妹紅は、いつもどおり永遠亭へと向かっていた。
名目はもちろん「輝夜を殺すため」なのだが、蓬莱人である輝夜は死なないし、
しかも妹紅がくることを迷惑がってないどころか、楽しんでさえいるようである。
なので、妹紅はもうほとんど輝夜を殺すことをあきらめてしまっている。
それでもなお、輝夜の元へ通い続けるのはなぜか。
それは本人にしか分からない……いや、本人もよく分かってないかもしれない。
しかし、そんな妹紅の行く手を、川が阻んでいた。まあ、飛べばいいだけの話だが。
だが妹紅は、腕を組んで考え込んでいた。当然である。
昨日の時点では何もなかったところに突如として川が出現していれば、それはなぜかと考え込むだろう。
しかしまあ、考えたところで何か結論が出るわけでもないかと思いきや、妹紅はふと今日の日付を思い出した。
まさかな……と思いつつ、真相を問い詰めてやろうと永遠亭に向かっていった。
★★★
結論から言えば、そのまさか……であった。
輝夜が会うなり「あら彦星、いらっしゃい」と言うので、妹紅はまずどこから突っ込めばいいか悩んだ。
それを輝夜に伝えたら「まあ、つっこむだなんて」と顔を赤らめるので、
言葉による突っ込みは無駄だと判断し飛び蹴りによる突っ込みを断行した。
「うう……痛いじゃない、ちょっとしたジョークじゃないのよ」
「その点に関しても突っ込みたいが、まずは『彦星』のわけを聞かせてもらおうじゃないか?」
「だって、今日は七夕じゃない」
やっぱりな、と妹紅は思った。
詳しく話を聞くと、永琳に頼んで竹林と永遠亭の間に川を作り、自分と妹紅を織姫と彦星に見立てたのだという。
どうやって川を作り出したのか不明だが、確かに永琳なら普通にできそうな気がする。
「で?織姫と彦星ってのは、川を挟んで対立する二つの勢力のことだっけ?」
「そう、織姫と彦星はある妖怪たちの抗争に由来するのよ。
今ではもう昔の話だけれど、ある広大な森を、一人の妖怪が支配していた……
その妖怪は森に住んでいることと、森の木々のような美しい髪をだったことから、森姫(もりひめ)と呼ばれていたの。
森姫は強大な力を持っていて、森の妖怪はもちろん、外の妖怪も誰も逆らうことができなかった。
でも、そんな森姫に唯一立ち向かっていく男が、森の近くの川の向こうにいたの。
本名は不詳だけど、火を操り、また体が小さかったことから、火小星(ひこぼし)と呼ばれていたわ。
森姫は、最初はわけもなく襲い掛かってくる火小星を疎ましく思っていたけど、
自分と同じ強い力を持ち、自分を恐れずに向かってくる火小星に、
今まで自分より格下の生き物としか会ったことのない森姫はだんだん惹かれていったの。
森姫は火小星と仲良くしたいと思っていたけど、依然火小星は森姫を目の敵にするし、
火小星側について森姫に対抗する勢力が現れて、しかもそれがどんどん大きくなっていったから、
森姫は森を守るため、火小星と戦わなくてはならなくなったの。
……でも、実は火小星も森姫と同じ気持ちだったのよ。
自分と同じ強い妖怪で、対等に渡り合う森姫のことを想っていた。
そして、あまりに事が大きくなりすぎて、いまさら森姫と仲良くすることなんかできない、というところまで同じ。
そうして最後には、その二人は一騎打ちで相打ちになり、最期にお互いの愛を告白したってい話よ。
その後、その悲恋の物語は現代にまで語り継がれ、そのうちに森姫は織姫に、火小星は彦星になった。
『愛し合っていた』『川を挟んで向かい合っていた』というところだけが抜き出されて、
今の織姫と彦星のお話になったってそんなわけあるかーい!」
「そんな回りくどいノリツッコミはやめろ!」
「ほうぁっ!?」
