ロンドンの夜の繁華街の一角にある酒場、そこでは様々な人間が思い思いの酒を飲みながら、週末の夜をすごしていた。
普段はこんな場所に縁のない私がここにいるのは、元を辿れば、新しく赴任した職場の同僚たちから飲み会に来ないかと誘われたのがきっかけだった。
半ば強引に連れて行かれ、同僚たちはビールをジョッキでごくごくとうまそうにやっているなかで、酒をあまりたしなまない私は仕方なく酒場のすみのほうで甘い酒をちびりちびりとやっていたが、それに気付いた同僚の一人がそばにやってきて隣に座ると、隣に座ったのはいいが何を話していいのか分からないのかしばらくの間無言でビールを呷っていたが、やがて何かを思いついたように唐突に話しかけてきた。
「そういえばお前こんな話を知ってるか?」
「どんな話だ?」
顔を赤らめ程よくよっている同僚の一人は、あまりろれつの回って居ない舌である〝噂〟を話し始めた。
「何でも東の方のどっかに〝幻想郷〟とかいう場所があるらしい」
「幻想郷?アヴァロンのようなもののことか?」
「ん?ああ…確かに似たようなものかもなぁ…アヴァロンとかヴァルハラとかその辺と一緒といえば一緒かもな?」
「ふむ?それでその幻想郷とやらがどうしたって」
「ああ、そこには幻想と化したもの、つまりこの世界から消えてしまったものとかが集まる場所らしくてな、もしそんな場所にいけるなら、失われた秘術とかを取り戻すのも簡単だろうなぁ……」
……本当は彼が話した内容はもっと長く、そして、ろれつが回っていないせいでろくに聞き取れなかったのだが、その内容を簡単にまとめるとそんな話しだった。
それから数日、なんとなく幻想郷というものに興味を持った私は、それについて調べれる限りの事は調べた。
その内容を簡単にまとめると、
『その幻想郷というのは東の小国、日本のどこかにあるらしい、
幻想郷は強力な結界によってこちら側と隔てられており、そう簡単にいくことは出来ない、
幻想郷には多くの〝幻想〟が存在する』
調べて分かった大まかなことといえばこの程度で、どこにあるのかとか、どうすれば行けるのかなどということは、まったく分からなかった。
ただ…それは確実に存在するという事実だけは分かり、私は、その幻想郷という場所に心惹かれるようになっていった。
やがて数年後、……ロンドンの空気とはまったく違う、それが日本の地に降り立ったときに思った最初の感想だった。
結局、私は幻想郷という場所に行きたいという願望を抑えきれず。あれからさらに幻想郷について調べた結果、分かったのは幻想郷とこちらを隔て…そしてつなぐ場所のこと、その場所を目指し歩を進めると、段々人の気が消え、寂れた雰囲気が漂い始める。そしてさらに進むとある種の魔法によって多くの人から忘れ去られた路地裏を抜けた先にそれはあった。
〈博霊神社〉
寂れ果て今にも朽ち果てそうなほどボロボロな鳥居と社、ところどころの石がかけ隙間から雑草の生えた石畳、もはや管理するものも居ないのであろう、人の気配のまったくない、その忘れ去られゆく神社の鳥居の前に立つ、その時点ですでに空間に奇妙な感覚を覚える。
とても強力な結界が張られていることは明らかだった。
しかし、私はこの日のために結界を破る方法をいくつも研究してきた。そもそも…完全に破る必要はないのだ。
自分が通れるだけの隙間を空けてしまうだけでいい、それならばそれほど難しいことではない、視覚とは別の〝目〟を凝らし、結界のもろそうなところを探す。
程なくそれは見つかり、私はそこを少しだけ破り穴を開けると、そのできた隙間に身体を滑り込ませた。
