図書館入り口付近の喧噪のせいで全く気づきませんでした。スキマ妖怪に次ぐ空気読まないぽっと出人間の霧雨魔理沙が、今日もどこから侵入してきたのか、気がついたらパチュリー様の側に立ち、二言三言話しています。気安くパチュリー様に近づくな、と毒念波を飛ばしてやるが、無論白黒は気づきません。腹立つ。
「やってきたぜ」
「呼んでないわよ」
「招待されなきゃ来ちゃいけない図書館とはまた面倒だな。そんなことより、なんだこれは。図書館では騒がしくしちゃいけないこともわからないのか、ここの住人は」
さすがの白黒も気づいたようです。白黒の言うのは、図書館のフロントあたりで肉弾戦繰り広げている三人のことでしょう。
「美鈴の下克上か? 部下のふがいなさに辟易したレミリアの暴走か? あー……瀟洒を謳うメイド長が瀟洒じゃなくなってるぜ。一体どういう事だ」
「今日は特別なの。暇だから、私があの三人にけしかけたのよ。……それよりあなた、どこの口が常識を語るのかしら」
「図書館で騒ぐな、は常識だろ? 図書館内では、おさない、かけない、しゅべすた、のおかし三原則を守れ、ってけーねが言ってた」
「それは避難訓練三原則でしょう? あなた、記憶中枢にまでも整理整頓が行き届いていないのね」
パチュリー様、突っ込み所はそこではありません。天然ですか、それとも丸投げですか。従者に後処理を全て丸投げですかそうですか。
あ。
遅れましたがこんにちは、このSSの語り手は小悪魔ことこぁの提供でお送りしています。よろしくお願いしますねっ(こぁ☆くまスマイル -Normal-)
さてさて、非常識人の魔女二人にスポット当ててても未来がないので、図書館のフロントで大暴れしている非常識人に視点を移します。
紅魔館の主レミリア・スカーレットにメイド長の十六夜咲夜、あと門番のお方。三人が三つ巴で戦っている。共同戦線を張らない純粋な三つ巴バトル、しかも身体能力の高い者同士のとなると滅多に見られるものではないでしょう。
今まさに小悪魔の目の前で三通りの立場にある女の戦いが繰り広げられているのです。あまりの過激さ、衝突に、火花や臓物が飛び散りそうです。
――その羽根を存分に使った滑空から美鈴を狙い叩きつけるレミリアの右腕、その隙の大きいモーションを狙う咲夜の蹴撃。が、レミリアは空いた左腕で軽くはね除ける。宙に無防備に放り出された咲夜が体勢を立て直そうとする間に、攻撃態勢の整ったレミリアの両腕、両撃(暴飲暴食っ!)が喰らわせられようとする。そこに復帰した美鈴の介入、二人まとめて連撃の的になる。
まるで、見せ物のようです。激しい打撃戦に垣間見える彼女たちのクレバーさが見ている者を感動で奮い立たせます。これほどの熱い三つ巴バトルは、64のスマブラでは実現できようもありません。大抵、画面端に吹っ飛ばされたキャラが残り二人にメテオスマッシュ狙われるという、単純でイジメな試合展開になりがちです。ちなみに私は人間三人でやるときは前述の理由からCOMを一人入れてプレイする派です。心底どうでもいいですね。
「咲夜の作戦勝ちかと思ったら、美鈴もなかなか立ち回りが上手いんだな」
「あの子の本職だからね。武術の達人相手に肉弾戦のみとは、さすがのレミィも苦戦しているようね」
激戦をよそにお茶会を開いていた魔女二人が、呑気に実況・解説もどきを始めていました。いやこれ、ダブル解説ですか。実況いませんね。
そもそも、ようやくのそもそもなんですが、どうして三人は弾幕封印の殴り合いを展開しているのでしょうか。回想シーンが用意されていれば便利なんですが、あいにく持ち合わせがないのでおとなしくパチュリー様に聞いてみることにします。
