『お前の腕を見込んで頼むぜ。一つ作ってもらいたい人形がある』
あの時あの頼みを聞いてなかったら今とはどう違っていたのだろう?、そう考えることも確かにあった。
その仮定は意味のないことと知りながら。
ここは深紅の吸血鬼の領域、紅魔館。その中でもまた違った雰囲気を醸し出す大図書館に七色の人形遣いは居た。
幻想郷の中でもここほど資料の充実している所はない。それに加えて落ち着いた雰囲気。
ここを彼女、アリスは好ましく思うようになっていた。
そしてそれは彼女に限っただけではない。幻想郷に知られるようになった当初からに較べるとこの図書館は開放されている。
今日も数人ほど人里より本を求めて来ているくらいだ。その知識欲という共通の興味を持った人間たちをこの図書館の主は快く迎えている。
黙って本を持っていくことがないだけに比較してみて、いや比較するのが失礼なほど客人として迎えるのに値するのだろう。
それにときどきハクタク先生に連れられて学校の子供たちも来る事がある。授業の一環らしい。
もっともだからといって妖怪と人間という垣根が取り払われたわけではない。
依然として妖怪は人を襲うし人間は妖怪を退治する。ただ酒場などからも分かるように共存できるところはしているだけだ。
前述の学校にしても永遠亭の薬師を校長とし、妖怪人間問わず教師を集め、生徒も同様に集めている。
完全に余談だがその学校で卒業できずにずっと生徒をしているものも居る。いわずと知れた氷精、絶賛九年生中。
そんなわけで人間たちの読書を邪魔しないように本を物色していくアリス。かたわらの人形二体に命じて集めさせる。
一体はアリスの人形と聞いて大半の者がまず思い浮かべるだろう上海人形。もう一体はその色から大半の者がある人間を思い浮かべるだろう
黒白の人形、帽子を被り箒にまたがったそれをアリスはこう名づけている。
【幻想の霧雨人形】
研究に使う資料用の本を見つけたアリスは椅子に腰掛け読書を始めることにする。
そしてそこは図書館の主パチュリーの定位置近くでもある。いつものように当然のごとく知識と日陰の少女は友をちらっとだけ見て読書に戻る。
「いらっしゃい、アリス」
「お邪魔するわね、パチュリー」
普段ならその挨拶だけで休憩まで本に没頭する二人だがあることに気づいたアリスが尋ねた。
「あら、そういえばあなたの司書はどうしたのかしら」
「ああ、あの子なら子守中よ」
見れば図書館の一区画で赤ん坊の面倒をみている小悪魔の姿があった。その小悪魔の姿は一言でいって可愛らしい。画像でお見せできないのが
残念、各自脳内補完をしてください。
無論小悪魔の子供でなければパチュリーの子供でもない。読書をしにきた人間の子供だった。
育児サービス付き大図書館は知識を求めるお母さんの味方です。
調べ物をしていたアリスだが視線に気づき本から顔を上げると、パチュリーが何か言いたげな顔で見ている。
「えーと。何か私の顔についているかしら?」
「いいえ。なんでもない」
あきらかになんでもなくはない表情で言われては気になってしょうがない。
一息つくのにいいタイミングでもあり、アリスはページをめくる手を休める。
「その言われ方は逆に気になる。休憩にするから話を聞かせてもらうわ」
アリスは今日のお茶会用に用意してきた手作りの菓子をバスケットから取り出す。それを勧められてもパチュリーの口は重い。
アリスも急かしはせず黙ってお茶を飲んでいる。
「……今日も一緒なのね」
ようやくパチュリーが喋ってくれたが一瞬言っている意味が判らなかった。
「え? あ、この子たちのこと?それはまあ、役に立つし弾幕ごっこの時はこの子たちが頼りだもの。当然よ」
だがその答えはパチュリーが望むものとは違っていた。
「違う。その黒白のことよ」
「霧雨人形のことでも同じ、この子がいるおかげで戦術パターンが増えたから。まったくそんなことが聞きたかったのね」
これでこの話は終わりとばかりに読書に戻ろうとするアリス。いや、この話題は続けたくなかった。
けれどこの話をそもそも聞きだそうとしたのはアリスのほう。いったん口を開いたパチュリーも止まらない。
「それも違う。私が聞きたいのは、その魔理沙の人形のことよ」
「……どういう意味?」
アリスは本を見ている振りをしながらうつむき、パチュリーの目を見ていない。
パチュリーはきっと……。
「アリス。これからもずっとその人形と一緒なのよね。辛くない?