律儀に最後まで話を聞いていた妹紅は、話し終わった輝夜に向けて再び飛び蹴りを放った。
「まったく、こんなくだらないノリツッコミに十九行も使いやがって……」
「うう……ま、まあ、これだけ説明すれば満足でしょ……?」
「まったく説明になってない。大体、彦星って男だろうが。私は女だぞ?」
「えっ!?もこたんって女の子だったの!?」
「……お約束のボケはやめろ」
「………(本当に忘れてたってことは言わないでおこうかしら)」
「何か言ったか?」
「いいえなんにも?まあそれはともかく。あがっていきなさいよ」
「……まあ突っ込みにも疲れたし、あがらせてもらうか」
★★★
「ところでこの笹を見てくれ、こいつをどう思う?」
「すごく……大きいです……って何言わせるんだ」
永遠亭のある一室。
そこには妙に大きな笹が飾られていた。
当然、そこには沢山の短冊もつるされていた。
「笹の変わりにモミの木を置くっていうお約束も考えたんだけど……」
「ベタ過ぎるな、やめて正解だ」
「それはクリスマスにとっておくことにしたわ」
「やるのかよ!?」
「まあクリスマスの場合はツリーに短冊を吊るすんだけど」
「……普通の飾りで頼む」
「前向きに検討する方向で善処するわ。まあそれより、
今日は朝からいろんな人がここの笹に短冊を吊るしていったのよ。読んでみない?」
「まーた悪趣味な……」
「といいつつ、しっかりチェックしようとしてるじゃないの」
「こんな面白そうなもの、輝夜だけのものにしておけるかっての。えーと、ここに固まってるのは……」
『魔理沙が私のものになりますように』
『魔理沙がもっと私のところに来てくれますように』
『もっともっとまりさとあそべますように』
『魔理沙に悪い虫がつきませんように』
「……出た、この手のネタのお約束、色恋沙汰」
「多分上から、アリス、パチュリー、フランドール、……と、誰かしら?」
「えーと……魅魔?誰だそれ?」
「うーん、あまり人前には出てこない妖怪のようね……そういえば、あまりみない妖怪がいた気がするけど……」
「まあ、それはいいや。で?当の魔理沙はどんな願い事をしているんだ?」
『霊夢が私に振り向いてくれますように』
「……あの四人は眼中になしか」
「で、その霊夢は……」
『お賽銭がもっと入りますように』
「……色恋沙汰は興味なしなのか?」
「まああの紅白巫女らしいといえばらしいけど……でも、紅白も結構モテモテみたいよ?」
『霊夢は私のもの』
『霊夢は誰にも渡さない』
『霊夢は私の嫁』
『いやむしろ私の婿』
「……なんか、こっちのほうがドロドロしてないか?」
「そうね、ちなみに上からレミリア、萃香、紫、アリスよ」
「えーと、他には……あ、同じ霊夢宛でもこっちは比較的ほのぼのしてるな」
チルノ『今年こそ霊夢にかって、あたいのほうをむかせてやる』
「……まーたマイナーなカップリングだなおい」
「でも、へにょみみイナバの話によると、霊夢に対して一番積極的なのはこの子らしいわ」
「あー、なるほど、あいつらは争ってばっかりで霊夢自身にはまだ何もしてないのか」
「魔理沙はまともに狙ってるけど、いまいち積極的になれないとか」
「まったく、その辺関係複雑だよな……えーと、次は……色恋沙汰じゃないものを……」
『名前で呼ばれたい』
「「中国か……」」
「読者の半分ぐらいはこいつの願い事をこう予測してたに違いないな……まあ見事に的中なわけだが」
「!……待って、この短冊は半分に折られているわ!」
内側『咲夜さんが私に振り向いてくれますように』
「……まさか、本命の願いが内側に隠されているとは……そして結局色恋沙汰なんだな……」
「まあ比較的まともだしいいんじゃない?で、その咲夜は……」
『胸が大きくなりますように』
