「えーと・・・」
ある満月の夜のことだった。
いつものように永琳やら兎やらが来るだろうと準備万端待ち構えていた私のもとへ、あろうことか輝夜が一人でやってきたのだ。
「・・・珍しいわね、お姫様が直々に参上するなんて。あなたも肝試し?」
そう言うと輝夜はとんでもないと手を横に振る。
「永琳やイナバが買い物をするって人間の里に行ってしまったのよ。だから仕方なく、ね」
そういうと何でもないように私の横まで来て腰をおろしてしまった。
「ふぅ・・・もう夏ねー。少し歩いただけで喉が乾いちゃったわ」
「あー、はいはい。緑茶しかないよ?」
「妹紅がいれてくれるなら何でもいいわ。早く早く~」
お茶の入れ方には自信がある。隠し子だのなんだの言っても貴族の子だし、まだ人間やってた頃は先生にも絶賛されていたし。いや、一応まだ人間だけど。不老不死ってだけで。
でも最近妖術とかも覚えたし・・・むしろ覚えちゃったし。
・・・なんかだんだん人間離れしてるような・・・
「おまたせ~」
「待ったわ~、時間を無駄に使っちゃった」
「何言ってるの、無限から百万年引いたって何も変わらないでしょ?」
そう言って二人で笑う。満月の夜に人里離れた竹林に響く二人の笑い声・・・
「あはは、こういうのを雅とかやんごとないとか言うのかしら?」
「不思議なことを言うのねー。和歌の基本とか理想の人間像とか教わらなかったの・・・って考えてみれば輝夜が地上人と一緒にいた時間って結構短かったのか」
そこでなぜか輝夜が視線をそらした。胸の前で両手の人差し指を絡めながらもじもじしている。
「う~ん、そういうわけじゃなくて・・・ほら、お勉強が嫌いだったから・・・」
「寝てたの?ふふふ、これじゃ月でもどんなお姫様だったか想像に難くないね」
我儘を言って奔放に振舞う輝夜の横で、永琳が頭を抱えている姿が想像できる。
そんな輝夜と永遠の時間を過ごしている永琳って、実は凄いのかもしれない。
「酷いわねー、こう見えても月ではいい子だったのよ?」
頬を膨らませて抗議する輝夜。
「悪戯は一日一回って決めてたし、つまみ食いは晩ご飯の時しかしなかったし、お勉強の時間だってさぼったことはなかったわ」
「どの辺がいい子なのかさっぱりわからないけど・・・そうね、あえて指摘するならお勉強の時間じゃなくてお昼寝の時間の間違いでしょ?」
「あう・・・」
かくん、とうなだれる輝夜。やっぱり図星だったらしい。
まあ、私も人のことは言えないけどね。何回も屋敷を抜け出しては里へ遊びに行ったっけ。
父さんにばれて大変な目にあったのもいまとなってはいい思い出・・・にはならないわね。三日三晩屋敷の中を追いかけまわされたんだから。あれは少しやり過ぎだったわね。
「そういえば、輝夜は月ではどんな生活をしていたの?」
「私?そうね・・・とにかく退屈だったわ。我儘はなんでも通っちゃうし、欲しいと言えば何でもすぐに手に入っちゃうし・・・それってみんなが憧れるけど、実際にそうなると本当に面白くないわ。だって私は何もすることがないんだもの。永琳くらいね、私に仕事をさせてくれたのは。永琳と遊んでる時間が一番面白かったかな」
満月を見上げながらそう呟く輝夜。
前から思っていたけど、輝夜には月の光が似合う。日の光でも、蝋燭の光でもなく、月の光に照らされているときが一番輝いて見える。
「永琳以外の人は私が姫だからって気を使って、遊びでも何でも手を抜くんだもの。それからすると永琳は凄かったわねー。遊びでは何をやっても永琳には勝てなかったわ。そうだ、妹紅も今度永琳と・・・って妹紅、聞いてる?」
「・・・えっ?あ、ああ、ごめん、ちょっとぼーとしちゃって・・・」
・・・ちょっと危なかったかな。見入り過ぎちゃった。
これだから月の民は・・・誰も彼も月みたいな魅了の力を持っているのかしら?
