昔、昔のそのまた昔。
山に囲まれた鄙びた場所に、小さな村がありました。
小さな村の子供たち、遊びが何もありません。
小さな村のお爺さん、そんな子供たちに話します。
色んな色んなお話を、滔々と話します。
小さな村の子供たち、楽しくそれを聞きますが、
一つ疑問がありました。
「お爺さん、お爺さん。
お爺さんの話には、出てくる妖怪、人食う悪い奴ばかり。
いい妖怪はいないのかな?」
お爺さんは答えます。
「それはそうだよ、子供たち。
妖怪は皆、人を食う。悪い奴だから妖怪なのさ」
そう、それは当たり前のこと。
でも、子供たちにはつまらない。
その当たり前がつまらない。
いい妖怪がいないなら、僕たちでそれを考えよう。
その妖怪は、人が好き。
力は強くて長生きだけど、人が好きだから人を食わない。
なんでその妖怪は人が好き?
それはその妖怪が、優しい、お母さんみたいな妖怪だから。
だから人を優しく見守って、他の妖怪から守ってくれる。
小さな村の子供たち、遊びは何もなかったけれど。
小さな村の子供たち、妖怪を作って楽しみました。
それから何年も経った頃、村に一人の女性が現れました。
背は高く、気だては良くて、力持ち。
昔は村にいなかったはずなのに、何故だか誰も気にしません。
いつから村にいるようになったか、何故だが誰も知りません。
子供たちは大人になって、子供の頃を忘れました。
子供の頃に作り上げた、優しい妖怪の物語を忘れました。
だから子供たちは気付きません。
その女性が、優しい妖怪にそっくりなことに気付きません。
ある年、川が氾濫しました。
「堤防を作りましょう。川の流れを制御して、
もう畑が水浸しにならないようにしましょう」
女性の声に半信半疑の村人たち。
それでも女性が働くから、男たちはだまって見てはいられません。
やがて出来た堤防は、何度大雨が来ても畑を守ってくれました。
ある年、狼の群れが現れました。
「私が行きましょう。行って、獣を退治しましょう」
女性の声に慌てて止める村人たち。
危険なことは男たちの仕事です。
でも女性は聞きません。それどころか、こんなことを言いました。
「それでは、私と勝負をしましょう。誰かが私に勝てれば諦めましょう」
男たちは、次々女性に打ち掛かります。
でも、誰一人、女性に勝つことはできません。
最後の一人が倒れると、女性はすぐに森へと向かって行きました。
やがて帰ってきた女性の手には、狼の皮がありました。
女性はにっこり笑ってこういいます。
「もう大丈夫。狼に襲われることはありません」
それから長い時が経ちました。
あの時の子供たちも、その孫も、そのまた孫も。
みんなお墓に入りました。
でも、あの女性は村にいます。
現れた時のままの姿で村にいます。
小さな村では、誰もが彼女を知っています。
でも、誰も彼女を不思議に思いません。
山に囲まれた鄙びた場所の、時の止まった小さな村。
でも外では時流れ、村も鄙びた場所ではなくなりました。
外からやってきた人は、女性を見て怪しみます。
「いつまでも年を取らないとはあの女、
さては化生に違いない」
やってきたのは道士様。妖怪退治と張り切ります。
村の人は庇います。村の仲間だと庇います。
でも、なぜ年を取らないのか分かりません。
いつからいたのかも分かりません。
それでも村人は女性を庇います。
だって女性はいつも村の為、一生懸命頑張ってくれたのです。
どうして見捨てられましょう。
争う道士様と村人たち。
その様子を見た女性、悲しそうに笑います。
そしてみんなに言いました。
「私がいるから争うならば、私は姿を消しましょう。
お世話になった人たちに、ご迷惑はかけられませんから」
村人が止める暇もなく、女性は姿を消しました。
村人はとても悲しんだけれど、女性は二度と姿を見せませんでした。
それからその女性はどうしたのでしょう?
