あらすじ
彼岸渡航
私たちの住んでいる洋館のエントランスに。
今日も元気に時を刻み続けている、大きなのっぽのふりこ時計がある。
この館、プリズムリバー邸がこの幻想郷にやってきたときから。
ずーっとこのエントランスで働き続けている、うちで一番の古株の時計。
私たちと、そしてあの子の過ごした時間を、ずーっと見つめてきた。
私たちの、おじいちゃん。
雨漏りのひどい、穴だらけの天井から差し込む日の光に照らされて。
今日もチクタクチクタクと、針とふりこが、動いてる。
- リリカ=プリズムリバー -
「それじゃあ、元気でね。姉さんたち」
そう言って、朗らかに微笑んだまま、あの子は逝ってしまった。
しわくちゃのおばあちゃんになってしまったくせに。
昔と同じような、爽やかな微笑みで。
あっさりとお別れを言うものだから。
ルナサ姉さんとメルラン姉さんと顔を見合わせて。
「あの子らしいね」と笑い合った後。
みんなでちょっぴり、泣いた。
あの子が死んでしまった、ちょうどそのとき。
ぼーん、ぼーん、と、あの子を送り出すように鳴り響いた。
夜の十二時を告げるふりこ時計の音を――――今でも覚えている。
「―――逝っちゃったね」
姉妹の中で一番あの子と仲のよかったメルラン姉さんが。
目尻を拭いながら、軽い調子で言った。
「――うん」
姉妹の中で一番あの子と歳の近かった私が。
小さく頷いて答えた。
頷いて、私は、ベットの枕元に浮かんだまま。
くるり、とあの子の部屋を見渡した。
たくさんのスケッチ画が壁にかかった、あの子の寝室。
あの子が描きとめた、私たちと、そして里の人たちとの。
あの子の大切な思い出。
もう一人の姉さんたちとの別れの寂しさのあまり。
私たち騒霊を生み出した、幻想郷に渡って来たあの子。
小さい頃はさびしがりやで、すぐに泣いていた泣き虫なあの子。
そんなあの子を慰めるために、私たちは姿を持って。
そして楽器を演奏することを覚えたんだっけ。
私たちの演奏が、あの子の寂しさを癒して。
あの子が、あの朗らかな笑顔を覚えたとき。
あの子の、幻想郷での新しい生活が始まった。
「――さぁ、里の人たちを呼ばなきゃ」
姉妹の中で一番あの子を愛していたルナサ姉さんが。
やんわりとした声で言った。
壁にかかった絵を見つめながら。
いつの間にか、泣きそうになっていた私は。
「うん、そうだね」と、気持ちを切り替えるように答えた。
さびしがりやだったあの子は、朗らかな笑顔を浮かべて。
里へ下りて、人とふれあい始めた。
寂しさで閉ざしていた心を開いて見えた世界。
その世界で、あの子は生き生きと。
自分の人生を、精一杯、生きた。
部屋の壁にかかる木炭デッサンのスケッチ画。
そこに描かれた風景のひとつひとつ。
人物のひとつひとつが、あの子の生きた証。
スケッチに色をつけないのは、わざとだと言っていた。
そのスケッチを見たとき、思い出の中の色をいつでも。
何度でも、心の筆で塗ってあげられるように。
その思い出に塗る色を忘れてしまわないように。
思い出せるように覚えておくために、色を塗らないのだと。
さびしがりやで、泣き虫だったあの子が。
そう語ったときのやさしい笑顔と。
姉として、カッコいいと思ってしまったくやしさを。
今でも―――覚えている。
おばあちゃんになったあの子の、最期のお別れの日には。
里の人がたくさん来てくれた。
あの子は里の人たちを寝室に呼んで、ひとりひとりにお別れを言った後。
一番最後に私たちを呼んで、私たちにお別れを言って。
私たちの中の誰よりもカッコよくなってしまった、と。
姉妹の中でも評判の、あの朗らかな微笑みを見せて。
とても幸せそうな顔で、静かに――息を引き取った。
毎晩、夜の十二時になると。
私たち姉妹は、あの時計の前に集まる。
あの子に最期のお別れを言いに来てくれた人たちの顔も。
あの子の最期を告げられて、泣いてくれた人たちの顔も。
あの子のスケッチを詰め込んだ棺が、この館を出て行くときも。
ぜんぶ、静かに見守ってくれていた、大きなふりこ時計。
休まず元気に、十二時を告げて、音色を奏でるおじいちゃんに。
私たちが届ける、子守唄の音色。
どうか、レイラに届きますように――――
彼岸渡航
私たちの住んでいる洋館のエントランスに。
今日も元気に時を刻み続けている、大きなのっぽのふりこ時計がある。
この館、プリズムリバー邸がこの幻想郷にやってきたときから。
ずーっとこのエントランスで働き続けている、うちで一番の古株の時計。
