絵板の方ではまだネタバレ解禁してないので、一応こちらでも忠告を。
風神録、ネタバレですよ。
世の中、常識では到底不可能なことをいとも容易くやってのけてしまう者がいる。
もちろんその裏ではたゆまぬ努力を常日頃から行っている者もいるが、
天才だとか才能だとかで片付けられることも多い。
そんななか、人が持ちうる才を明らかに突出した者が現れた。
人は彼らを神と呼んだ。
自分たちではどうにもならないとき、人々はそんな者達を崇め祈りを捧げた。
毎年の豊作を願い、どうしようもない不幸からの救いを求めた。
彼らは人々の望みを叶え、かわりに信仰という形で人々から更なる力を得た。
神も、もとはただの人間だったのだ。
人間というには「少し」イレギュラーであったろうが。
東風谷家もまた、その特殊な血筋を脈々と引き継いでいた。
「そう、あなたが次の巫女なのね。よろしく。」
特に強い神通力を持って生まれた早苗は、幼少から神と会話をして楽しんだ。
何か危険があっても、神風が早苗を守ってくれた。
人々は、早苗は神に愛されている子だと言って大いに喜んだ。
彼女の幼稚園のときの夢は、「りっぱなみこになる」ことだった。
「早苗、あなたには風神様が力添えをしてくださっている。負けちゃいけないよ。」
今時神社で奇跡を求める者などいなかったし、主張をすれば胡散臭そうに見る目が痛かった。
それでも両親は先祖代々が守ってきた洩矢神社を誇りに思っていた。
早苗にとってみればそれすらもいじめられる要因。自分の生まれを呪った。
何もしなければ貶され、自分の能力を発揮しようとすれば気味悪がられ、疎外された。
そもそも優しい子である。自分の力で誰かを傷つけたくなんかなかった。
それでも、
なにが風神だ。
誰の所為でこんな目に遭っていると思っている。
神に恨み辛みを吐いてでもいなきゃ、正直やっていられなかった。
気がつけば、もう自身の生まれなんかに左右されまいと、自分の力を認めさせようと懸命になっていた。
自分を否定された神奈子は悲しんだが、仕方のないことだと割り切ることにした。
どっちにしたって永くは持たない。
「流石東風谷さんだわ。」
成長した早苗は優等生として全校に知られていた。
彼女は遜色の1つもなく、順調かつ確実に自分の力を伸ばしていた。
文武両道を志すその姿は皆の注目の的であり、充実した毎日を送っていた。
一方で、神事に関しては年に一回適当に済ますことにしていた。
だから、というか、何故か、というか、たまに感じる空白感に早苗は戸惑った。
両親がいなくなってからずいぶん経つが、きっとまだ尾を引いているんだと、
早苗は無理矢理納得することにした。
いい成績をとって、いい学校に入って、都会に出て大企業に勤めて…
それが幸せなのだと。
「もう、これまでか―」
早苗が巫女を捨てた以上、最早洩矢に後はない。
このままでは誰の記憶からも忘れ去られ、洩矢のように永遠に眠り続けるしかなくなる。
かといって、無理に早苗を巫女として継がせる気にもなれなかった。
今までずっと早苗の努力を見守ってきた。今更無駄になんかさせたくない。
取る手段は1つしかなかった。
「さようなら、早苗。」
突然の別れの挨拶が耳を撫でたとき、早苗は友人をほったらかして神社へと駆けた。
その走りは韋駄天の如く、友人らはただあっけにとられていた。
懐かしい声の主は境内にぽつりと立っていた。
背中が寂しく感じた。
「今までありがとう。そしてごめんなさい。」
あちら側に行けば起死回生できるかもしれないし、
なにより早苗の肩に余計な重荷を背負わせずに済む。
お互いにこれが一番なのだ。
「ならば、私も行きます。」