その女性は、その妖怪は。
とっても人が好きでした。
だから、人の為になにかがしたかった。
いつまでも年を取らないから、一つところにはおれません。
でもその妖怪は、人のいないところに行く気にもなれませんでした。
だからその妖怪は、世界中を歩きました。
困ってる人に手を差し伸べては、また違うところへ行きました。
ずっと一緒にいられないのは残念だったけど。
「ありがとう」の一言で。
妖怪は、とても嬉しくなったのでした。
そうして世界中を歩き回り、とうとう行くところがなくなりました。
もうこの世界に居れないことを、その妖怪は悟りました。
だから、妖怪は目指しました。
「幻想郷」を。
人と妖怪が一緒に居られる最後の場所を。
妖怪は幻想郷に行く前に、一つだけ願をかけました。
「今まで、私はたくさんの人の為、少しの間手を貸しました。
願わくば次は、ただ一人の人間の為、その人の生涯の間手を貸せますよう」
辿り着いた幻想郷、彼女の前には紅いお嬢様。
「貴女の願いを叶えたいなら、私に運命を委ねなさい」
妖怪は悩み抜いた末、お嬢様の手を取りました。
いつか運命が自分の前に現れる。その時まで待つことを決めました。
人と離れることは寂しかったけれど。
ここには自分より相応しい人の護り手が、紅白の巫女がおりましたから。
そうして紅い館に居着いた妖怪。
また長い時が流れ。
お嬢様は、「運命」を彼女の元に連れてきました。
それは、銀の髪の女の子。
小さな、愛らしい女の子。
「この子の面倒は、貴女が見なさい」
そう、お嬢様は言いました。
妖怪は思いました。
きっと、この子と逢うために。
ずっと、この子の助けとなるために。
私は、生まれて来たのだろうと。
怯えたような、強ばった顔の女の子。
その心を解すように、妖怪はそっと手を取ります。
優しい笑顔で、穏やかな声で話します。
「私の名前は紅美鈴。お嬢さん、貴女のお名前は?」
山に囲まれた鄙びた場所に、小さな村がありました。
小さな村の子供たち、遊びが何もありません。
小さな村のお爺さん、そんな子供たちに話します。
色んな色んなお話を、滔々と話します。
小さな村の子供たち、楽しくそれを聞きますが、
一つ疑問がありました。
「お爺さん、お爺さん。
お爺さんの話には、出てくる妖怪、人食う悪い奴ばかり。
いい妖怪はいないのかな?」
お爺さんは答えます。
「それはそうだよ、子供たち。
妖怪は皆、人を食う。悪い奴だから妖怪なのさ」
そう、それは当たり前のこと。
でも、子供たちにはつまらない。
その当たり前がつまらない。
いい妖怪がいないなら、僕たちでそれを考えよう。
その妖怪は、人が好き。
力は強くて長生きだけど、人が好きだから人を食わない。
なんでその妖怪は人が好き?
それはその妖怪が、優しい、お母さんみたいな妖怪だから。
だから人を優しく見守って、他の妖怪から守ってくれる。
小さな村の子供たち、遊びは何もなかったけれど。
小さな村の子供たち、妖怪を作って楽しみました。
それから何年も経った頃、村に一人の女性が現れました。
背は高く、気だては良くて、力持ち。
昔は村にいなかったはずなのに、何故だか誰も気にしません。
いつから村にいるようになったか、何故だが誰も知りません。
子供たちは大人になって、子供の頃を忘れました。
子供の頃に作り上げた、優しい妖怪の物語を忘れました。
だから子供たちは気付きません。
その女性が、優しい妖怪にそっくりなことに気付きません。
ある年、川が氾濫しました。
「堤防を作りましょう。川の流れを制御して、
もう畑が水浸しにならないようにしましょう」
女性の声に半信半疑の村人たち。
それでも女性が働くから、男たちはだまって見てはいられません。
やがて出来た堤防は、何度大雨が来ても畑を守ってくれました。
ある年、狼の群れが現れました。
「私が行きましょう。行って、獣を退治しましょう」
女性の声に慌てて止める村人たち。
危険なことは男たちの仕事です。
でも女性は聞きません。それどころか、こんなことを言いました。
「それでは、私と勝負をしましょう。誰かが私に勝てれば諦めましょう」
男たちは、次々女性に打ち掛かります。
でも、誰一人、女性に勝つことはできません。
最後の一人が倒れると、女性はすぐに森へと向かって行きました。