「あいつらしい……って、もしかしてこれも……」
内側『美鈴にうまく気持ちを伝えられますように』
「やっぱり……」
「珍しく両思いの組み合わせなのね」
「他に両思いのカップルとかあるか?たとえば、紅魔館最後の一人は……」
小悪魔『パチュリー様が振り向いてくれますように』
大妖精『小悪魔ちゃんが振り向いてくれま(ry』
リグル『大妖精が振り向いて(ry』
幽香『リグルが振り(ry』
エリー『幽香さまが(ry』
「……なんというベタな」
「私のツリーネタなんてまだマシなほうだったわね……」
「いやそれもどうかと思うが……」
「ところで、妹紅にはこういう恋とかってないの?」
「ないね。どうにかしてお前をやっつけることで頭がいっぱいだよ」
「まあ、もこたんの頭は私でいっぱいですって!?」
「…………」
「……軽いジョークよ、そんなジト目でこっち見ないでよ……
で?他に何か面白そうなのある?」
「あとは……そうだな、白玉楼の……」
妖夢『できるだけ永く、幽々子様のそばにいられますように』
「…………」
「なんだか、切なくなってくる願いね……」
「ああ、あいつはハーフで、寿命が長いとはいえ……結局命は有限だしな」
「久しぶりに、『命』を意識することになったわね……」
「……それにひきかえ、あいつは……」
幽々子『大食い女王の座は渡さない』
「……だもんなぁ……」
「結構不憫ね、あの子も」
「ちなみに、こんな願いも」
ルーミア『打倒幽々子!大食い女王の座に返り咲いてやるのだー!』
「……こいつらって、張り合ってたんだな。えーと、じゃあ次は……」
橙『藍さまや紫さまのためにも、早く立派な式になりたいです』
「……あー私にはオチが読めたぞ」
「……私も」
藍『これからも、橙が毎日を楽しく過ごしてくれますように』
「「……ちっ」」
「まともな願いの次にまともな願いがくるとは誰が予想できようか」
「特に、この式だしねぇ……スッパテンコーとかやってるし」
「まあ脱ぎネタはもう古いかもしれないが……あと、見てないのは……
あ、そうだ、慧音とか永琳とかがまだだったじゃないか」
「あ、ああ……慧音や永琳はまだ書いてないのよ」
「そっか、じゃあ他に……」
そのとき、後ろに回されていた輝夜の手に、
『妹紅をあのニートの手から守る』『姫様はずっと私のもの』
と書かれた短冊が握られていたことに、妹紅は気づかなかった。
「『人形解放』『ずっと健康でいられますように』『いいネタが見つかりますように』
……大して面白いのは残ってないな……あ、そういえば輝夜のは?」
「ああ、まだ書いてないのよ……今考え中」
「そうかー……まあどうせろくでもない願いなんだろ。
ネトゲでレアアイテム欲しいとか、BOSS狩りできるようになりたいとか、
城取りたいとか、早くロードナイトに転生したいとか、クホグレンに勝利したいとか」
「……なんかだんだん具体的になってるんだけど?」
「気にするな。まあ私もさっさと書いて今日は帰ることにする」
★★★
妹紅は、自分の願いを書いた短冊を吊るすと、さっさと帰ってしまった。
当然、輝夜は妹紅がいなくなったのを確認してから、その短冊を読んだ。
『今年こそ輝夜を倒す手段が見つかりますように』
輝夜は、それを見て軽くため息をついたところで、ふと何か思いついたのか再び妹紅の短冊を手に取った。
そして、短冊を軽く指で擦ると、二つ重なっていた紙がずれた。
「……ふふ♪」
すると輝夜は急に表情を変えて、少し大きめの紙を取って何か書き始めた。
それが終わると今度は二つに折って穴を開け、妹紅の短冊の近くに吊るした。
「……また来年といわず、明日も来てね、私の彦星♪」
妹紅の真の願い事は、二人しか知らない。
