天才、その言葉は私の為にある。
ありとあらゆる薬を作ることができる月の頭脳、自分で言うのもなんだけど、私は過去その言葉を裏切る事はなかったと言いうる。どんな難解な計算式も、どんなに複雑な論題も、私の前では障子紙に等しい強度しか持たなかった。
例えそのせいで大切な人を不幸に追いやったとしても、例えその結果遠慮無く話し合える友を作れず、一人研究に打ち込む事になってしまったとしても…
私は、今までありとあらゆる薬を作ることに成功してきたのだ、そう、蓬莱の薬ですらも。
そして、これからもそうである…はずだった。
だけど、私は今巨大な壁にぶつかっている。過去一度も遭遇したことのない、そんな巨大な壁に。
眼前で爆発が起き、試験管が砕る、破片が突き刺さる。半分溶解した材料が、周囲へと飛び散った。
熱い、痛い、しかし私は屈しない、今の失敗は五度目、周囲は様々な色の飛沫に塗装され、床は元の色などわからなくなっている。だけど、ここで負ける訳にはいかないのだ。
失敗するわけにはいかないのに、なのに何でうまくいかないの!
非論理的な怒りが思考を駆けめぐった。
愚かなこと、今まで自分が蔑んできたような思考をすることになるなんて…それほどまでに私は追いつめられている。認めたくない、だけど認めざるを得ない?
いえ、そういう訳にはいかない、月の頭脳、天才、その言葉は伊達ではない。これしきのこともできずに、どうやって姫を守ろうというの?
諦めない、屈する訳にはいかないのだ。
私はまた姫を不幸にしてしまった、姫は笑って許してくれた、だけど…まだ布団から出られないでいるのだ。姫を幸せにしなければならない私が、それどころか全く逆の事をしてしまったのだ。
姫は死なない、死ねない、その信じがたいほど不幸の原因を作ったのは私、そして、その罪を、自らもその運命へと追いやり、そして死ぬまで…いえ、永遠に共に過ごすことで償おうとしている。
だけど、だけれどそれだけでは足りないのだ。姫に笑って欲しい、心の底から笑って欲しい…さっきみたいな引きつった笑みじゃなく、心の底からの笑顔をみせて欲しい。
それは私の我が儘、自分の犯した罪を償う為の我が儘…だけど、それと同時に義務なのだ。姫と共に永遠を過ごすと誓った私にとっての義務。
そしてもう一人、私は大切な人を犠牲にしてしまった。私を師匠と慕う、可愛い弟子。暗い過去を持っていても、私の前ではいつも笑ってくれる優しい子。
あの子は、膝をつく瞬間まで笑っていた、笑っていてくれた。私の方を見て、恨みの一言も言わずに、にっこり笑って倒れ込んだ。
最後の最後まで私を信じている眼だった。なのに、私は…
ううん、今は自己嫌悪をしている時ではない、自分を責める時間があるのなら先へ進もう。
散らばった材料を片づけて、もう一度やり直しだ。
私は月の頭脳、これしきのことができないはずがない、そう…できないわけがない!
新しい試験管を用意して、すり鉢に材料を入れる。力を込めて混ぜ合わせる、ごりごりという音が周囲に響いた。
続いて、いくつかの材料を取り出し、メスで適切な大きさに切る。アルコールランプも燃料は十分。
さぁ今度こそ…
「永琳さま…」
いざ試験管にそれらを入れようとした瞬間、私は聞き慣れた声を耳にし、止まった。振り返れば、そこには二本の耳が揺れていた。
「てゐ?」
いつもは陽気な彼女は、うつむき加減にこちらを見る。
ああ…私を責めに来たのか…
そんな思考が脳裏に浮かんだ。
それは仕方がない、当然のこと。私にとって大切なひとは、彼女にとっても大切なひとなのだ。ああ…好きなだけ罵って、この身を切り刻んでくれたっていい…だから…
「…もう、いいんです。もういいんですよ永琳さま、もうやめて下さい」
だけど、聞こえた言葉は、涙を飲み込んだ言葉はとても静かだった。私は手を止める。
「永琳さまが頑張っているのは判りましたから…だからもうやめて下さい、お願いですから…」
うつむいているその表情は読めない、だけど、床には小さな水滴が一つ二つ…いつも無邪気なその声は、今日は重く沈んでいた。
「てゐ…」
試験管が手から滑り落ち、床へと向かう。乾いた音が響いて、周囲にガラス片がまき散らされた。
「お願いです…お願いですから…」
「お願い、やらせて。今度こそは成功させてみせるから」
懇願に懇願で応えた。てゐの言葉は、私の言葉に打ち消された。
一瞬の沈黙、その僅かな時間の後、彼女は意を決したらしく顔を上げる。
「なら…せめて…」
ゆっくり、ゆっくりと言葉を紡ぐ、重い空気が周囲に広がる。そしててゐは言った。
「お料理するんならちゃんとお鍋と包丁を使って下さい」
『おしまい』
ありとあらゆる薬を作ることができる月の頭脳、自分で言うのもなんだけど、私は過去その言葉を裏切る事はなかったと言いうる。どんな難解な計算式も、どんなに複雑な論題も、私の前では障子紙に等しい強度しか持たなかった。
例えそのせいで大切な人を不幸に追いやったとしても、例えその結果遠慮無く話し合える友を作れず、一人研究に打ち込む事になってしまったとしても…
私は、今までありとあらゆる薬を作ることに成功してきたのだ、そう、蓬莱の薬ですらも。
そして、これからもそうである…はずだった。
だけど、私は今巨大な壁にぶつかっている。過去一度も遭遇したことのない、そんな巨大な壁に。
眼前で爆発が起き、試験管が砕る、破片が突き刺さる。半分溶解した材料が、周囲へと飛び散った。
熱い、痛い、しかし私は屈しない、今の失敗は五度目、周囲は様々な色の飛沫に塗装され、床は元の色などわからなくなっている。だけど、ここで負ける訳にはいかないのだ。
失敗するわけにはいかないのに、なのに何でうまくいかないの!
