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「ここ、ですか」
人里を少し離れた所にそのお屋敷はあった。
「旧”西行寺”家。主がいなくなった後、住む人、住む人がことごとく謎の死を遂げたという呪われた家……」
その家の門には今、『魂魄』という表札が掛けられていた。
「人が寄り付かなくなったこの家に住む人が現れるとは……?! この苗字は……よし!」
取材用のメモ帳を握り締めると、私はそのお屋敷の中に一歩踏み出した。
「ごめんくだ「何者だ!!」ひっ!!」
いつの間にか厳つい顔をした老人が隣りに来ていた。正直、肝が冷える。
「……えーと、失礼しました。私はこういうものです」
いつも用意している名刺を渡す。
「……新聞記者か、名を名乗っていなかったな。わしの名は魂魄妖忌。改めて、ここに何の用だ?」
「もちろん記事になりそうなものを探しに、ですよ」
「話すことは何もない、出て行ってくれ」
まあ、当然ですね。でも……
「……その昔、西行寺という名家があった、その家には代々仕えていた庭師の一族がいた。
それが”魂魄”家。しかし、西行寺家が滅ぶとともにその一族は何処へと消えた……」
「――?!」
「なぜ、その魂魄さんがここにいるのでしょうか? しかも、今更になって」
「……庭師の名など残されないはずだが?」
「私は気になることはとことん調べる派でして」
「……わかった、話だけでも聞いてやろう」
「ありがとうございます」
……色々聞き出す事は出来そうだけど。こりゃあ”はずれ”の可能性も出てきたなぁ。
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魂魄氏は、私を招かれざる客であるにも係わらず、客として扱ってくれた。
お礼を言うと、当然の事だと返事が返ってきた。
一息ついた後、私は話を切り出した。
「では、最初の質問です。なぜ、今更戻ってきたのですか? 今まで貴方の一族は何処に住んでおられたのですか?」
「……わしが関係ない人だとは思わなかったのかね?」
「……白状しましょう。確かに関係のない人かもしれないと、私も考えました。そこで鎌をかけてみたんですよ。
西行寺家とその庭師一族の話、それに貴方はわずかですが反応しました。そこで、確信したんです」
「見事に嵌められた訳、か。……わしら一族が今何処に住んでいるかは話すわけにはいかない。
ただ、向こうが落ち着いてきたのでわしがここにやって来た。それだけじゃ」
……いくらなんでも落ち着くまで長すぎではないだろうか? ……そこを聞くのは野暮かな、次の質問は決まっている。
やっと、本来の取材目的に近づいてきたかな。
「ありがとうございます。では、二番目の質問です。ここに貴方がやって来た事と、今までに起こった家主の謎の死。
もしかしたら関係があるのではないですか?偶然ではなく、この家に秘密があるのではないですか?」
「……住んだ人達が全て死んでいると言う話はこの家にやって来た時に近所の住人から聞いてはいる。
……では、逆に問おう。なぜそう思う?」
「貴方達は”庭師”の一族と聞きます。そして、謎の死が起こっているのは決まって庭の”ある場所”です」
「……」
「記録によるとその場所には昔、大変立派な桜があったとあります。
ただし、その桜は立派であると同時に人の命を奪う妖怪桜でもあったとも書いてある」
「だが、その桜はもうないのだろう?」
「ええ、記録には桜がなくなった後、西行寺家が滅んだとあります。でも、こういう噂があるんです。
毎年春のこの時期、夜に青白く光る大木が現れると言うね」
これで、私が今まで手に入れた情報は出しつくした。後は、答えを聞くだけだ。
「西行妖」
「?」
「その桜の名前じゃよ。…………お主は、妖怪・幽霊を信じるか?」
「……信じてるとも言えますし、信じてないとも言えますね」
……やっぱり、また”はずれ”、か……
それでも私は記録するのみ。
最後まで、目をそらさずに。
「ついて来たまえ、庭を見せてやろう」
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庭の周りには綺麗に選定された桜が、庭の中央には不自然に穴の開いた場所があった。
あそこが桜……西行妖のあった場所……か。
それにしても綺麗だ、さすがは庭師、と言った所か。一族の血は衰えていない、と。
「この庭を見て、どう思うかね?」
「綺麗ですが、やはりあの中央の穴が気になりますね」
なぜ今まで穴を埋めなかったのか、事件の資料を見る度に思っていたけど、しなかったではなく、出来なかった、のか?
「……まさか、その桜は今もまだ何処かに?」
「……あるとも、ないとも言える」
……どういう意味だろう?