もう、霧雨魔理沙は居ないのに」
当時自分の家で魔理沙からの依頼を受けたときはその真意は判らなかった。
「腕を見込まれるのは悪い気分じゃないけど、何故急に?魔理沙が部屋に飾っておくだけのタイプとも見えないし」
「まあな。自分でもそう思うぜ。どうせなら何かに使う。なにちょっとしたことだ」
「言っておくけど呪うのなんかに使うなら作らないわよ」
「おう。それはアリスの専売特許だからな、って待て、スペルカード出すな」
アリスはため息をついた。
「馬鹿なことを言ってるからじゃない。そんなこと言ってるなら作ってあげないわよ」
「まったく、怒りっぽいヤツだぜ。人生ゆとりを持たないといけない」
「はいはい、わかりました。本題に戻りましょう。人形作成の依頼ね。数は一体でいいのかしら」
商談に入ったアリスに魔理沙は詳細を挙げていく。
「ああ。数は一体。とりあえず必要そうな材料は集めたが足りないようなら言ってくれ。私が持つ。それで期間はそんなに急ぐわけでもない」
「材料費も魔理沙持ちなのね。了解したわ。で、肝心の人形だけどどんな人形を?」
それを聞いて魔理沙はニッと笑った。
「ああ、私そっくりの人形を作ってくれ」
「……はい?」
それは魔理沙や霊夢たちが山に登ってから間もなくの話。
その人形作成は当初うまくいかなかった。なぜ自分そっくりの人形を依頼するのか、それが気になっていたから。
それでも依頼されたからにはそれを気にしてばかりはいられないし、せっかく作る人形にも悪い。
そして暫しの時を経て完成する帽子を被り箒にまたがった黒白の人形。
それを見せたときの魔理沙は正直に感嘆の声を上げていた。
「さすがはアリスだぜ。予想以上だ」
「ありがとう。それで引渡しも終わったことだし、この人形をどのようにするか聞いていいかしら。プライベートなことなら遠慮するけど」
「いや。単純な話だぜ。日頃の感謝の意味を込めてプレゼントにするんだ」
「プレゼント?」
アリスの中でその候補になりそうな者の名前が浮かぶがイマイチしっくりこない。
だから次の魔理沙の言葉でアリスの頭はパーフェクトフリーズ。
「ああ、ほらアリス。私からのプレゼントだぜ」
「……はい?」
(少女解凍中)
ただEASYだったせいかすぐに再起動することに成功した。混乱は続いていたが。
「ちょっと待ちなさいよ。どこをどうやったらそういう結論が出てくるのよ?なにより自分で丹精込めて作った人形をプレゼントされて喜ぶなんて私が寂しい人みたいじゃない!」
「何を言ってるんだ。私は最初からアリスへのプレゼントのために頼んでいたんだぞ」
「だからそもそもプレゼントを贈る相手に作らせる時点でおかしいとは思わないの?」
「しかし幻想郷でアリス以外にここまでの人形を作れるやつは居ないからな。それに何かあった場合すぐに補修できるからお得じゃないか」
「最初のはありがとうと言っておくけど、やっぱり納得できないわ」
話はかみ合わない。むしろかみ合わせるつもりは全くないといわんばかりかもしれない。
ただお互い不毛な論戦を長くは続けたくはなかったのも事実なのでその日はお互いに一旦少し頭冷やそうか、ということになった。
翌日第三者が居る場所で話そうということになって目指した場所は。
「で、あんたたちはここに来た、と」
「お前なら適任じゃないか、霊夢」
「何が適任なのよ。でもごめん。こうでもしないとお互いエキサイトして弾幕ごっこでしか決着しないと思うのよ。そうさせたくないから」
「はぁ。判ったわよ。勝手におやんなさい。私はお茶飲んでるから。でも本当に決着つけたいなら閻魔様に頼んで白黒付けなさいな」
「「それは嫌」」
神社の縁側でお茶を飲む巫女の脇で論戦再開である。
「そもそもなぜプレゼントしてくれるの?まずはそこからね」
「…だから昨日も言ったように日頃世話になってる感謝の意味合いだぜ。多分霊夢に次ぐ長い付き合いってことになるだろうし。お隣さんだからな」
