Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ある意味 夢のお薬 (白玉楼編)

2007/07/17 21:51:52
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 赤ちゃん言葉の閻魔に解毒剤を渡した後、私達は自分達に出せるぎりぎりのスピードで一気に白玉楼を目指していた。
 何故にここまで慌てているのかというと、あの試作品の薬が閻魔の舌にだけ効く、という予想外の効能を持っていた事が判明してしまった為だ。
原因は不明だけど、どうやらただ幼児化するだけの薬でないと分かってしまっては、他のビンに入っている薬の安全性はかなり怪しくなってしまう
 つまり、閻魔という職業柄の抵抗力と、蓬莱の薬を飲んでいたが為に、四季映姫と八意永琳はこの程度で済んだという可能性がでてきてしまったのだ。
 もし、実はあれは他の人には毒だった、なんて事になっては洒落にならない。
 飲んだ後に解毒剤を渡す、ではなく。飲む前に回収する、というのが今私達にできるベストなのだ。



「……だから、こうしてここまですっとんできたんだけど……」
「えっと…」
「あらあら」

 鈴仙があの試作品の薬を渡してしまった一人、魂魄妖夢。
 半人半霊の半分幻の庭師。
 つまり半分は人である彼女がこれを飲んだらどうなるか?そこが不安で予測もつかなかったので、私達は全速力でここまできた。
 そして完全な人間の方。十六夜咲夜に至ってはあちらには魔女も吸血鬼もいるので、もし毒でも大事にはならないだろうと予測を付けて後回しにしたのだけど…

「……ごめん妖夢。白玉楼を後回しにするべきだったね」

 鈴仙が微妙に視線を浮かせながら、腕の中の永琳様を抱きなおす。
 そんな鈴仙から落ちないようにと、片手はしっかりと鈴仙の肩に置いている永琳様は、空いている方の小さな手を口元にあてて楽しそうに微笑んでいた。

「な、あ、いや。こ、これはその」
「あら~、いらっしゃい」

 そう、私達が息を切らせてまで白玉楼に到着し、庭に下りた瞬間一番最初に見てしまったモノ。それはこの美しい庭ではなく、


 魂魄妖夢が真っ赤な顔で、ふわふわの髪の、砂糖菓子みたいな半裸の幼女を押し倒している光景だった。


 わお、衝撃的。

「ちょっ?!て、てゐさん何で無言でスペルカード取り出してるんですかっ?!」
「いや、ここまで全力疾走で駆けつけて来たっていうのに、あんたは幼女を連れ込んでうはうはしてるってのがむかついて」

 素直な気持ちをぶつけてみようと思うの。
 だが、妖夢は顔を青くして両手をばたばたと上下に振り往生際が悪かった。

「よ、幼女って、いや、確かに今はそうですけど、この方は幽々子様ですよ?!私がそんな不遜な事するわけがないじゃないですか!」
「……ああ、つまりその幼女を愛しのお姫様に重ねて自分の欲望の捌け口にしようと……………下種が」
「何でそうなるんですかぁぁぁぁ?!」
「鈴仙。こいつはもう駄目よ。今の内に潰しておかないと」
「で、でも」
「迷ってる暇はないよ!あの女の子があの庭師に手篭めにされる前に助けないと」
「……う、うん」
「って鈴仙さん?!」
「妖夢、私ね、貴方と友達で、本当に嬉しかった……」
「だから誤解ですってばぁぁぁぁぁ!!」

 堪えきれない涙を瞳に滲ませる鈴仙に、庭師は泣きながら絶叫するのだった。







「ひっく……酷いです鈴仙さん」
「ご、ごめんなさい。いや、ほら、だってあの女の子が幽々子さんにすっごく似てたから魔がさしたのかな~って」
「だから、最初からあの方は幽々子様だって言ったじゃないですか~!」
「うぅ。だ、だって押し倒してたんだもの!」
「うぐ。そ、それは、だから幽々子様に見惚れて、じゃなくて足元が疎かになってそれで、そのまま…」

 どうやら本当に誤解だったらしく、庭師は鈴仙に縁側で慰めらていた。
 
「……うーん。どこかよからぬ気配を感じたのになぁ」
「てゐったら、まだ言ってるの?」
「そぉよ。妖夢にそんな度胸はないわよ~」

 ぺたぺたと聴診器を幽霊のお姫様のぺったんこな胸に当てている永琳様。

「……」

 あれだ。
 何だか子供同士のちょっと本格的なお医者様ごっこみたい。

「それで、幽々子様があの栄養剤を服用したんですね?」
「ええ、おいしそうだったからつい~」
「あら、まさか霊体にも効くだなんてね~、さすが私だわ」

 にこにこと笑いあう二人の頭文字に美がつく幼女が二人。片方は上半身をはだけさせて、片方は不釣合いに大きな聴診器を小さな手で握っている。
 な、なんて暴力的な光景なんだろう……。

