紅魔館。その名の通り、紅くて魔が住む館。
こう考えると、館の名前をもっと凝ったものにしろよと少し思ったが、ウチも永遠亭とか、まんまその通りなのだと気づき、口を閉ざした。
しかし。
私は鈴仙の腕に抱かれる永琳様を見る。
……どうもひっかかる。
違和感というか、おかしいというか。
喉に小骨がひっかかっているような落ち着かない何か。それを今永琳様に感じている。
だって、おかしいのだ。
今回の事件は、いや私が原因だし私が悪いのだけど……そこを差し引いてもいやに手回しがいい。
試作段階の薬にすでに解毒剤があったり、閻魔の薬の効き方に急に真剣になったり、幽霊のお姫様の診察も、普段より何割も真剣に取り組んでたし……
まるで……
「てゐ?」
永琳様は……
「あの、そのまま行くと」
「危ないですよ」
ひょいっと、急に体が引き戻された。
「へ?」
ふわりといい香りがして、そのまま柔らかくて質量あふるる何かが背中にあたる。
「お、おおぉ?!」
「どうしたんですか?ぼーっとして、門に衝突したら痛いですよ」
その声に、それが誰で背中の何かがアレだと気づく。
紅魔館の門番。頭文字に役立たずがつく、いろいろと不幸な人。
「……あの、なにか悲しいこと考えてません?」
「え、ううん何でもないよ」
しゅんとする彼女にぎくりとしながらも慌てて首を振る。
目の端に、呆れた顔の鈴仙と、微笑している永琳様が見えた。
「…はあ。それで、今日はどういったご用件でしょう?」
「実はですね。ちょっとメイド長に火急の用があるんです」
慌てて鈴仙が門番に近づく。門番はきょとんとしてから「はあ、咲夜さんに」とんーと考え込んで、
「じゃあいいですよ。どうぞ。紅魔館は貴方達を歓迎します」
にっこりと笑って、私達を通してくれた。
「……なんか、あっさりだったね」
「うん」
幾分拍子抜けした私達に、永琳様は困ったように微笑む。
「う~ん。どうやら彼女には私が八意永琳だって、すぐに分かっちゃったみたいね」
「え?」
「永琳様を?」
そういえば、この子供は誰ですか?なんて、一言も聞かれなかった。
いや、でも一目見ただけでそこまで分かるだろうか?魂の選別をする、目の肥えた死神ならまだわかるが、あの門番がそこまで見破れるのかと疑問に思う。
「彼女の能力は、気を使う程度の能力。言葉だけ聞けばとても単純でありきたりに聞こえるわ。でもね?単純なら単純で、ありきたりならありきたりなほど、能力とは使いやすく、応用ができ、そして可能性も広がるのよ?」
「えっと…」
「多分だけど、彼女は人の気の流れも、感情も、色も、声も、それら全てを使おうと思えば使えるのよ」
それは、
「まあ、彼女はまだまだそこまで到れないみたいだけど、能力がそれなら、必ずと断言できるわ。辿りつけると。
まあ、未来の大妖怪候補なのかしら?」
くすくすと楽しげに笑う永琳様。だけど私は笑えない。なんか、さっきの門番が急に怖くなる。
気とは全身を巡る。全身どころか世界を巡っている。それを操りその声を聞き自分のものにできる。それは、世界を味方にしているのと同じだ。
「覚えておいて、能力とは、力が強ければ強いほどに使役が難しい。珍しくて強い能力をもっているから強いとは限らない。むしろ単純な力をもっているからこそ力を扱い成長できる」
扱えない力は邪魔なだけ。
永琳様はそう締めくくって、もう話す事ははないと、小さな授業を終わらせる。
何となく無言になって考え込んでしまう私と鈴仙は、ちょっと顔を見合わせる。
ある意味で、能力者なら誰だって必ず考えるだろう事だけど。それをこの人の口から言われると、どうにも考えてしまう。
その扱えきれない力が邪魔になっている、鈴仙は、どうなんだろう?
「鈴仙、あのさ――」
「あら、珍しいお客様ね」
尋ねかけた声が、どこか冷えたナイフを思わせる。そんな彼女の声にかき消された。
はっとして、私達は彼女を見る。
そこには…………
何も普段と変わらぬメイド長がいた。
「……………………あれ?」
別段、何処もおかしくなっていない
私と鈴仙は顔を見合わせる。つまり、彼女は飲んでいない?
微妙に期待していたので裏切られた気になるが、まあ、そこは喜ぶべき所だ。
でも何故だろう。永琳様の顔が笑顔のまま青くなっていく。どうやら何か思いついたらしい。
「……つかぬ事をお伺いするのだけど」
「?あら、何かしら」
「……この子から貰った栄養剤とか」
鈴仙を指さして、永琳様は訊く。
「ああ、あれ?私は別に疲れてないから……あげたわ」
「…っ」
永琳様は顔をそらして、自らの失態に落ち込んだように鈴仙の服を掴む。
鈴仙がこんな場合なのに、ぴくぴくと耳を動かして顔は思案げなのに嬉しそうだった。
「さっきの門の横に、紅茶とお菓子が置いてあったわよね」
「は、はい」
置いてあったらしい。
私はぼうっとしていて気づかなかったけど…
「……私、あの紅茶の本来ならありえなさげな色合いに、ちょっと心当たりがあるのだけど」
ぴっしっ。
私と鈴仙、そしてメイド長も固まった。いや、メイド長は訳がわかってないんだけど、ばれた?!みたいな驚愕の顔をしていた。
えっ?それ、え?どういう意味と聞きたくても、何か分かってきたんですけど、
つまりあれ?
このメイド長。栄養剤を紅茶に混ぜて、門番に渡した、とか?
「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇ??!!」
私がはっとした時には、外から門番の悲鳴が聞こえてきて……
はっとした顔の、どこかあせった顔のメイド長が消えた。時を止めて移動したんだろう……
「師匠」
「……ええ、ごめんなさい。別のことを考えていたとはいえ、うっかりしすぎだったわ」
「これで、被害者は四人目か…」
何だか、閻魔以外の巨乳率が高い気がした。
公式設定ではないですよね。
見た感じですかな。
さあて、めーりんはどうなってしまうのか。