「……(霊夢はじーっと魔理沙を見ている)」
「それなら判らなくもないけどそこでおかしいのが昨日から言っているように何故私に作らせたかよ」
「だってアリスに贈り物するなら人形が一番じゃないか。で、幻想郷一番の人形製作者はアリス。だから材料費は私持ちで作ってもらった。ほら当然の帰結だ」
「はぁ。ねえ魔理沙。これって嫌がらせなの?私はあなたに何かしたの?……ああ、なんだか泣きたくなってきたわ」
「……(霊夢はじーっと魔理沙を見ている)」
「それでさっきからなんで霊夢は人の顔ばかり見てるんだ?」
霊夢は心底呆れたように投げやりに答える。
「魔理沙、いいかげん本当のこと言いなさい。それ言えば万事解決するから。で、解決したら邪魔だからさっさと帰れ」
「本当のことってなんなのよ、いったい」
本気で涙ぐんできたアリスを見て魔理沙もようやく悟ったらしい。
「やっぱり言わないと駄目か?」
「ああ、そうね。言わなくてもいいわ。私が喋る。で、喋って納得したらさっさと帰れ」
霊夢は本気だと悟らざるを得ない。しぶしぶと魔理沙は口を開いた。
「アリスへの感謝はまあないわけじゃないのは本当だ。永夜異変の時以来、二人で組んで戦えと言われたら相手はアリスを真っ先に思い浮かべるぜ」
「そう…」
「パワーとブレイン、二人は正反対で、だからこそ合わないことばかりだが合ったときは凄い力が出せる。私たちはそれを知ってしまったわけだ。だからお互いに自分に何が足りないか判るしそれをどう補うべきかも判る。だけどそれもいつまで続くか判らない。これからどうなるか知らないが今の私は魔法使いである前に人間だからな」
「あっ!」
「そうなったときに過去にすがってもしょうがないぜ。私ならすっきり諦めるがアリスはそうもいかなさそうだからな。せめて私の人形で我慢しろということだぜ。弾幕ごっこに使うためにもそれなりの質がないといけないからな。アリス製のほうがいいだろう」
「そういう意味のプレゼントなのね……」
「と、いうのは建前だ」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「まあなんだ。今の私の姿を旧い付き合いのお前にずっと覚えてて欲しかったんだ。これから先もな」
不意打ちだった。そしてこれが本当に本音なんだと思えた。
「まったく魔理沙は馬鹿なんだから」
「悪かったな」
「ふう。ではありがたくプレゼントは受け取らせていただきます。その代わり私からもプレゼントがあるわ」
しかしアリスがプレゼントを用意してるようには見えない。魔理沙は嫌な予感がしたが霊夢ではないから看破出来ない。
「えーと、遠慮させてもらうぜ」
「ねえ、霊夢。やっちゃっていいかしら?」
「言ったはずよ、勝手におやんなさいって。でもここではやるな、余所でやれ」
「あのアリスさん。何をやろうとしてるんだ?」
「当たり前のことよ。新しい人形を弾幕ごっこに使うんだもの、そのテスト。そして魔理沙がその相手」
いくら操るのが初めてといっても作り手でもあるアリスにとってはその特性は十分把握している。上海と較べても遜色ない。
そして黒白を狙う黒白に容赦はない。
「く、人形のモデルとなった人間をその人形に襲わせるなんて、なんて意地が悪いんだ」
「「魔理沙が言うな」」
それは過去の記憶。
それはもう戻らない時間。
あの時あの頼みを聞いてなかったら今とはどう違っていたのだろう?、そう考えることも確かにあった。
その仮定は意味のないことと知りながら。
ここは深紅の吸血鬼の領域、紅魔館。その中でもまた違った雰囲気を醸し出す大図書館に七色の人形遣いは居た。
幻想郷の中でもここほど資料の充実している所はない。それに加えて落ち着いた雰囲気。
ここを彼女、アリスは好ましく思うようになっていた。
