外界より隔離された世界――幻想郷。
「マリサ~いい話があるんだけど、どう?」
ここは人に限らず人外魑魅魍魎が数多く生息しており
「またかよアリス、この前みたいな野暮ったい仕事はゴメンだぜ」
なかでも妖怪達は幻想郷を我が物顔で振る舞い
「あぁ人間の里の警備だったわね。7日間ずっと張って結局なにも
起きなかったやつ。やっぱ情報元が文々丸新聞じゃ、信用したのが間違いだったか・・・ハァ」
人は、ただ摂取されるだけの存在でいた。しかし中には―
「信じるほうがおかしいんだよ。何が『人間洗脳計画!?河童達に動きアリ!謎の巨大建造物』だ
私もよくは知らんがアレはコーリンが持ってるテレビってのが使えるようになるんだと、
そのせいで最近、コーリンのやつ浮かれまくって気味悪いったらないぜ・・・ったく・・・
それで?今日はどんな野暮用を持ってきてくれたんだ?私のこの鬱憤を吹き飛ばせるような仕事か?」
彼女のように、そのルールに反逆する者もいた。
女の名は霧雨 魔理沙。説明不要の主人公。白黒。普通の魔法使い。便利屋。猪突猛進。泥棒。
「湖の大妖精からの依頼よ。ナワバリ争いのいざこざね、貴女はいつも通りやっちゃっていいから」
名はアリス・マーガトロイド。人形遣い。人外。マリサの連れ。ツンデレ。冷静沈着。
「いつも通り・・・ね。ハハッオーケィ!おーけぃだ!全て良し!久々のアレだ!アレが出来る!最高だ!!」
ここは幻想郷唯一の密集原生林地帯『魔法の森』。化けキノコの毒胞子が宙を舞い、
危険な妖怪も多く生息している地域だ。マリサはここに住み、『便利屋』を開いている。
それがどれだけ彼女が、他の人間に比べて異端的存在かわかるであろう。
マリサは玄関に立てている愛用の箒を手に取り、待ちきれないと言わんばかりに外に出ようとした。
が、彼女が戸を開けるより先に扉が開いた。ガチャ。
「マリサ、どうせヒマなんだろ。一緒に妖怪の山へピクニックにでも――ゲヘァッ!」
魔力を込めたハイキックが見事に決まり、彼は数十m吹っ飛ばされた。
「お前はどうせ、あの電波塔ってのが見たいだけなんじゃねぇのか?!・・・・ふんっ行くぜアリス」
「あぁ、ちょっと待ちなさいよ~。(リンノスケ…貴方の敗因はたった一つのシンプルな答えよ…
『お前はマリサを怒らせt…)て、また置いてけぼりにされた…ハァ。行きますか・・・」
秋の終わりは肌寒い。それも薄着で空を高速移動なんてしていたらなおさらだ。時刻は現在
夕暮れに射しかかっており、大きく見える太陽がひと際大きく存在感丸出しで輝いていた。
そんな橙色の空を翔る2つの影。マリサとアリスは大妖精の揉め事依頼のため、霧の湖へと
向かっていた。
「ふぅ。冷えるなぁ、もっと厚着してくればよかったぜ。暖の魔術でもやってみるかぁ」
マリサはそう言うと懐から八角形の形をした魔術道具を出し、詠唱を始めたが――
「貴女の暖は暖でも吸血鬼を一瞬で消し炭に変えてしまう暖でしょ。上着なら私の貸してあげるから
―ほら」
マントを人形を使ってマリサに羽織らせた。アリスは何かを思い出したように―
「知ってる?外の世界だと、夏でも毛皮のコートを何枚も着て雪合戦が出来て、冬でも
湖で水遊びが出来るんですって。雪かきもないらしいわよ?ハァ・・・
何でそういうところに生まれなかったんでしょうね、私たち・・・」
当然マリサも羨ましがると思ったが・・・予想と反した答えだった。
「私は嫌だぜ。そんなトコ」
「何で?」 マリサは清々しく獰猛に笑った。
「だって。そういう所にいたら、 退 屈 しちまうだろう?」
なんと血の気が多い答えであろう。それも弱き人間の口から発せられたのだ、人外のアリスで
さえこの幻想郷の生活には辟易しているというのに。これだからこのマリサというものは面白い。
彼女の全てが知りたい。この弱き人間の、どこからそのような自信と力が出てくるのか、私は
知りたい。
アリスがマリサへの秘める想いの中に没頭してる間に、目的地に到着した。
季節は秋の終わり。冬の始まり。寒さが蛮勇を奮いだす頃合。そう、霧の湖に棲むアイツも―