永遠亭はうどんげ無しでは動きません

「鈴仙」
「はい？」

唐突に、呼ばれて振り返る。首を傾げながら。なぜなら、私はあまり本名では呼ばれないから。

普段私は『うどんげ』と呼ばれることが多い。敬愛する師匠の付けてくれた愛称なので特に文句は無いが、
師匠以外も最近こう呼ぶようになってきたのはいかがなものだろう。
紅魔館の門番と同じ運命を辿りそうな気がして、ちょっと心配。

まあ、永遠亭にいるときは『鈴仙』なんて呼び方はほとんどされない。
姫は『イナバ』だし、てゐは平仮名で『れーせん』だ。長音が妙に間延びしているのが特徴。可愛いけど。

だからこそ、疑問と共に振り返った。そして思わず目を見張る。なぜなら、そこにいたのが姫だったからだ。

姫。
蓬莱山輝夜。
地を擦るほどの長い黒髪に、常人離れした美貌は、いつ見ても圧倒されてしまう。
いつも能天気なその表情が、今はシリアスな雰囲気に塗りつぶされている。

（うわ、ヤバイかな）

私は心の中でそう思った。姫の視線が私を咎めているような気がしたからだ。美人のシリアス顔というのは、それだけで武器と成り得る。
とりあえず、ここは下手に出て様子を探るのが得策だと思う。

へい、れーせん。カッコいいじゃないか。伊達に下っ端根性が身についてはいないぜ。

自分で思って泣けてきたのは内緒だ。
そういえば、明日から白玉楼に招かれているんだった。妖夢、どうしてるかな。同じ下っ端同士、仲良くしないと。
そんな取りとめもない思考を押し殺して、私は言葉を紡いだ。姫を前にして黙っているわけにもいかない。

「え、ええっと。何か御用でしょうか？」
「ちょっと、話があるの」

そう言うと、姫は何かを探るように周囲を見渡した。この人はいったい何をしているのだろうか。確認し終わると、姫は顔を近づけてきた。

「此処じゃあちょっと、ね。私の部屋に行くわよ」
「はい」

私が返事をすると、姫はおもむろに私の耳を引っ掴んで引っ張った。って、え？

「痛、痛い！ちょっと、その、姫？姫様？痛いです。痛い！痛いからやめて！引っ張らないでー！」








「だから、さっきからごめんって言ってるじゃない」

姫がばつの悪そうな顔でそう言った。伏し目がちで拗ねたような声。

「もういいですよ。過ぎたことは忘れましょう」

というか、まるで私が苛めているような心境になってくるから、本当にやめて欲しかった。
何なんだろう、この理不尽さ。どっちに転んでも不幸になるのは私だし。

「で、本題は、何ですか？」
「そうね。重要なことを忘れてたわ」

忘れてたんかい。

「鈴仙」
「はい」

場が緊張していく。私はいったい何を言い渡されるんだろうか。

「今度から、一泊以上の外出の時には、永琳だけじゃなくて、私からも許可を取りなさい」
「………はあ」

間抜けな言い方をしてしまったが、無理も無いと思う。
今まで私の生活に関することは全て師匠に一任してきた姫が、いきなりこの発言をしてきたんだから。

「えっと、何故いきなりそんなことを？」
「それは………」

姫が言い淀んだ。何か言い辛いことでもあるのかと心配になる。

「あ、貴女は私の家族、娘みたいなものよ。娘の心配をしちゃいけない？」

しばらくして、そんな言葉がかけられた。思ってもみなかったそれに、私は思わず嬉しくなってしまった。

「許可なんて言い方じゃなくても良いわ。ただ、一言。ほんの一言でも良いから、私に直接言ってちょうだい。いい？」

姫がちょっと視線を逸らす。これがツンデレというものか。ヤバい、萌えそう。

「わかりました」

こう答えるしかなかった。だって、これ以上こんな姫を見ていると、いけない考えが湧き上がってきそうだったから。

「それじゃ、さっそくですけど――」

私はその場で白玉楼に招かれていることを告げた。
その瞬間、姫の美しい顔が僅かに歪んだ。その目が悲しそうに潤む。

「姫」
「何？」
「たった二日間がそんなに悲しいのですか？」

そう言うと、彼女は首を横に振った。

「そうじゃない。そうじゃないのよ。貴女は安心して行ってきていいの。
そう、この涙は弟の病への兄の恨みの一撃と思ってちょうだい」
「意味がわかりませんよ」

姫が錯乱している。大丈夫なんだろうか、この人。

「だから、慌てず急いで正確に行ってきて」

相変わらず意味不明だったが、何にせよ、外出許可は下りたらしい。
翌日、私は当初の予定通り、白玉楼へと出かけていった。
姫が泣きながら真っ赤なスカーフを振っていた。きっと、旅立つイナバの胸には、ロマンの欠片が欲しいと思ったのだろう。