「一つ、昔話を聞かせてやろう。その昔、西行寺家が滅んだ、真実の話を……」
その話は一見信じがたい不思議な話だった。
人を死に誘う妖怪桜と心優しき異能の娘の悲しい話
遥か昔それは見事な桜があった
悲劇は桜が好きな西行寺の歌聖がその桜の下で死んだことから始まる
その後、桜またはその歌聖を慕っていた人が桜が満開の時その根元で死ぬようになった
多くの血を吸った桜はいつしか妖怪桜となり桜が満開になると人を死に誘うようになった
その桜が満開の時、人は死にたくなってしまう、その桜の木の下で……
このままでは人以外の生物や果てには妖怪も巻き込んでいくことになるだろう
自分の力に憂いを感じていた西行寺の一人娘は決心した
桜の力を”自分ごと”封印する……これで桜は力を発揮できなくなる、自分の力も、また……
さらに彼女は知り合いの妖怪に依頼をした
自分の封印は不十分かも知れない
だからこの桜を”生きている人が決して来れない場所”に移して欲しいと
そして、彼女は桜を封印……人柱となった
妖怪は約束を果たし、桜は何処へと消えた
その後、跡取りもいなくなった西行寺家は自然に滅んでいった
それが、西行寺家の滅んだ、真実の話の全てだった。
魂魄氏の話はまるでその当時を見てきたかのような臨場感があり、私はただ、ペンを走らせることしか出来なかった。
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話も終わった頃には、あたりが薄暗くなりだしていた。
「……すっかり話し込んでしまったようだな。どうするのかね? その”噂”とやらを確認するのか?」
「?! 止めないんですね?」
「お主の瞳を見れば分かる。……どうせ止めても聞かんじゃろう」
よくわかってらっしゃる。
そういえば……
「なんで封印されているはずのその桜がこの時期に限って現れるんですか?」
「それはわしにも分からないが……おそらく、春のこの時期だから、じゃろう。桜の力が一番強い時期じゃからな。
力は封印されたものの、春の力が封印に揺らぎを作るのじゃろう」
なるほど……あれ?
「力は封印されているのですか? 死者が出ているのは桜の力では……?」
「それは桜が封印されている場所が……おっと、失言じゃった」
ちぇ、惜しい。
「教えてくれても――?!」
急に、空気が変わったような気がした。庭のほうが青白く光って見える。
……鼓動が速くなっていくのがわかる。魂魄氏は?
「……よう……む? ゆゆこ……様?!」
――え? 誰……?
ざぁ――――
思わず、庭のほうを見ると、噂とは違う光景が目の前に見えた。
はらはらと舞う大量の桜の花びら。
木の根元には膝をつき、疲れたような顔の銀髪の少女。傍には大きい人魂らしきものも見える。
そしてその少女を守るように木の前に浮いている――キレイ――青い服にピンクの髪が映える少女。
彼女の周りにも人魂、そして青白く光る蝶が――ウツクシイ――いる。
そして、満開ではないものの、見事な――アソコニイッテミタイ――。
! だめだ! このまま見ていては――ズットミテイタイ――だ……め……アソコマデイケバズットミテイラレル――
くっ……ガマンナンカシナクテモイイ――…………ナニモコワクナイ――――
……………………………………………………
斬っっ!!!!!!!!!!!
「!!!!」
今、自分はいったい何を……
「……すまぬ。お主を危険にさらしてしまった」
魂魄氏の手にはいつの間にか持ってきたのか一振りの刀があった。
自分の位置を確認してみる。もう何も見えなくなっていたが、あと一歩であの桜があった場所に着く位置だった。
「……いえ、私のほうこそお礼を言わなきゃいけないようですね。助けてくれてありがとうございます」
「なに、当然のことをしたまでじゃ……それにこれ以上の死をお嬢様も望んではおるまい」
「……?」
「心を囚われていたのはわしも同じじゃしな……」
そう言った魂魄氏の背中は、どこか、寂しそうに見えた。
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「色々ありがとうございました」
あたりはすっかり暗くなっている、終電に間に合うかぎりぎりの時間だ。
「本当に送らなくてもいいのかね?」
「はい、それどころかお話のお嬢様のお墓の場所まで教えていただいて……感謝の方が大きいです」
「骨は埋まっていないんじゃぞ?」
「わかっていますよ。それでも意味はあります。仏壇にだってお骨があるわけではないでしょう?」
「ふっ、一本取られたか……行くのか?」
「はい、それではまた今度!」
私はそう言うと返事は聞かず駆け出した。終電に間に合わなかったら大変だ。
記事には出来ないが皆にはいいネタ話になりそうだ。
途中、少し後ろを振り返ってみる。まだ驚いた顔をしている魂魄氏が見えた。
私は魂魄氏と”その後ろに控える大きい人魂”に向かって手を振ると、再び駆け出した。
春の空気が一層濃くなる時期の、ある夜の出来事だった。
おしまい
こういう妖忌は久しぶりに見たかもw
>もう何も見えないく
見えなく、では?