そしてそれは彼女に限っただけではない。幻想郷に知られるようになった当初からに較べるとこの図書館は開放されている。
今日も数人ほど人里より本を求めて来ているくらいだ。その知識欲という共通の興味を持った人間たちをこの図書館の主は快く迎えている。
黙って本を持っていくことがないだけに比較してみて、いや比較するのが失礼なほど客人として迎えるのに値するのだろう。
それにときどきハクタク先生に連れられて学校の子供たちも来る事がある。授業の一環らしい。
もっともだからといって妖怪と人間という垣根が取り払われたわけではない。
依然として妖怪は人を襲うし人間は妖怪を退治する。ただ酒場などからも分かるように共存できるところはしているだけだ。
前述の学校にしても永遠亭の薬師を校長とし、妖怪人間問わず教師を集め、生徒も同様に集めている。
完全に余談だがその学校で卒業できずにずっと生徒をしているものも居る。いわずと知れた氷精、絶賛九年生中。
そんなわけで人間たちの読書を邪魔しないように本を物色していくアリス。かたわらの人形二体に命じて集めさせる。
一体はアリスの人形と聞いて大半の者がまず思い浮かべるだろう上海人形。もう一体はその色から大半の者がある人間を思い浮かべるだろう
黒白の人形、帽子を被り箒にまたがったそれをアリスはこう名づけている。
【幻想の霧雨人形】
研究に使う資料用の本を見つけたアリスは椅子に腰掛け読書を始めることにする。
そしてそこは図書館の主パチュリーの定位置近くでもある。いつものように当然のごとく知識と日陰の少女は友をちらっとだけ見て読書に戻る。
「いらっしゃい、アリス」
「お邪魔するわね、パチュリー」
普段ならその挨拶だけで休憩まで本に没頭する二人だがあることに気づいたアリスが尋ねた。
「あら、そういえばあなたの司書はどうしたのかしら」
「ああ、あの子なら子守中よ」
見れば図書館の一区画で赤ん坊の面倒をみている小悪魔の姿があった。その小悪魔の姿は一言でいって可愛らしい。画像でお見せできないのが
残念、各自脳内補完をしてください。
無論小悪魔の子供でなければパチュリーの子供でもない。読書をしにきた人間の子供だった。
育児サービス付き大図書館は知識を求めるお母さんの味方です。
調べ物をしていたアリスだが視線に気づき本から顔を上げると、パチュリーが何か言いたげな顔で見ている。
「えーと。何か私の顔についているかしら?」
「いいえ。なんでもない」
あきらかになんでもなくはない表情で言われては気になってしょうがない。
一息つくのにいいタイミングでもあり、アリスはページをめくる手を休める。
「その言われ方は逆に気になる。休憩にするから話を聞かせてもらうわ」
アリスは今日のお茶会用に用意してきた手作りの菓子をバスケットから取り出す。それを勧められてもパチュリーの口は重い。
アリスも急かしはせず黙ってお茶を飲んでいる。
「……今日も一緒なのね」
ようやくパチュリーが喋ってくれたが一瞬言っている意味が判らなかった。
「え? あ、この子たちのこと?それはまあ、役に立つし弾幕ごっこの時はこの子たちが頼りだもの。当然よ」
だがその答えはパチュリーが望むものとは違っていた。
「違う。その黒白のことよ」
「霧雨人形のことでも同じ、この子がいるおかげで戦術パターンが増えたから。まったくそんなことが聞きたかったのね」
これでこの話は終わりとばかりに読書に戻ろうとするアリス。いや、この話題は続けたくなかった。
けれどこの話をそもそも聞きだそうとしたのはアリスのほう。いったん口を開いたパチュリーも止まらない。
「それも違う。私が聞きたいのは、その魔理沙の人形のことよ」
「……どういう意味?」
アリスは本を見ている振りをしながらうつむき、パチュリーの目を見ていない。
パチュリーはきっと……。
「アリス。これからもずっとその人形と一緒なのよね。辛くない?