「ねぇ、鈴仙。あの二人って本当に絵になるよね………って」

 振り返って鈴仙に話しかけると、既に鈴仙と庭師は、その光景に釘付けで魅了されているようだった。

「し、師匠。あんなちっちゃな手で頑張ってる………くぅ」
「幽々子様………なんてお可愛らしい」

 ……おい、あんたらとりあえずその鼻から出てる不愉快な赤い液体を拭え。抑えてる手から零れて畳に血の染みをつくってるから。仮にも美が頭文字につく少女でしょう?

「それで、何か体が小さくなった以外におかしな症状はありませんか?」
「そ~ねぇ」
「どんな些細な事でもかまいません。おっしゃって下さい」
「そう?それじゃあね」

 お姫様はちょっと照れた様に笑うと、はにかむように庭師を見つめた。

「?」
「あのね、妖夢」
「はい」

 首を傾げながらも、お姫様の所に駆け寄る庭師。

「あのね?………ぎゅってして?」

 ぶはっ。

 庭師は効果的な攻撃を受けた。だが、それでも鼻血の飛沫がお姫様にかからないようにと咄嗟に身を反らしたのは立派だった。

「あら、それはどうして?」

 永琳様は目の前の光景を全く気にもせず、医者の顔でお姫様に尋ねている。
 鈴仙は「し、しっかりして妖夢、傷は浅いわよ!」と庭師の首筋をとんとんしていた。
 確かに体の傷は浅いだろうが、心の傷は甚大そうだ。

「あのねぇ。何だか、小さくなってからどうも人恋しいというか、ぬくもりが欲しいというか…」

 う~んと首をかしげて、幽霊のお姫様は小さな両手でぺたぺたと自分の体を触る。

「……少しだけ、寒くて寂しいわね」
「そうですか」

 永琳様は、そう言って、どこかほっとしたように微笑むと、大きな聴診器をどこぞにしまい、鈴仙に「抱っこして?」とばかりに両腕を差し出した。
 その幼女パワーを惜しみなく振るった動作に、鈴仙も「ぶはっ!」と出血しながらも、ふらふらと両手を差し出す。
 ……貴方達幼女に鼻血だしすぎ。

「診断結果ですが、幽々子様の症状は、ちょっとした精神不安定だけで済んだようです」
「あら~それは良かったわ」
「は、はひ。安心しました」

 息も絶え絶えな庭師にぎゅう~と抱きしめられて、ほんにゃりと頬を緩ませるお姫様。
 やっぱり幽霊だからか、本当にそれだけのようだった。

「……正直、貴方の方が飲んでいたらどうなっていたかと、不安だったわ」
「あ…はい」
「本当にごめんなさいね。解毒剤はこちらに置いておくから、できれば食後にでも飲んで頂戴」
「はい」

 正座した膝の上にお姫様を座らせながら、妖夢は生真面目に頷いた。
 それに永琳様は満足げに微笑んで、鈴仙に合図を送る。

「それじゃあねまたね、妖夢」
「はい、鈴仙さん」
「本当に幼女連れ込んじゃ駄目だからねー」
「……てゐさん。貴方とは個人的で本格的な話し合いをした方がいいようですね」

 舞い上がる私達に手を振るお姫様に背をむけて、私達は紅魔館に向けて飛びたつ。

 その時背後で

「ねー妖夢。あのね、おでこにちゅってして?」

 がふっ。

 という会話が聞こえた様な気がしたが、それを私達は慈愛に満ちた心で聞かなかった事にした。

この日、小さな幽々子様は妖夢の傍を片時も離れようとしなかった。

妖夢の理性とか道徳とか血液とかがかなり危険に満ちた一日だったようです。





誤字の報告ありがとうございます。感想もありがとうございます。
とても癒されます。
夏星
コメント



1.ライス削除
学校サボってこんなところにいるわたしは一体だれなんだ。

面白かったです。
吹いただけじゃなく、笑い声も出ました。
2.名無し妖怪削除
妖夢の傍らを片時も離れようとしない幽々子様を想像したら鼻血が出そうです。最後の行の自愛は慈愛では? 
3.名無し妖怪削除
ゆゆ様かわいいよゆゆ様。萌え死にそうです。
4.名無し妖怪削除
美少女たちダメージ受けすぎだw
5.名前が無い程度の能力削除
素晴らしい