昼は森閑。夜は無音。
そんな白玉楼の、どこを切っても静かな朝。
魂魄妖夢が今、朝餉の卓袱台越しに手を伸ばし、主の頬から一粒の米をつまみ取った。
さて、ごはんつぶ。
捨てるのも返すのも無礼な気がして、妖夢はそれをぱくりと口に。
したらば主の幽々子様、哀しげな目で妖夢を見つめ、
「私のごはん……」
「えぇ~っ?」
従者妖夢、ちょっと不敬な反応だったかもしれない。
「御飯って、幽々子様。一粒ですよ?」
「私のごはんつぶ……」
「いや、あの、」
慌てる妖夢。
幽々子はしゃがみ、口元を袖で隠し、大げさに嘆いてみせる仕草。
いやまあ最初から座ってたんだからしゃがむもなにもないんですが。そのあたりはお察しください。
「妖夢が私のごはんつぶ食べたー……」
「食べたって、その、私はですね、」
もちろん幽々子は冗談で言っているし、もちろん妖夢にはそれがわかっていない。
幽々子は妖夢が冗談を冗談とわからないとわかって冗談を言っているのである。
どうにも主語と述語のひどい文章ですねごめんなさい。頑張ってお察しください。
「幽々子様、もっとお召しになりたいのでしたら御飯はお櫃にありますから……」
「いやいや妖夢。私はごはんつぶを惜しんでいるのよ」
「はぁ。ごはんつぶ」
主の言いたいことがよくわからない妖夢。
とりあえず手元のお櫃から一粒、米を指先に乗せてみる。
すると幽々子が妖夢に目配せしながら、頬を指先でちょん、ちょんと。
「?」
そのジェスチャーに従うまま、自分の右頬にぺたりとごはんつぶを張りつける。
「あの、これで一体どう――」
問おうとしたときには、零距離。
主の顔がそこに。
――ちゅ。
食われた。
もちろん栄養学的な意味で。
「なっ」
「ふふ。まだまだ隙が多いわね、よーむー」
「ゆっ」
「んー、おいし」
幸せそうに、その一粒を噛み締める捕食者。
食われた側は絶句するばかり。頬だけが雄弁に染まる。
いやいや妖夢、ここで慌てたら幽々子様の思う壷。つい、と視線を外してすまし顔。
「一粒っきりじゃあ、味もなにもないでしょう」
「いやいや妖夢。お米はね」
なお悠然と幽々子様、お櫃に手を伸ばし、ごはんつぶをまた一つ。
ぺたり、と妖夢の左頬にくっつけた。
「たとえ一粒でも、生まれるまでには一年の月日と、沢山の苦労があるの」
ちゅ。
食われた。
「だからどの一粒にも、作ってくれた人の気持ちが一杯に込められているのよ」
もう一粒。
ぺたり、妖夢の額。
――幽々子様、もうお戯れは、
頭がぐらぐらしてきた妖夢。
根を上げかけたその矢先、主の目がすっと細められ、
「もちろん、炊いてくれた人の気持ちもね。味がしないわけないわ」
「――っ」
食われた。
ココロを。
掴みどころが無いくせに、このお方は、こういうお方なのだ。
妖夢は思う。
まったく、ずるいなぁ。
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
結局、お櫃は空っぽに。
ああ、ちなみに残りの御飯は普通に食べてましたよ?
いくらなんでも、ねえあなた。
「今度、妖夢にごはんを盛って食べてみようかしら」
「幽々子様、それはいささか方向性が違ってきます」
~終わり~
「じゃあ、ごはんに妖夢を盛って食べるのは?」
「もっと駄目ですっ」
~終わり~
「あら、楽しそうねそれ」
背後から声。
振り向けばスキマが。
~終われ~
何故だ!? 至極当然の事を、至極真面目に書いてあるだけなのに・・
痙攣が・・腹筋の痙攣が止まらぬッ!!
こ う か は ば つ ぐ ん だ(四倍)
ご馳走様でした。