もう、霧雨魔理沙は居ないのに」
当時自分の家で魔理沙からの依頼を受けたときはその真意は判らなかった。
「腕を見込まれるのは悪い気分じゃないけど、何故急に?魔理沙が部屋に飾っておくだけのタイプとも見えないし」
「まあな。自分でもそう思うぜ。どうせなら何かに使う。なにちょっとしたことだ」
「言っておくけど呪うのなんかに使うなら作らないわよ」
「おう。それはアリスの専売特許だからな、って待て、スペルカード出すな」
アリスはため息をついた。
「馬鹿なことを言ってるからじゃない。そんなこと言ってるなら作ってあげないわよ」
「まったく、怒りっぽいヤツだぜ。人生ゆとりを持たないといけない」
「はいはい、わかりました。本題に戻りましょう。人形作成の依頼ね。数は一体でいいのかしら」
商談に入ったアリスに魔理沙は詳細を挙げていく。
「ああ。数は一体。とりあえず必要そうな材料は集めたが足りないようなら言ってくれ。私が持つ。それで期間はそんなに急ぐわけでもない」
「材料費も魔理沙持ちなのね。了解したわ。で、肝心の人形だけどどんな人形を?」
それを聞いて魔理沙はニッと笑った。
「ああ、私そっくりの人形を作ってくれ」
「……はい?」
それは魔理沙や霊夢たちが山に登ってから間もなくの話。
その人形作成は当初うまくいかなかった。なぜ自分そっくりの人形を依頼するのか、それが気になっていたから。
それでも依頼されたからにはそれを気にしてばかりはいられないし、せっかく作る人形にも悪い。
そして暫しの時を経て完成する帽子を被り箒にまたがった黒白の人形。
それを見せたときの魔理沙は正直に感嘆の声を上げていた。
「さすがはアリスだぜ。予想以上だ」
「ありがとう。それで引渡しも終わったことだし、この人形をどのようにするか聞いていいかしら。プライベートなことなら遠慮するけど」
「いや。単純な話だぜ。日頃の感謝の意味を込めてプレゼントにするんだ」
「プレゼント?」
アリスの中でその候補になりそうな者の名前が浮かぶがイマイチしっくりこない。
だから次の魔理沙の言葉でアリスの頭はパーフェクトフリーズ。
「ああ、ほらアリス。私からのプレゼントだぜ」
「……はい?」
(少女解凍中)
ただEASYだったせいかすぐに再起動することに成功した。混乱は続いていたが。
「ちょっと待ちなさいよ。どこをどうやったらそういう結論が出てくるのよ?なにより自分で丹精込めて作った人形をプレゼントされて喜ぶなんて私が寂しい人みたいじゃない!」
「何を言ってるんだ。私は最初からアリスへのプレゼントのために頼んでいたんだぞ」
「だからそもそもプレゼントを贈る相手に作らせる時点でおかしいとは思わないの?」
「しかし幻想郷でアリス以外にここまでの人形を作れるやつは居ないからな。それに何かあった場合すぐに補修できるからお得じゃないか」
「最初のはありがとうと言っておくけど、やっぱり納得できないわ」
話はかみ合わない。むしろかみ合わせるつもりは全くないといわんばかりかもしれない。
ただお互い不毛な論戦を長くは続けたくはなかったのも事実なのでその日はお互いに一旦少し頭冷やそうか、ということになった。
翌日第三者が居る場所で話そうということになって目指した場所は。
「で、あんたたちはここに来た、と」
「お前なら適任じゃないか、霊夢」
「何が適任なのよ。でもごめん。こうでもしないとお互いエキサイトして弾幕ごっこでしか決着しないと思うのよ。そうさせたくないから」
「はぁ。判ったわよ。勝手におやんなさい。私はお茶飲んでるから。でも本当に決着つけたいなら閻魔様に頼んで白黒付けなさいな」
「「それは嫌」」
神社の縁側でお茶を飲む巫女の脇で論戦再開である。
