銀色の長い髪と白い肌。
大きな瞳にふっくらしたほんのりピンク色の頬。
着ている服は、いつ薬の効果が蓬莱の薬に殺されるか分からないので、白くて大きなワイシャツと膝下まであるワイシャツで見えないけど黒の半ズボン。
ちょっと、いやかなり、今の永琳様には勿体無い野暮ったすぎる服装だった。
もっと可愛くてリボンが一杯の服を着せてあげたいとか、無条件で思えてしまう今の容姿でその格好は本当に勿体無い。
私のワンピース貸したげるのに……
まぁ、いきなり薬の効果が切れて、あの迫力満点の裸体が登場したらそれはそれで大変だけど。
だけど、それだと元に戻ってもあのワイシャツと半ズボンと言う、ちょっとギリギリな感じになるんだし、やっぱりワンピースでもいいんじゃ……
「ねぇ、ウドンゲ。てゐの私を見る目がおかしいのだけど」
「……し、師匠が、師匠が私の、う、腕の中に」
「ウドンゲ?」
「神様仏様閻魔様ありがとうございますっ……!」
「駄目ね。聞いてないわ」
感涙の涙をほとほとと落とす鈴仙と、鈴仙の腕に抱かれている永琳様。
どうやら小さくなったら力がかなり制限されてしまい、空を飛ぶのも少し疲れるらしい。
なので、今は鈴仙にお姫様抱っこで優雅な空の旅をしている。
小さくなったお下げがピコピコ揺れて後ろから掴みたくなるので危険だった。あと鈴仙の背中を蹴り飛ばしたくて抑えるのが苦痛だった。
「……くそ、にやけやがって」
「てゐ、口調が乱暴になってるわよ」
やんわりと注意して、永琳様は鈴仙のブレザーを掴んでいた手を外して、そのままその首にすがり付くように抱きついた。
ぎゅうって、
「――――――――――??!!」
鈴仙、永琳様の柔らかな身体に撃沈。赤い飛沫が鼻から飛び出した。
「って永琳様?!」
いきなり何してやがるそこのクソガキ!いや、永琳さまか…じゃなくて!よくも私の目の前でそんな事ができますねあんた。
「ほらほら、いつまでも浮かれてないで避けなさい。来るわよ」
「なにを言って―――」
その瞬間。問答無用な不意打ちで、弾幕がごうんっと鈍い音を立てて私達の間を通過していった。
「おっわ」
「危ない!」
慌てて回避行動をとる私達を、嘲笑うかのように次々と展開される弾幕の嵐。
「な、何すんのよあんたいきなり!」
紙一重で避ける私と鈴仙様。私はまだいいけど、鈴仙様の腕には今は弱体化している永琳様がいる。
このまま弾幕戦なんて事には、間違ってもなられては困る。
「そ、そうです。一体どうしたんですか!?」
鈴仙もそう思ったのか、彼女は弾幕ではなく言葉を、私達を攻撃してきた弾幕を操る主に向けた。
そこにいたのは、大きな鎌をこちらに向けて構える、一人の死神。
三途の川の水先案内人、小野塚小町。
宴会でよく会うし、その大味な性格と酒豪っぷりが目につく赤い髪の死神。それがこちらをいきなり攻撃してきたのだ。噂ではかなりの怠け者で、あのちびっこい閻魔にいつも説教されているとか。
「どうしたって、それはこっちの台詞だよ!」
「な、何言ってんのよあんた」
だけど怠け者どころか、死神は敵意満点な視線をこちらに向けて、すぐにも弾幕を発射しかねない勢いを纏っていた。
「な、意味が分かりませんよ!説明してください!」
「とぼける気かい?!あんたが早朝に届けにきたこの栄養剤!」
「……あ。」
死神がぐいっと伸ばした手の先。物凄く見覚えのある栄養剤のビンが握られていた。
そしてよーく見ると、死神の背中には閻魔様がむすっとした顔でくっついていた。
「……」
やばっ。本格的に忘れてたけど、というかほっといたけど、この人達も被害者だった。
「あれ、でもその割には、閻魔様べつに普段と変わってませんよ?」
「う、うん」
「………」
あれ?と鈴仙と二人首を傾げる。もしかしてあの薬の効果で、小さくなったのかと思ったのだが違うらしい。しきりに首を傾げてしまう。
だけど、永琳様は鈴仙の首に抱きついたまま、ふむっと頬に手を当てると、どうやら何か思い至ったらしく、にっこりと穏やかに言葉を発した。
「ねぇ、閻魔様。少しお話しませんか?」
「……?!」
ぎっく、と閻魔の身体が揺れたのを、私達は見た。
は?説教好きという閻魔が、お話しましょうと誘われてぎくりとする理由なんてあるのか?