早苗は神奈子の短い台詞を理解し、きっぱりとこう言った。
神奈子は耳を疑った。
「何故? あなたはこっちでうまくやっているでしょう?」
わざわざ先の知れない道を選ぶこともなかろうに。
「私は洩矢の巫女です。」
ここに来てそんな義務感に駆られても困る。
大体早苗にはこっちに生活の基礎が出来上がっている。
その場の感情でそれを捨てるだなんて馬鹿げているだろう。
神奈子はどうやって説得してくれようかと頭を悩ませた。
「それに、神様にこれまでの恩を報いてこそ、両親への親孝行にもなります。」
早苗の親は信心深かった。
ことあるごとに風神様を持ち出し、
この世知辛い世の中で、流行らない神社を守ってきた。
彼らの苦労は神奈子が一番理解していたし、何も出来なかった自分に不甲斐なさも感じていた。
「それとこれは私事ですが…」
早苗は少し小声になった。
「学校の友人とより、神様とお話していたほうがいいかなぁ、なんて。」
それに、ただ置いていかれるのは面白くない。
それはむしろおねだりする子供のように、下を向いてもじもじして。
見た目少しは大人びたと思ったら、優しくて、マジメで、少し内気で。
なんだ、それが本音か。
昔のまんまだねと、神奈子は笑った。
翌日、1人の少女が神社ごと消えたと一部で報道され、ちょっとした話題になった。
地元では神隠しだの何だのと、洩矢神社とそこの巫女の話で大いに盛り上がった。
なくなってから注目を浴びることになるとは皮肉なものである。
学校でもその話題で持ちきりであったが、彼女ならやりかねない事だと皆笑った。
「今頃何してるのかしら」
「悟りでも啓いてるんじゃないかしら」
「それお坊さんでしょ?」
悲観者は誰も居なかった。
「だってあの子、人間じゃないでしょ」
「ここに居たって持て余すだけよね」
「きっとあっちでもうまくやるわ」
誰も彼女を人間扱いしなかったし、悲劇なんて彼女には起こりえないとも、皆思っていた。
「あっちって?」
「…天竺?」
「だからそれお坊さんだって」
友人たちは「あっち」へと旅立った彼女を、将来こう思い出すだろう。
「ああ、彼女は強風みたいな人だったよ。とにかく凄いんだ。」
本人は至ってマジメだったが、どっちにしろ、変人扱いには違いあるまい。
「あなたも巫女なのね。これからよろしく。」
こっちに来たら自分が特に目立った存在でもなくなった。
最初そのことを早苗は少し戸惑ったが、なんとなく嬉しくもあった。
ああ、これで普通の人として過ごせる。
だって目の前にこんなにも素敵な巫女さんがいるのだから。
「奇跡の使者も凡人と化すこの楽園は、まさに神懸っているんだなぁ。」
「あら、うまいこと言ったつもりかしら。」
「えへへ。」
この調子ならもう見守ってやる必要もないだろう。連れてきたのは正解だったか。
正直、早苗1人をあっちに残すのも辛いと思っていた。
それに、山の妖怪達との酒盛りは確かに楽園気分だ。
ようやっと、神奈子も子離れできそうである。
「まぁ。人の子孫まで横取り?」
「そう言うな諏訪子。こっちにも思うところはあるってもんさ。ささ、あんたも一杯やろう。」
「わかってるわよ。私だってずっと見てきたんだから。(くいっ)」
「可愛い子だもんな。」
「私らの子みたいなもんよ。(くいっ)」
「言ってくれるわ。泣けてくるじゃないの。」
「泣いちゃえ泣いちゃえ。けろけろ(くいっ)」
「誰が泣くものかよ。(くいっ)」
「自分で言ったくせに。(くいっ)」
どうか、あなたの日々がハレでありますように。
風神録、ネタバレですよ。
世の中、常識では到底不可能なことをいとも容易くやってのけてしまう者がいる。
もちろんその裏ではたゆまぬ努力を常日頃から行っている者もいるが、
天才だとか才能だとかで片付けられることも多い。
そんななか、人が持ちうる才を明らかに突出した者が現れた。
人は彼らを神と呼んだ。
自分たちではどうにもならないとき、人々はそんな者達を崇め祈りを捧げた。
毎年の豊作を願い、どうしようもない不幸からの救いを求めた。
彼らは人々の望みを叶え、かわりに信仰という形で人々から更なる力を得た。
神も、もとはただの人間だったのだ。
人間というには「少し」イレギュラーであったろうが。
東風谷家もまた、その特殊な血筋を脈々と引き継いでいた。
「そう、あなたが次の巫女なのね。よろしく。」
特に強い神通力を持って生まれた早苗は、幼少から神と会話をして楽しんだ。
何か危険があっても、神風が早苗を守ってくれた。
人々は、早苗は神に愛されている子だと言って大いに喜んだ。
彼女の幼稚園のときの夢は、「りっぱなみこになる」ことだった。
「早苗、あなたには風神様が力添えをしてくださっている。負けちゃいけないよ。」
今時神社で奇跡を求める者などいなかったし、主張をすれば胡散臭そうに見る目が痛かった。
それでも両親は先祖代々が守ってきた洩矢神社を誇りに思っていた。
早苗にとってみればそれすらもいじめられる要因。自分の生まれを呪った。
何もしなければ貶され、自分の能力を発揮しようとすれば気味悪がられ、疎外された。
そもそも優しい子である。自分の力で誰かを傷つけたくなんかなかった。
それでも、
なにが風神だ。
誰の所為でこんな目に遭っていると思っている。
神に恨み辛みを吐いてでもいなきゃ、正直やっていられなかった。
気がつけば、もう自身の生まれなんかに左右されまいと、自分の力を認めさせようと懸命になっていた。
自分を否定された神奈子は悲しんだが、仕方のないことだと割り切ることにした。
どっちにしたって永くは持たない。
「流石東風谷さんだわ。」
成長した早苗は優等生として全校に知られていた。
彼女は遜色の1つもなく、順調かつ確実に自分の力を伸ばしていた。
文武両道を志すその姿は皆の注目の的であり、充実した毎日を送っていた。
一方で、神事に関しては年に一回適当に済ますことにしていた。
だから、というか、何故か、というか、たまに感じる空白感に早苗は戸惑った。
両親がいなくなってからずいぶん経つが、きっとまだ尾を引いているんだと、
早苗は無理矢理納得することにした。
いい成績をとって、いい学校に入って、都会に出て大企業に勤めて…
それが幸せなのだと。
「もう、これまでか―」
早苗が巫女を捨てた以上、最早洩矢に後はない。
このままでは誰の記憶からも忘れ去られ、洩矢のように永遠に眠り続けるしかなくなる。
かといって、無理に早苗を巫女として継がせる気にもなれなかった。
今までずっと早苗の努力を見守ってきた。今更無駄になんかさせたくない。
取る手段は1つしかなかった。
「さようなら、早苗。」
突然の別れの挨拶が耳を撫でたとき、早苗は友人をほったらかして神社へと駆けた。
その走りは韋駄天の如く、友人らはただあっけにとられていた。
懐かしい声の主は境内にぽつりと立っていた。
背中が寂しく感じた。
「今までありがとう。そしてごめんなさい。」
あちら側に行けば起死回生できるかもしれないし、
なにより早苗の肩に余計な重荷を背負わせずに済む。
お互いにこれが一番なのだ。
「ならば、私も行きます。」
早苗は神奈子の短い台詞を理解し、きっぱりとこう言った。
神奈子は耳を疑った。
「何故? あなたはこっちでうまくやっているでしょう?」
わざわざ先の知れない道を選ぶこともなかろうに。
