これは下の方にある『積極的だけど不器用』と『薄めのお酒』と同じ設定になってます。
いきなりだけど、永琳様が幼女になりました。
あの紅い吸血鬼と同じぐらいだといえば分かりやすいでしょうか?
「………………………………」
いや、原因は私なんだけどね……
「えっと……」
反省した。
今までそれはもういろいろな悪戯をしてきた私も、これには流石に猛省した。
というか、命の危機すら感じる。
流石にまだ試作品っぽい薬品を、栄養剤用のビンに入れたのは洒落にならなかった。
いや、どうせ飲むのは鈴仙とか永琳様だから大事にはならないだろうって、そういった打算もあったんだけど……
「し、し、し、師匠……」
「……」
…まさかこんな事になるとは
私、因幡てゐは頬を引きつらせて目の前の現実を直視する。
そこには、信じられないといった顔で、自分の幼くなった両手を見つめる月の頭脳。
「そ、そんな…」
彼女の、初めて聞くだろう焦った様な声に、私はどんどん居た堪れなくなって追い詰められる。
「あ、あう」
「てゐ!今回のは流石に許さないわよ!」
「ご、ごめんなさい~」
「こら逃げるな!」
慌てて踵を返した私を両腕で捕らえて、鈴仙はぎゅうっと力を込めて拘束する。
「ちょっ?!」
「さあ!覚悟しなさいよ!」
ああっ!こんな状況なのに抱きしめられて嬉しいなとか思えてしまう自分が少しだけ好き!
いや、違う落ち着け因幡てゐ!ここでその感触に負けたらそれで人生終わるから、比喩表現じゃなく。
だ、だけど背中にあたるこの柔らかい感触が私の抵抗力を奪っていくしっ!やばい、このままだと私ってば問答無用で―――
「てゐ!」
「ひゃいっ?!」
永琳様のきりっとした凛々しい表情と声に、私どころか鈴仙もびくっと跳ねる。
今の永琳様は、ふっくらとした頬とか大きな目とか、それはもう利発そうな可愛い幼児なのに、その威圧感は健在だった。
「これは、どういう事なのかしら?」
「ご、ごごごごめんなさいっ!あ、あの、あそこにあった試作品っぽいのを、栄養剤のビンに入れちゃって…………後五本ほど」
「って、五本って、もしかし今日配ったあれ?!」
「えっ?!く、配ったって、あれって商品だったの?!」
「お、お試し品として私が疲れてそうな人に配ってきたのよ!アンケートを後日貰うって約束で!」
「うそー?!」
やっばい。何か大事になってきた予感がする。
しかも、完璧に私が原因という最悪な形で…
流石に多少の悪戯には目を瞑ってくれる永琳様も、これは見逃してくれないだろうと青くなる。
「……そう、ウドンゲ。誰に配ったの?」
だが、永琳様は落ち着いた声音で、顎に指を添えて鈴仙を見上げる。
どうやら今は、私へのおしおきよりも被害を抑える方が先決だと判断したらしい。自分が最初の被害者だというのに驚くほどに冷静だった。
だぼだぼな服越しに頬に手をあててる姿はえらいプリティーだけど。やはり天才って凄い。
あ、鈴仙が鼻を押さえて視線逸らした……。
「……ふぐっ。こ、効果を確かめるために、半端なく疲れてそうな人達を厳選して、妖夢と、閻魔様と、咲夜さんと、藍さんと………………慧音さんに」
最後だけ微妙な声音でそう言う鈴仙。
「え?慧音、さんにも配ったの鈴仙」
「……そりゃあね。あの人が疲れてないはずないもの」
「へー…」
私としては、恋敵である慧音にまで栄養剤を配ったという、鈴仙のその分け隔てない、だからこそ不憫なその性格に、ちょっと同情した。
ここで慧音に渡すという選択をしなければ良かったのに……
私的にはかなりチャンスなのだが、やはり罪悪感が胸を刺す。
いや。
どういう意味かというとね……
「…………よっしゃ!」
今は天使の様な幼女の永琳様が、鈴仙様が「慧音さん」と言った途端に小さくガッツポーズをしているのを目撃してしまったって事なんですよ……
だけど鈴仙様は気づけなかった。視線を外していたから、決定的なものを……
「そう。なら、急いで回収しないといけないわね。解毒剤を持って」
「はい!師匠!」
天使の微笑を浮かべる永琳様から、赤い顔を誤魔化すように別の方向を見る鈴仙様。
だから、また気づけなかった。
永琳様が、私に向けて凄いいい笑顔で「グッジョブ!!」と親指を立てた事に……
……まぁ、おしおきがないみたいだから、私としてはいいんだけどね……
こうして、白玉楼→紅魔館→マヨイガ→里という順番に解毒剤を渡す為に飛び回る事になった。
まず、どうして閻魔の所には行かないかというと、あいつはすでに幼女だろうという意見が出たから。
そして何故に一番近い里を最後にまわすのかというと……
……そこは察しろ。
ちび永琳の物語は面白そうですな。