結界を越えた先で私が最初に思ったことは、日本の知に降り立ったときと同じように空気が違うということだった。
さっきまでとは全然違う清々しい空気、そして視界に入ってきた夕日に染まった神社もまた。先ほどまでの朽ちかけたものとは違い手入れされ、人の気配を感じるものに変わっていた。それもそのはずで、さっきまではいなかったはずの巫女服の少女が箒で境内の掃除をしていた。
少女はすぐに私の存在に気付くとめんどくさそうな表情で、「あなた〝外〟の人間ね?」と訊ねたところで、一瞬にしてその表情が険しいものに変わる。
「あなた、迷い込んできたんじゃなくて……外の〝魔法使い〟?そんなものが、まだ〝外〟に残ってるとは思わなかったわね。それで…外の魔法使いが幻想郷に何の御用かしら?」
そういいながら箒を近くの灯篭に立て掛ける。
「………」
目的ははっきりしている、幻想郷という場所が実在するのか、そしてそこにあるという「失われたもの」がどんなものか知りたいということ……しかし、何故かそれを言葉にした瞬間少女から攻撃されるのではないかという予感から、それを言葉に出来ず。そしてまた、蛇ににらまれた蛙のごとく動くことも出来ずにいた。
「どうせ、大方、外ではとっくの昔に失われた魔法とかでも探しに着たんでしょうけど…悪いけど、そんなものを見ることも手にすることもない内に外へお帰りいただくわよ」
その言葉は、少女の口から発せられたものにもかかわらず、何ともいえない威圧感があった。
しかし、それではここに来た目的を果たせない、私はやむを得ず逃げるという選択肢を選び、一気に境内の外へ向って駆け出す。
だが、その次の瞬間には後ろにいるはずの少女の姿が目の前にあった。
「な!?」
そして慌てて避けようとしたところに足をかけられ、私は盛大に転んだ。
とっさに受身を取ったものの身体が痛いということに変わりはなく、それでも何とか起き上がろうとしたところで柄の先を突きつけられ、私の短い幻想郷探索は終わりを告げた。
だが……私はこのまま終わるのは嫌だった。
だから、向こう側に戻される前に一つだけ少女に尋ねた。
「一つだけ答えてくれ、結局のところここは何なんだ?」
「どういう意味かしら?」
「現実から失われたものが集う場所と聞いた。けどそれは何のためだ?」
少女は、私の言葉の続きを待つかのように無言だった。だから私は言葉を続ける。
「ここは…誰かの幻想を記録するための媒体のようなものじゃないのか?」
「仮に、ここがあなたが想像したとおりのものだとしても、ここにある幻想(もの)が外に帰る事はないわ、ここにあるものは良くも悪くも外では〝役目〟を終えているの、あなたが、どんなものを求めてきたのかは知らないけれど、少なくとも〝知識〟のようなものである以上、それを取り戻したいのなら向こうで、自力で再現しなさい、ここから持ち帰ることは許されない、最悪…あなたがそれを知ってしまったら……」
少女はそこで少しだけ言葉を濁し、何かをはらうように首を振ると、改めて言葉を続けた。
「最悪、あなたがそれを知ってしまったら〝外〟が崩壊しえる事だってありえる。だから悪いけど、このまま帰ってもらうわ」
それが、私の覚えている幻想郷でのことの顛末、結局私は何かを手にすることもないまま幻想郷から締め出され、あれから何度あの博霊神社を探してもたどり着くことは出来ず……。
もし…もう一度、私が幻想郷に渡れる日が来るとすればそれは、私という存在が幻想となったとき、私という〝魔法使い〟が幻想となったときなのだろうか?
