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ある意味 夢のお薬(八雲編) 後編

2007/08/06 21:34:20
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「紫さまー」
「はい。なぁに藍?」

「紫さま紫さま!」
「あら、そんなに興奮してどうしたの藍?」

「ゆーかーりーさーまー」
「ご機嫌ね藍。私は逃げないから慌てたら駄目よ」

 そんな、うふふであははな八雲紫と八雲藍。

「…………(ギリッ)」
「………藍様ぁ」

 そしてそんな八雲紫と八雲藍に、刺す様な恨む様な羨ましそうな目を向ける。博麗霊夢と橙の二人。
 イチャイチャで甘い隙間と子狐。
 ドロドロで濁った巫女と黒猫。

 はっきり本気で、凄い居心地の悪い嫌な空間だった。

「永琳様……」
「師匠……」
「ええ、気持ちは分かるのだけど。これはどうしたものかしらねぇ」

 はっきりと場違いな私達は、それぞれこの光景に悩む。

 一応。念の為にと、私達は小さくなった八雲藍に液体状の薬を与えてもみたのだ。だけど隙間妖怪の言うとおり、子狐は飲んだ途端吐いて泣いて逃げ出した。
 本気で嫌いらしい。
 大人の時は嫌な顔をしつつもきちんと飲んでいたらしいから、成長したら大丈夫なのだろうが。彼女の舌が相当の拒否反応を起こすらしいのだ。
 しかもその際。黒猫に「藍様苛めるなー!」と攻撃を受けたり、逃げ出した子狐にぎゅうぎゅうに抱きつかれて困る隙間妖怪を見た巫女に、極限に冷めた鬼みたいな目で睨まれるとか、もう本当に踏んだり蹴ったりで、私達は疲労していた。

「ら、藍様ぁ」
「フ―――――!!!!」

 そしてこれも予想外だったんだけど。
 この子狐。あれだけ溺愛していた黒猫を、本気で警戒していた。
 九つの尻尾がいろんな所にびーんと伸びて、近付いたら飛び掛られて噛みつかれそうだ。ついでにそれは巫女には適用されずに黒猫だけだから、黒猫の落ち込みようは凄い。

「藍……」

 隙間妖怪も困った顔をしている。黒猫は今にも泣きそうで顔がくしゃくしゃだった。
 居た堪れなくて、私達が巫女にどういう事かと説明を求めたところ。巫女は気だるげな仕草でお茶を入れ直しながら。

「どうやら、橙から紫の匂いがするのが気に入らないみたいなのよ。獣同士だからこそ余計に警戒してるんじゃないかしら」

 ………犬かよ。と素直に思った。
 いや狐だけどさ。ご主人様の匂いがついた他の存在が気に入らなくて、盗られるんじゃないかと不安で警戒心がバリバリ働くと多分そういう事なんだろう。……困った。記憶が退行しているという事は、こういう時に本当に不便なんだと私達は実感する。

「師匠。流石にこのままじゃあ……」

 正座してその上に永琳様を座らせている鈴仙が、ワイシャツ姿の永琳様の頭を見ながら呟く。

「そうねぇ……。飲み薬は本当に駄目みたいだし」

 おっとりと、小さな手を口元に当てて、永琳様はうーんと考え込む。
 だけどすぐに目を細めて、小さく息を吐くと、にっこりと私をみる。
 
「ねえてゐ」
「……!は、はい永琳様」

 ちょっとびくってなった。な、何で急に私に話しかけるんだろうと。少し嫌な予感がした。

「ええ、提案なんだけどね。ここは見捨てて次に行きましょうか?」
「ああ、そういう事ですか……………って、はい?」
「えっ?!師匠」

 あれ?今この人、あっさりと見捨てようとか言いましたよ?
 突然のそれに、私と鈴仙は唖然として永琳様を見つめてしまう。だけど永琳様はそんな私達の視線を気にした様子もなく「だってねぇ」と可愛らしい仕草でちょこんと首を倒す。

「ぶっちゃけどうしようもないし。このままだと現状維持しかないし。本音を言うと私はそこの狐の事より慧音の方が遥かに圧倒的に気になって仕方ないから、こんな魔空間からさっさと離脱してとっとと次に行きたいわ」

 そ、それぶっちゃけすぎですから永琳様!
 だけど永琳様の顔は真面目で本気で、嘘も偽りも言っていない。本気で見捨てる気だこの人!

「いや、師匠、それはあまりにも……」

 鈴仙も口元を引きつらせながら永琳様に少しだけ否と態度で示すが、永琳様は「だってねぇ」と小さく溜息。

「この解毒剤を液体から固体に変えても変質して効かなくなるから意味はないし。私達がここにいて出来る事も現状ではないわ。……ああ、そうね、後日に錠剤用の解毒剤を造るという事でまあここは一つ」
「待ちなさいそこ!!」

 がっしと、永琳様は隙間妖怪に捉えられた。……いや、自業自得だけどね。

「あら、聞こえていたかしら?」
「あ・た・り・ま・え・よ」
「なら分かるでしょう?今の私達に出来る事はないわ」
「そこを何とかしなさい!」
「無理です。処置なしです。諦めて下さい」
「あっさりと医者が無理とか処置なしとか諦めてとか言うなぁぁぁぁ!」

