Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

りりか

2007/05/21 11:10:02
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あらすじ

 彼岸渡航










 私たちの住んでいる洋館のエントランスに。

 今日も元気に時を刻み続けている、大きなのっぽのふりこ時計がある。


 この館、プリズムリバー邸がこの幻想郷にやってきたときから。

 ずーっとこのエントランスで働き続けている、うちで一番の古株の時計。

 私たちと、そしてあの子の過ごした時間を、ずーっと見つめてきた。

 私たちの、おじいちゃん。


 雨漏りのひどい、穴だらけの天井から差し込む日の光に照らされて。

 今日もチクタクチクタクと、針とふりこが、動いてる。





  - リリカ=プリズムリバー -




「それじゃあ、元気でね。姉さんたち」




 そう言って、朗らかに微笑んだまま、あの子は逝ってしまった。

 しわくちゃのおばあちゃんになってしまったくせに。

 昔と同じような、爽やかな微笑みで。

 あっさりとお別れを言うものだから。

 ルナサ姉さんとメルラン姉さんと顔を見合わせて。

 「あの子らしいね」と笑い合った後。

 みんなでちょっぴり、泣いた。


 
 あの子が死んでしまった、ちょうどそのとき。

 ぼーん、ぼーん、と、あの子を送り出すように鳴り響いた。

 夜の十二時を告げるふりこ時計の音を――――今でも覚えている。



「―――逝っちゃったね」


 姉妹の中で一番あの子と仲のよかったメルラン姉さんが。

 目尻を拭いながら、軽い調子で言った。


「――うん」


 姉妹の中で一番あの子と歳の近かった私が。

 小さく頷いて答えた。


 頷いて、私は、ベットの枕元に浮かんだまま。

 くるり、とあの子の部屋を見渡した。


 たくさんのスケッチ画が壁にかかった、あの子の寝室。

 あの子が描きとめた、私たちと、そして里の人たちとの。

 あの子の大切な思い出。


 もう一人の姉さんたちとの別れの寂しさのあまり。

 私たち騒霊を生み出した、幻想郷に渡って来たあの子。

 小さい頃はさびしがりやで、すぐに泣いていた泣き虫なあの子。

 そんなあの子を慰めるために、私たちは姿を持って。

 そして楽器を演奏することを覚えたんだっけ。


 私たちの演奏が、あの子の寂しさを癒して。

 あの子が、あの朗らかな笑顔を覚えたとき。

 あの子の、幻想郷での新しい生活が始まった。



「――さぁ、里の人たちを呼ばなきゃ」


 姉妹の中で一番あの子を愛していたルナサ姉さんが。

 やんわりとした声で言った。


 壁にかかった絵を見つめながら。

 いつの間にか、泣きそうになっていた私は。

 「うん、そうだね」と、気持ちを切り替えるように答えた。


 さびしがりやだったあの子は、朗らかな笑顔を浮かべて。

 里へ下りて、人とふれあい始めた。

 寂しさで閉ざしていた心を開いて見えた世界。

 その世界で、あの子は生き生きと。

 自分の人生を、精一杯、生きた。


 部屋の壁にかかる木炭デッサンのスケッチ画。

 そこに描かれた風景のひとつひとつ。

 人物のひとつひとつが、あの子の生きた証。

 スケッチに色をつけないのは、わざとだと言っていた。

 そのスケッチを見たとき、思い出の中の色をいつでも。

 何度でも、心の筆で塗ってあげられるように。

 その思い出に塗る色を忘れてしまわないように。

 思い出せるように覚えておくために、色を塗らないのだと。



 さびしがりやで、泣き虫だったあの子が。

 そう語ったときのやさしい笑顔と。

 姉として、カッコいいと思ってしまったくやしさを。

 今でも―――覚えている。



 おばあちゃんになったあの子の、最期のお別れの日には。

 里の人がたくさん来てくれた。

 あの子は里の人たちを寝室に呼んで、ひとりひとりにお別れを言った後。

 一番最後に私たちを呼んで、私たちにお別れを言って。

 私たちの中の誰よりもカッコよくなってしまった、と。

 姉妹の中でも評判の、あの朗らかな微笑みを見せて。

 とても幸せそうな顔で、静かに――息を引き取った。






 毎晩、夜の十二時になると。

 私たち姉妹は、あの時計の前に集まる。


 あの子に最期のお別れを言いに来てくれた人たちの顔も。

 あの子の最期を告げられて、泣いてくれた人たちの顔も。

 あの子のスケッチを詰め込んだ棺が、この館を出て行くときも。


 ぜんぶ、静かに見守ってくれていた、大きなふりこ時計。

 休まず元気に、十二時を告げて、音色を奏でるおじいちゃんに。

 私たちが届ける、子守唄の音色。


 
 どうか、レイラに届きますように――――


おひさしぶりの こんな おはなし
じょにーず
コメント



1.名無し妖怪削除
月曜の朝にいきなり泣いた
今週はいつもより人に優しくできそうな気がする…

ご馳走様でした
2.卯月由羽削除
あ…ありのまま、今、起こったことを話すぜ!
『朝出かける前ににじょにーずさんキタコレ!と思って学校来て
 読んでたら全俺が泣いていた』
な…何を言ってるのか(ry

もっとすばらしいじょにーずさんの片鱗を味わったぜ…
3.ルエ削除
なんてええ話なんや
な、涙がぁ・・・

じょにーずさんこれからも頑張ってください
4.TNK.DS削除
おお・・・久しぶりですね。
凄く良質の童話を一気に読み終えたような気がします。そして、涙が止まらない・・・

毎度の事ながらお見事です。

5.名無し妖怪削除
泣くなって? そりゃ無理だ……
さすがはじょにーずさん。見事に泣ける話でした。
6.はむすた削除
ええ話やぁ……。
ぐっときました……。
7.蝦蟇口咬平削除
下に同意
8.deso削除
スケッチに色をつけないくだりはわりと結構かなりグッときました。