陰気臭い。
古臭い。
空気が篭ってるのでとにかく何か臭う。
そんな環境にもめげず、この私こと小悪魔はまぁぶっちゃけいつも通り悪事に興じつつ図書館の主と切磋琢磨丁々発止の鬩ぎ合いを繰り広げているのであった。
さてここで問題となるであろうは、悪事である。小悪魔たるもの、悪魔なんだから小さかろうがとにかく悪い事をしなければならない。
だって悪い魔だから。
名前に支配されているようで滑稽かもしれないが、大体そういうのばっかりだからこの際気にしてはいけないと思うんです。
という訳で私は悪事を働く訳でありました。
くすんだ紅い絨毯をつらつらと歩き、左右に聳える狂ったように大きな本棚をチラチラ見ながら、キシシと小悪魔的嘲笑を浮かべる。
私は小悪魔。
で、左右には本棚。
ここですべき小悪魔的悪事というのは即ち―――
「はっ!」
気合も充分に、本棚へ手を伸ばし本を引っ掴む。
「ぃよっ!」
さらに気合を込めて、引っ掴んだ本を引っ張り出す。
この際、伸ばした手だけでなく身体全体で大袈裟な動きを表現しつつ本を取るのがポイント。
例えるなら、ちょっとがに股気味になりつつ肩から下だけではなく、膝から腰から肩へ至る斜めを描きつつにゅーと腕を伸ばす感じ? みたいな?
無駄が多いかもしれないけど、だってその方が上手くいきそうだし!
「そぉっ!」
で、気合が入るんだか抜けるんだか良く分からない掛け声を以って、本を戻す。
当然、本を抜いた事で出来た隙間、要するに別の所へインサート。
「はっ!」
そしてワンモアセッ。
抜き出された本が別の所へインサート。
そしてワンモアセッ。
抜き出された本が別の所へインサート。
「うおぉあったまってきたーっ!」
テンポが上がっていく。
ワンモアセッ!ワンモアセッ!もっと腰を使うんだ!ワンモアセッ!よし良いぞ!その調子!ワンモアセッ!
―――大体一時間後。
本棚の内容はてんでバラバラになっていた。
「……ふっ、どうやらやりすぎてしまったようだな……この私としたことが……くくく」
そんな本棚の前で、もうやり遂げた晴やかな笑顔を浮かべるこの私。額の汗なんか拭っちゃったりして。
これで、この本棚を参照しに来たパープルチンクシャはきっと無様に手間取る事でしょうぷほほ。
「そうとなれば、絶好のポイントでじっくり監視してやろうじゃん? じゃん?」
漆黒の翼を羽ばたかせ、ふわり舞い跳ぶこの私。小悪魔ですもの、飛ぶくらいは朝飯前……あ、そういえばご飯食べてなかった。後で食べよう。
―――42分後。
「うおぉ来た来た来やがりましたっ」
物陰に潜み、現れたパープルチンクシャに私は手に汗握りもうなんていうか意気高揚激昂絶好調。
本棚を前に、怪訝げに首をかしげたパープルチンクシャだったが、しかし、何事かごそごそと呟くやガション! とかいう小気味いい音と共に本棚の本が一斉に本棚から飛び出した。
そして次の瞬間、それぞれ妙な機動を描きつつしかし互いに触れ合う事無く、全く元通りの位置へ納まってしまう。
小悪魔的視覚能力があってこそだったが、今回に限ってその視覚は余計な世話でしかなかった。
何もわざわざ克明に自分のやった小悪魔的悪事が一瞬で泡沫に消えたのを見せ付けてくれなくても良いと思うんだよ。
「おぉう……」
知らず、握り拳に涙がぽたぽたと滴り落ちていた。
しかしそれで諦める小悪魔ではない。
これでめげるようなら小悪魔なんかやってられませんのだ。
よし、じゃあ明日はパープルチンクシャを紐でひっかけて転ばそうと思うんだがどうだろう。
>妙な機動を描き
軌道なんじゃ?