ここは紅魔館。
誇り高き吸血鬼と誇り高き諸々が住む場所。
ここでは子供が寝静まる夜に宴が行われる。
そう、己のプライドを賭けた宴が。
『そろそろ勝負がつくわね。』
『大丈夫かしら?私が本気を出せば簡単に上がれるのよ?』
『ふふっ、例えお嬢様方が相手でも私は手加減するつもりはありませんからね。』
『気の力を見せて差し上げます。そう簡単にはやられませんよ?』
『伊達に図書館の司書を務めておりません。心理学の本を読んだことがありましてね・・・。』
『もう、みんな構えすぎだよ!早く始めようよ!』
『そうね・・・じゃあ、これで終わりにするわよ!!』
せーーーの!!
タケノコタケノコニョッキッキッ!!
・・・1ニョキッ!
2ニョキッ!
さ、3ニョキッ! 3ニョキッ!
「「ああっ!」」
「ぱっちゅぁあっ!レミィと咲夜がドボンね!」
「なんですか、その妙な喜び方は。」
「お、お嬢様!申し訳ございません!」
「ふ、ふん、まさかこんなことになるなんてね。」
「というわけで、今回の最優秀者はパチュリー様ですね。」
「まぁ当然の結果ね。
さて、ドボンな2人の罰ゲームはどうしようかしら?」
「ぱ、パチェっ!私達、友達よね!?」
「私はその従者ですよね!?」
「咲夜さん、意味わかりません。」
「ぱちゅちゅちゅちゅっ・・・決まったわ。」
「「ひいいぃっ!!」」
そして次の日・・・
「ふんふ~ん♪」
午後のお茶の準備をしている少女が一人。
作り置きしておいたクッキーと紅茶の葉を戸棚から取り出している。
とても上機嫌に、そして踊るように部屋を行き来している。
人形たちがかわいらしく主人の動きに合わせて飛んでいく。
人形と共にいる少女、アリス・マーガトロイドだ。
(こんこんこんっ)
「あら?誰かしら?」
突然の訪問者。
でも部屋はばっちりキレイ。
ちょうどお茶の準備をしていたところだから、簡単なおもてなしもできる。
鏡に向かってスマイルスマーイル・・・よし、完璧。
「はーい、ただいまー。」
(がちゃっ)
さわやかにドアを開け放つ。
室内にいたためか、外から差し込んでくる光が眩しい。
外の空気がとてもさわやかで気持ちいい。
おっと、お客さんの前でこんなことに意識を向けていたらいけない。
お客さんの前・・で・・は・・・。
「ご、ごきげんよう、アリス・マーガトロイド。」
「ごきげんよう。」
「・・・・・」
『猫の着ぐるみを着て生羽が生えた少女』と『首輪と猫耳等をつけたメイド』が現れた。
(ばたんっ)
アリスは逃げ出した。
「ちょ、ちょっと、無視しないでよ!」
「開けて!お願いだからこんな格好で外に放置しないで!」
(がちゃっ)
「ご、ごめん・・・その・・・恥ずかしい格好であんまり大声出さないで。
とりあえず上がってちょうだい。」
何げにひどい言い方だった。
とりあえず2人を家に入れる。
もうわかっていると思うが、レミリアと咲夜だ。
2人はなんともおもしろい格好をしていたのだが、本人達は快く思っていないようだった。
何もないのも何か気まずいので、とりあえず2人に紅茶とクッキーを出した。
「で、今日は随分と個性的な格好ですこと。」
「幻想郷で個性が無い格好を知りたいところだけれども・・・とりあえず聞いて。」
「実はね・・・。」
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
「2人の罰ゲームは、まずはこれを着ること!」