そんなことを思いながら、私は今日も〝現実〟で生きている。
普段はこんな場所に縁のない私がここにいるのは、元を辿れば、新しく赴任した職場の同僚たちから飲み会に来ないかと誘われたのがきっかけだった。
半ば強引に連れて行かれ、同僚たちはビールをジョッキでごくごくとうまそうにやっているなかで、酒をあまりたしなまない私は仕方なく酒場のすみのほうで甘い酒をちびりちびりとやっていたが、それに気付いた同僚の一人がそばにやってきて隣に座ると、隣に座ったのはいいが何を話していいのか分からないのかしばらくの間無言でビールを呷っていたが、やがて何かを思いついたように唐突に話しかけてきた。
「そういえばお前こんな話を知ってるか?」
「どんな話だ?」
顔を赤らめ程よくよっている同僚の一人は、あまりろれつの回って居ない舌である〝噂〟を話し始めた。
「何でも東の方のどっかに〝幻想郷〟とかいう場所があるらしい」
「幻想郷?アヴァロンのようなもののことか?」
「ん?ああ…確かに似たようなものかもなぁ…アヴァロンとかヴァルハラとかその辺と一緒といえば一緒かもな?」
「ふむ?それでその幻想郷とやらがどうしたって」
「ああ、そこには幻想と化したもの、つまりこの世界から消えてしまったものとかが集まる場所らしくてな、もしそんな場所にいけるなら、失われた秘術とかを取り戻すのも簡単だろうなぁ……」
……本当は彼が話した内容はもっと長く、そして、ろれつが回っていないせいでろくに聞き取れなかったのだが、その内容を簡単にまとめるとそんな話しだった。
それから数日、なんとなく幻想郷というものに興味を持った私は、それについて調べれる限りの事は調べた。
その内容を簡単にまとめると、
『その幻想郷というのは東の小国、日本のどこかにあるらしい、
幻想郷は強力な結界によってこちら側と隔てられており、そう簡単にいくことは出来ない、
幻想郷には多くの〝幻想〟が存在する』
調べて分かった大まかなことといえばこの程度で、どこにあるのかとか、どうすれば行けるのかなどということは、まったく分からなかった。
ただ…それは確実に存在するという事実だけは分かり、私は、その幻想郷という場所に心惹かれるようになっていった。
やがて数年後、……ロンドンの空気とはまったく違う、それが日本の地に降り立ったときに思った最初の感想だった。
結局、私は幻想郷という場所に行きたいという願望を抑えきれず。あれからさらに幻想郷について調べた結果、分かったのは幻想郷とこちらを隔て…そしてつなぐ場所のこと、その場所を目指し歩を進めると、段々人の気が消え、寂れた雰囲気が漂い始める。そしてさらに進むとある種の魔法によって多くの人から忘れ去られた路地裏を抜けた先にそれはあった。
〈博霊神社〉
寂れ果て今にも朽ち果てそうなほどボロボロな鳥居と社、ところどころの石がかけ隙間から雑草の生えた石畳、もはや管理するものも居ないのであろう、人の気配のまったくない、その忘れ去られゆく神社の鳥居の前に立つ、その時点ですでに空間に奇妙な感覚を覚える。
とても強力な結界が張られていることは明らかだった。
しかし、私はこの日のために結界を破る方法をいくつも研究してきた。そもそも…完全に破る必要はないのだ。
自分が通れるだけの隙間を空けてしまうだけでいい、それならばそれほど難しいことではない、視覚とは別の〝目〟を凝らし、結界のもろそうなところを探す。
程なくそれは見つかり、私はそこを少しだけ破り穴を開けると、そのできた隙間に身体を滑り込ませた。
結界を越えた先で私が最初に思ったことは、日本の知に降り立ったときと同じように空気が違うということだった。
さっきまでとは全然違う清々しい空気、そして視界に入ってきた夕日に染まった神社もまた。先ほどまでの朽ちかけたものとは違い手入れされ、人の気配を感じるものに変わっていた。それもそのはずで、さっきまではいなかったはずの巫女服の少女が箒で境内の掃除をしていた。