名目はもちろん「輝夜を殺すため」なのだが、蓬莱人である輝夜は死なないし、
しかも妹紅がくることを迷惑がってないどころか、楽しんでさえいるようである。
なので、妹紅はもうほとんど輝夜を殺すことをあきらめてしまっている。
それでもなお、輝夜の元へ通い続けるのはなぜか。
それは本人にしか分からない……いや、本人もよく分かってないかもしれない。
しかし、そんな妹紅の行く手を、川が阻んでいた。まあ、飛べばいいだけの話だが。
だが妹紅は、腕を組んで考え込んでいた。当然である。
昨日の時点では何もなかったところに突如として川が出現していれば、それはなぜかと考え込むだろう。
しかしまあ、考えたところで何か結論が出るわけでもないかと思いきや、妹紅はふと今日の日付を思い出した。
まさかな……と思いつつ、真相を問い詰めてやろうと永遠亭に向かっていった。
★★★
結論から言えば、そのまさか……であった。
輝夜が会うなり「あら彦星、いらっしゃい」と言うので、妹紅はまずどこから突っ込めばいいか悩んだ。
それを輝夜に伝えたら「まあ、つっこむだなんて」と顔を赤らめるので、
言葉による突っ込みは無駄だと判断し飛び蹴りによる突っ込みを断行した。
「うう……痛いじゃない、ちょっとしたジョークじゃないのよ」
「その点に関しても突っ込みたいが、まずは『彦星』のわけを聞かせてもらおうじゃないか?」
「だって、今日は七夕じゃない」
やっぱりな、と妹紅は思った。
詳しく話を聞くと、永琳に頼んで竹林と永遠亭の間に川を作り、自分と妹紅を織姫と彦星に見立てたのだという。
どうやって川を作り出したのか不明だが、確かに永琳なら普通にできそうな気がする。
「で?織姫と彦星ってのは、川を挟んで対立する二つの勢力のことだっけ?」
「そう、織姫と彦星はある妖怪たちの抗争に由来するのよ。
今ではもう昔の話だけれど、ある広大な森を、一人の妖怪が支配していた……
その妖怪は森に住んでいることと、森の木々のような美しい髪をだったことから、森姫(もりひめ)と呼ばれていたの。
森姫は強大な力を持っていて、森の妖怪はもちろん、外の妖怪も誰も逆らうことができなかった。
でも、そんな森姫に唯一立ち向かっていく男が、森の近くの川の向こうにいたの。
本名は不詳だけど、火を操り、また体が小さかったことから、火小星(ひこぼし)と呼ばれていたわ。
森姫は、最初はわけもなく襲い掛かってくる火小星を疎ましく思っていたけど、
自分と同じ強い力を持ち、自分を恐れずに向かってくる火小星に、
今まで自分より格下の生き物としか会ったことのない森姫はだんだん惹かれていったの。
森姫は火小星と仲良くしたいと思っていたけど、依然火小星は森姫を目の敵にするし、
火小星側について森姫に対抗する勢力が現れて、しかもそれがどんどん大きくなっていったから、
森姫は森を守るため、火小星と戦わなくてはならなくなったの。
……でも、実は火小星も森姫と同じ気持ちだったのよ。
自分と同じ強い妖怪で、対等に渡り合う森姫のことを想っていた。
そして、あまりに事が大きくなりすぎて、いまさら森姫と仲良くすることなんかできない、というところまで同じ。
そうして最後には、その二人は一騎打ちで相打ちになり、最期にお互いの愛を告白したってい話よ。
その後、その悲恋の物語は現代にまで語り継がれ、そのうちに森姫は織姫に、火小星は彦星になった。
『愛し合っていた』『川を挟んで向かい合っていた』というところだけが抜き出されて、
今の織姫と彦星のお話になったってそんなわけあるかーい!」
「そんな回りくどいノリツッコミはやめろ!」
「ほうぁっ!?」
律儀に最後まで話を聞いていた妹紅は、話し終わった輝夜に向けて再び飛び蹴りを放った。