それとも輝夜が特別なのか・・・確かめようはないんだけどね。
「そう言う妹紅はどうだったの?妹紅もお姫様だったんでしょ?」
「ん~、私は訳ありだったからね。ずーっと屋敷に閉じ込められたまま、父さんも一月に一度会えるか会えないか・・・毎日一人で遊んでいたわ。」
広い御屋敷、私は何でもやりたい放題だったっけ。誰も私のことなんか気にしなかったし、私もあまり気にしなかったし・・・
「・・・それは、何か・・・寂しいわね。悪いこと聞いちゃったみたい・・・」
「気にしないで。それはそれで悪くない毎日だったのよ。毎日どんな悪戯をすれば父さんが飛んできてくれるか、そればっかり考えていたわ。本当に、あの頃は・・・」
そう言って笑う。笑っていたと思う。
輝夜が私の頭を抱え込んだ。
「・・・輝・・・」
「・・・ごめんなさい・・・また私、あなたを傷つけちゃったみたい」
笑って・・・
「・・・私は、何もできないけれど・・・」
寂しかった・・・のかな・・・
「・・・ちょっと・・・胸、かりるね・・・」
「・・・いいわ、さっきのお茶のお礼」
目頭が、熱い。
満月の竹林に私の嗚咽が響く。
・・・格好悪いな、なんて思う。でも・・・
「いまくらいは、寂しい思いなんてさせないから」
・・・たまにはいいのかも・・・いや。
ずっと、このままだったらいいのに。
その近く――竹の影になって二人の場所からは見えないところ
「・・・今日はありがとう。」
竹藪に隠れるようにしている二人の影。
「気にしないでくれ。妹紅も・・・これでよかったみたいだし、な」
「でも・・・これじゃあなたが・・・」
「・・・いいんだ。妹紅が幸せなら・・・」
「・・・ごめんね。なんか、辛い思いをさせちゃったわ。なにかお詫びをしなきゃ」
「じゃあ、仕事を手伝ってもらおうかな。今夜中にやらなきゃいけない仕事、たくさんたまってるから」
「そのくらいでよければいくらでも。じゃあ、二人の邪魔をしないうちに行きましょうか」
「ああ、そうしよう」
そうして二人は、また闇の中に消えていった。
ある満月の夜のことだった。
いつものように永琳やら兎やらが来るだろうと準備万端待ち構えていた私のもとへ、あろうことか輝夜が一人でやってきたのだ。
「・・・珍しいわね、お姫様が直々に参上するなんて。あなたも肝試し?」
そう言うと輝夜はとんでもないと手を横に振る。
「永琳やイナバが買い物をするって人間の里に行ってしまったのよ。だから仕方なく、ね」
そういうと何でもないように私の横まで来て腰をおろしてしまった。
「ふぅ・・・もう夏ねー。少し歩いただけで喉が乾いちゃったわ」
「あー、はいはい。緑茶しかないよ?」
「妹紅がいれてくれるなら何でもいいわ。早く早く~」
お茶の入れ方には自信がある。隠し子だのなんだの言っても貴族の子だし、まだ人間やってた頃は先生にも絶賛されていたし。いや、一応まだ人間だけど。不老不死ってだけで。
でも最近妖術とかも覚えたし・・・むしろ覚えちゃったし。
・・・なんかだんだん人間離れしてるような・・・
「おまたせ~」
「待ったわ~、時間を無駄に使っちゃった」
「何言ってるの、無限から百万年引いたって何も変わらないでしょ?」
そう言って二人で笑う。満月の夜に人里離れた竹林に響く二人の笑い声・・・
「あはは、こういうのを雅とかやんごとないとか言うのかしら?」
「不思議なことを言うのねー。和歌の基本とか理想の人間像とか教わらなかったの・・・って考えてみれば輝夜が地上人と一緒にいた時間って結構短かったのか」
そこでなぜか輝夜が視線をそらした。胸の前で両手の人差し指を絡めながらもじもじしている。
「う~ん、そういうわけじゃなくて・・・ほら、お勉強が嫌いだったから・・・」
「寝てたの?ふふふ、これじゃ月でもどんなお姫様だったか想像に難くないね」
我儘を言って奔放に振舞う輝夜の横で、永琳が頭を抱えている姿が想像できる。
そんな輝夜と永遠の時間を過ごしている永琳って、実は凄いのかもしれない。
「酷いわねー、こう見えても月ではいい子だったのよ?」