「パチュリー様~」
「だから魔理沙、普通にしゃがみK→立Kから暴飲暴食、そしてエリアルに持って行くその前に一回青キャン入れないと、相手にジャストディフェンスからリバサ割り込ませる猶予を与えてしまうでしょ……何よこぁ、今忙しいの見て分かるでしょ?」
「格ゲーの話に一人花を咲かせているところ申し訳ありません」
私は三つ巴が始まるに至ったいきさつが知りたいから教えてくれと、なるべくやわらかい口調で聞きました。白黒といい雰囲気を作っている(と思いこんでいる酷く哀れな)パチュリー様の邪魔をしたというだけで、私が本棚に片付けようとする本の隅にガムシロップを垂らして「うひゃあ、手がばっちいですぅ!」と言わせる陰湿な嫌がらせを仕掛けるような人です。機嫌を損ねないに越したことはありません。
「そうね……どこから話そうかしら。美鈴がうれし恥ずかし妄想日記をこっそり書きためていたところから? それを掃除していた咲夜がたまたま見つけてしまったところから? 二人がみんなにばらすばらさないでの掛け合いをしていたところにレミィがやってきて私に見せなさいよと言ったものの、内容が内容だったのでレミィにだけはとてもじゃないけど話せなかったところから? そのせいでレミィが怒ってスピア・ザ・グングニル発動させて紅魔館が不夜城レッドになりかねない事態にまでなったところから? それとも」
「先まで言わなくてもわかるぜパチュリー。つまり、レミリアが怒ってさあ大変、って事だろ?」
あーあ。紅魔館の庭先あたりに優秀な突っ込み役落ちてないかな。冥界の庭師も竹林にいる月のうさぎも主に振り回されてるせいでやさぐれてそうだから輸入物がいいです。お願いしますスキマ妖怪さん。
「話はまだ終わってないわ魔理沙。仲間はずれにされて泣き出しそ……怒りだしそうなレミィを見かねて、半ば、九割九分ぐらい遊び心で提案してみたのよ。『ここで弾幕使われたから迷惑だから、芋ルールで戦いなさい』って」
「萃夢想でも一応弾幕使えるはずだぜ?」
「肉弾幕戦での勝者は、敗者の抱えた秘密を全て知る権利を与えて、敗者は今日一日勝者のすることに一切口を挟めない。一回休みという訳よ」
「……それってかなりえげつない気がするんだが。私が秘密ばらすことになっても絶対口開かないか、秘密知った奴は全員微塵残さず吹き飛ばすけどな」
あんたも十分えげつないです。
ともあれ、その話を聞いた後だとあの三人がいやに必死に戦っているのも頷けます。特に咲夜さん。幻想郷から姿を消したはずの鬼の再来を思わせる人外の形相をして四肢を存分に振るっています。怖いですよ。彼女から瀟洒を奪ったら何が残るというのでしょうか。
変態、ロリコン、犬属性、刃物マニア、両刀、蒐集癖……。
あ、どうやら余計な心配だったようです。
「あー、だけど咲夜が戦っているのは何故だ? あいつには、今回の件に関しては守るものも奪うべきものもなさそうなんだが」
「あるわよ、咲夜にだって誰にも知られたくない秘密が。自室に1/8スケールのレミリアたん人形コレクションがあることや、マル秘スペルカード『殺人れみ☆りあ☆うードール』っていう未使用の自作スペルカードがあることとか」
「何でそんな痛々しいトップシークレットをパチュリー様が知ってるんですか……」
「だって、魔法使いだもの、私」
「だぜ」
何故そこで白黒が相づちを打つのでしょうか。というか、「だぜ」は相づちとして認めていいのか。幻想郷的にはOKだろうが、日本語的にはどうだろうか。
「ちなみにこぁ、あなたの秘密だって知ってるわよ」
「えぇぇ? 私、そんな隠し事とかしてませんよ……」