「まったく、こんなくだらないノリツッコミに十九行も使いやがって……」
「うう……ま、まあ、これだけ説明すれば満足でしょ……?」
「まったく説明になってない。大体、彦星って男だろうが。私は女だぞ?」
「えっ!?もこたんって女の子だったの!?」
「……お約束のボケはやめろ」
「………(本当に忘れてたってことは言わないでおこうかしら)」
「何か言ったか?」
「いいえなんにも?まあそれはともかく。あがっていきなさいよ」
「……まあ突っ込みにも疲れたし、あがらせてもらうか」
★★★
「ところでこの笹を見てくれ、こいつをどう思う?」
「すごく……大きいです……って何言わせるんだ」
永遠亭のある一室。
そこには妙に大きな笹が飾られていた。
当然、そこには沢山の短冊もつるされていた。
「笹の変わりにモミの木を置くっていうお約束も考えたんだけど……」
「ベタ過ぎるな、やめて正解だ」
「それはクリスマスにとっておくことにしたわ」
「やるのかよ!?」
「まあクリスマスの場合はツリーに短冊を吊るすんだけど」
「……普通の飾りで頼む」
「前向きに検討する方向で善処するわ。まあそれより、
今日は朝からいろんな人がここの笹に短冊を吊るしていったのよ。読んでみない?」
「まーた悪趣味な……」
「といいつつ、しっかりチェックしようとしてるじゃないの」
「こんな面白そうなもの、輝夜だけのものにしておけるかっての。えーと、ここに固まってるのは……」
『魔理沙が私のものになりますように』
『魔理沙がもっと私のところに来てくれますように』
『もっともっとまりさとあそべますように』
『魔理沙に悪い虫がつきませんように』
「……出た、この手のネタのお約束、色恋沙汰」
「多分上から、アリス、パチュリー、フランドール、……と、誰かしら?」
「えーと……魅魔?誰だそれ?」
「うーん、あまり人前には出てこない妖怪のようね……そういえば、あまりみない妖怪がいた気がするけど……」
「まあ、それはいいや。で?当の魔理沙はどんな願い事をしているんだ?」
『霊夢が私に振り向いてくれますように』
「……あの四人は眼中になしか」
「で、その霊夢は……」
『お賽銭がもっと入りますように』
「……色恋沙汰は興味なしなのか?」
「まああの紅白巫女らしいといえばらしいけど……でも、紅白も結構モテモテみたいよ?」
『霊夢は私のもの』
『霊夢は誰にも渡さない』
『霊夢は私の嫁』
『いやむしろ私の婿』
「……なんか、こっちのほうがドロドロしてないか?」
「そうね、ちなみに上からレミリア、萃香、紫、アリスよ」
「えーと、他には……あ、同じ霊夢宛でもこっちは比較的ほのぼのしてるな」
チルノ『今年こそ霊夢にかって、あたいのほうをむかせてやる』
「……まーたマイナーなカップリングだなおい」
「でも、へにょみみイナバの話によると、霊夢に対して一番積極的なのはこの子らしいわ」
「あー、なるほど、あいつらは争ってばっかりで霊夢自身にはまだ何もしてないのか」
「魔理沙はまともに狙ってるけど、いまいち積極的になれないとか」
「まったく、その辺関係複雑だよな……えーと、次は……色恋沙汰じゃないものを……」
『名前で呼ばれたい』
「「中国か……」」
「読者の半分ぐらいはこいつの願い事をこう予測してたに違いないな……まあ見事に的中なわけだが」
「!……待って、この短冊は半分に折られているわ!」
内側『咲夜さんが私に振り向いてくれますように』
「……まさか、本命の願いが内側に隠されているとは……そして結局色恋沙汰なんだな……」
「まあ比較的まともだしいいんじゃない?で、その咲夜は……」
『胸が大きくなりますように』
「あいつらしい……って、もしかしてこれも……」
