Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

妖夢断悪塊事

2007/06/27 09:33:39
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ある昼下がり。

冥界は白玉楼の縁側にて、亡霊の姫西行寺幽々子はのんびりとお茶を飲んでいた。
庭の手入れに励んでいる妖夢を眺めながら、ずずっと1口お茶を啜り溜息を吐く。

「………あ~あ、暇よねぇ」

その通り、彼女はとても暇なのだ。
普段ならば何だかのお稽古事があったりするものなのだが、今日はたまたまそれも無い。
いつもこんな時に暇つぶしに付き合ってくれる紫も今日は来ておらず、さりとてこんな時間から宴会を催すという
わけにもいかず、結局のところこうやってお茶を飲んでぼぉっとしているくらいしかやる事が無かったのである。

「(妖夢でも弄って遊ぼうかしら)」

などと考え、取り合えず妖夢を呼ぼうとすると
その妖夢がいつのまにやら目の前にやって来ていた。

「あの、幽々子様」
「あら、妖夢。どうしたの?」
「いえ、お暇なのでしたら剣の稽古でも如何かと思いまして………」

―――剣。
今ではすっかり庭師扱いが板についてしまっているものの、妖夢の本来のお役目は幽々子の剣術指南役である。
そのためか、彼女は事ある毎に幽々子に対して剣の稽古を勧めていた。
もっとも、そのたびに幽々子に
「おなかが空いているから、また今度ね」とか
「そんな事より今日の御飯は何かしら」とか
「おやつの時間だから一緒に食べましょう」とか
言われて適当にあしらわれてしまい、今だ幽々子が剣を握るところすら見る事が出来ていないのが現状だった。
そして、やはり今日の幽々子の返答も

「それより妖夢、顕界で何か面白い食べ物でも買ってきて頂戴」

というものであった。

それでも今日の妖夢は一味違った。このままでは、いつまでも己の本分を果たせぬままになってしまうという
不安があったのかもしれない。
ともかく彼女は再び主に剣を勧める。

「そうおっしゃらずに、試すだけでも良いので一度剣を握ってみては頂けませんか」
「いやよ、もう剣術をやるつもりはないわ」
「………………“もう”?」

妖夢の聞き間違えで無ければ“もう”と、幽々子はそう言った。
つまりこれの意味するところ、彼女は以前に剣術を嗜んでいたという事に他ならない。

「あの、幽々子様は以前に剣術を?」
「ええ、貴方は覚えていないかも知れないけれど。まだ妖忌がいて、貴方がもっとずっと小さかった頃にね」

やはり以前の幽々子は剣を握っていた事もあったようだ。
しかし今はやっていないし、やるつもりも無いという。いったい彼女は何故、剣を辞めてしまったのだろうか。

「あの、幽々子様」
「なあに?剣の稽古はやらないわよ」
「いえ…その、宜しければ理由をお聞かせ願えませんか?」
「理由?」
「はい、何故今ではその様に剣を拒まれるのか、その理由を。
 もしかして、幽々子様は剣はお嫌いでしたか?」
「…そんな事はないわ。道具としての剣はともかく、妖忌や貴方の振るう剣は好きよ。
 それに自分で剣を振る事も決して嫌いなわけではなかったわ」
「では、どうして剣をお辞めになってしまわれたのです?」
「………そうねぇ…う~ん。………わかったわ。このままでは貴方も収まりがつかないでしょうから特別に教えて
 あげるわね。でも、1つ約束して頂戴。この事は絶対に他言しないと」
「はい、お約束します。この二刀に誓って、決して他言致しません」
「ええ、お願いね。何せこれは妖忌にも教えていない事なのだから」
「師匠にも………ですか?」

妖忌といえば妖夢の祖父にして師であり、同時に先代の指南役でもあった人物だ。
その彼にすら教えなかった事を自分に教えてもらえる。
それはとても名誉な事だし、幽々子に信頼されていると感じられて嬉しくなる。
妖夢は思わず笑みをこぼしそうになったが、いやいやこれは真面目な話しなのだから浮かれている場合ではないぞ
と気を取り直して幽々子の言葉を待つ。

「私が剣を辞めたのは、体の事が原因なのよ」
「………お体の事、ですか?」

体…というと、もしかして幽々子は以前にどこか怪我をして、その影響で剣を振るえなくなったのだろうか。
それとも妖夢が知らなかっただけで持病か何かがあるのだろうか。
亡霊という存在がどういったものかは良くはわからないが、もしかしたらそういう事もあるのかもしれない。
もしそうだったとしたら、剣を勧めてしまったのはとても失礼な事ではなかっただろうか。

「幽々子様、そのような事情があるとも知らずに剣を勧めてしまいました事、どうかお許し下さい」
「いいのよ、妖夢」
「ですが………」
「気にしないで。ほら頭を上げて、ね。それにそこまで大した事でもないのよ」

