Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

竹林小話~できないわけ~

2007/06/05 08:38:02
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 天才、その言葉は私の為にある。
 ありとあらゆる薬を作ることができる月の頭脳、自分で言うのもなんだけど、私は過去その言葉を裏切る事はなかったと言いうる。どんな難解な計算式も、どんなに複雑な論題も、私の前では障子紙に等しい強度しか持たなかった。
 例えそのせいで大切な人を不幸に追いやったとしても、例えその結果遠慮無く話し合える友を作れず、一人研究に打ち込む事になってしまったとしても…
 私は、今までありとあらゆる薬を作ることに成功してきたのだ、そう、蓬莱の薬ですらも。
 そして、これからもそうである…はずだった。

 だけど、私は今巨大な壁にぶつかっている。過去一度も遭遇したことのない、そんな巨大な壁に。
 眼前で爆発が起き、試験管が砕る、破片が突き刺さる。半分溶解した材料が、周囲へと飛び散った。
 熱い、痛い、しかし私は屈しない、今の失敗は五度目、周囲は様々な色の飛沫に塗装され、床は元の色などわからなくなっている。だけど、ここで負ける訳にはいかないのだ。
 失敗するわけにはいかないのに、なのに何でうまくいかないの!
 非論理的な怒りが思考を駆けめぐった。
 愚かなこと、今まで自分が蔑んできたような思考をすることになるなんて…それほどまでに私は追いつめられている。認めたくない、だけど認めざるを得ない?
 いえ、そういう訳にはいかない、月の頭脳、天才、その言葉は伊達ではない。これしきのこともできずに、どうやって姫を守ろうというの?
 
 諦めない、屈する訳にはいかないのだ。
 私はまた姫を不幸にしてしまった、姫は笑って許してくれた、だけど…まだ布団から出られないでいるのだ。姫を幸せにしなければならない私が、それどころか全く逆の事をしてしまったのだ。
 姫は死なない、死ねない、その信じがたいほど不幸の原因を作ったのは私、そして、その罪を、自らもその運命へと追いやり、そして死ぬまで…いえ、永遠に共に過ごすことで償おうとしている。
 だけど、だけれどそれだけでは足りないのだ。姫に笑って欲しい、心の底から笑って欲しい…さっきみたいな引きつった笑みじゃなく、心の底からの笑顔をみせて欲しい。
 それは私の我が儘、自分の犯した罪を償う為の我が儘…だけど、それと同時に義務なのだ。姫と共に永遠を過ごすと誓った私にとっての義務。

 そしてもう一人、私は大切な人を犠牲にしてしまった。私を師匠と慕う、可愛い弟子。暗い過去を持っていても、私の前ではいつも笑ってくれる優しい子。
 あの子は、膝をつく瞬間まで笑っていた、笑っていてくれた。私の方を見て、恨みの一言も言わずに、にっこり笑って倒れ込んだ。
 最後の最後まで私を信じている眼だった。なのに、私は…

 ううん、今は自己嫌悪をしている時ではない、自分を責める時間があるのなら先へ進もう。
 散らばった材料を片づけて、もう一度やり直しだ。
 私は月の頭脳、これしきのことができないはずがない、そう…できないわけがない!
 新しい試験管を用意して、すり鉢に材料を入れる。力を込めて混ぜ合わせる、ごりごりという音が周囲に響いた。
 続いて、いくつかの材料を取り出し、メスで適切な大きさに切る。アルコールランプも燃料は十分。
 さぁ今度こそ…

「永琳さま…」
 いざ試験管にそれらを入れようとした瞬間、私は聞き慣れた声を耳にし、止まった。振り返れば、そこには二本の耳が揺れていた。
「てゐ?」
 いつもは陽気な彼女は、うつむき加減にこちらを見る。

 ああ…私を責めに来たのか…

 そんな思考が脳裏に浮かんだ。
 それは仕方がない、当然のこと。私にとって大切なひとは、彼女にとっても大切なひとなのだ。ああ…好きなだけ罵って、この身を切り刻んでくれたっていい…だから…

「…もう、いいんです。もういいんですよ永琳さま、もうやめて下さい」

 だけど、聞こえた言葉は、涙を飲み込んだ言葉はとても静かだった。私は手を止める。

「永琳さまが頑張っているのは判りましたから…だからもうやめて下さい、お願いですから…」

 うつむいているその表情は読めない、だけど、床には小さな水滴が一つ二つ…いつも無邪気なその声は、今日は重く沈んでいた。

「てゐ…」

 試験管が手から滑り落ち、床へと向かう。乾いた音が響いて、周囲にガラス片がまき散らされた。

「お願いです…お願いですから…」
「お願い、やらせて。今度こそは成功させてみせるから」
 懇願に懇願で応えた。てゐの言葉は、私の言葉に打ち消された。
 


 一瞬の沈黙、その僅かな時間の後、彼女は意を決したらしく顔を上げる。
「なら…せめて…」
 ゆっくり、ゆっくりと言葉を紡ぐ、重い空気が周囲に広がる。そしててゐは言った。

































「お料理するんならちゃんとお鍋と包丁を使って下さい」



『おしまい』
 
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コメント



0.簡易評価なし
1.無評価SETH 削除
師匠は美しいのだッッ!
2.無評価名無し妖怪 削除
なんてオチだwwww


……で、ウドンゲとてるよはどうなったんですか?w
3.無評価名無し妖怪 削除
意表を突かれた! 確かに研究室にはそういう人、いますw
4.無評価ルエ 削除
さすが天才薬師
料理を劇薬に変えるとは
5.無評価名無し妖怪 削除
つーかメスはともかく、試験管って何作ってるんすかw
6.無評価名無し妖怪 削除
宇宙人の思考は理解できませんww
7.無評価卯月由羽 削除
えーりん師匠ww料理できないのかよwwww
8.無評価思想の狼 削除
ぶーーーーーっ!!
思わず吹いてしまったぢゃないDEATHか!

しっかし同じヤクザ医師、間違えた。薬剤師キャラでも某型月の“割烹着の悪魔”とは雲泥の差、正に『月と鼈』ですなw

…といふ事は、永遠亭の食事って誰が作ってんダロ?
9.無評価翼 削除
調合「豆スープ」
器具 手鍋
材料 豆+ミルク

…これで何故か爆発させられる某アトリエみたいだなw
10.無評価アッザム・de・ロイヤル 削除
ご感想ありがとうございましたww
>SETH様
爆発は芸術ですww

>名無し妖怪様
ウドンゲは一週間寝込んだそうです。輝夜は、腹痛に耐えかね、妹紅に焼かれてリザレクションという最終手段に…

>二人目の名無し妖怪様
いるんですかっ!?マインゴットジーザスカミカゼ!!

>ルエ様
天才と天災は紙一重と…orz

>三人目の名無し妖怪様
アッザムのような凡人には、師匠の高度な思考はわからないのです…

>四人目の名無し妖怪様
私もでありますww

>卯月由羽様
どうしても、研究にうちこんでいる人って他に無頓着なイメージがありましてorz

>思想の狼様
ヤクザ医師って(笑)…うん、でも何か間違っていなさそうで怖いのですorz
>>永遠亭の食事って誰が作ってんダロ?
そこで私は家事万能な姫を主張してみたり♪

>翼様
ホントに何で爆発させられるんでしょうww