皆様、ごきげんよう。瀟洒なメイドこと十六夜咲夜でございます。
皆様は猫はお好きでしょうか?私は猫に限らず、かわいいものは全部大好きです。
だから紅魔館の皆も好きなわけで・・・おっと話が脱線しましたね。
でまぁ、かわいさのあまり猫を拾ってきちゃうなんて話があるじゃないですか。
小学校なんかでは「勝手に付いて来ちゃったんだ!」とか言ってるけど、
「モロ抱いとるやんけ!」な状況もあったりするじゃないですか。
今回のは、それとはちょっと違うわけですが・・・
「美鈴、お勤めご苦労様。何かあった?」
「いえ、特に何もありません。ただ、こんな侵入者がおりましてねぇ・・・」
「にゃー」
「えっ!?」
困ったように笑いながら足元から何かをひょいっと持ち上げる美鈴。
いや、もう何かと言う必要もない。猫だった。白い猫だ。
「どうしましょうか?脅かして追い払ってもいいのですがねぇ・・・
こうね、つぶらな瞳を向けられると弱くて。」
「ちょ、ちょっと貸しなさい!」
「へ!?え、えぇ、いいですけど。ハイ。」
咲夜の猫に触れようとする手が震える。
なんということだ。
吸血鬼の城でまさか猫にお目にかかることができるとは。
これはまさかのデスティニー?
私のためのデスティニー?
私のためのネコナリー?
「にゃーん」
「あ!なんか咲夜さんに懐いてますよ!かわいい!」
「は、ぐぅ・・・うぁっ・・」
「さ、咲夜さん?まさかアレルギーですか?」
「ううううぅううんっ!!!!」
「おぅわっ!?」
その瞬間、リーダースマ(げふんげふんっ)・・・を思わせる飛びっ切りの笑顔が見えた。
猫を抱く腕は優しそうだったが、体の他の部分は完全に力んでいる。
咲夜の小柄な体が某龍の玉の下着戦士が完全体の細胞相手に筋肉を
ムキムキにさせたように体が膨張していた。
「グウウウウッ!!!」
「さ、咲夜さん落ち着いてください!猫が気付いたら逃げちゃいますよ!?」
「はっ!?いかんいかん!」
ぷしゅ~~っ
しぼんだ。
「そ、それで、猫はどうしましょうか?」
「仕方ないわね・・・お嬢様が良いって言えば飼ってもいいわよ?」
「いやぁ、お世話するの大変ですし、こういうのは苦手なんですよ。」
「じゃ、じゃあどうするのよ。このまま追い払うの?」
「それしか方法はないかと。それに猫を飼えるほど余裕もありませんし。」
「何、猫の一匹でしょ。資金なら問題無いハズよ?」
「我々の体力面ですよ。」
「ぅぐっ!」
「咲夜さんが猫好きで飼いたい気持ちはわかります。だけど我が侭言ってはいけませんよ。」
「わ、私は別に猫が飼いたいなんて!」
「じゃあ、時を止めてまで用意された門の横にあるあれはなんですか?」
美鈴が指差した方向には木でできた小屋がちょこんと建っていた。
おまけに表札が掛かっているあたり、もう名前は決まっているようだ。
それにしても咲夜は猫を小屋で飼うつもりなのか。
「あ、あれはその・・・ほら、あなたの仕事の邪魔にならないようにするための・・・猫対策。」
「猫対策なら透明なビンに水を入れて門の前に置いておけばいいじゃないですか。」
「あ、あぁ、そんな方法もあったわね。」
「あの表札はなんですか?」
「猫の・・・じゃなくて・・・こ、小屋の名前よ。」
「へぇ、ハイツですか?メゾン?それとも荘ですか?」
「ま、マンションだもん。」
「はいはい、もうわかりましたから下手な言い訳は止めてください。猫の名前でしょ?」
美鈴はどれどれっと小屋に掛かってる表札の名前を見る。
「・・・・・・・・。」
・・・チワキ・ニクオドル・・・・
「さ、咲夜さん、このあまり穏やかじゃなさそうな言葉は?」
「な、何よ!?文句でもあるの!?この子の名前よ!」