私たちと、そしてあの子の過ごした時間を、ずーっと見つめてきた。
私たちの、おじいちゃん。
雨漏りのひどい、穴だらけの天井から差し込む日の光に照らされて。
今日もチクタクチクタクと、針とふりこが、動いてる。
- リリカ=プリズムリバー -
「それじゃあ、元気でね。姉さんたち」
そう言って、朗らかに微笑んだまま、あの子は逝ってしまった。
しわくちゃのおばあちゃんになってしまったくせに。
昔と同じような、爽やかな微笑みで。
あっさりとお別れを言うものだから。
ルナサ姉さんとメルラン姉さんと顔を見合わせて。
「あの子らしいね」と笑い合った後。
みんなでちょっぴり、泣いた。
あの子が死んでしまった、ちょうどそのとき。
ぼーん、ぼーん、と、あの子を送り出すように鳴り響いた。
夜の十二時を告げるふりこ時計の音を――――今でも覚えている。
「―――逝っちゃったね」
姉妹の中で一番あの子と仲のよかったメルラン姉さんが。
目尻を拭いながら、軽い調子で言った。
「――うん」
姉妹の中で一番あの子と歳の近かった私が。
小さく頷いて答えた。
頷いて、私は、ベットの枕元に浮かんだまま。
くるり、とあの子の部屋を見渡した。
たくさんのスケッチ画が壁にかかった、あの子の寝室。
あの子が描きとめた、私たちと、そして里の人たちとの。
あの子の大切な思い出。
もう一人の姉さんたちとの別れの寂しさのあまり。
私たち騒霊を生み出した、幻想郷に渡って来たあの子。
小さい頃はさびしがりやで、すぐに泣いていた泣き虫なあの子。
そんなあの子を慰めるために、私たちは姿を持って。
そして楽器を演奏することを覚えたんだっけ。
私たちの演奏が、あの子の寂しさを癒して。
あの子が、あの朗らかな笑顔を覚えたとき。
あの子の、幻想郷での新しい生活が始まった。
「――さぁ、里の人たちを呼ばなきゃ」
姉妹の中で一番あの子を愛していたルナサ姉さんが。
やんわりとした声で言った。
壁にかかった絵を見つめながら。
いつの間にか、泣きそうになっていた私は。
「うん、そうだね」と、気持ちを切り替えるように答えた。
さびしがりやだったあの子は、朗らかな笑顔を浮かべて。
里へ下りて、人とふれあい始めた。
寂しさで閉ざしていた心を開いて見えた世界。
その世界で、あの子は生き生きと。
自分の人生を、精一杯、生きた。
部屋の壁にかかる木炭デッサンのスケッチ画。
そこに描かれた風景のひとつひとつ。
人物のひとつひとつが、あの子の生きた証。
スケッチに色をつけないのは、わざとだと言っていた。
そのスケッチを見たとき、思い出の中の色をいつでも。
何度でも、心の筆で塗ってあげられるように。
その思い出に塗る色を忘れてしまわないように。
思い出せるように覚えておくために、色を塗らないのだと。
さびしがりやで、泣き虫だったあの子が。
そう語ったときのやさしい笑顔と。
姉として、カッコいいと思ってしまったくやしさを。
今でも―――覚えている。
おばあちゃんになったあの子の、最期のお別れの日には。
里の人がたくさん来てくれた。
あの子は里の人たちを寝室に呼んで、ひとりひとりにお別れを言った後。
一番最後に私たちを呼んで、私たちにお別れを言って。
私たちの中の誰よりもカッコよくなってしまった、と。
姉妹の中でも評判の、あの朗らかな微笑みを見せて。
とても幸せそうな顔で、静かに――息を引き取った。
毎晩、夜の十二時になると。
私たち姉妹は、あの時計の前に集まる。
あの子に最期のお別れを言いに来てくれた人たちの顔も。
あの子の最期を告げられて、泣いてくれた人たちの顔も。
あの子のスケッチを詰め込んだ棺が、この館を出て行くときも。
ぜんぶ、静かに見守ってくれていた、大きなふりこ時計。
休まず元気に、十二時を告げて、音色を奏でるおじいちゃんに。
私たちが届ける、子守唄の音色。
どうか、レイラに届きますように――――
今週はいつもより人に優しくできそうな気がする…
ご馳走様でした
『朝出かける前ににじょにーずさんキタコレ!と思って学校来て
読んでたら全俺が泣いていた』
な…何を言ってるのか(ry
もっとすばらしいじょにーずさんの片鱗を味わったぜ…
な、涙がぁ・・・
じょにーずさんこれからも頑張ってください
凄く良質の童話を一気に読み終えたような気がします。そして、涙が止まらない・・・
毎度の事ながらお見事です。
さすがはじょにーずさん。見事に泣ける話でした。
ぐっときました……。