「見事な紅葉ね」
「ええ、そうね」
「ここは春の桜もいいけど、秋の紅葉もまた、格別なものね」
「ほんとにね」
「……ねえ、紫」
「なに、幽々子?」
「私、西行妖を咲かせようと思うの」
「…………また、なんで?」
「……あの桜、すごく立派でしょ? 他のと違って大きいし、枝ぶりもたくましいし。一度でいいから、あれが満開になるところを見てみたいの」
「……幽々子」
「うん?」
「本当のことを言いなさい」
「…………やっぱり、ばれたかあ。紫にはかなわないわね」
「当たり前よ。あれを封印したのは私だもの」
「ああ、そういえばそうだったわね。……じゃあ、誰が人柱なのかも、知ってるのよね?」
「……それを知ってるってことはあなた、読んだわね、あの本を」
「質問に質問で返さない。……ええ、多分あなたが思っている通りの。誰かが人柱となってあの桜を封じている。私はそれが誰だか知りたいの」
「つまり、ただの興味本位?」
「それもあるわ。でも、もう一つ」
「なに?」
「その子を、助けたいの」
「…………」
「あの桜は私が亡霊になった頃からここにある。もう何百年もずっと。何百年もずっと人柱のまま。それってすごく、かわいそうじゃない?」
「……そうね」
「だから、もう死んでるとは思うけど、その子を解放してあげて、せめて供養ぐらいはしてあげたいの。……ふふ、亡霊が死者の供養って、おかしな話よね」
「ふふ……ええ、そうね、そうだわね」
「……いいわ、やってみなさい、幽々子」
「あら、いいの?」
「ええ、許すわ。おもしろそうだし。……でも、いくつか言っておくわ」
「なに?」
「まず一つ。西行妖は今はああだけど、もともとは人の生き血を無限にすする大妖怪。私ですらかなわない相手。それを側に置いておくのよ? 大丈夫?」
「私なら大丈夫よ。それに、ここは冥界。みんな死んでるから、血をすすられることなんかないわ」
「じゃなくて、庭師の子」
「あ、そっか。……うーん、絶対に近づかないように言っとかないといけないわねえ……」
「はあ……まったくあなたは……。まあいいわ、二つ目。あの本を読んだからには知ってると思うけど、西行妖の開花には大量の春が必要よ。もちろん春を集める方法についても本に書いてあったと思うけど。でも、春を集めてる間そこ以外は冬のまま。つまり……」
「つまり?」
「私は協力できないってこと」
「ああそっか。冬眠するものね、あなた」
「そういうこと、それで最後。これが一番重要ね」
「ええ、何?」
「あなたがやろうと思ってることは異変よ。だから、必ず異変を解決しにあの有名な博麗の巫女や、それ以外にもいろいろな人間や妖怪があなたを止めにやってくるはず。そのことは、よく覚えておきなさい」
「わかってるわ。私のやろうとしてることはそれぐらいのことだもの。当然だわ」
「そう……それじゃ、私は帰るわね」
「あら、もう?」
「そろそろ冬眠の準備をしないと。なんせ誰かさんが春を止めるから、いつも以上に念入りにしないといけなくなったもの」
「ふふふ……それはごめんなさいね。……ああ、そうだわ」
「なに? まだ何かあるの?」
「さっきの質問。……ねえ、結局あの桜には、誰が人柱になってるの?」
「それは……」
―それは、あなた自身よ―
「……見てからのお楽しみよ」
「あらら……。まあ、その方がいいわね。楽しみはとっとかないと」
「そうそう、そのほうがいいわよ。……それじゃ、世界が春になったらまた会いましょう」
「ええ、世界が春になったら」
セリフだけってのはこういう短編によくあうな。
だけど「その子を、助けたいの」あたりは描写次第でかなり見せられそうなだけに残念。
優しさと、残酷さは、紙一重なんだな。