「にゃにゃーん」
「はぁっ!?」
顔が青ざめ、思わず口があんぐりと開く。
美鈴はかつて自分が中国と呼ばれてショックだった時のことを思い出す。
まさか他の者・・・それも猫の名前でこんな気持ちになるとは思わなかった。
せめてシロとか単純な名前ならまだ咲夜をかわいいと思える。
「こ、これを本当にその猫の名前にするおつもりですか!?」
「ま、まぁ、少し大層な名前になってしまったわね。」
「いや、そういう問題じゃ・・・」
「でも、私がかわいいこの子に付けたいと思った名前なの。」
「は、はぁ、それはなんでまた?」
「う、うん。それはね・・・じ、実はね・・・」
「なんですか?」
「私が・・・生まれ変わったらなりたい名前の候補なの。」
恥ずかしそうにモジモジと話しだす咲夜。
本当はあまり言いたくなかったんだけど・・・といった感じだが、
美鈴としては、そんなことなら言ってほしくなかった。
すごく怖い名前だ。
名前からして、手をつないだ瞬間にもぎ取られるイメージが湧いてしまう。
あまりのネーミングセンスに体勢がちょっとグラついた。
美鈴は頭が痛いというようにデコに手をあてる。
そんな美鈴の態度に咲夜は不機嫌にぶすっと膨れた。
「な、何よ!文句があるなら言ってみなさいよ!」
「い、いえ、その・・・人にとやかく言えるほど大物ではないので。」
目を逸らしながら言った。
今言えることはそれだけだった。
気を操る程度の能力を持っていても気の利いた言葉なんてそうそう出てこない。
自分の無力さに心の中で涙した。
「あ、言っておくけどこのことは秘密だからね!
チワキの名前のことバラしたら容赦しないんだからね!」
こんな恥ずかしくも恐ろしいこと誰にも言えない。
むしろもう忘れたい。
「わ、私と美鈴だけの・・・・秘密なんだから・・・(ぶつぶつ)」
その台詞をもっと良い雰囲気の場面で聞きたかった。
「ま、まぁあれよ。折角良い名前も決まったんだし・・・その・・このまま追い払うのは・・その・・」
良い名前かどうかはひとまず置いておいて。
どうやら咲夜は猫が飼いたいようだ。
まぁ最初に猫を抱いた時の反応を見れば猫が好きだというのがよくわかる。
できれば美鈴としてもかわいい猫と一緒にいたいと思っている。
だが・・・
「えぇ、咲夜さんがお世話してくれるなら私は一向に構いませんよ。」
「それなら何も問題無いじゃない。」
「だけど、本当に良いのですか?そんな軽い気持ちで生き物を扱って。」
美鈴の表情が急に厳しくなる。
その顔は咲夜より長く生きてきた人生の先輩としての忠告のようだ。
「な、何!?このすごい風は!?」
突然美鈴から発生される風・・・それは姉貴風。
かつて紅魔館に入りたての頃に味わったあの突風に底知れぬ恐怖を感じた。
そう、あれは私が入って間も無い頃・・・
既にナイフの技と時を止める能力を持っており、紅魔館の強い部類なんだと粋がってた頃だ。
門にいるアイツを私は見た目どおりに『中国』と呼んでやった。
始めはちょっと困った顔で「やめてくださいよぉ」とか言ってた。
おもしろかった。だから何回も呼んでやった。
だけど繰り返しているうちにアイツはキレたんだ。
私は知らなかった・・・笑顔の底にはとんでもないストレスと怒りを抱え込んでいたんだ。
そして彼女はまだ若い私を教育する意味で・・・姉貴風を起こしたんだ!
おかげでスカートが捲れて恥ずかしい思いをした!トラウマだ!
「私もかつては飼っていましたよ、ペットを・・・
だけど犬や猫の寿命は人間よりももっと短いんです。この意味わかりますか?」
「だ、だけどこの子だってこんなところにいたら妖怪に食われてしまう可能性だってあるのよ!?