「例えば、あなたが毎晩人目を盗んでここのテーブルの角で角オn」
その時、パチュリー様が、何というか、吹っ飛びました。原因は私です。ふと、「そういえば風神録の委託予約始まってるな~」と気づいてしまって、いてもたってもいられなくなってしまって、次の瞬間には幻の右ストレートがパチュリー様に誤爆不時着してしまったんです。
悪気はない悪気はない。悪魔だし、これぐらい許されますよねっ(こぁ☆くまスマイル -Lunatic-)。
「おいおい……パチュリー、吐血してるぜ。大丈夫か?」
パチュリー様の身を案じているかに見える白黒が「使い魔に殴られながら 吐く魔女」とか細かすぎて伝わらないようなことを小声で言っているのを小悪魔は見逃しませんでした。
「げほっげほっ……。あなたたち、ここは全年齢板よ、そこまでにしなさい!!」
いやいや、自分で言っておいて。
とりあえず改めて馬鹿魔女二人を放置して、三人の勝負の行方を……。
あぁ、何だかもう勝負ついちゃいそうです。二人のどうでもいい漫才の巻き添えを食らっているうちに貴重な戦闘シーンを見逃してしまったようです。決着つくまでの過程を事細やかに記憶して、ブンブンブンに記事のネタとして売りつけようとか思ってたのに。
脱落者が出ています。『まじかる咲夜ちゃんスター』で有名な咲夜さんが、幸せをそのまま貼り付けたような満面の笑顔のままダウンしています。鼻の下あたりに赤いラインが入っています。
私は意を決して咲夜さんに近づき、声を拾ってみました。
「ふふ……お嬢様……のまぶしい……笑顔……うふ……ふ……」
「手段を問わなくなったレミリアは強いぜ。主に愛玩的な意味で」
白黒の名解説が入りました。しかし、まばたきも挟めないあの大激戦の中のどこに「うー☆」を挟む余地があったというのでしょうか。それはそれで神業です。
咲夜さんはうふふふ……と旧作魔理沙みたいな台詞しか吐かなくなったので放っておきました。レミリア様と門番の決闘に目を移します。
閃光が弾けそうな利き腕の衝突から、ヒット&アウェイの要領でレミリア様が間合いをとった場面で一度、場が一気に冷たく張りつめる”静”が訪れていました。こんな極限状態から「うー☆」を放ったら紅魔館の面々はひとたまりもないかもしれませんが、紅魔館全体がカリスマ的に大打撃を受けかねないので是非止めていただきたいです。
「さすがにやるわね美鈴……。こうも私の攻撃を躱すなんて」
「お嬢様こそ私の全身全霊を軽やかに避けられては、私の立場がありませんよ」
「えぇ。ただ、避けるのはもう終わり。次は全力でぶつけ合う」
「わかりました。……次で決めます」
二つの紅が、同時に地を蹴った。
「次で決まるわね」
「どうしてわかるんですか? あと、口元血で汚れてナポリタン食べた後みたいになってますから後で拭いた方がいいですよ」
「次で決まると彼女らが言ったからよ。あなた、毎週ブリーチ読んでるのにこの程度のフラグも読み取れないの?」
「だぜ」
「だがら幻想郷外のものを持ち込むな、あと白黒、その相づちは止め……って、ああぁ!?」
小悪魔はまたしても一閃を見逃してしまいました。目に入ったのは全ての事後で、砂煙のように舞い上がる埃の中に立つお嬢様と、亀裂の入った壁にたたき込まれたのであろう門番がうなだれて動かない様子だけが確認できました。
「え、ちょ、ちょっと何が起きたんですか今!」
「今のは……なぁ」
「さすがレミィ……といったところね」
ちゃっかり見逃さずにいやがる、こいつら。
「同時に発って、クロスカウンターよろしく体重を乗せた利き腕が交錯しようとしてたんだ。そこまではよかったんだが」