 隙間妖怪の怒鳴り声。初めて聞いた。というかそれぐらいに切羽詰ってるんだなぁ。
 あ、ちょっと涙目だ。

「いい事?!藍がこうなってから、橙は怖いわ霊夢は睨むは、藍は小さくて可愛いけど本当に昔のままだとしたらお風呂も食事も就寝も一人で出来ないわで本当に大変なのよ!」

 背中に子狐を張り付かせて、隙間妖怪はがくがくと永琳様を揺さぶる。
 子狐は大好きな主の背中で「きゃあきゃあ♪」と嬉しそうだった。
 ああ、成程ね。この子狐そこまで退行していたのか。それじゃああの隙間妖怪が焦るのも分かる。今だけでも視線が凄いのに、その上で食事にお風呂にお布団に、とかなったら、この巫女と黒猫はマジで何かしでかしそうだった。
 そんな隙間妖怪の心からの叫びは、永琳様にも―――

「いえ、私としては慧音が気になってそんな事はどうでもいいわ。心から」
「はっきりと言わないで頂戴!!」

 ……全く僅かに欠片すらも届かなかった。

「というか、貴方の隙間で治せないんですか?」
「面倒そうに言わないで!できるならしてるし、この場合はしても意味がないのよ!」

 私達には分からないけど、隙間も万能というわけではないらしい。

「ああ、それじゃあ一ヶ月だけ我慢していて下さい。錠剤型で苺味の解毒剤を造ってあげますから」
「一ヶ月も待てるかぁぁぁぁ!」
「待っていて下さい。それ以上は無理です」

 永琳様は、何だかすでに飽きたというか投げやりだった。
 何というか、慧音が気になって仕方ないし、ついでに子狐の薬の作用は他と大して変わらないしなので、これ以上は危険はないと判断したし、もういいや。という心境らしい。………素で酷いなこの人。

「八意永琳……!」
「無理なものは無理です。この子が液体タイプを飲めればそれで終わりなんですから、後はそちらで頑張って下さい」

 ぷるぷる震える隙間妖怪は、すでに鈴仙に保護されている永琳様を睨みつけていた。永琳様も鈴仙の首に腕を絡ませて「慧音は大丈夫よね……?」と少し考え込んでいた。

 ぶちっ!!

 隙間妖怪から嫌な音がした。

「上白沢慧音がそんなに心配なら、その上白沢慧音を私が隙間で操って、貴方に「好きだ!」って言わせるっていうのはどうっ?!」

 流石に場が沈黙した。
 うわー。この人駄目駄目だ。いくら何でも隙間を操って「好きだ!」とか言わせても、それは弄った結果だし、どうせ元に戻すのだから意味はないのに……。相当に追い詰められてるなぁ。というか永琳様も呆れて―――

「鈴仙!無理矢理にでも飲ませるわよ!てゐは八雲藍を抑えて!貴方は彼女の耳に『この薬は貴方を治すのよ』と囁いときなさい!この薬は思い込みが作用すると言っても過言ではないから、貴方の言葉を何が何でも信じさせなさい!」
「わ、分かったわ!藍、聞いて、この薬は貴方を助けるの!だからお願い、我慢して!」
「えっ?やぁ?!ゆ、紫さま?!」
「了解です師匠。すぐに準備を!」
「ら、藍様頑張って下さい!」
「しっかりしなさいよ」

 ………。
 あれー?
 
 こうして、どこからどこを突っ込むべきかわからない内に、八雲藍に解毒剤は服用されて、ぴくぴくと痙攣していた。
 ひでぇ……本気で無理矢理だった。
 だけど隙間妖怪の囁きの効果は一応はあったらしく。子狐は……ほんのちょっとだけ成長していた。

「……ま、まぁこの時の藍はお風呂も食事もお布団も大丈夫だったし……我慢するわ」
「……ええ、薬の方は、切り詰めて一週間後には渡せるようにするわ。……だから慧音の件はよろしくね」
「約束だしね。まかせときなさい」
「タイミングとかはこちらで指定するわ」

 ………。
 まあ、荒療治だったので仕方なく。少しだけ精神的にも成長している狐は、黒猫の膝枕でうーうーと唸って、だけど黒猫は幸せそうにごろにゃん状態で、巫女もこれで少しは安心ねと、こっそり鼻歌を歌ってたり、鈴仙は永琳様を抱っこしたままなので「えへへー」と幸せそうで……
 

 多分。私以外はこの結果に納得しているらしい。
 いや、いいのそれで?
 私は、自業自得とはいえ、この理不尽さに頭痛を抑え切れなかった。

もう、八雲編後日談も書いてやろうかなと、そんな勢いです。

紅魔館と繋げても楽しそうだと、無計画にわくわくしてます。
夏星
コメント



1.名無し妖怪削除
待っていました!
続きもお待ちしております。m(u u)m
2.イスピン削除
お風呂やお食事やお布団も藍ちゃんといっしょだと!?
ぜひ変わって下さ(スキマ+ビシャモンテン、だがそれらは二重結界で防がれた!)

そしてなげやりえーりんに吹いた
3.名無し妖怪削除
是非書いてください。
八雲後日談。
4.名無し妖怪削除
待ってました!!藍様可愛すぎるよ!
是非後日談を!!
5.名無し妖怪削除
ぜひ後日談をお願いします。
ところで「積極的だけど不器用」が消えているようなのですが、再UPしていただけませんでしょうか。
6.芳乃奈々樹削除
慧音が絡んだ永琳に爆笑ww

それでいいのかえーりん…
7.名前が無い程度の能力削除
素晴らしい