よく見ると、死神の方もおかしな顔をして固まっていた。
そして、死神は「ううっ…」と呻いた後「む、無理して話すことないんですからね四季様!」と何故か背中にはりついた閻魔に言う。
怪しすぎた。
「ちょっと、どういう事よ?」
「う、うっさいよ。大体、そこのガキも余計なことを言うんじゃ、な………って、あれ?」
そこで、死神は永琳様の顔をじっと見つめて、首を傾げ、それから唸って頭を抱える。
「………え?つまり、そういう事なのかい?」
死神はなにが言いたいのか、微妙な引きつり笑いを顔に張り付かせて、人差し指を永琳様に向ける。
「今回のって、あんたが企んだ事じゃなかったって事かい?八意永琳」
「ええ、分かってくれて嬉しいわ。一応解毒剤も持ってるのよ」
にっこりと笑う永琳様に、死神は何とも言えない顔で硬直してしまった。
「…へぇ」
驚いた。どうやらあの死神、このちっこい幼女が永琳様だと当たりをつけると、その数秒の間に何が起こったのか大体把握したらしい。実は頭いいのかこいつ?
ぺちんっ
「きゃん」
「もう、だから貴方はしゅこし慌てしゅぎりゅ!きちんとはにゃしを聞くべきだと私は言ったはじゅでしゅよ!」
「す、すいません四季様」
「…………………………………………」
私、鈴仙、永琳様、思わず沈黙。
え?今あの閻魔……
「か、隠していても、しょうがにゃいでしょう。ええ、今の私は、その、しゅこし舌が足りにゃいのです」
あ、無理。
「ぷ…」
「……くっ」
「あらあら」
「あっはははははははははは!!あ、赤ちゃん言葉~?!」
「く…くふ。そ、そっか、薬の効果が、し、舌に、いっちゃったんです、ね……くはっ」
「それは災難だったわね~、ふふ」
もう遠慮なく笑う私と、必死で抑えようとして抑えられてない鈴仙。永琳様も珍しく本気で楽しそうに肩を揺らしていた。
「こ、こら!四季様を笑うなー!」
「ひ、人のしぃんたいてきとくちょぉでわりゃうなんて、しゃいていな事なんれすよ?!は、はんせぇしなさい!」
慌ててるからか、更に言えなくなってる~
もう空の上で大爆笑中の私達に、閻魔もとうとうぶるぶると震えて、死神の首に永琳様みたいに両手で抱きついて顔を隠してしまった。
「う、うわ~ん。こ、こまち~!」
「ああ、大丈夫ですって四季様。ほらあいつら解毒剤持ってますから、ね?」
「りゃって、えんましゃまなのに~」
「ちょ、こ、これ以上はあたいの理性とかがやばいっていうか、ああぁぁ、そんな必死にしがみ付かないで、いろいろと我慢の限界が?!」
「こ、こんなじょぅしじゃ、やっぱりこまちも嫌でしゅか?」
「な、なに言ってるんですか!むしろどんとこいって感じですよ!」
死神は、いったん背中の閻魔を引き離してから、くるりと身体を閻魔に向けて、その小さな身体を少し痛いぐらいに抱きしめる。
「あたいの上司は四季様だけですよ!」
「…こまち」
「だって、あたいは四季様が……」
「?小町」
何だか凄く居心地悪い二人だけの世界みたいなのが形成されていた。
既に笑いの渦から抜け出した私達としては、いつ解毒剤を渡せばいいのか悩む場面である。
「まぁ、解毒剤は特殊風船にくくりつけてここに浮かべとけばいいでしょう」
「そうですね」
「……いや、何でそんなの持ってんですか永琳様」
「薬師の嗜みよ」
「…………」
あー、まあいいか、うん。
「それじゃあ、出端をおもいっきり挫かれてしまいましたけど、白玉楼に行きましょうか」
「はい、師匠」
「おー」
そうして私達は、ぷかぷか浮かぶ風船をそこに放して、ピンク色の空間を作り出す二人に背を向けたのだった。
>出鼻
これでもいいですが意味を考えれば出端の方が尚良いかと。
舌足らずな四季様、小さい永琳様どちらもかわいい。