短い命を更に短くしていいの!?」
「あなたに・・・この子が死する時の覚悟はおありか!?」
「ぐうっ!」
姉貴風がどんどん強くなる。
まさか普段昼寝しているところを見つけてはナイフを投げていた相手に、
ここまでプレッシャーを与えられるとは思っていなかった。
スカートの先がビラビラと靡いている。
そしてチワキを抱いている今では両手が塞がっている。
このままでは文体ではわからないようなサービスカットは免れない。
しかし咲夜は美鈴の前でスカートを守るためとはいえ、地に膝を付きたくなかった。
「覚悟はあるのかって聞いているのです!さぁ答えてください!」
「ぅうううっ!」
風が渦を巻いている。
とんでもない技だ。
何故今まで私に使わなかったのだろうか・・・すっげ疑問が残るんですけど・・・
咲夜の頭にふと浮かんできたのだった。
グォオオオオッ!!!
このままでは風に飲み込まれる!
あの渦でスカートどころか上手い具合に服全部持っていかれそうだ!
姉貴風に!
姉貴風に!
姉貴風に!
「やめれ!」
ピタッ!
「うあっ・・・あれ?」
風が止んだ。
一体何が起こったのか前を見るとパチュリーが立っていた。
どうやら魔法で風を打ち消してくれたようだが、守りきれなかった。
咲夜を庇ってスッパチュリー。
「折角久々に外に出て、蝶々を追いかけながら本を読んでいたというのに・・・このおバカ!」
難易度が高い読み方である。
「アンタは姉貴風禁止!」
「そ、そんな!」
「大体ね、アンタは激しすぎるのよ。
出したくても妹様の笑顔に簡単に負けてしまうレミィみたいに微風で済ませられないの?
私の服が飛んでいっちゃったのよ!?私スゴイ開放感よ!?」
「わ、私は咲夜さんのためを思って!」
「咲夜ぁ?アンタなんかした・・の・・・」
ちょっとヤサグレな空気を出しつつ咲夜に注意しようと向いた時だった。
パチュリーは咲夜の方を見て凍りついた。
それは何か、見つけてはいけないものを見つけてしまったような目だった。
「咲夜!早くそれを捨てなさい!」
「す、捨てなさい?」
焦っている。それもかなりのものだった。
そして戦闘態勢で本を開き、手を咲夜の方に向けているあたり警告を出しているようだ。
「猫よ!なんでここにいるの!?早くしないと撃つわよ!?撃っちゃうわよ!?」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「ロイヤルフレア!?」
「疑問系で!?」
パチュリーの手からでっかい火の玉が現れた。
そんなに猫は駄目なのだろうか。
パチュリーは猫アレルギーだからなのだろうか。
とにかく咲夜は疑問系で放たれたスペルを簡単に避けた。
パチュリーも当てるつもりは無いらしい。
「さっさとその猫を紅魔館から遠ざけてよ!早くしないとレミィが気付いちゃうじゃない!」
「な、なんのことですか!?」
「咲夜さん、ここは一先ず逃げましょう!」
「えぇぇえっ!?」
いつの間にか咲夜の横に飛んできていた美鈴。
腕を引っ張られて2人で紅魔館から離れるのだった。
とりあえず紅魔館から離れて湖の岸辺に来た。
そこで咲夜は美鈴から事情を聞くことにした。
「ちょっと、理由を説明してよ!意味わからないわよ!」
「い、いやぁ、あれは咲夜さんが来る数十年前のことなんですけどね・・・」
あの日・・・雨が降っていた日のことだ。
濡れてる人々と街がそれでも太陽を信じている頃・・・レミリアは暇だった。
退屈で退屈で「鯛と靴でタイクツ」とわけのわからないこと言い出す始末。
あまりにも退屈そうにしているレミリアを見かねて一人のメイドが一匹の捨て猫を拾ってきた。
その時レミリアは汚れた猫だというのに大層喜んでかわいがった。