非論理的な怒りが思考を駆けめぐった。
愚かなこと、今まで自分が蔑んできたような思考をすることになるなんて…それほどまでに私は追いつめられている。認めたくない、だけど認めざるを得ない?
いえ、そういう訳にはいかない、月の頭脳、天才、その言葉は伊達ではない。これしきのこともできずに、どうやって姫を守ろうというの?
諦めない、屈する訳にはいかないのだ。
私はまた姫を不幸にしてしまった、姫は笑って許してくれた、だけど…まだ布団から出られないでいるのだ。姫を幸せにしなければならない私が、それどころか全く逆の事をしてしまったのだ。
姫は死なない、死ねない、その信じがたいほど不幸の原因を作ったのは私、そして、その罪を、自らもその運命へと追いやり、そして死ぬまで…いえ、永遠に共に過ごすことで償おうとしている。
だけど、だけれどそれだけでは足りないのだ。姫に笑って欲しい、心の底から笑って欲しい…さっきみたいな引きつった笑みじゃなく、心の底からの笑顔をみせて欲しい。
それは私の我が儘、自分の犯した罪を償う為の我が儘…だけど、それと同時に義務なのだ。姫と共に永遠を過ごすと誓った私にとっての義務。
そしてもう一人、私は大切な人を犠牲にしてしまった。私を師匠と慕う、可愛い弟子。暗い過去を持っていても、私の前ではいつも笑ってくれる優しい子。
あの子は、膝をつく瞬間まで笑っていた、笑っていてくれた。私の方を見て、恨みの一言も言わずに、にっこり笑って倒れ込んだ。
最後の最後まで私を信じている眼だった。なのに、私は…
ううん、今は自己嫌悪をしている時ではない、自分を責める時間があるのなら先へ進もう。
散らばった材料を片づけて、もう一度やり直しだ。
私は月の頭脳、これしきのことができないはずがない、そう…できないわけがない!
新しい試験管を用意して、すり鉢に材料を入れる。力を込めて混ぜ合わせる、ごりごりという音が周囲に響いた。
続いて、いくつかの材料を取り出し、メスで適切な大きさに切る。アルコールランプも燃料は十分。
さぁ今度こそ…
「永琳さま…」
いざ試験管にそれらを入れようとした瞬間、私は聞き慣れた声を耳にし、止まった。振り返れば、そこには二本の耳が揺れていた。
「てゐ?」
いつもは陽気な彼女は、うつむき加減にこちらを見る。
ああ…私を責めに来たのか…
そんな思考が脳裏に浮かんだ。
それは仕方がない、当然のこと。私にとって大切なひとは、彼女にとっても大切なひとなのだ。ああ…好きなだけ罵って、この身を切り刻んでくれたっていい…だから…
「…もう、いいんです。もういいんですよ永琳さま、もうやめて下さい」
だけど、聞こえた言葉は、涙を飲み込んだ言葉はとても静かだった。私は手を止める。
「永琳さまが頑張っているのは判りましたから…だからもうやめて下さい、お願いですから…」
うつむいているその表情は読めない、だけど、床には小さな水滴が一つ二つ…いつも無邪気なその声は、今日は重く沈んでいた。
「てゐ…」
試験管が手から滑り落ち、床へと向かう。乾いた音が響いて、周囲にガラス片がまき散らされた。
「お願いです…お願いですから…」
「お願い、やらせて。今度こそは成功させてみせるから」
懇願に懇願で応えた。てゐの言葉は、私の言葉に打ち消された。
一瞬の沈黙、その僅かな時間の後、彼女は意を決したらしく顔を上げる。
「なら…せめて…」
ゆっくり、ゆっくりと言葉を紡ぐ、重い空気が周囲に広がる。そしててゐは言った。
「お料理するんならちゃんとお鍋と包丁を使って下さい」
『おしまい』
……で、ウドンゲとてるよはどうなったんですか?w
料理を劇薬に変えるとは
思わず吹いてしまったぢゃないDEATHか!
しっかし同じヤクザ医師、間違えた。薬剤師キャラでも某型月の“割烹着の悪魔”とは雲泥の差、正に『月と鼈』ですなw
…といふ事は、永遠亭の食事って誰が作ってんダロ?
器具 手鍋
材料 豆+ミルク
…これで何故か爆発させられる某アトリエみたいだなw
>SETH様
爆発は芸術ですww
>名無し妖怪様
ウドンゲは一週間寝込んだそうです。輝夜は、腹痛に耐えかね、妹紅に焼かれてリザレクションという最終手段に…
>二人目の名無し妖怪様
いるんですかっ!?マインゴットジーザスカミカゼ!!
>ルエ様
天才と天災は紙一重と…orz
>三人目の名無し妖怪様
アッザムのような凡人には、師匠の高度な思考はわからないのです…
>四人目の名無し妖怪様
私もでありますww
>卯月由羽様
どうしても、研究にうちこんでいる人って他に無頓着なイメージがありましてorz
>思想の狼様
ヤクザ医師って(笑)…うん、でも何か間違っていなさそうで怖いのですorz
>>永遠亭の食事って誰が作ってんダロ?
そこで私は家事万能な姫を主張してみたり♪
>翼様
ホントに何で爆発させられるんでしょうww