「これは猫耳?あと、首輪やら尻尾やらブーツやらグローブやら・・・危ない格好ですね。」
「ちょっとパチェ。なんで私は咲夜とは違うの?」
「私も最初はペアルックがいいかなって思ってたんだけどね・・・
レミィはそれよりも着ぐるみの方がいいと思うの。
顔だけ残してあとは猫・・・かわいいわね。」
「ちょっ、よだれっ!」
「そして明日はこれを一日中着て、どこでもいいから外出してきなさいな。
以上が罰ゲームよ。もし、約束を破ったら後が大変だから気をつけてね。」
「「ひぃいぃっ!!」」
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
「というわけなの。」
「ははぁ、なるほどね。それは大変ですこと。」
「まるで他人事ね。」
「他人事よ。で、なんでウチにきたの?霊夢のところには行かないの?」
「バカね。霊夢のところに行けばいろんな奴が集まるじゃない。」
「確かにそうね。」
「だから訪問者が滅多にこないアリス邸なら問題無いと私とお嬢様は考えたのよ。」
「悪かったわね。こんなヘンピなところで。」
「だから今日はよろしくお願いします。」
「お願いね。」
「はいはい、こちらこそよろしく。」
苦笑しながらアリスは受け入れた。
正直アリスは滅多にない客に驚きながらも楽しさを感じていた。
何せ会う機会など飲み会程度で、話したこともあまりない。
とりあえず何から話そうかと考えたが・・・
「それにしても・・・かわいい格好ね。」
やっぱり第一印象が目に付く。
幻想郷でも「お前らどこの絵本住人だ!?」と思ってしまう輩はそうはいないだろう。
咲夜はまぁ・・・幻想郷っぽいが、レミリアはなんだか母性をくすぐる格好だ。
例えるなら幼稚園の劇の発表会で衣装を着た子供。
もし神綺がアリスのこんな格好を見たら鼻血を出しながらビデオで録画していただろう。
いや、それだけでは済まないかも。
「だってよ、咲夜。やっぱりあなたはかわいいわね。」
いや、咲夜じゃなくてお嬢様の方ですよー。
なに従者に話を向けようとしてるの。
確かに咲夜もかわいいけど、ちょっと違う。
何が違うって、かわいいって言う人が違う。
多分神綺様ならどっちもOKだけど。
「お、お嬢様、やめてください。恥ずかしいです。」
「本当にかわいい・・・このまま一緒にベッドインしたいくらいに・・・。」
「はぅっ・・そ、そんな耳元で囁かないで下さい・・・。」
咲夜が顔赤らめながら震えだした。
アリスもそんな彼女がとてもかわいらしいと感じたのだが・・・
猫の着ぐるみを着た少女が猫耳メイドを口説くというおかしな光景には違和感を感じる。
メルヘンな格好でそれはないだろう。
このまま人の部屋でくんずほぐれつされてしまうのだろうか。
「ま、それは今夜までお預けにしておくわ。楽しみは後でね。」
「私だけ置いてけ堀でどうしようかと思ったわ。」
「でも、私がこのような行動に至ったのにはきっとアリスが関連しているわ。」
「なんでよ!?」
「いい?ここは森の中に建つ屋敷なのよ。」
「うん。」
「ラブホみたいじゃない。」
「え!?」
衝撃の一言。
まさか猫の少女に自分の家をラブホ扱いされるとは夢にも思わなかった。
普通では考えないだろうが。
「ちょ、ちょっとじゃあ魔理沙はどうなのよ!?」
「魔理沙は普通に家じゃない。
あなたの家は無駄に広くて小奇麗だからラブホに見えるのよ。」
「だ、黙って聞いてりゃいい気になりやがってこの猫娘!