そして猫に心を奪われ、しばらく離れようとしなかったそうな。
一人で世話をするのは大変だとレミリアはメイドに猫の面倒を見させた。
メイドたちの間でも猫のかわいさは大人気の大好評。
猫の面倒を当番制にして、メイド達は自分の番が回ってくるのを心待ちにしていた。
それほど猫は人気があった。かわいさ故に。
そして悲劇は訪れた。
「みんなが大切にしていた猫が・・・死んじゃったのね?」
「・・・いいえ・・・」
とあるメイドの言葉で悲劇が始まった。
「あ、レミリア様が猫と遊んでらっしゃるわ!かわいい!」
「どっちが?」
「そりゃレミリア様よ!」
「えー、でも猫ちゃんもかわいいよ!」
「両方ともかわいいわね!」
「ねぇ、じゃあさ、レミリア様と猫ってどっちの方がかわいいのかしら?」
「え!?」
急遽、メイドたちの間で紅魔館内最大イベントが催された。
メイドたちによる投票が紅魔館ロビーにて行われ、フィナーレにはその場にいた総勢607人の
メイド達によるキャンディーのつかみ取り大会になり、キャンディーに紛れて○ンディーが入っていたとか。
ちなみにその時レミリアは寝ていたそうな。
それから数日後、当時のメイド長の命令で美鈴が二つの票の合計を出し、結果が発表された。
その結果は・・・
僅差でレミリアの負けだった。
メイド達はざわざわと騒ぎ始める。
「いくら猫がかわいいとはいえ、主人を裏切ることができようか。」
「だけど猫はかわいいんだ。なら票を入れるしかないじゃないか。」
二つの意見はその場でぶつかり合った。
メイド長はまさかレミリアが負ける事になるとは思っていなかった。
悲惨な結果にメイド長は、レミリアにこのことは秘密にした。
争っているメイド達にもそのことを伝え、破ったら尻百○○だと厳しく取り締まった。
それを聞いたメイド達は途端に静かになり、自分のお尻を押さえて会場を出たという。
これでその場は治まったかに思えた。
だが・・・
トイレで化粧を直しているメイド達のOL的噂話を偶然にも手前から2番目の個室で聞いてしまった。
「この前の投票さ、アンタどっち入れたわけ?」
(投票?)
「私?私はそりゃもう猫ちゃんよ。」
(猫?猫がなんなの?)
「だよねぇ。いくらお嬢様が小さくてかわいいからって猫には敵わないわよね。」
(わ、私?敵わないって・・・何かに負けたの?)
「絶対猫ちゃんの方がかわいいって。お嬢様に投票した少数派の気持ちなんてわからないわ。」
「わからないから少数派なのよ。多数派に敵うはずないわ。」
(わ、私が少数派っ!?)
あまりにショックだったレミリアはその日の4時44分に手前から3番目のトイレを3回ノックし、
「花○さん遊びましょ」の禁じられた遊びを決行したという。
そこに偶然そのトイレに入っていたメイドは「入ってまーす」と答えると、
花○さんだと思ったレミリアは恐怖のあまりその場で・・・
「後はお察しください。ビビると大抵の子供がやることです。」
「ごめん・・・悲劇なのはなんとなく理解したけど、余計な事が入って混乱したわ。」
「それでもお嬢様は正気を保っていた方なんです。少数派と言われたのに我慢したのです。」
「ま、まぁプライドが高いからあの方にとってはかなり重要な事よね。」
「本当にもう、投票の事がバレた時は少数派と一緒に暴動起こすんじゃないかと
かなりヒヤヒヤしましたよ。」
「いや、うん、まぁ、大変だったね。」
「ちなみにまだ話には続きがあります。」
「あーそーですか。」
その後、メイド長によってトイレからレミリアは無事に保護された。
色々ショックがあって、とても起きていられる状態ではなかった。
投票の事、メイドの噂話の事、花○さんらしき声を聞いてしまった事・・・
メイド長はレミリアをベッドに寝かし、事情を聞いた。