鈴仙が行ってしまった。
私の目の前で。
仕方がない。これは仕方がないことなのだ。
いくら私にも、あの娘の自由を束縛する権利は無い。だから、これは仕方がないことなのだ。
どれだけ自分にそう言い聞かせても、心に嘘はつけない。
それ故に私は自室に篭って寝ることにした。
こんな日は、寝てしまうに限るのだ。例えそれが、偽りの平穏であったとしても。








「姫えええぇぇぇぇーーーー！」
「…………来たわね」

部屋に帰って数時間後。悪夢はやってきた。そう、私が何よりも怖れていたのは、これだったのだ。

「ここにいたのですね姫さあさあお部屋にもどりましょうだいじょうぶ心配しないでください今回はいろいろと面白いものを用意しま――」

ズドン

「黙れ」

目の前でいろいろアレな発言をする物体に、問答無用で右フックを食らわせて撃墜する。

「あら、姫」

うわこいつ何事も無かったかのように立ち上がりましたよ。
蓬莱人だから仕方がないにしろ、もうちょっと倒れていて欲しかったのに。

「いつからそこに？」
「ここは私の部屋よ。ついでに言うと貴女の方が押しかけてきたの」
「まあそうでしたか。私ったらつい勢いで」

言いながら永琳は私の対面に座る。
よかった。なんとかなりそうね。この前の時よりは普通みたい。

「ふぅ。今日は暑いですね」
「そうね」

相槌を打つ。
この、妙に胸を強調した座り方は何とかならないのかしら。人のコンプレックスを刺激しないで欲しい。

「そこで！」
「ダン！と音を立てて立ち上がるな。床が抜けたらどうしてくれるの」
「詰めておきましょう。主に姫とか」
「詰めるな」
「それはさて置き」
「置くなよ」
「これです！」

じゃーん、なんて音が聞こえてきた。幻聴じゃなく、実際に大気の振動として感じ取れた。
ちなみに発生源は目の前の物体。突っ込みたかったが、やめた。だって、自分の精神は守りたいじゃない。
ついでに言うと、出てきたモノがモノだけに、そっちに視線が移ってしまったし。

「大げさに取り出したけど、それってただの鈴仙の服じゃないの」
「違いますよ」

目の前の物体は自信たっぷりにそう言い切った。
その『何を言ってるんだこの人は？』的な視線を私に向けるのはやめてほしいわ。
そう言いたいのはむしろこっちだってーの。

「どこが違うのよ？ミニスカートにブレザー。どこからどう見ても鈴仙の服でしょう」
「だから違うのですよ、姫。良いですか。うどんげの服とは、うどんげが着ている服のことなのです！」
「はぁ？」
「ですから、『うどんげ』というパーツの無い服は、『うどんげの服』では無いのです！」

なんて強引な理論なのかしら。頭が痛くなってきたわ。というか、自分の弟子をパーツ呼ばわりするなと言いたい。

「そして、今からこれは『姫の服』となるのですよ！」

叫ぶなり、永琳の姿をした獣が飛びかかってきた。

「なるかボケ！」

とりあえず、左ハイキックで沈めておく。首が変な方向に曲がっているが、気にしちゃいけないわ。
この『永琳モドキ』を相手に、まともな思考で立ち向かってはいけないのだから。

「あらあら」

でもって、首が曲がったまま立ち上がる永琳モドキ。結構怖い。

「そんな色っぽい格好して。誘ってるんですね」
「は？　誰が誘ってるって――」

言いながら、違和感を覚えた。なんかスースーする。そこで自分の服装を見てみた。

……………。

「きゃぁー！私の、私の服がぁー！」
「どうしたのですか、姫。いきなりそんな大声を出されて」
「どうした、じゃないわよ！なんでいきなり上半身が下着だけになってるのよ！？」
「まあまあ、減るものではありませんし」
「減るわよっ！」