「そもそもなぜプレゼントしてくれるの?まずはそこからね」
「…だから昨日も言ったように日頃世話になってる感謝の意味合いだぜ。多分霊夢に次ぐ長い付き合いってことになるだろうし。お隣さんだからな」
「……(霊夢はじーっと魔理沙を見ている)」
「それなら判らなくもないけどそこでおかしいのが昨日から言っているように何故私に作らせたかよ」
「だってアリスに贈り物するなら人形が一番じゃないか。で、幻想郷一番の人形製作者はアリス。だから材料費は私持ちで作ってもらった。ほら当然の帰結だ」
「はぁ。ねえ魔理沙。これって嫌がらせなの?私はあなたに何かしたの?……ああ、なんだか泣きたくなってきたわ」
「……(霊夢はじーっと魔理沙を見ている)」
「それでさっきからなんで霊夢は人の顔ばかり見てるんだ?」
霊夢は心底呆れたように投げやりに答える。
「魔理沙、いいかげん本当のこと言いなさい。それ言えば万事解決するから。で、解決したら邪魔だからさっさと帰れ」
「本当のことってなんなのよ、いったい」
本気で涙ぐんできたアリスを見て魔理沙もようやく悟ったらしい。
「やっぱり言わないと駄目か?」
「ああ、そうね。言わなくてもいいわ。私が喋る。で、喋って納得したらさっさと帰れ」
霊夢は本気だと悟らざるを得ない。しぶしぶと魔理沙は口を開いた。
「アリスへの感謝はまあないわけじゃないのは本当だ。永夜異変の時以来、二人で組んで戦えと言われたら相手はアリスを真っ先に思い浮かべるぜ」
「そう…」
「パワーとブレイン、二人は正反対で、だからこそ合わないことばかりだが合ったときは凄い力が出せる。私たちはそれを知ってしまったわけだ。だからお互いに自分に何が足りないか判るしそれをどう補うべきかも判る。だけどそれもいつまで続くか判らない。これからどうなるか知らないが今の私は魔法使いである前に人間だからな」
「あっ!」
「そうなったときに過去にすがってもしょうがないぜ。私ならすっきり諦めるがアリスはそうもいかなさそうだからな。せめて私の人形で我慢しろということだぜ。弾幕ごっこに使うためにもそれなりの質がないといけないからな。アリス製のほうがいいだろう」
「そういう意味のプレゼントなのね……」
「と、いうのは建前だ」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「まあなんだ。今の私の姿を旧い付き合いのお前にずっと覚えてて欲しかったんだ。これから先もな」
不意打ちだった。そしてこれが本当に本音なんだと思えた。
「まったく魔理沙は馬鹿なんだから」
「悪かったな」
「ふう。ではありがたくプレゼントは受け取らせていただきます。その代わり私からもプレゼントがあるわ」
しかしアリスがプレゼントを用意してるようには見えない。魔理沙は嫌な予感がしたが霊夢ではないから看破出来ない。
「えーと、遠慮させてもらうぜ」
「ねえ、霊夢。やっちゃっていいかしら?」
「言ったはずよ、勝手におやんなさいって。でもここではやるな、余所でやれ」
「あのアリスさん。何をやろうとしてるんだ?」
「当たり前のことよ。新しい人形を弾幕ごっこに使うんだもの、そのテスト。そして魔理沙がその相手」
いくら操るのが初めてといっても作り手でもあるアリスにとってはその特性は十分把握している。上海と較べても遜色ない。
そして黒白を狙う黒白に容赦はない。
「く、人形のモデルとなった人間をその人形に襲わせるなんて、なんて意地が悪いんだ」
「「魔理沙が言うな」」
それは過去の記憶。
それはもう戻らない時間。
その話を書こうとするあまり、説得力を放棄しているような気がします。
曰く、描写が圧倒的に足りていない。