「えぇ。レミィが明らかに何か呟いたわね。その後、美鈴はたたき込むべき右腕を引っ込めた。そこで頭を下げ……あれはいつもの土下座モーションに入ろうとしたのかしら。あんな体勢から。土下座職人の成せる業ね」
「相手の降参に構わず、振り抜かれたレミリアのストレート。あいつも私に次いで派手好きだからな、十分に見応えはあったんだが……しかしなぁ……」
「無防備の相手に全力たたき込むとはね、大人げないわね」
「いや……それもあるんだが。レミリア、お前には聞こえなかったか?」
「……私には聞き取れなかったけど」
十中八九門番を降参に追いやる一言があったのでしょう。小悪魔にも聞き取れませんでした。
「何て言ったんですか、レミリア様は」
「……えーっとな」
「はい」
白黒には珍しい、誰かを気遣うような、或いは触れてはいけない禁忌を畏れるような、そんな目をしています。その視線は主にパチュリー様に向けられていました。天真爛漫無鉄砲無計画娘がたじろぐとは、よほどの一言だったのだろうと、小悪魔、聞く耳立てて無駄に身構えます。
「……最萌2」
あー。
それを引き合いに出されちゃあお終いですね。
主を差し置いて優勝してしまった門番。忌まわしき過去を呼び起こされた今、無礼講を犯した彼女がどうして今一度主に対し腕を振り上げられるでしょうか。
永遠に(精神的に)幼き紅い月の見事な反則一本勝ちです。
「やったわパチェ! これで私の勝ちよね?」
「えぇ、そうね」
巻き添えを食らうように思い出させられてしまった一回戦敗退の過去が堪えているのか、パチュリー様の声は何だか冴えません。
「じゃあ、日記を読ませてもらうわね」
嬉々として門番の日記に飛びつくレミリア様。ちなみに妄想日記が今の今までどこにあったかというと、小悪魔のすぐ側にあった”優勝賞品”と書かれた台の上にありました。
「全く初めから私に隠し事しようなんて思わなければこんな目に遭わなかったのに……ん」
門番の妄想日記。一体どんなものか小悪魔も興味があります。こっそりこっそり、名無しの存在感の無さを存分に生かしてレミリア様の後ろへ回り込みます。レミリア様がわなわな震えていることに気づいたのは、日記のタイトルだけでもようやく盗み見ることができた、その直後でした。
○月○日の日記のタイトルは、こうでした。
『フラ×レミ』
ページを次へとめくります。
『咲×レミ』
さらにめくっていきます。
『パチェ×こぁ』
『パチェ×レミ』
『フラ×美鈴』
『ゆゆ×レミ』
『妖×レミ』
そこまで視認できたところで、日記はレミリア様の手によって閉じられました。
気持ちの悪い冷や汗が、今小悪魔の頬を伝っています。嵐の前の何とやらから逃げ出すか、ここで存在を悟られないよう息を止め無事を祈るか考えたところ、こっそり逃げようと決めて、後ろを振り向いたときでした。
どすん、とあまりやわらかくないものにぶつかりました。白黒の胸でした。
「何だこれ。全部レミリアが受けじゃないか。レミリア総受けとは、アブノーマルとまでは言わないが、随分変わり者だぜ、美鈴は」
血管の切れる音が、超振動で小悪魔の耳に伝ってきたような気がします。もう無理。もう無理。空気読めこの総攻めバカ。
ブン、と空気が震えるような大きな何かが振るわれるような音がしました。おそるおそる振り返ると、通常の三倍のスピア・ザ・グングニルが掲げられていました。
「何で」
二の句が継がれる前に、ちょうど同じく逃げだそうとしていた白黒のほうきにしがみつきました。
「何で私と霊夢のカップリングがないのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
そこか!