主に私の精神の健康の度合いが。

「じゃあ、下も脱ぎまし――」
「脱がすなあぁぁぁーーッ！」

再び飛びかかってきた永琳もどきに、カウンターの右膝を叩き込んで沈黙させる。

「まったく。魂がいくつあっても足りないわ」
「そうみたいだな」
「へ？」

我ながら、間抜けな声だと思う。けど、出してしまったものは仕方ないわ。

「も、もも、妹紅！何でこんなところにいるのよ！？」
「いや、ちょっと筍を探すついでに寄ってみたんだけど――」

言いながら、妹紅は倒れた元・永琳に視線を向けた。

「どうしたの、これ？普段から浮世離れしてたけど、今日はなんだかもう本格的に駄目じゃない」
「何言ってるの。『これ』がかつて八意永琳と呼ばれた物体よ」
「過去形！？しかも物体扱い！？」

うん、妹紅の問いも尤もね。が、私はこれを生物の範疇に入れたくない。
同類にされた全世界の生物に復讐されそうで怖いから。
でも、それを興味深げに見ている妹紅は死亡フラグ確定かもしれないわね。

「一つだけ忠告しておいてあげるわ。不用意な発言は控えた方が身の為よ」
「しかしまあ、これだけボロボロなら、いくら蓬莱人とはいえそう簡単に動けるようにはならないだろ」
「楽観的すぎると思うけど」
「何なら、デンプシーロールでもかましてみる？」

妹紅がそう言った瞬間。
すさまじい勢いで、倒れていた永琳もどきが立ち上がった。

「臀部尻ロール！？」
「うわ、た、立ちやがった！？」
「だから言ったのに。早速自爆したわね」

というか、その強引極まりない聞き間違いは何なの？

「そんな破廉恥な技！　さあ、もっと私にかけてください！」
「破廉恥なのはあんただろ、この変態薬師！」

それは私もそう思う。

「ちょ、ちょっと！　寄ってこないでよ！　私は輝夜じゃない！！」
「この際誰でも問題nothing！」

それ自体問題な発言と共に、永琳モドキが妹紅に覆いかぶさる。
銀色の長髪の女が二人、艶かしい動きで這いずり回っているのは、見ていてあまり気持ちの良いものじゃないわね。
片方が変態だし。
何にせよ、自分から妹紅に永琳モドキの注意が移ったから、一息つけるわ。

「いやあああーー！輝夜、助けてぇーーー！！」

しばらく気を高めていると、妹紅がそんなことを言い始めた。
斜に構えた感のある妹紅から、こんな乙女チックな悲鳴が聞けるとは、よもや思ってもみなかったわ。

「うわ、ちょっと！　足首から手を入れて下着に手をかけないで！！」
「服は着たままで、下は全裸。これこそ萌えの極地！」

何か神業を別の方向に向けてる永琳モドキ。さすがにそろそろ助けないと色々拙いかしら。
さて……。

「あら、鈴仙。早かったわね」

私は最後の手段その1を使った。

「うどんげーーーーーーー！！」

一瞬で妹紅から手を離して立ち上がった永琳モドキ。
私はその下腹部に蹴りを入れると、相手の顎を自分の肩口に固定して、そのまま尻餅をついた。地味だが、威力は抜群だ。

「Oh my God！ Look at this, JR！
It’s Stunner！ Stunner！ Stonecold Stunner！」

あ、てゐが実況してる。ビール持って来い、ビール。

「スタナーか。珍しいチョイスだな。お前はペディグリーの方が好きじゃなかったっけ？」
さりげなく通じてる妹紅。それもまあ、当然と言えば当然で、永遠亭で何故か見れる衛星放送を目当てに、週に二回は足を運んでくるからだ。
「スカートでペディグリーは無理よ」

私は、今は残骸と呼ばれる『かつて永琳であったもの』を踏みつけた。

「１、２、３、カンカンカン！」

滑り込んできたてゐのカウントとゴングを聞いて、足をどける。そこには見事なまでの足型が、くっきりと残っていた。









「つまり、あの兎がいないから、錯乱してるのか」

騒動が一段落したので、お茶の時間にすることにした。
てゐはお茶の準備をしに台所へ姿を消している。自分から進んで、だ。よほどこの残骸から遠ざかりたかったらしい。
残骸は縛って転がしておいた。
下手に見えない場所に置いておくと、恐怖感が増してしまう。人間にとって、見えないものこそが恐ろしい。
嫌だけど、仕方ないわ。ものすごく嫌だけど。

