ。