秋も深まり自然は実りの季節を迎えた。
人々は今年の豊作を豊穣の神に感謝し、自然の贈り物を収穫していた。
「秋も深まってきたので山を散策しないか?」
永遠亭の客間、藤原妹紅は永琳が出してくれたぼた餅を竹のフォークで一口大に切りながら提案した。
その提案を受けた対面の蓬莱山輝夜は、その言葉の意味の裏を読むかのように、
急須にお茶を注ぐ形で少しの間硬直した。
輝夜の怪しむ様な表情を見た妹紅は自分の顔の前でひらひらと右手を振り、苦笑をした。
「いやいや、別に罠にはめようと言うつもりは無いよ。ただ、たまにはお前と秋の山を楽しもうと思って。」
「あら素敵。風流な行事を思いついたわけね妹紅。」
ふむ。と輝夜は一応の納得をすると、妹紅の提案に乗って見せた。
不死の身だ、精々毒キノコを盛られる程度の危険性はあるとしても、それ以上何ができようか。
輝夜は妹紅にお茶を勧めると、僅かな衣擦れの音を立て、足を崩し妹紅に背を向けた。
「永琳。明日は山に登るわ。準備を…えっと、」
輝夜が視線だけを妹紅に向ける。
「輝夜は酒だけで良い。あとはこちらが用意する。」
「あら、随分と優しいのね?やっぱり罠かしら?」
そう言ってくすくす笑う輝夜に妹紅は、口角を吊り上げ意地悪そうに笑うと、輝夜の出したお茶をすすった。
「さぁ?それは行ってみてのお楽しみと言うことで。」
「そう。それは随分と楽しみね。」
輝夜は着物の裾で口元を隠した。
次の日、二人は近所の山を満喫していた。モミジやイチョウと言った紅葉が美しいと言われる木は確かに美しい。
しかし自然の中ではらはらと舞い散る様々な木の紅葉や舞い落ちる枯れ葉の姿も、また自然の美しさと言えるだろう。
「春は桜、秋は紅葉。どちらもその季節の中で特に美しいと感じるわ。」
枯葉を踏みしめながら目を閉じ、森の様々な音に耳を傾ける輝夜は感慨深そうにそう言った。
「ほほぅ、どうしてだ?」
妹紅は手ごろな岩に座り、同じように目を閉じる。木々が触れ合い奏でる音、自然が放つ匂い、
その全てが妹紅には心地よかった。
「時間経過により朽ちていくことは時間や自然と同じ時間を共有しているわ。桜も落葉も、
変化して最後には儚く無くなってしまう。その無くなっていく瞬間に私は美しさを感じるのよ。」
「それはお前が時間の経過から外れてしまったことに対する後悔か?それとも時間と共に変化するモノに対する憧れか?」
輝夜は暫く考えると、そっとその背を大木に預けた。
「後悔や憧れは無いわ。そんなことを感じるような心では永遠は長すぎるもの。強いてあげれば確認かしら?
ああ、私は確かに時間の流れの上に立っているのだなぁ…ってね。」
それを聞いて妹紅が笑う。輝夜は少し表情を曇らせた。しかし目を閉じている妹紅には、輝夜の不機嫌は察することは出来ない。
「いやいや輝夜、お前は本当に馬鹿だ。」
「どうして?」
「私達は時間の流れから放り出されたわけじゃない。私はここに居る。お前もここに居る。時間は私達に何もしてくれないが
決して私達と一緒に進むことを辞めたわけではない。わざわざ変わり行く物を見なければ自分の存在確認すら出来ないのか?」
輝夜はそっと眼を開けた。眼前に広がる木々がさわさわと音を立て、夏の季節よりは疎らになった茂りの間から、
陽光が柔らかに差し込んでいた。
はらり
一枚の枯葉が輝夜の着物の胸元に舞い落ちた。茶色い葉、その姿を良く見ようと輝夜がその葉を掴むと、
かさりと乾いた音と共に枯葉は崩れ、小さな欠片になった。
「ああ、そうか。私達は振り出しに戻るのね。壊れてしまっても、死んでしまっても。振り出しに戻る。
ずっとずっと振り出しに戻り続けるのね。私達も変化はしているのね。」
「その小さな往復を変化と思うか思わないかはお前次第という訳だ。しかし、じゃあこれはどうだ?」
そう言って妹紅も目を開けた。そして輝夜の近くに寄り、輝夜に手を差し伸べた。
「私はお前に手を差し伸べた。これは変化だろうか?」
輝夜はその差し出された手を両手で握り締める。
「差し伸べられた手を私は掴んだ。これは変化かしら?」
「それは個人の自由だ。どんな定義で変化と言う言葉を使うかはその人次第だ。
だけどお前が時の流れに置いてけぼりを食らっていると感じるのなら。変化と感じることをお勧めする。」
差し出された妹紅の手はとても暖かい。その暖かさを感じながら輝夜は感慨深そうに溜息を吐いた。
「変化は誰にでもあるのね。」
「そういうことだ馬鹿。」
「あら。ひどいわね。」
そう言って二人は夜が更けるまでお互いの両手で繋がりあった。
人々は今年の豊作を豊穣の神に感謝し、自然の贈り物を収穫していた。
「秋も深まってきたので山を散策しないか?」
永遠亭の客間、藤原妹紅は永琳が出してくれたぼた餅を竹のフォークで一口大に切りながら提案した。
その提案を受けた対面の蓬莱山輝夜は、その言葉の意味の裏を読むかのように、
急須にお茶を注ぐ形で少しの間硬直した。
輝夜の怪しむ様な表情を見た妹紅は自分の顔の前でひらひらと右手を振り、苦笑をした。
「いやいや、別に罠にはめようと言うつもりは無いよ。ただ、たまにはお前と秋の山を楽しもうと思って。」
「あら素敵。風流な行事を思いついたわけね妹紅。」
ふむ。と輝夜は一応の納得をすると、妹紅の提案に乗って見せた。
不死の身だ、精々毒キノコを盛られる程度の危険性はあるとしても、それ以上何ができようか。
輝夜は妹紅にお茶を勧めると、僅かな衣擦れの音を立て、足を崩し妹紅に背を向けた。
「永琳。明日は山に登るわ。準備を…えっと、」
輝夜が視線だけを妹紅に向ける。
「輝夜は酒だけで良い。あとはこちらが用意する。」
「あら、随分と優しいのね?やっぱり罠かしら?」
そう言ってくすくす笑う輝夜に妹紅は、口角を吊り上げ意地悪そうに笑うと、輝夜の出したお茶をすすった。
「さぁ?それは行ってみてのお楽しみと言うことで。」
「そう。それは随分と楽しみね。」
輝夜は着物の裾で口元を隠した。
次の日、二人は近所の山を満喫していた。モミジやイチョウと言った紅葉が美しいと言われる木は確かに美しい。
しかし自然の中ではらはらと舞い散る様々な木の紅葉や舞い落ちる枯れ葉の姿も、また自然の美しさと言えるだろう。
「春は桜、秋は紅葉。どちらもその季節の中で特に美しいと感じるわ。」
枯葉を踏みしめながら目を閉じ、森の様々な音に耳を傾ける輝夜は感慨深そうにそう言った。
「ほほぅ、どうしてだ?」
妹紅は手ごろな岩に座り、同じように目を閉じる。木々が触れ合い奏でる音、自然が放つ匂い、
その全てが妹紅には心地よかった。
「時間経過により朽ちていくことは時間や自然と同じ時間を共有しているわ。桜も落葉も、
変化して最後には儚く無くなってしまう。その無くなっていく瞬間に私は美しさを感じるのよ。」
「それはお前が時間の経過から外れてしまったことに対する後悔か?それとも時間と共に変化するモノに対する憧れか?」
輝夜は暫く考えると、そっとその背を大木に預けた。
「後悔や憧れは無いわ。そんなことを感じるような心では永遠は長すぎるもの。強いてあげれば確認かしら?
ああ、私は確かに時間の流れの上に立っているのだなぁ…ってね。」
それを聞いて妹紅が笑う。輝夜は少し表情を曇らせた。しかし目を閉じている妹紅には、輝夜の不機嫌は察することは出来ない。
「いやいや輝夜、お前は本当に馬鹿だ。」
「どうして?」
「私達は時間の流れから放り出されたわけじゃない。私はここに居る。お前もここに居る。時間は私達に何もしてくれないが
決して私達と一緒に進むことを辞めたわけではない。わざわざ変わり行く物を見なければ自分の存在確認すら出来ないのか?」
輝夜はそっと眼を開けた。眼前に広がる木々がさわさわと音を立て、夏の季節よりは疎らになった茂りの間から、
陽光が柔らかに差し込んでいた。
はらり
一枚の枯葉が輝夜の着物の胸元に舞い落ちた。茶色い葉、その姿を良く見ようと輝夜がその葉を掴むと、
かさりと乾いた音と共に枯葉は崩れ、小さな欠片になった。
「ああ、そうか。私達は振り出しに戻るのね。壊れてしまっても、死んでしまっても。振り出しに戻る。
ずっとずっと振り出しに戻り続けるのね。私達も変化はしているのね。」
「その小さな往復を変化と思うか思わないかはお前次第という訳だ。しかし、じゃあこれはどうだ?」
そう言って妹紅も目を開けた。そして輝夜の近くに寄り、輝夜に手を差し伸べた。
「私はお前に手を差し伸べた。これは変化だろうか?」
輝夜はその差し出された手を両手で握り締める。
「差し伸べられた手を私は掴んだ。これは変化かしら?」
「それは個人の自由だ。どんな定義で変化と言う言葉を使うかはその人次第だ。
だけどお前が時の流れに置いてけぼりを食らっていると感じるのなら。変化と感じることをお勧めする。」
差し出された妹紅の手はとても暖かい。その暖かさを感じながら輝夜は感慨深そうに溜息を吐いた。
「変化は誰にでもあるのね。」
「そういうことだ馬鹿。」
「あら。ひどいわね。」
そう言って二人は夜が更けるまでお互いの両手で繋がりあった。