頬を膨らませて抗議する輝夜。
「悪戯は一日一回って決めてたし、つまみ食いは晩ご飯の時しかしなかったし、お勉強の時間だってさぼったことはなかったわ」
「どの辺がいい子なのかさっぱりわからないけど・・・そうね、あえて指摘するならお勉強の時間じゃなくてお昼寝の時間の間違いでしょ?」
「あう・・・」
かくん、とうなだれる輝夜。やっぱり図星だったらしい。
まあ、私も人のことは言えないけどね。何回も屋敷を抜け出しては里へ遊びに行ったっけ。
父さんにばれて大変な目にあったのもいまとなってはいい思い出・・・にはならないわね。三日三晩屋敷の中を追いかけまわされたんだから。あれは少しやり過ぎだったわね。
「そういえば、輝夜は月ではどんな生活をしていたの?」
「私?そうね・・・とにかく退屈だったわ。我儘はなんでも通っちゃうし、欲しいと言えば何でもすぐに手に入っちゃうし・・・それってみんなが憧れるけど、実際にそうなると本当に面白くないわ。だって私は何もすることがないんだもの。永琳くらいね、私に仕事をさせてくれたのは。永琳と遊んでる時間が一番面白かったかな」
満月を見上げながらそう呟く輝夜。
前から思っていたけど、輝夜には月の光が似合う。日の光でも、蝋燭の光でもなく、月の光に照らされているときが一番輝いて見える。
「永琳以外の人は私が姫だからって気を使って、遊びでも何でも手を抜くんだもの。それからすると永琳は凄かったわねー。遊びでは何をやっても永琳には勝てなかったわ。そうだ、妹紅も今度永琳と・・・って妹紅、聞いてる?」
「・・・えっ?あ、ああ、ごめん、ちょっとぼーとしちゃって・・・」
・・・ちょっと危なかったかな。見入り過ぎちゃった。
これだから月の民は・・・誰も彼も月みたいな魅了の力を持っているのかしら?
それとも輝夜が特別なのか・・・確かめようはないんだけどね。
「そう言う妹紅はどうだったの?妹紅もお姫様だったんでしょ?」
「ん~、私は訳ありだったからね。ずーっと屋敷に閉じ込められたまま、父さんも一月に一度会えるか会えないか・・・毎日一人で遊んでいたわ。」
広い御屋敷、私は何でもやりたい放題だったっけ。誰も私のことなんか気にしなかったし、私もあまり気にしなかったし・・・
「・・・それは、何か・・・寂しいわね。悪いこと聞いちゃったみたい・・・」
「気にしないで。それはそれで悪くない毎日だったのよ。毎日どんな悪戯をすれば父さんが飛んできてくれるか、そればっかり考えていたわ。本当に、あの頃は・・・」
そう言って笑う。笑っていたと思う。
輝夜が私の頭を抱え込んだ。
「・・・輝・・・」
「・・・ごめんなさい・・・また私、あなたを傷つけちゃったみたい」
笑って・・・
「・・・私は、何もできないけれど・・・」
寂しかった・・・のかな・・・
「・・・ちょっと・・・胸、かりるね・・・」
「・・・いいわ、さっきのお茶のお礼」
目頭が、熱い。
満月の竹林に私の嗚咽が響く。
・・・格好悪いな、なんて思う。でも・・・
「いまくらいは、寂しい思いなんてさせないから」
・・・たまにはいいのかも・・・いや。
ずっと、このままだったらいいのに。
その近く――竹の影になって二人の場所からは見えないところ
「・・・今日はありがとう。」
竹藪に隠れるようにしている二人の影。
「気にしないでくれ。妹紅も・・・これでよかったみたいだし、な」
「でも・・・これじゃあなたが・・・」
「・・・いいんだ。妹紅が幸せなら・・・」
「・・・ごめんね。なんか、辛い思いをさせちゃったわ。なにかお詫びをしなきゃ」
「じゃあ、仕事を手伝ってもらおうかな。今夜中にやらなきゃいけない仕事、たくさんたまってるから」
「そのくらいでよければいくらでも。じゃあ、二人の邪魔をしないうちに行きましょうか」
「ああ、そうしよう」
そうして二人は、また闇の中に消えていった。
誤字脱字などあるかもしれませんがご容赦ください。
乱文乱筆、誠に失礼いたしました。
とても良かったです
次の作品も楽しみにしてます