謝る妖夢にそう声を掛けると、幽々子は立ちあがり

「そうね、実際見てもらった方が分かりやすいと思うから、ちょっと準備してくるわね」

と言い残し廊下を歩いて行ってしまった。



数分後、袖を襷掛けで捲り上げた幽々子が手に1振りの刀を持って戻ってきた。
その刀は幽々子用にあつらえた物なのだろう、全体的に豪華な造りで鍔や鞘には桜の花びらや蝶といった紋様が
あしらわれている。
彼女はそのまま庭に降り立つと、妖夢の見守る前でスラリと刀を抜き放つ。
そして上段に構えを取る。
その動作はまるで舞の様でありとても優雅で美しく、また剣士としての視点から見てもその構えからは幽々子の
剣の腕前の高さを伺い知ることができた。

「妖夢、ちゃんと見てなさいね」

そう言うと幽々子は表情を引き締め、剣を握る手に力を込め

「ハアッッ!!」

気合とともに一気に剣を振り―――――――――

―――下ろさなかった。
いや、正確には途中までは振るわれた。
だが、刀身が彼女の目線と同じ高さになるくらいの位置でピタリと止まっていた。



「………………と、そういう訳なのよ。わかったかしら?」

幽々子はそのまま納刀して妖夢に向き直る。
しかしながら妖夢には何が何だかさっぱりわからなかった。
あの位置で剣を止めた事が剣を振れない理由になるのだろうか。
確かに剣を振りきってはいなかったが………。

「あの、申し訳ありません幽々子様。私には何が何だか、さっぱり分からないのですが………」
「あれ~?どうしてよ~」
「その、あの位置で剣をお止めになったのには何か訳があるのでしょうか」
「だからぁ、それが剣を辞めた理由なんだってば」
「…ええと、皆目見当も付きませんので、出来れば詳しくご説明願えないでしょうか」
「ええ~!?口で言いたくないからわざわざ振ったのよ!?」
「すみません~、でも本当にわからないんですよ~」
「…むぅぅ」

幽々子は頬を膨らませ、腕を組んで妖夢を睨みつける。
心なしか膨らんだ頬が赤い様だが………。

「もうこれ以上はダメよ。後は自分で考えなさい」
「そ、そんなぁ~。幽々子様~」
「ダメなものはダメなの~」

そう言うと幽々子はさっさと縁側へと上がってしまう。
妖夢は、その後姿を見送る事しか出来ず―――――――――



「おっぱいよ」

「紫!?」
「紫様!?」

突然2人の間にスキマが開くと、中から紫が姿をあらわす。
別段こうやっていきなり出てくるのは毎度の事なので、2人ともその程度では驚かない。
驚いたのは紫が口にした言葉の方で………。

「あ、あの、紫様。何故そこでおっ…その言葉が出てくるのでしょうか?」
「あれ?幽々子が剣を辞めた理由が知りたいじゃなかったの?」
「ええ、そうなのですが、それとこれにどのような関係が…?」
「だからね、幽々子が剣を振れないのは、おっぱいが邪魔だからなのよ」
「………………はい!?」
「もう、紫ってば。恥ずかしいからあんまり言わないでよ」
「いいじゃないの。そんなに立派な物持ってるんだから、自慢したっていいくらいよ」
「それは貴方も同じでしょう?まったくもう………。
 あ、ごめんね妖夢。そういう訳なのよ。どうも口で言うのは恥ずかしくって」
「は、はぁ………」

照れ笑いを浮かべる幽々子。
一方の妖夢は、余りに予想外の答えに呆然としていた。

「それにしても幽々子が『紫~、剣を振ると腕がおっぱいにあたって痛いの~』とか言ってきた時には驚いたわ。
 亡霊になってからでも成長するものなのね」
「しょうがないじゃない、他に相談出来そうな人がいなかったんだから。あと、私は胸って言ったわよ」
「どっちにしても同じ部分なんだから、大してかわらないでしょうに。
 まあ、妖忌は男だしね。わからないのも無理は無かったわ。でも、妖夢もわからないとはねぇ………」
「う~ん、私も妖夢ならわかってくれるかな、って思ったんだけどね~」
「………え」

そう言った幽々子と紫は、揃って妖夢の方を見る。

「ああ、でもわからないのも仕方ないのかもね。妖夢にはちょっと早すぎたんじゃないかしら?」
「そうね~、紫の言う通りまだ早かったのかしらね」
「………………え、と」

2人の視線が自分に、いや正確には自分の胸部に向けられているのを感じ、妖夢は縮こまる。

「でも、これくらいでいいんじゃないかしら。妖夢は剣士なんだから、剣が振れなかったら困るでしょうし」
「確かに、今の妖夢から剣を取っちゃったら何も残らないしね。
 でも、いいわね妖夢は。私もそこまで小さくなくてもいいけど、せめて剣が振れるくらいの大きさのままで
 止まって欲しかったわ」
「………………………」

そう言って2人はまた妖夢の胸に注目する。

………妖夢はなんだか居たたまれなくなってきた。
体の一部がちょっと小さいというだけで、どうしてこんな思いをしなければならないんだろうか?
だいたい『そこまで小さくなくてもいいけど』とは何事だ。自分がちょっと…いやかなり大きいからって。
そんな事を考えている妖夢をよそに、2人は話しを続けている。