内側『美鈴にうまく気持ちを伝えられますように』
「やっぱり……」
「珍しく両思いの組み合わせなのね」
「他に両思いのカップルとかあるか?たとえば、紅魔館最後の一人は……」
小悪魔『パチュリー様が振り向いてくれますように』
大妖精『小悪魔ちゃんが振り向いてくれま(ry』
リグル『大妖精が振り向いて(ry』
幽香『リグルが振り(ry』
エリー『幽香さまが(ry』
「……なんというベタな」
「私のツリーネタなんてまだマシなほうだったわね……」
「いやそれもどうかと思うが……」
「ところで、妹紅にはこういう恋とかってないの?」
「ないね。どうにかしてお前をやっつけることで頭がいっぱいだよ」
「まあ、もこたんの頭は私でいっぱいですって!?」
「…………」
「……軽いジョークよ、そんなジト目でこっち見ないでよ……
で?他に何か面白そうなのある?」
「あとは……そうだな、白玉楼の……」
妖夢『できるだけ永く、幽々子様のそばにいられますように』
「…………」
「なんだか、切なくなってくる願いね……」
「ああ、あいつはハーフで、寿命が長いとはいえ……結局命は有限だしな」
「久しぶりに、『命』を意識することになったわね……」
「……それにひきかえ、あいつは……」
幽々子『大食い女王の座は渡さない』
「……だもんなぁ……」
「結構不憫ね、あの子も」
「ちなみに、こんな願いも」
ルーミア『打倒幽々子!大食い女王の座に返り咲いてやるのだー!』
「……こいつらって、張り合ってたんだな。えーと、じゃあ次は……」
橙『藍さまや紫さまのためにも、早く立派な式になりたいです』
「……あー私にはオチが読めたぞ」
「……私も」
藍『これからも、橙が毎日を楽しく過ごしてくれますように』
「「……ちっ」」
「まともな願いの次にまともな願いがくるとは誰が予想できようか」
「特に、この式だしねぇ……スッパテンコーとかやってるし」
「まあ脱ぎネタはもう古いかもしれないが……あと、見てないのは……
あ、そうだ、慧音とか永琳とかがまだだったじゃないか」
「あ、ああ……慧音や永琳はまだ書いてないのよ」
「そっか、じゃあ他に……」
そのとき、後ろに回されていた輝夜の手に、
『妹紅をあのニートの手から守る』『姫様はずっと私のもの』
と書かれた短冊が握られていたことに、妹紅は気づかなかった。
「『人形解放』『ずっと健康でいられますように』『いいネタが見つかりますように』
……大して面白いのは残ってないな……あ、そういえば輝夜のは?」
「ああ、まだ書いてないのよ……今考え中」
「そうかー……まあどうせろくでもない願いなんだろ。
ネトゲでレアアイテム欲しいとか、BOSS狩りできるようになりたいとか、
城取りたいとか、早くロードナイトに転生したいとか、クホグレンに勝利したいとか」
「……なんかだんだん具体的になってるんだけど?」
「気にするな。まあ私もさっさと書いて今日は帰ることにする」
★★★
妹紅は、自分の願いを書いた短冊を吊るすと、さっさと帰ってしまった。
当然、輝夜は妹紅がいなくなったのを確認してから、その短冊を読んだ。
『今年こそ輝夜を倒す手段が見つかりますように』
輝夜は、それを見て軽くため息をついたところで、ふと何か思いついたのか再び妹紅の短冊を手に取った。
そして、短冊を軽く指で擦ると、二つ重なっていた紙がずれた。
「……ふふ♪」
すると輝夜は急に表情を変えて、少し大きめの紙を取って何か書き始めた。
それが終わると今度は二つに折って穴を開け、妹紅の短冊の近くに吊るした。
「……また来年といわず、明日も来てね、私の彦星♪」
妹紅の真の願い事は、二人しか知らない。
面白かったですw
最後はよかったです