何とか図書館の三分の一が瓦礫になるだけの被害で済みました。この程度なら紅魔館ではよくあることです。片付けはメイドたちに任せましょう。
小悪魔はさりげなく巻き添えを食って瓦礫に埋もれていたパチュリー様を助け出しました。
「パチュリー様、大丈夫ですか」
「げほぉ、げほ」
よくよく考えれば事の発端はこの方なので、当然の酬いかもしれません。
肩についた埃をはたき落とすと、ただでさえボロボロの身体を引きずり起こし、最後の役目を果たすため、パチュリー様は立ち上がりました。
「あなたたち、ここは全年齢板よ、そこまでにがほっ、ごほっ」
吐血しました。無理するからです。
「瓦礫から引きずり出されながら 吐く魔女」
それだけ言い残すと、白黒はいつものように「図書館崩壊で傷ついた本は責任もって私がもらい受けるぜ」とか屁理屈こねながら盗品担いで去っていきました。
「やってきたぜ」
「呼んでないわよ」
「招待されなきゃ来ちゃいけない図書館とはまた面倒だな。そんなことより、なんだこれは。図書館では騒がしくしちゃいけないこともわからないのか、ここの住人は」
さすがの白黒も気づいたようです。白黒の言うのは、図書館のフロントあたりで肉弾戦繰り広げている三人のことでしょう。
「美鈴の下克上か? 部下のふがいなさに辟易したレミリアの暴走か? あー……瀟洒を謳うメイド長が瀟洒じゃなくなってるぜ。一体どういう事だ」
「今日は特別なの。暇だから、私があの三人にけしかけたのよ。……それよりあなた、どこの口が常識を語るのかしら」
「図書館で騒ぐな、は常識だろ? 図書館内では、おさない、かけない、しゅべすた、のおかし三原則を守れ、ってけーねが言ってた」
「それは避難訓練三原則でしょう? あなた、記憶中枢にまでも整理整頓が行き届いていないのね」
パチュリー様、突っ込み所はそこではありません。天然ですか、それとも丸投げですか。従者に後処理を全て丸投げですかそうですか。
あ。
遅れましたがこんにちは、このSSの語り手は小悪魔ことこぁの提供でお送りしています。よろしくお願いしますねっ(こぁ☆くまスマイル -Normal-)
さてさて、非常識人の魔女二人にスポット当ててても未来がないので、図書館のフロントで大暴れしている非常識人に視点を移します。
紅魔館の主レミリア・スカーレットにメイド長の十六夜咲夜、あと門番のお方。三人が三つ巴で戦っている。共同戦線を張らない純粋な三つ巴バトル、しかも身体能力の高い者同士のとなると滅多に見られるものではないでしょう。
今まさに小悪魔の目の前で三通りの立場にある女の戦いが繰り広げられているのです。あまりの過激さ、衝突に、火花や臓物が飛び散りそうです。
――その羽根を存分に使った滑空から美鈴を狙い叩きつけるレミリアの右腕、その隙の大きいモーションを狙う咲夜の蹴撃。が、レミリアは空いた左腕で軽くはね除ける。宙に無防備に放り出された咲夜が体勢を立て直そうとする間に、攻撃態勢の整ったレミリアの両腕、両撃(暴飲暴食っ!)が喰らわせられようとする。そこに復帰した美鈴の介入、二人まとめて連撃の的になる。
まるで、見せ物のようです。激しい打撃戦に垣間見える彼女たちのクレバーさが見ている者を感動で奮い立たせます。これほどの熱い三つ巴バトルは、64のスマブラでは実現できようもありません。大抵、画面端に吹っ飛ばされたキャラが残り二人にメテオスマッシュ狙われるという、単純でイジメな試合展開になりがちです。ちなみに私は人間三人でやるときは前述の理由からCOMを一人入れてプレイする派です。心底どうでもいいですね。
「咲夜の作戦勝ちかと思ったら、美鈴もなかなか立ち回りが上手いんだな」
「あの子の本職だからね。武術の達人相手に肉弾戦のみとは、さすがのレミィも苦戦しているようね」
激戦をよそにお茶会を開いていた魔女二人が、呑気に実況・解説もどきを始めていました。いやこれ、ダブル解説ですか。実況いませんね。
そもそも、ようやくのそもそもなんですが、どうして三人は弾幕封印の殴り合いを展開しているのでしょうか。回想シーンが用意されていれば便利なんですが、あいにく持ち合わせがないのでおとなしくパチュリー様に聞いてみることにします。