少女はすぐに私の存在に気付くとめんどくさそうな表情で、「あなた〝外〟の人間ね?」と訊ねたところで、一瞬にしてその表情が険しいものに変わる。
「あなた、迷い込んできたんじゃなくて……外の〝魔法使い〟?そんなものが、まだ〝外〟に残ってるとは思わなかったわね。それで…外の魔法使いが幻想郷に何の御用かしら?」
そういいながら箒を近くの灯篭に立て掛ける。
「………」
目的ははっきりしている、幻想郷という場所が実在するのか、そしてそこにあるという「失われたもの」がどんなものか知りたいということ……しかし、何故かそれを言葉にした瞬間少女から攻撃されるのではないかという予感から、それを言葉に出来ず。そしてまた、蛇ににらまれた蛙のごとく動くことも出来ずにいた。
「どうせ、大方、外ではとっくの昔に失われた魔法とかでも探しに着たんでしょうけど…悪いけど、そんなものを見ることも手にすることもない内に外へお帰りいただくわよ」
その言葉は、少女の口から発せられたものにもかかわらず、何ともいえない威圧感があった。
しかし、それではここに来た目的を果たせない、私はやむを得ず逃げるという選択肢を選び、一気に境内の外へ向って駆け出す。
だが、その次の瞬間には後ろにいるはずの少女の姿が目の前にあった。
「な!?」
そして慌てて避けようとしたところに足をかけられ、私は盛大に転んだ。
とっさに受身を取ったものの身体が痛いということに変わりはなく、それでも何とか起き上がろうとしたところで柄の先を突きつけられ、私の短い幻想郷探索は終わりを告げた。
だが……私はこのまま終わるのは嫌だった。
だから、向こう側に戻される前に一つだけ少女に尋ねた。
「一つだけ答えてくれ、結局のところここは何なんだ?」
「どういう意味かしら?」
「現実から失われたものが集う場所と聞いた。けどそれは何のためだ?」
少女は、私の言葉の続きを待つかのように無言だった。だから私は言葉を続ける。
「ここは…誰かの幻想を記録するための媒体のようなものじゃないのか?」
「仮に、ここがあなたが想像したとおりのものだとしても、ここにある幻想(もの)が外に帰る事はないわ、ここにあるものは良くも悪くも外では〝役目〟を終えているの、あなたが、どんなものを求めてきたのかは知らないけれど、少なくとも〝知識〟のようなものである以上、それを取り戻したいのなら向こうで、自力で再現しなさい、ここから持ち帰ることは許されない、最悪…あなたがそれを知ってしまったら……」
少女はそこで少しだけ言葉を濁し、何かをはらうように首を振ると、改めて言葉を続けた。
「最悪、あなたがそれを知ってしまったら〝外〟が崩壊しえる事だってありえる。だから悪いけど、このまま帰ってもらうわ」
それが、私の覚えている幻想郷でのことの顛末、結局私は何かを手にすることもないまま幻想郷から締め出され、あれから何度あの博霊神社を探してもたどり着くことは出来ず……。
もし…もう一度、私が幻想郷に渡れる日が来るとすればそれは、私という存在が幻想となったとき、私という〝魔法使い〟が幻想となったときなのだろうか?
そんなことを思いながら、私は今日も〝現実〟で生きている。
ちょっと物足りないかな。
台詞のほうでパッと見分かりやすい例えを持ってきて、地の文で媒体という語を使い補足する感じだと無理がなかった気がしました。
あと、書き込めないのは投稿パスじゃないですかね?
だとしたらトップの注意書き読めば解決するかと。携帯だとどうかしらないですけど。
トップのところをちゃんと読んだつもりだったのですが、まったく読めてなかったようです。
反省の意味も込めて数回ほど読み直してきました。
媒体の調理>
はい、実は一番苦労して結局いい感じにまとめれず。
苦し紛れに落ちをつけたのがそこだったりします。
やっぱり読み手にはきちんとばれるものですね……。
感想をくれた方々の意見を参考に、がんばって次に生かしてみます。
感想ありがとうございました。
(って、前に書いたのと同じようなことになってるよorz
丁寧語で書いていくとどうしても似たような文章になるデス……)