「なんで花○さんを呼ぼうとしたのですか?何か嫌なことでもありましたか?」
「え、わかるの?」
「もちろんです。私も下っ端時代に先輩にイジメられてはしょっちゅうやってましたから。」
「そういうものなの?」
「そういうものです。落ち込んでるとやりたくなっちゃうんですよねぇ。」
「うん。わかるわかる。」
この時点で既にレミリアとメイド長は少数派だった。
「・・・私と猫の人気投票があったそうじゃない。」
「!?」
「私・・・負けたんでしょ?」
「そ、それは・・・」
「いいのよ。ねぇ、答えて。」
レミリアは掛け布団から手を出すとメイド長の手を握った。
自分の質問から逃げるような事をしてほしくないから。
正直な言葉を聞きたいから。
「ねぇ、私・・・かわいくないのかな・・・」
「!?」
潤んだ瞳に心身共に弱りきったロリッ娘にメイド長の心はトキめいた。
胸がキュンキュンしすぎて「え~いえ~い」とシリアス顔のレミリアの頬っぺたを何回も指でつついた。
やわらかい頬っぺたを十分に楽しんだ後にメイド長はコホンと咳払いをして答える。
「かわいいに決まってるじゃないですか。」
「でも猫に負けたよ。」
また暗い表情になるレミリア。
主人に困った顔に色んな意味で弱いメイド長はある提案を思いついた。
「そうだ!猫に負けたのなら、お嬢様が猫になればいいのですわ!」
「それだ!!!って、やるかっ!」
「えーっ!?一緒になりましょうよぅ!」
「えーっ!?お前がやりたいことなのっ!?」
弱っているとはいえ、意外と冷静さを保っていた。
それでも半ば強引に自分の案を通そうとするメイド長にレミリアの堪忍袋の緒が切れた。
次の日、レミリアにとって邪魔な猫と邪なメイド長は紅魔館から追い出された。
それから猫は紅魔館ではタブーとなった。
「・・・というお話でした。めでたし。」
「めでたし、じゃないでしょ。」
「まぁ要するに、レミリア様が嫌な思い出を持ってるから猫を入れるなって話です。」
「わかったけど・・・じゃあなんでさっきはそれを先に言わなかったの?
わざわざペットを飼うことを反対するかのような言い方して。」
「・・・・・」
美鈴は黙ったまま靴を脱ぎ、裸足になる。
そして歩いて、ちゃぷんっと湖に足を入れる。
透き通った水は美鈴が踏み込んだ足を中心に円形の波を立てている。
ちゃぷっちゃぷっ・・
咲夜に背を向けた状態で、数歩水辺を歩いて立ち止まった。
「咲夜さんは・・・私より長生きしてくれますか?」
「・・・・・」
この一言で咲夜は美鈴の言いたいことがなんとなくわかった。
妖怪と人間では寿命が違う。
妖怪は数百年生きられるが、人間は長くても百年ちょっとが限界なのだ。
咲夜は時を操る能力を持っているが、人間として生を全うするなら当然美鈴より先に逝くことになる。
美鈴は咲夜の死を受け入れるということをしなくてはいけないのだ。
寿命という観点で見ればそれはもはや運命だった。
「私、怖いんです。咲夜さんがいなくなる日が来るのが・・・」
「美鈴・・・」
「チワキが死ぬ時、きっとあなたはすごく悲しむ。私も悲しい。
そして私は次にあなたの死が怖くなる。怖くてあなたと話せなくなる。
親しくなった分だけ別れが悲しくなるから・・・」
「そうね・・・でも・・・」
咲夜は抱いていたチワキを地面にそっと放して「ここにいなさい」とぽんぽんと頭を指先で触れる。
猫は行儀良く座って落ち着いている。
そして・・・
ちゃぽっ、ちゃぽっ・・・
咲夜も裸足になって水辺を歩き、美鈴のすぐ後ろで止まる。
「なんでそう悲観的になるのかしら?」
「え?」
美鈴は意外な一言に驚き、咲夜の方を見る。
眩しいくらいの笑顔をしていた。
「あなたは妖怪よりも遥かに命が短い人間・・・
