紅魔館の庭の隅にひっそりと立つ物置小屋。ココこそが、知る人ぞ知る、知らない人は一生知らない、紅美鈴のお悩み相談室の会場だった。
一回、百円。十回で千円。
ただし、美鈴が暇な時か、サボれる時に限る。
今日も今日とて、微妙に悩んでる連中が訪れるのだ。まあ、そうさ。本当に悩んでいる人がいたら、こんな所に相談なんてこない。
ちょっとした自己矛盾を抱えながらも、美鈴は悩める人の相談を聞くのでありました。
一人目:アリス・マーガトロイドの場合
「あの、ここで悩みを聞いてくれるって教えて貰ったんですけど……」
おずおずと俯きがちに、美鈴の方を見るアリス。当SSではプライバシー保護の観点に基づき、一部音声は変えてありますのであしからず。
「ええまあ。一回百円でどんな悩みも相談できます。とりあえず、名前は?」
冒頭で思い切り名前が書いてあるものの、そこはやはりプライバシー。所々にピー音が入りますが、そこはご容赦いただきたい。
「アリス・マーガトロイドです。シティ派マジカルガールやってます」
「私は〔ピーーーーーーー〕です。って、うおい! なんで私の方にピー音が入ってくるんですか!」
虚空に向かって叫ぶ美鈴を、訝しげな目で見るアリス。この妖怪こそ、相談するべきではないのか。精神科医に。とか思いつつ。
「こほん、それで悩みというのは?」
無理矢理に咳をしてみて、場の空気を変える美鈴。慌てて、アリスも悩みを話し始めた。
「実はこう見えても夜になると神社でワラ人形に五寸釘を打ってるんですけど、どうも魔理沙にだけ呪いの効きが甘くって」
「はあはあ、なるほど。ごっすんごっすん五寸釘」
「いえ、五寸釘です。それで、ひょっとしたら私の釘打ちが下手なんじゃないかと思って」
釘を打つスキルと、呪いの効果に関連性があるなんて聞いたこともなかった。おそらくは別の要因があるのだろうけど、指摘すればアリスはその要因を聞くだろう。そこまで考えるのはさすがに面倒だった。
紅美鈴のお悩み相談室。聞くだけなら全力です。
「紅魔館の門番は、手先だけは器用だって聞いて。それで、何かアドバイスを貰えたらなと思って来ました」
美鈴としては、大工にでも聞けよと思うのだが、一端の相談員としてはちゃんと答えるしかあるまい。
悩める魔法使いを無碍に帰したとあっては、相談室の評判も下がるというものだ。
美鈴は真面目な顔で言った。
「大工にでも聞いてください」
アリスは怒って帰りましたとさ。
正直者って損だよね。
二人目:博麗霊夢の場合
「溺れる者は藁をも掴む。そんな気持ちで来てみたんだけど、本当に悩みを解決してくれるんでしょうね?」
「解決はしませんよ。私は聞くだけ。解決はセルフサービスです」
「それで百円? 高いわよね」
これでもかなりリーズナブルにしたつもりだが、巫女は何やら気に入らないご様子。
そこまで言われては、メイド長の胸より小さいプライドにも火がつくというもの。
「わかりました。今回に限り、特別に悩みを解決してあげることにしましょう」
などと豪語した。
「本当? だったら助かるわ。結構、困ってたのよね」
「じゃあ一応、名前と職業を聞かせてもらえますか」
何度も書くようですけど、最近は個人情報保護法というものも成立しちゃいました。個人情報の公開に関しましては色々と問題もありますし、一部にピー音が入る可能性がございます。
ご容赦ください。
「博麗霊夢。神社で巫女やってます」
「紅美鈴。紅魔館で〔ピーーー〕やってます。って、なんか犯罪の臭い! どこ隠してるんですか!」
再び虚空に叫ぶ紅美鈴。本日二度目。さすがに喉が枯れてきた。
そんな美鈴を可愛そうな目で見る霊夢。相談というか、入院が必要だな。なんて思いながら。
「えっと、それで肝心の悩みっていうのは?」
「最後に確認しておくけど、あなたが私の悩みを解決してくれるのよね?」
自慢の胸を任せとけ、と叩く。揺れに揺れる乳。霊夢の軽い舌打ちが聞こえる。
「ええ、勿論ですとも」
だったらと霊夢は小屋の外へと出ていき、賽銭箱を片手に戻ってきた。
「最近、お賽銭の入りが少ないのよね。というか皆無。だから、募金してちょうだい。有り体に言えば、金よこせ」
相談料、百円。
お賽銭、二千五百円。
財布が軽くなりました。
三人目:十六夜咲夜の場合
「あら、私の知ってる紅美鈴という門番は今が仕事中のはずだけど?」
脱兎。
捕獲。
折檻。
「まあ、いいわ。ついでだから、私の悩みも聞いてもらえるかしら。ああ、サボり癖のある部下がいて困っている以外の」
服と体中をボロボロして、泣きながら美鈴は頷いた。頷かざるを得なかった。
辛いぜ、格下。
「じゃあ、一応名前と職業を」
「十六夜咲夜。紅魔館でメイドをやっているわ」
最近は色々と規制が厳しいので、当SSではプライバシーに関わることと紅美鈴の発言にはピー音が重なる場合があります。
ご理解ください。
「紅美鈴。紅魔館で門番やってますって……なんで私の発言に〔ピーーーーーーー〕」
虚空に向かって叫ぶ美鈴。もはや三回目。観客がいたなら、そろそろ飽きる。
呆れたような目で、咲夜は美鈴を見ていた。
「何と会話してるのよ、あなた」
「〔ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー〕」
「へえ、良い度胸してるじゃない。そんな大声でお嬢様の悪口を叫ぶだなんて」
美鈴は涙混じりに首を振った。左へ、右へ。
「〔ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー〕」
「あまつさえ、それでも愛してるですって? 馬鹿なこと言わないで、心の底からお嬢様を愛してるのは私だけよ!」
ナイフを取り出す咲夜。
話にならんと、美鈴は逃げ出した。
美鈴は捕まった。
悲鳴さえもピー音によってかき消されましたとさ。
人形を粗末に使うんでない。
と、いちおう突っ込んでおきます。
悲鳴さえピー音でかき消されたというところが良いです。
二人目:霊夢酷い……
三人目:めーりん不憫……
正直、ビリーよりキツイぜ!www