「一言で言えば、そういうことよ。一日一回イナバなの」
「はあ。過保護と言うか、何と言うか」
「違うわ」

私はきっぱりと言い切った。誤解させておくと面倒だから。

「別に彼女への劣情が噴出しているわけではないの」

妹紅、怪訝な表情で問い返す。

「話が見えてこないぞ。いったいどういう意味だ？」
「要するに、永琳の地はこれなのよ。完全に錯乱するようなことは稀だったけど、時折こういう状態になるの。それが今はある理由によって抑制され、安定しているの」
「それが、あの兎なわけだ。でも、結局寂しいだけなんじゃないの？今の説明だと、そうとしかおもえないんだけど」
「だから、違うのよ」

私は妹紅の目をじっと見つめた。なんか、顔が真っ赤になってる。
蓬莱人って風邪は引かないはずだったんだけど、どうしてなのかしら。
って、些細なこと気にしている場合じゃないか。

「いい。イナバの能力を思い出してみて」
「えっと、狂気を操る、だったっけ」

妹紅の答えは概ね当たっている。これが分かっていれば、察してくれるだろう。

「そう。そして、その目を見たら、気が狂うの。ここから導き出される結論は一つ！」

ここでビシッと指を立てると、妹紅に視線を送った。
妹紅はしばらく考え込んでいたが、恐ろしい結論に至ったのか、やがて冷や汗を流し始めた。

「まさか、とは思うけど、その………。『普段の永琳は、狂ってる』の………？」
「………」

どうやら気付いてしまったようね。この無情なる現実に。

「まさか、ね。違うよね？違うって言ってよ」
「妹紅。認めたくは無いと思うけど………」
「そ、そんな……」

引きつった顔で、乾いた笑いを発する妹紅。そんな彼女に、詳細を語って聞かせることにした。

「イナバが永遠邸に来てすぐに、私は彼女の能力を知った。
そして、暴走の危険がある永琳のリミッターとしての役割を与えることにしたのよ」
「リミッターかよ」
「そしてそれはうまくいった。ように見えたし、実際つい最近までは破綻せずに機能していた。
けどね、妹紅。私の計画には大きな盲点があったの」
「わかった。その計画は、ここ永遠亭が閉ざされていることを前提にしていたことね」
「察しが良いわね。まさしくその通りよ」

言うと、妹紅はあからさまなため息をついた。

「あのさ。だったら正直にあいつに言ったら？『貴女がいないと永遠亭は地獄になる』とか」
「駄目よ！」

私は即答する。それだけはしてはいけないのだ。

「それを知ったら、イナバは一生ここから一歩も出ないで暮らすわよ。
あの娘の永琳への想いは、それだけ強い。でもね。あの娘には外に出て行く必要があるの。
イナバが自分のことを敗残兵だと卑下している限り、本当に心の底から笑うことができないの。
あの娘が幸せになるためには、絶対に拘束してはいけないのよ！」

捲し立ててから、すこしケホケホ言ってしまう。
一息で言い切ったためか、ちょっと息が切れてしまったようね。呼吸を整えていると、妹紅が目を見開いているのに気付く。

「ぜー、はー。な、何よ？」
「いや」

妹紅はちょっと照れたような表情をして頭を掻いた。

「まさかお前がそんな風に考えていたなんて思ってもみなかったから、さ。
正直、感心したというか、見直したというか。伊達にお姫様やってるんじゃないんだって」

後半がごにょごにょと小声になっていく。
けど、恥ずかしいのはこっちも一緒だった。
よく考えてみると、普段の私なら、それこそ『死んでも』口にしないようなセリフだったから。
うん、あれよね。今って非常事態だし。仕方ないかなぁって。

「ふーん。そうか。うどんげは愛されてるんだな」
「ちょっ、妹紅！！」
「あ！！」

爆弾発言をした妹紅が慌てて口を押さえるが、もう遅かった。

「うどんげえぇぇぇーーーーーー！！！！」

拘束を引きちぎって、獣が覚醒する。
私と妹紅は、大慌てで外に逃げ出した。

「おい、どうしてもっと太い縄を使わなかったんだよ！？」
「あれ、単分子ワイヤーよ！あれ以上の強度の縄なんてうちには無いわよ！！」

というか、単分子ワイヤーを引きちぎるって、どんな腕力してるのよ！？

「あははははははは！！！！！！」

完全に錯乱した永琳は、暴走して高笑いをあげている。
そもそも、さっきの会話でわざわざ『イナバ』とか『あの兎』とか言っていたのは、不用意に鈴仙個人を特定できる固有名詞を口にすると、永琳が暴走するのが目に見えていたからだ。が、もう後の祭り。