「パチュリー様~」
「だから魔理沙、普通にしゃがみK→立Kから暴飲暴食、そしてエリアルに持って行くその前に一回青キャン入れないと、相手にジャストディフェンスからリバサ割り込ませる猶予を与えてしまうでしょ……何よこぁ、今忙しいの見て分かるでしょ?」
「格ゲーの話に一人花を咲かせているところ申し訳ありません」
私は三つ巴が始まるに至ったいきさつが知りたいから教えてくれと、なるべくやわらかい口調で聞きました。白黒といい雰囲気を作っている(と思いこんでいる酷く哀れな)パチュリー様の邪魔をしたというだけで、私が本棚に片付けようとする本の隅にガムシロップを垂らして「うひゃあ、手がばっちいですぅ!」と言わせる陰湿な嫌がらせを仕掛けるような人です。機嫌を損ねないに越したことはありません。
「そうね……どこから話そうかしら。美鈴がうれし恥ずかし妄想日記をこっそり書きためていたところから? それを掃除していた咲夜がたまたま見つけてしまったところから? 二人がみんなにばらすばらさないでの掛け合いをしていたところにレミィがやってきて私に見せなさいよと言ったものの、内容が内容だったのでレミィにだけはとてもじゃないけど話せなかったところから? そのせいでレミィが怒ってスピア・ザ・グングニル発動させて紅魔館が不夜城レッドになりかねない事態にまでなったところから? それとも」
「先まで言わなくてもわかるぜパチュリー。つまり、レミリアが怒ってさあ大変、って事だろ?」
あーあ。紅魔館の庭先あたりに優秀な突っ込み役落ちてないかな。冥界の庭師も竹林にいる月のうさぎも主に振り回されてるせいでやさぐれてそうだから輸入物がいいです。お願いしますスキマ妖怪さん。
「話はまだ終わってないわ魔理沙。仲間はずれにされて泣き出しそ……怒りだしそうなレミィを見かねて、半ば、九割九分ぐらい遊び心で提案してみたのよ。『ここで弾幕使われたから迷惑だから、芋ルールで戦いなさい』って」
「萃夢想でも一応弾幕使えるはずだぜ?」
「肉弾幕戦での勝者は、敗者の抱えた秘密を全て知る権利を与えて、敗者は今日一日勝者のすることに一切口を挟めない。一回休みという訳よ」
「……それってかなりえげつない気がするんだが。私が秘密ばらすことになっても絶対口開かないか、秘密知った奴は全員微塵残さず吹き飛ばすけどな」
あんたも十分えげつないです。
ともあれ、その話を聞いた後だとあの三人がいやに必死に戦っているのも頷けます。特に咲夜さん。幻想郷から姿を消したはずの鬼の再来を思わせる人外の形相をして四肢を存分に振るっています。怖いですよ。彼女から瀟洒を奪ったら何が残るというのでしょうか。
変態、ロリコン、犬属性、刃物マニア、両刀、蒐集癖……。
あ、どうやら余計な心配だったようです。
「あー、だけど咲夜が戦っているのは何故だ? あいつには、今回の件に関しては守るものも奪うべきものもなさそうなんだが」
「あるわよ、咲夜にだって誰にも知られたくない秘密が。自室に1/8スケールのレミリアたん人形コレクションがあることや、マル秘スペルカード『殺人れみ☆りあ☆うードール』っていう未使用の自作スペルカードがあることとか」
「何でそんな痛々しいトップシークレットをパチュリー様が知ってるんですか……」
「だって、魔法使いだもの、私」
「だぜ」
何故そこで白黒が相づちを打つのでしょうか。というか、「だぜ」は相づちとして認めていいのか。幻想郷的にはOKだろうが、日本語的にはどうだろうか。
「ちなみにこぁ、あなたの秘密だって知ってるわよ」
「えぇぇ? 私、そんな隠し事とかしてませんよ……」
「例えば、あなたが毎晩人目を盗んでここのテーブルの角で角オn」
その時、パチュリー様が、何というか、吹っ飛びました。原因は私です。ふと、「そういえば風神録の委託予約始まってるな~」と気づいてしまって、いてもたってもいられなくなってしまって、次の瞬間には幻の右ストレートがパチュリー様に誤爆不時着してしまったんです。