やがて帰ってきた女性の手には、狼の皮がありました。
女性はにっこり笑ってこういいます。
「もう大丈夫。狼に襲われることはありません」
それから長い時が経ちました。
あの時の子供たちも、その孫も、そのまた孫も。
みんなお墓に入りました。
でも、あの女性は村にいます。
現れた時のままの姿で村にいます。
小さな村では、誰もが彼女を知っています。
でも、誰も彼女を不思議に思いません。
山に囲まれた鄙びた場所の、時の止まった小さな村。
でも外では時流れ、村も鄙びた場所ではなくなりました。
外からやってきた人は、女性を見て怪しみます。
「いつまでも年を取らないとはあの女、
さては化生に違いない」
やってきたのは道士様。妖怪退治と張り切ります。
村の人は庇います。村の仲間だと庇います。
でも、なぜ年を取らないのか分かりません。
いつからいたのかも分かりません。
それでも村人は女性を庇います。
だって女性はいつも村の為、一生懸命頑張ってくれたのです。
どうして見捨てられましょう。
争う道士様と村人たち。
その様子を見た女性、悲しそうに笑います。
そしてみんなに言いました。
「私がいるから争うならば、私は姿を消しましょう。
お世話になった人たちに、ご迷惑はかけられませんから」
村人が止める暇もなく、女性は姿を消しました。
村人はとても悲しんだけれど、女性は二度と姿を見せませんでした。
それからその女性はどうしたのでしょう?
その女性は、その妖怪は。
とっても人が好きでした。
だから、人の為になにかがしたかった。
いつまでも年を取らないから、一つところにはおれません。
でもその妖怪は、人のいないところに行く気にもなれませんでした。
だからその妖怪は、世界中を歩きました。
困ってる人に手を差し伸べては、また違うところへ行きました。
ずっと一緒にいられないのは残念だったけど。
「ありがとう」の一言で。
妖怪は、とても嬉しくなったのでした。
そうして世界中を歩き回り、とうとう行くところがなくなりました。
もうこの世界に居れないことを、その妖怪は悟りました。
だから、妖怪は目指しました。
「幻想郷」を。
人と妖怪が一緒に居られる最後の場所を。
妖怪は幻想郷に行く前に、一つだけ願をかけました。
「今まで、私はたくさんの人の為、少しの間手を貸しました。
願わくば次は、ただ一人の人間の為、その人の生涯の間手を貸せますよう」
辿り着いた幻想郷、彼女の前には紅いお嬢様。
「貴女の願いを叶えたいなら、私に運命を委ねなさい」
妖怪は悩み抜いた末、お嬢様の手を取りました。
いつか運命が自分の前に現れる。その時まで待つことを決めました。
人と離れることは寂しかったけれど。
ここには自分より相応しい人の護り手が、紅白の巫女がおりましたから。
そうして紅い館に居着いた妖怪。
また長い時が流れ。
お嬢様は、「運命」を彼女の元に連れてきました。
それは、銀の髪の女の子。
小さな、愛らしい女の子。
「この子の面倒は、貴女が見なさい」
そう、お嬢様は言いました。
妖怪は思いました。
きっと、この子と逢うために。
ずっと、この子の助けとなるために。
私は、生まれて来たのだろうと。
怯えたような、強ばった顔の女の子。
その心を解すように、妖怪はそっと手を取ります。
優しい笑顔で、穏やかな声で話します。
「私の名前は紅美鈴。お嬢さん、貴女のお名前は?」
しかしその反面人を守るためならいくらでも強くなれる
と勝手に妄想してみた
しかし、めーりんの人気は大変なものですね。
なぜだろう……公式設定ではとるにたらない妖怪だとか、
そんな感じのことが書かれていたかと思いましたが。
三回に二回はめーりんの小説を読んでいるような気がする。
それはともかく、優しい雰囲気の物語でした。
とことん優しくて素敵なお話でした。お見事です。
語られない後の美鈴と咲夜との関係も想像できて、実に広がりがあります。
素晴らしかったです。感謝。
てっきり紫かと思ってました
こういった過去もありですね
慧音は半獣であって妖怪ではないという認識が強いからかな
とても綺麗なお話で素晴らしかったです
素敵な作品をありがとう
心が洗われましたw
人間の味方的な誕生秘話を持つ妖怪ってもっといてもいいと思うけど何故かいないんだよなあ
リズム感良かったっす