◇
ある日のこと。
「おはよう霊夢。今日はすばらしいニュースがあるんだよ」
香霖堂の店主、森近霖之介はやけに上機嫌だった。
「霖之介さん、ずいぶんと楽しそうね。なにかいいことでもあったの?」
紅白の巫女が怪訝な顔で問いかける。
今日もお払い棒や食材を持っていこうとしていたのだが、無愛想な店主の上機嫌さを見てすわ異変か、と思ったのだ。
「君たちのように高速で移動することのできない僕が、ハンデを埋める手段を手に入れたんだ」
なんだ異変じゃないな。そう確信して、物色に入る。
「へえ、すごいわね。どういう方法?」
「とりあえず霊夢落ち着け、ああそのスイカは商品じゃないんだ、手をつけないでくれよ・・・で、その手段なんだが」
「だが?」
霖之介の注意を聞いているのかいないのか、いやたぶん聞いているけど聞いちゃいないのだが、霊夢は霖之介を無視して大玉のスイカをひょいひょいと抱えていった。
「頼むから自重してくれ。・・・列車、というものを知っているか?」
「知らない」
「まあその列車なんだが。敷かれた軌道の上を走る車だと思ってもらえればいい。鉄道、とも言うんだけどね」
「うん」
「これの仕組みを説明すると時間がかかるから簡単に言うと、車を複数つなげて大勢の人間を高速で輸送するシステムなんだ。」
「へえ。あ、霖之介さん包丁どこ?」
「そこにある。で、僕は何人かの協力を得て、幻想郷にこれを整備している。都合のいいことに材料も素材もそろってたから、もうそろそろ完成するころなんだ」
「ふむふむ。そういえば変な線路が出来ているなとは思ったけど」
「これで僕はあちこちへスピーディーに移動できるし、しかも利用料を取れるから大もうけ!やっぱり僕って最強だな!」
「よくわからないけど、すごいのね。塩どこ?」
「あの袋だ。制御はコンピューターにやらせてるし、動力を動かす軽油も拾ってきたから結構備蓄があるし。って霊夢、君は何をしているんだい?」
「種が多いわねこのスイカ。まあ結構甘いんじゃない?」
「目の前で人のものを無断で食うか!?しかもさも当たり前のように!」
霖之介は霊夢の肩をつかむと、ぶんぶんぶんっと揺さぶった。
「騒々しいわね。話の途中なんじゃないの?」
「き、君という人は・・・あ、そうだ。神社も列車が停まるから、この路線図を渡しておくよ。これを伝えたかったんだ」
「貰えるものなら貰っておくわ」
渡された紙の上のほうには、幻想郷線停車駅案内と書かれていた。
人紅霧魔香永博妖三太マ結白
間魔の法霖遠麗怪途陽ヨ界玉
の門湖の堂亭神山川のヒ入楼
里前前森前前社口上畑ガ口
●━━━●━━━━━●━●…特別快速
●●━━●▼━━━━●━●…通勤快速
●●━●●▼━━●━●●●…快速
●●●●●▼▲●●▼●●●…各駅停車
▲…祝日のみ停車
▼…早朝深夜以外停車
「・・・」
「どうした霊夢、お腹の具合が悪いのか?」
「いやそうじゃなくて、これ。神社のところ。一箇所だけ明らかにおかしいでしょ!列車というか鉄道くらい、私だって知ってるわよ」
「知ってて説明させたのか、君は」
「まあそれはともかく、どう見ても神社に停める気がないようにしか見えないんだけど」
「そうかな、被害妄想じゃないかな」
「どこがよ!?そもそも、この閑古鳥が鳴きまくってというか夜雀すら来ない店になんで全部停まるのよ!」
「出資者だし、経営者僕だし、当然だろう」
「くっ、じゃあ、もう一箇所途中にすべて停まる所があるんだけど、これは?」
「八雲一家の協力で完成したからな。測量や隙間いじりでお世話になった。というかそもそも霊夢は空飛べるんだから、別にいいんじゃないか?」
「参拝に来る人が減ったら、どうしてくれるのよ?普通の人がこれじゃ行けないじゃない!」
「もともといないじゃないか・・・」
「うっ」
言ったきり、急にふるふる震えだす霊夢。
何かまずいこと言ったかな、と思いつつ声をかけてみる。
逃げ出すなら、このときだったのに。
「霊夢、どうし」
「夢想封印-種-!」
ドルルルルルルルル
スイカの種が放出され、陰陽玉や針と混然一体になって霖之介に降りかかる。
乙女の事情でどこから放出されたかは言えない。特に種。
「な、なぜ・・・ガクッ」
「霖之介さん、あなたの敗因は簡単なことよ・・・私を怒らせた」
勝負してないし。薄れ行く意識の中、霖之介はそんなことを考えるのであった。
◇
その後。
「ルーミア、鉄分は血にいいんだよね、確か」
「そーなのかーもぐもぐ」
「でも鉄丸かじりはどうかと思うんだけど」
「リグルも食べる?もぐもぐ」
「いや、いいです」
「おっ、いい鉄がいっぱい落ちてるじゃないか!こいつはついてるなあ」
「魔理沙、それどう見ても人工的に設置されたものだと思うんだけど・・・」
「あー、そうかー?私には放置されているように見えるぜ、アリス。お前もひとつどうだ?」
「何かあっても知らないわよ、罠だったらどうするの。」
「そう言いつつも回収するのな、まあいいか」
幻想郷の住人の手にかかり、ものの数日でレールは消えてしまったそうな。
こうして、第一次幻想郷線計画は潰えてしまった。
た、確かに・・・早朝深夜通過というのも、客足が遠のく原因になりますね。
これはまずい。
>生める→埋める
ご指摘ありがとうございます。早速訂正致しました。
八卦炉&水で黒煙無しのクリーンな蒸気機関車ができるかも。
コンクリに埋め込めば、盗り鉄問題は解消か。
でも、地下鉄にしないと、弾幕ごっこの影響で至る所で不通だらけになりそう。
クリーンさとか盗難防止とかどうでもいいから、機関車走らせてよ機関車。