悪気はない悪気はない。悪魔だし、これぐらい許されますよねっ(こぁ☆くまスマイル -Lunatic-)。
「おいおい……パチュリー、吐血してるぜ。大丈夫か?」
パチュリー様の身を案じているかに見える白黒が「使い魔に殴られながら 吐く魔女」とか細かすぎて伝わらないようなことを小声で言っているのを小悪魔は見逃しませんでした。
「げほっげほっ……。あなたたち、ここは全年齢板よ、そこまでにしなさい!!」
いやいや、自分で言っておいて。
とりあえず改めて馬鹿魔女二人を放置して、三人の勝負の行方を……。
あぁ、何だかもう勝負ついちゃいそうです。二人のどうでもいい漫才の巻き添えを食らっているうちに貴重な戦闘シーンを見逃してしまったようです。決着つくまでの過程を事細やかに記憶して、ブンブンブンに記事のネタとして売りつけようとか思ってたのに。
脱落者が出ています。『まじかる咲夜ちゃんスター』で有名な咲夜さんが、幸せをそのまま貼り付けたような満面の笑顔のままダウンしています。鼻の下あたりに赤いラインが入っています。
私は意を決して咲夜さんに近づき、声を拾ってみました。
「ふふ……お嬢様……のまぶしい……笑顔……うふ……ふ……」
「手段を問わなくなったレミリアは強いぜ。主に愛玩的な意味で」
白黒の名解説が入りました。しかし、まばたきも挟めないあの大激戦の中のどこに「うー☆」を挟む余地があったというのでしょうか。それはそれで神業です。
咲夜さんはうふふふ……と旧作魔理沙みたいな台詞しか吐かなくなったので放っておきました。レミリア様と門番の決闘に目を移します。
閃光が弾けそうな利き腕の衝突から、ヒット&アウェイの要領でレミリア様が間合いをとった場面で一度、場が一気に冷たく張りつめる”静”が訪れていました。こんな極限状態から「うー☆」を放ったら紅魔館の面々はひとたまりもないかもしれませんが、紅魔館全体がカリスマ的に大打撃を受けかねないので是非止めていただきたいです。
「さすがにやるわね美鈴……。こうも私の攻撃を躱すなんて」
「お嬢様こそ私の全身全霊を軽やかに避けられては、私の立場がありませんよ」
「えぇ。ただ、避けるのはもう終わり。次は全力でぶつけ合う」
「わかりました。……次で決めます」
二つの紅が、同時に地を蹴った。
「次で決まるわね」
「どうしてわかるんですか? あと、口元血で汚れてナポリタン食べた後みたいになってますから後で拭いた方がいいですよ」
「次で決まると彼女らが言ったからよ。あなた、毎週ブリーチ読んでるのにこの程度のフラグも読み取れないの?」
「だぜ」
「だがら幻想郷外のものを持ち込むな、あと白黒、その相づちは止め……って、ああぁ!?」
小悪魔はまたしても一閃を見逃してしまいました。目に入ったのは全ての事後で、砂煙のように舞い上がる埃の中に立つお嬢様と、亀裂の入った壁にたたき込まれたのであろう門番がうなだれて動かない様子だけが確認できました。
「え、ちょ、ちょっと何が起きたんですか今!」
「今のは……なぁ」
「さすがレミィ……といったところね」
ちゃっかり見逃さずにいやがる、こいつら。
「同時に発って、クロスカウンターよろしく体重を乗せた利き腕が交錯しようとしてたんだ。そこまではよかったんだが」
「えぇ。レミィが明らかに何か呟いたわね。その後、美鈴はたたき込むべき右腕を引っ込めた。そこで頭を下げ……あれはいつもの土下座モーションに入ろうとしたのかしら。あんな体勢から。土下座職人の成せる業ね」
「相手の降参に構わず、振り抜かれたレミリアのストレート。あいつも私に次いで派手好きだからな、十分に見応えはあったんだが……しかしなぁ……」
「無防備の相手に全力たたき込むとはね、大人げないわね」
「いや……それもあるんだが。レミリア、お前には聞こえなかったか?」
「……私には聞き取れなかったけど」
十中八九門番を降参に追いやる一言があったのでしょう。小悪魔にも聞き取れませんでした。
「何て言ったんですか、レミリア様は」
「……えーっとな」
「はい」