アンタの城だってラブホみたいなものじゃない!」
「な、なんですって!?私のお城はラブホじゃないわよ!」
「都会ではラブホの事をお城って言うのよ!このラブホ住人!」
「ら、ラブホ住人!?それはアンタだって同じでしょ!!」
お互い何故か傷つけあい傷つきあう言葉のやり取りを交わしていた。
ただ一人参加できない咲夜はテーブルから離れて、近くにあった人形で遊んだ。
「ちょっと待ちなさい!」
「な、何よ!?」
「咲夜が人形で遊んでいるわ!いいえ、じゃれてるわ!」
「だから何よ!?」
「かわいいじゃない!」
「知らんわっ!!かわいいのはアンタの方だろが!!」
「いいえ!!咲夜の方がかわいい!!」
「アンタだ!」
「咲夜だ!」
何故か咲夜のことに関して反応が素早いレミリア。
アリスとラブホだなんだと言い争っていたことは、もうどうでもいいようだ。
そして話題は咲夜とレミリアのどちらの方がかわいいかという方向へ。
「見なさい!猫耳メイドの咲夜が尻尾を振りながら人形を手に取る姿を!
超ぷりてぃー!見るもの全てが鼻血ものよ!」
「そんな作り物の尻尾が動くわk・・・動いてる!?
ちょっと動いてるわよレミリアさん!?」
「ちょっ、マジこれヤバくねっ!?ヤバくねっ!?咲夜かわいすぎじゃねっ!?」
「聞けよっ!なんで尻尾が動いてるのよ!?魔法!?魔法なの!?」
「あれ?なんか咲夜が尻尾を・・・本当に振ってる!?」
「気付いてなかったの!?敏感なのか鈍感なのかハッキリしなさいよ!」
「あ、咲夜が動いた!」
今度は二つの人形をそれぞれ両手に持った。
そして何かの掛け合いのように人形を動かしている。
どうやら一人で人形劇を始めたようだ。
「・・・意外な趣味ね。」
「咲夜って結構かわいいもの好きなのよ。」
「お堅いメイドさんだとは思っていたけどねぇ。」
「表面上はそうよ。これは覗き見をした私だけが知っている咲夜の姿なの。」
「はいはい、良いご趣味ですねお嬢様。」
「よせやい照れるぜ。」
「褒めてないわよ!」
「あ、また咲夜が動いたわよ!」
咲夜は突然人形遊びを止めて人形をすぐ傍にあった台の上に置いた。
すると目つきが突然鋭くなった。
それは攻撃的な目。
触れると爆発するような危険なオーラ。
咲夜はナイフを静かに取り出して周りを警戒した。
そしてナイフを両手に持った状態でアリス達の所に戻ってきた。
「どうしたの、咲夜?」
「さっきから私を舐めるように見るイヤらしい視線を感じました。」
「あら、私の咲夜にそんな視線を飛ばすのは誰かしら?」
「・・・・・・。」
「犯人は相当なエロね・・・犯人はそう・・・アリスね!」
「アンタだ!」
そんなこんなで楽しい時間も過ぎていき、お別れの時が来た。
もっと一緒にいたいという気持ちもあり、みんな少し寂しげな表情なのだ・・・きっと。
アリスは玄関先で客の帰りを見送る。
「また是非遊びに来て、とは言わないわ。
またその格好で来られたら噂になりそうで怖いし。」
「そんなだから友達できないのよ。まぁでも普通に遊びに来たいわね。
この森は静かで居心地がいいし。あなたと話していると楽しいし。」
「まぁそう言われると悪い気はしないわね。適当なもてなししかできないわよ。」
「ふふっ、素直じゃないわね。また咲夜と来るわ。
次はちゃんと予約するからね。あと、部屋にはプラネタリウムをよろしく。」
「ラブホじゃねぇっ!!」
結局ラブホ扱いされていた。
こうして2人の猫は自分の住処へと帰っていった。
だが、空を飛んでいる猫の姿はどこか違和感のあるものだった。
「私も紅魔館に遊びに行こうかしらね。そのときは私も猫の格好を・・・」
その瞬間鼻血を出して喜ぶ神綺様の顔が浮かんで寒気がした。
やっぱり普通が一番であるとアリスは思った。
これは間違いなくうちの学校の流行№1