十六夜咲夜と会うことができ、同じ場所で暮らしている。
しかも私の人生の多くをあなたは知ることができ、私の最期が見届けられる。」
「だ、だからそれだと・・・」
「ストップ。話は最後まで聞きなさい。」
美鈴は咲夜に人差し指で口を塞がれる。
先ほど姉貴風を吹かせていた時とは立場が逆転していた。
だけど2人は違和感を感じていなかった。
「私が死んだら悲しいって言ってくれたわよね?でも死ぬ側としてはそれは複雑な心境よ。
確かにうれしいんだけど、やっぱり悲しませてしまったっていう罪の意識が生まれるわ。」
咲夜は苦笑しながら言っている。
どうやら冗談も交えているらしい。
「まぁそれもあるとしてね・・・私としては『悲しい』だけっていうのは寂しいわ。
だから、できれば皆には・・・いえ、せめてあなただけには・・・
『咲夜に会えて良かった』って思ってほしいの。私が言いたい事わかるかしら?」
・・・・・・・・
「・・・・・ぷっ。」
「!?」
「ぅっくっくっ・・・あっはっはっ!!」
「な、何が可笑しいのよっ!?」
「実にあなたらしい!本当に最高ですよ、咲夜さん!」
「はぁっ?」
「どんな言葉が出るかと思えば・・・ぷぷっ!一歩間違えればとんだナルシストですよ!
私じゃなかったらきっと変なふうに捉えられていましたね!」
「~~~っ!!!」
「きゃーっ!!!」
ばっしゃーん!!
咲夜は美鈴に掴みかかって2人で水に入った。
水の深さは適度だったため、底に体を打ち付けることも溺れることもなかった。
2人はすぐに水から飛び出して立ち上がる。
「ぷぁっ!!」
「ぷはっ!!っ、この中国!空気読みなさいよね!」
「いやぁ、怒った咲夜さんもかわいいですねぇ。」
「茶化さないでよ!私は真面目だったのよ!このっ、このっ!」
「アイテテテ!」
咲夜は真っ赤な顔で美鈴の頭をぽかぽかと叩く。
美鈴は流石におふざけが過ぎたと思い、少し反省した。
ぱしっ、ぱしっ・・・
美鈴の頭を叩いてくる咲夜の両手を受け止めてじっと見つめる。
「いやいや、私は咲夜さんの言ってる事、ちゃんと理解できましたよ。」
「そ、それで私を説得したつもりかしら?」
「ダメですか?」
「誠意が伝わらないわ。」
「・・・ふむ、そうですか。なら、こういうのはどうですか?」
ぎゅっ・・
美鈴は掴んでいた手を解くと、腕を咲夜を覆うように回して抱いた。
「ちょっ、ちょっと美鈴!?」
「咲夜さん、すっかり大きくなりましたね。前は抱っこしなきゃ顔まで届かなかったのに。」
「と、突然何よ?そう言って姉貴分やってれば私が大人しくなるとでも思ってるの?」
「そして言うこともすっかり一人前。短い期間でもう私より立派になりましたね。」
「それが姉貴分やってるって言うのよ。上から見たような言い方して。」
咲夜は一見美鈴の言うことをあまり聞いていないように思える。
しかし本当は一字一句逃さず聞いていた。
トンがっているのは自分の素を出さないためであった。
美鈴のように誰にでも優しく接するような性格の者には、
思わず信用して本音を言ってしまうという者が多い。
咲夜も何回か相談をしたことがあるのでそんな気持ちになってしまうことはわかっていた。
咲夜の本音は「ありがとう」だった。
自分の言葉を理解してくれたこと、自分を褒めてくれたこと、自分を抱いてくれたこと。
それでもそれを美鈴に言うつもりはなかった。
単純に恥ずかしいからだ。
「・・・・もう、わかったわ。とりあえずあなたの誠意は伝わったことにしておくから。」
「ははっ、ありがとうございます。」
「まったく、素直に始めからそう言ってれば良かったのよ。」
「はははっ、ごめんなさい。それにしても・・・」
「何?」
「咲夜さん、ちょっと心臓がバクバクしすぎですよ?」
げしっ!