白黒には珍しい、誰かを気遣うような、或いは触れてはいけない禁忌を畏れるような、そんな目をしています。その視線は主にパチュリー様に向けられていました。天真爛漫無鉄砲無計画娘がたじろぐとは、よほどの一言だったのだろうと、小悪魔、聞く耳立てて無駄に身構えます。
「……最萌2」
あー。
それを引き合いに出されちゃあお終いですね。
主を差し置いて優勝してしまった門番。忌まわしき過去を呼び起こされた今、無礼講を犯した彼女がどうして今一度主に対し腕を振り上げられるでしょうか。
永遠に(精神的に)幼き紅い月の見事な反則一本勝ちです。
「やったわパチェ! これで私の勝ちよね?」
「えぇ、そうね」
巻き添えを食らうように思い出させられてしまった一回戦敗退の過去が堪えているのか、パチュリー様の声は何だか冴えません。
「じゃあ、日記を読ませてもらうわね」
嬉々として門番の日記に飛びつくレミリア様。ちなみに妄想日記が今の今までどこにあったかというと、小悪魔のすぐ側にあった”優勝賞品”と書かれた台の上にありました。
「全く初めから私に隠し事しようなんて思わなければこんな目に遭わなかったのに……ん」
門番の妄想日記。一体どんなものか小悪魔も興味があります。こっそりこっそり、名無しの存在感の無さを存分に生かしてレミリア様の後ろへ回り込みます。レミリア様がわなわな震えていることに気づいたのは、日記のタイトルだけでもようやく盗み見ることができた、その直後でした。
○月○日の日記のタイトルは、こうでした。
『フラ×レミ』
ページを次へとめくります。
『咲×レミ』
さらにめくっていきます。
『パチェ×こぁ』
『パチェ×レミ』
『フラ×美鈴』
『ゆゆ×レミ』
『妖×レミ』
そこまで視認できたところで、日記はレミリア様の手によって閉じられました。
気持ちの悪い冷や汗が、今小悪魔の頬を伝っています。嵐の前の何とやらから逃げ出すか、ここで存在を悟られないよう息を止め無事を祈るか考えたところ、こっそり逃げようと決めて、後ろを振り向いたときでした。
どすん、とあまりやわらかくないものにぶつかりました。白黒の胸でした。
「何だこれ。全部レミリアが受けじゃないか。レミリア総受けとは、アブノーマルとまでは言わないが、随分変わり者だぜ、美鈴は」
血管の切れる音が、超振動で小悪魔の耳に伝ってきたような気がします。もう無理。もう無理。空気読めこの総攻めバカ。
ブン、と空気が震えるような大きな何かが振るわれるような音がしました。おそるおそる振り返ると、通常の三倍のスピア・ザ・グングニルが掲げられていました。
「何で」
二の句が継がれる前に、ちょうど同じく逃げだそうとしていた白黒のほうきにしがみつきました。
「何で私と霊夢のカップリングがないのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
そこか!
何とか図書館の三分の一が瓦礫になるだけの被害で済みました。この程度なら紅魔館ではよくあることです。片付けはメイドたちに任せましょう。
小悪魔はさりげなく巻き添えを食って瓦礫に埋もれていたパチュリー様を助け出しました。
「パチュリー様、大丈夫ですか」
「げほぉ、げほ」
よくよく考えれば事の発端はこの方なので、当然の酬いかもしれません。
肩についた埃をはたき落とすと、ただでさえボロボロの身体を引きずり起こし、最後の役目を果たすため、パチュリー様は立ち上がりました。
「あなたたち、ここは全年齢板よ、そこまでにがほっ、ごほっ」
吐血しました。無理するからです。
「瓦礫から引きずり出されながら 吐く魔女」
それだけ言い残すと、白黒はいつものように「図書館崩壊で傷ついた本は責任もって私がもらい受けるぜ」とか屁理屈こねながら盗品担いで去っていきました。
>おさない、かけない、しゅべすた
パッチェさんこれにも「全年齢板よ」って突っ込まないとパッチェさん
>使い間に殴られながら
使い魔では?
私は転校したらおはしがおかしに変わって戸惑った記憶があります。
と空気を読まずに(ry
暴飲暴食クソ吹いたwwwwww
まさかそうくるとはwww