「それにしても貴方は剣が好きだったわよね。自分から妖忌に頼んだんでしょう、剣を教えてって」
「ええ、そうよ。体を動かすと御飯が美味しくなるからね」
「………ああ、そういう理由だったのね。あ、もしかしてそうやって運動と食事をしてたから、おっぱいが
 そこまで育ったんじゃないかしら?」
「そうかしら?半分くらいは、紫のせいみたいな気もするけどね。
 でもそうだとすると、妖夢もそのうち大きく なっちゃうって事よね。
 どうしよう妖夢、貴方も剣が振れなくなっちゃうわ」
「大丈夫よ、幽々子。まだまだ先の話しだから。
 大体そうなるって決まったわけじゃないし、私はたぶんそんなに大きくならないと思うわ」
「そう、そうよね。今の妖夢を見て考えると、まだまだずーっと先よね。
 それに、私も妖夢ならきっと大きくなってもちっちゃいままでいてくれそうな気がするわ」
「でしょう?まぁ、もしそうなっても私が境界を弄って何とかしてあげるわ。他ならぬ親友のためだしね」
「ええ、その時はよろしくね」
「………………………」

………なんだっていうんだこの2人は。
妖夢とて剣士ではあるが、同時に少女でもある。
魂魄家の女性がどの程度大きくなる家系なのかはわからない。しかし今でもその部分の成長に効果があるといわれ
ている体操をしたり、食品を摂ったりと、人知れず努力はしている。
そうでなくとも成長すれば自然と大きくなっていくものだろう。
周りには大きい者が多いが、自分には未来の可能性という余地がある。
その可能性に夢を馳せ、心躍らせるのは自由だろう。

………だというのに、目の前の2人はそれすらも許さないつもりだろうか。
妖夢は何だか泣きたくなってきた。

そんな彼女の手を幽々子が握り締める。
そして

「そういう訳だからね、妖夢。あなたはずっとちっちゃいままでいてね。それで、私の分まで剣を頑張って頂戴」

止めを刺した。



「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」



「あれ~妖夢?」
「あらあら、感激の余り泣きながら走って行っちゃったわね。うんうん、美しい主従愛だわ」
「う~ん、でも困ったわねぇ。妖夢がいないと晩御飯の買物が………」
「そうね、じゃあウチに食べに来る?」
「いいの?じゃあ、お言葉に甘えてそうするわ」
「ええ、ついでに久しぶりに一緒にお風呂に入りましょうか?幽々子の成長ぶりも確かめておきたいし」
「え~、紫と入るとそれだけじゃすまないじゃないの」
「何言ってるの。そんなの親友同士のスキンシップなんだから当たり前よ」
「そのせいでこんなに大きくなっちゃったような気がするのよね…。まぁ、今更気にしないけどね」
「そうよ。それじゃあ、行くわよ。1名様ごあんなーい」

紫の声とともにスキマが広がり2人はその中へと姿を消す

そうして、白玉楼に静寂が訪れた。






























深夜、というよりもう明け方に近い時間の白玉楼。
幽々子が自室の布団でぐっすりと眠っている。

あの後、マヨヒガから帰ってみると、妖夢はまだ戻っていなかった。
若干心配ではあったが、半分とはいえ幽霊なのだから夜中に活動していても不思議ではないし、疲れていた
ので結局そのまま眠ってしまった。

そんな幽々子の部屋に小さな影が1つ、静かに入ってくる。彼女の従者、魂魄妖夢が帰ってきたのだ。

しかし、いくら従者でありかつ同性であるとはいえ、主が寝ている寝所に忍び込むのはいかがなものか?
………と普段の妖夢ならば思うだろうが、今の彼女にはそんな事は関係ない。
そのまま眠る幽々子の側に立つと、布団をめくりさらには寝巻きの前をはだける。
それでも幽々子が起きる気配はまるでない。
よほど紫とのスキンシップが激しかったのだろう。久しぶりだったらしいし。

ともあれ、今妖夢の前には2つの大きな塊がある。

――――――そうだ、こんな物はただの塊だ。
だが、これこそが諸悪の根源。
こいつのせいで幽々子様は剣を辞めてしまい、自分は心を傷つけられた。
………ならば、どうする?
決まっている。悪は断たねば。
今切らねば、またいつか害を成すに違いない――――――

そこまで考えた妖夢は背中の楼観剣を抜き放つ。

「この楼観剣に―――」

そして構えを取り

「斬れぬものなど、あんまり無い!!」

目の前の“悪”に向かって切りかかった。
“収納術”のおまけで幽々子様をネタに走らせたのでそのお詫び(?)として。

妖夢は成長するといろいろスゴそうな気がします。
今のままの方がいい、って方も多そうですが…。



※誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます。
くると
コメント



1.名無し妖怪削除
妖夢不憫だなぁ…と思ってたら、ちょ、妖夢何血迷ってるの妖夢!?

>剣士として視点
>夜中にに活動
誤字や脱字の類かと
2.グランドトライン削除
そしてこの後、幻想郷中の『悪』を断ちまくるという訳か……
3.名無し妖怪削除
妖夢それはダメだぁぁぁぁぁ