「ぎゃっ!!!」
咲夜は美鈴の左太股に蹴りを入れた。
もちろん照れ隠しだ。
「まったく・・・チワキ、あなたを安全なところ・・へ・・・?」
痛がる美鈴を放っておいて、視線をチワキのところへやる。
が、その姿はなくなっていた。
咲夜が最後に見たときにはちゃんと大人しく座っていたハズだ。
一体どこへ行ったのか?
「どうだー!空を飛ぶのは楽しいか猫ー!?」
「にゃーーー!!」
声が聞こえた。片方はわからないが、間違いなくもう片方は猫の声だ。
どこから聞こえるのか探すと、チルノが猫を持って湖の上を飛んでいるのが見えた。
咲夜は焦った。猫を持っているのがカエルを凍らせて遊ぶあのチルノ。
生き物をおもちゃにするアイツが猫を持っている。
そんな性質の悪いお子様が何をするのかわかったものじゃない。
「ち、ちちっ、チワキーーー!!」
「さ、咲夜さん!?へぶっ!!!」
咲夜は飛び上がった。
太股を蹴られて跪いている美鈴を更に蹴倒し、豊満な胸をクッションにして飛び上がった。
普段飛んでいる速度の2倍!!
美鈴の胸をクッションにして2倍!!
両足でジャンプすることによって2倍!!
両方の胸を踏むことによって更に2倍!!!
咲夜の銀の脳には某コンピュータ超人のインチキな方式が頭に思い描かれていた。
「ちるのぉぉおおおおおっ!!!」
「ねーこっ・・・ん!?何!?速いっ!?」
幻想郷においてその式は成立させられた。
「う、嘘だぁあっ!!!」
「にゃにやぁあっ!!!」
「メイドパンチ!」
「!!」
バガン!
「メイドパンチ!メイドパンチ!メイド!メイド!!メイドキック!!!」
ガガ!バガン!!
「はぐおぅ!!」
チルノは吹っ飛ばされる瞬間に猫を手から放し、そして勢い良く水面に叩きつけられた。
上手い具合に上に放ってくれたため、咲夜は苦もなくキャッチすることができた。
迅速かつ華麗に猫を救い出したのだった。
「にゃーん」
「さぁーてっ、チワキちゃん。あなたの新しい住処へ・・・チワキじゃない!!」
自分がチワキだと思ってチルノから奪い取った猫は違う猫だった。
この後美鈴と夕暮れになるまでチワキを探したが、結局見つかることはなかった。
そして流石にレミリアが起きる時間になってしまったため、急いで館に戻らなければならなかった。
そこでチワキ探しは断念され、ただ無事を祈るだけだった。
更に二人にはチワキの心配もあるが、自分達の心配もあった。
よく考えればチワキが来たあたりから二人は仕事をせず、遊んでいたも同然だった。
当然ながらレミリアに知られれば怒られるわけだ。
サボったことをどのように言い訳をすればいいのか考えながら館へ戻るのだった。
「困ったね。」
「まぁ実際サボっちゃいましたからねぇ。」
「許してくれるかな?」
「許してくれないでしょう。」
「どうしようか?」
「うーん・・・かつて図書館にある文献で読んだことがあります。」
「ほほぅ?」
「あるメイドが自分に遣える主人の大事な壷を割ってしまいました。
そのメイドは必死に主人に謝りました。そして主人はこう言ったんです。」
「なんて?」
「『ボケて私を笑わせろ』ってね。」
「それだっ!!!」
この後2人はこっ酷くレミリアに叱られた。
>氷ついた
凍りついただと思います。
ところでトイレからレミリアを保護したということは、メイド長ふきふk
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そ・それとも・・あらいあらいしてふぎいぃぃゃぁあああああ!?!!!!!!!!!