「私は洩矢の巫女です。」
ここに来てそんな義務感に駆られても困る。
大体早苗にはこっちに生活の基礎が出来上がっている。
その場の感情でそれを捨てるだなんて馬鹿げているだろう。
神奈子はどうやって説得してくれようかと頭を悩ませた。
「それに、神様にこれまでの恩を報いてこそ、両親への親孝行にもなります。」
早苗の親は信心深かった。
ことあるごとに風神様を持ち出し、
この世知辛い世の中で、流行らない神社を守ってきた。
彼らの苦労は神奈子が一番理解していたし、何も出来なかった自分に不甲斐なさも感じていた。
「それとこれは私事ですが…」
早苗は少し小声になった。
「学校の友人とより、神様とお話していたほうがいいかなぁ、なんて。」
それに、ただ置いていかれるのは面白くない。
それはむしろおねだりする子供のように、下を向いてもじもじして。
見た目少しは大人びたと思ったら、優しくて、マジメで、少し内気で。
なんだ、それが本音か。
昔のまんまだねと、神奈子は笑った。
翌日、1人の少女が神社ごと消えたと一部で報道され、ちょっとした話題になった。
地元では神隠しだの何だのと、洩矢神社とそこの巫女の話で大いに盛り上がった。
なくなってから注目を浴びることになるとは皮肉なものである。
学校でもその話題で持ちきりであったが、彼女ならやりかねない事だと皆笑った。
「今頃何してるのかしら」
「悟りでも啓いてるんじゃないかしら」
「それお坊さんでしょ?」
悲観者は誰も居なかった。
「だってあの子、人間じゃないでしょ」
「ここに居たって持て余すだけよね」
「きっとあっちでもうまくやるわ」
誰も彼女を人間扱いしなかったし、悲劇なんて彼女には起こりえないとも、皆思っていた。
「あっちって?」
「…天竺?」
「だからそれお坊さんだって」
友人たちは「あっち」へと旅立った彼女を、将来こう思い出すだろう。
「ああ、彼女は強風みたいな人だったよ。とにかく凄いんだ。」
本人は至ってマジメだったが、どっちにしろ、変人扱いには違いあるまい。
「あなたも巫女なのね。これからよろしく。」
こっちに来たら自分が特に目立った存在でもなくなった。
最初そのことを早苗は少し戸惑ったが、なんとなく嬉しくもあった。
ああ、これで普通の人として過ごせる。
だって目の前にこんなにも素敵な巫女さんがいるのだから。
「奇跡の使者も凡人と化すこの楽園は、まさに神懸っているんだなぁ。」
「あら、うまいこと言ったつもりかしら。」
「えへへ。」
この調子ならもう見守ってやる必要もないだろう。連れてきたのは正解だったか。
正直、早苗1人をあっちに残すのも辛いと思っていた。
それに、山の妖怪達との酒盛りは確かに楽園気分だ。
ようやっと、神奈子も子離れできそうである。
「まぁ。人の子孫まで横取り?」
「そう言うな諏訪子。こっちにも思うところはあるってもんさ。ささ、あんたも一杯やろう。」
「わかってるわよ。私だってずっと見てきたんだから。(くいっ)」
「可愛い子だもんな。」
「私らの子みたいなもんよ。(くいっ)」
「言ってくれるわ。泣けてくるじゃないの。」
「泣いちゃえ泣いちゃえ。けろけろ(くいっ)」
「誰が泣くものかよ。(くいっ)」
「自分で言ったくせに。(くいっ)」
どうか、あなたの日々がハレでありますように。
>そんな者達をを崇め
をが多いです。
>漏矢(四箇所)
txtには「洩矢」とあります。
・言葉は素直だけど、その分直に響くものです。ありがとう。
・読めないです。でもたぶん褒められてるんだよね?ありがとう。
・出る杭は打たれる世の中。幻想郷の連中ならいじめ返すに違いない。感想とご指摘、ダブルでありがとう。