「ええい、こうなったら、死なば諸共よ！！！　曲者だ、者共、出会え出会え！！！！！」
「了解！！」

私の掛け声に合わせて、襖の裏にいたてゐが大音声で号令をかける。

「イナバ攻撃部隊、展開！　第一部隊『国士無双』、第二部隊『緑一色』、第三部隊『大車輪』、総員戦闘配置！　蓬莱激戦用意！！！」

てゐの号令で、多数のイナバたちが大砲や機関銃を引きずって持ち場に着いた。

「てーーーー！！！」
「うおおおーー！！！」
「うんじゃらほい！！！」
「イリリリリリリリリ！！！」

呻る銃声、飛び交う怒号。銃弾の嵐は襖を貫き、中にいた永琳に襲い掛かった。
が、しかし。

「効いていない！？　そんなバカな！！」

もうもうと立ち込める爆炎の向こうに、見慣れたシルエットが立っている。

「ちっ！これならどうだ！『火の鳥　－鳳翼天翔－』！！」

妹紅の手から放たれた火の鳥が、永琳を襲う。しかし、永琳は避けようともせずに真っ向から立ち向かった。

「はあああーーー！」
「「「うそぉっ！？」」」

私と妹紅、それにてゐの三人の驚愕が重なった。妹紅の火の鳥を片手でかき消すなんて芸当、見たことないわよ。

「どうするんだ？このままだと拙いことになるぞ」
「今の永琳を野に放てば、より多くの被害が出てしまうわ。なんとしても、ここで食い止めるのよ！！」
「しかし、我々の戦力では、永琳様を止めることなど――！」

現実は無情だわね。妹紅が歯が立たないんじゃ、勝ち目は無いかもしれない。
永琳は私の難題の弱点も対処法も知り尽くしてるし。

「泣き言なんか言ってる場合じゃないわ。手段は選ぶな！」
「とは言っても、永琳に対抗するには、絶対的に戦力が足りないぞ！」

皆の顔に絶望の色が広がりかけたまさにその時だ。

「やむを得ないわ。アレを使う！」

瞬間、イナバたちの間に衝撃が走った。

「まさかアレを？　危険すぎます！」
「そうです。アレは封印されていたはずですよ！」

口々に叫ぶイナバたち。その気持ちはわからなくもない。
そんな中、妹紅は私に訊いてきた。

「なあ、『アレ』って何だ？」

私は答える。

「永琳が用意した最終兵器よ。月からのうどんげの追っ手と実際に交戦状態になった時用の、ね」

さすがに大量破壊兵器を使うのは気が引ける。だが、状況はそれを許さないだろう。

「永琳様、中庭まであと一分で到達します！」
「くっ！」

てゐが私を振り向いた。やりたくはなかったけど、他に手段は無い。私は腹を括った。

「鈴仙砲発射用意！」
「姫様、このままでは邸にも被害が！」
「構わん！　お邸ごと粉砕せよ！」

私の命令を受けて、ライフルを構えた鈴仙の姿を模した兵器が運び込まれる。
発射準備が始まった。

「ターゲットスコープ、オープン！」

てゐはライフルを握り締めると、永琳に向かって照準を定める。

「電影クロスゲージ、明度二十！」

私はイナバたちに退避命令を下す。同時に、そこにいた全員にサングラスを配った。

「発射十秒前！　対ショック、対閃光防御！」

てゐの言葉に、あたふたとサングラスを装着するイナバたち。
全員がサングラスを装着し終わるころには、カウントダウンが半分を切っていた。

「五、四、三」

てゐの腕に力が入る。他の者たちは固唾を呑んで見守っている。

「ニ、一」

ついに、カウントが終わりを告げた。

「発射！！！」

その瞬間、永遠亭が光に包まれた。




















翌日、帰宅した鈴仙が見たものは、かつて永遠亭と呼ばれた邸の跡地に、堆く積み上げられた瓦礫の山だけだった。
以降、鈴仙はなるべく外出を控えるようにしたという。

お久しぶりです。
なんかカオスなのが流行ってるみたいなので、便乗させていただきました。

うそです。すみません。ただ単に書いてる途中でカオスになっただけです。
あと、これに出てくるネタが理解できなかった人もいるかと思いますが、仕様です。