Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

名前

2007/05/15 05:28:23
最終更新
サイズ
3.53KB
ページ数
1
「よう、アリス。やっぱ、ここに居たのか」

私は、呼ばれて、後ろを振り返る。
そこには、帽子をくいっと親指で上げた、私の知人が立っていた。彼女の、その黒を基調とした服装は、夜の闇に紛れて、顔だけがやけにくっきりとした印象を受けた。けっこう端正な顔をしていると私は思う。以前、それを彼女に言ってみたら、顔を真っ赤にして狼狽していた。それを思い出して、私は、ちょっとだけ可笑しい気分になった。

「今回は、何体目なんだ、アリス?」

「37よ」

私は、墓標を再び、見据える。
ここは、墓場。
私の小さな人形が、その寿命を終え、眠っているところ。
目の前には、小さな墓標がいくつも並んでいる。
私は、37回目のお墓作りを終え、小さなお祈りを済ましたところだ。

彼女は、その新しいお墓のまえで、帽子を脱ぎ、一輪の花を添えた。そして、ほんのちょっとの間、合掌してくれた。私は、お礼を言おうと思ったけど、恥ずかしいので、止めた。

私たちは、一緒に暗い夜道を歩いて、帰途につく。彼女は、今晩はきっと、私の家に泊まっていくのだろう。人形を供養する日は、いつもそうだったからだ。

「なあ、アリス」

彼女が話しかける。

「今日、亡くなった人形の名前は何て言うんだ?墓標には、どれもこれも名前が書いていないじゃないか。名無しの権兵衛さんなのか?」

私は、わざと素っ気なく答えた。

「名前を付けているのは、上海だけよ。他の人形には、名前は付けていない」

「そうなのか?」

「そう。上海は、私にしては成功作で、かなり長生きしているから、特別に名前を付けてあげたの。他の人形は、たいてい数年で寿命を終えてしまうわ」

「ふうん」

彼女は、どこか不服そうに返事をした。そして、腕組みをしながら、何やら考え事をしているような仕草をする。私は、その様子を横目で見ながら、ただ、じっと黙って、夜道を歩いた。

フクロウが、ほう、と鳴いた。
さくさく、と私たちの足音が、夜の闇に吸い込まれていく。

「そうか!」

唐突に、彼女が叫んだ。私は、何事かと、彼女の方を見る。

「なあなあアリス、わかったぞ!」

「何が?」

「人形のことだよ。きっと、逆なんだ」

「逆?何のこと?」

「長生きしたから、名前を付けた、じゃないんだ。名前を付けたから、長生きしたんだよ、きっと。人形だって、名前をもらえば嬉しいだろうからな。それで、名前をもらった御主人様のために、頑張って長生きしようと思ったんだよ」

「ああ、さっきの話ね」

「よし、アリス!これからは、人形を造るたびに、全部、名前を付けてやるんだ。そうすれば、上海みたいに、きっと皆、長生きするぞ。そうすればお前も…」

寂しい想いをせずに済む。
そう、彼女は言葉を結びたかったのだろう。

だが。

名前を付ければ、慈しむ。
愛着が湧く。可愛がる。
そして。
それが死ぬときに、悲しむ。

だから、私は、人形には名前を付けない。
それが私の基本方針。

ならば。
名前の無い人形なら、幾ら死んでも構わないか。
無銘の墓標が増えていくのを、じっと待つのか。

今日、私は悲しくなかったのか。

私は自問自答する。
答えは出ない。

名前。
上海に初めて、名前を付けたときを思い出す。
上海は嬉しそうに、ずっと宙をくるくると回っていたものだった。


ほう。
フクロウが、また鳴いた。


「…そうね、一理あるかもしれないわ」

私は答える。

「それじゃあ、次の人形には、マリサって名前を付けるわ」

「げ…おいおいアリス。本気か?」

「きっと長生きするわ。ゴキブリ並の生命力を持つでしょうね」

「私は害虫扱いかよ」


そうこうしている内に、私の家の明かりが見えた。
扉の前に、ちょこんと、上海が座って、じっと帰りを待っていた。


「ただいま、上海」

こくり。

「聞いてちょうだい。あなたに、妹ができるわよ」

ぱちくり。

「その子の名前はね、マリサっていうの。可愛がってちょうだいね」

こくりこくりこくりこくりこくり。

「というわけで、さっそく造りますか…今夜は徹夜ね。誰かさんも手伝いなさいよ。同じ名前になるんだから」

「あ~あ、まいったなあ…せめて、レイムとかって名前にしないか?」

「却下」

そう言って。
私は、今日、初めて笑った。



久しぶりに物語を書きました。疲れた。
彩のかわら
http://kawara.to/
コメント



1.名無し妖怪削除
逆転ホームラン!お疲れ様です。
2.削除
上海がめっちゃ可愛い!
しかし、素直な上海は、やんちゃな妹に手を焼くことになりそうでw