「あー、今日も暇だ。」
ダルそうな声が聞こえる。
いつも暇を持て余しているような声である。
声の主はテーブルの上に顔を伏している。
アリス・マーガトロイドだ。
「なんだかなぁ、外の世界ではこの時期を黄金週間って言ってるみたいだけどねぇ・・・。」
私らには関係ないわと心の中で笑うのだった。
幻想郷ではいつもと変わらない日々、変わらない日常なのだ。
「何か楽しいことでも起きないかしら・・・。」
だる~だる~と連呼しながらどんどん気持ちは落ちていっていた。
テーブルの上でアリスを囲んでいた人形たちも一緒にだる~とうつ伏せに倒れた。
まぁ、人形たちはだる~な主人を真似てとても楽しんでるようだが。
(コンコンコン)
「あら?誰かしら?
はーーい、ただいまー!」
(がちゃっ)
「ア・リ・ス・ちゃー (ばたんっ!!!) ぶふぅうっ!!?」
(がちゃっ)
「お母さん!?いきなり来るなんてどうしたの!?」
「くぅっふっ・・・流石は我が娘。
久々に会う母親にこんな歓迎をしてくれるなんて。」
アリスの母こと神綺がやってきた。
顔面にもろに扉を叩きつけられて、鼻血を流して倒れていた。
幸いアホ毛は無事でアリスもホッとしたそうな。
じゃあ叩きつけるなよ、というツッコミは良い子はしないものです。
とりあえず神綺は家に上がらせてもらった。
アリスもかなり暇だったため、丁度話相手が欲しかったところだ。
「はい、お茶をどうぞ。」
「あら、ありがとう。」
「でも急に来るなんてどうしたの?仕事は大丈夫なの?」
「黄金週間よ。たまには私だって休みたいわ。」
「魔界にそんな習慣はあったかしら?」
「・・・・細かいことはいいのよ。それよりアリスちゃん!」
「な、何よ?」
「どうして帰ってこないの!?」
「は?」
「だって、こういう時期は実家に帰ってお母さんに甘えまくるんじゃないの!?」
「いや、まぁ外の世界ではそうする人もいるみたいだけど・・・。」
まいったなーまたこれかぁ、と頭をぽりぽり掻いて困ったサインを出すアリス。
お母さんそれに気付きません。
あえて気付きません。
そしてノンストップママです。
「だからアリスちゃんも帰ってきなさいな。ね?
私にじゃんじゃか甘えなさいな。ね!?
一緒に料理して、一緒にお風呂入って、一緒にUNOして、一緒に寝るの!」
お前は中学生か、というツッコミは無しとして。
どうやらアリスによほど帰ってきてほしいらしい。
さっきからアホ毛が意思を持っているように神綺の言葉に合わせて立ったり回ったりしている。
魔界の神、恐るべし。
「いや、でも、黄金週間は基本的に実家帰りじゃなくて旅行に行くって言うしぃ・・・」
「じゃあ家族旅行をしましょう!」
て、手強い。
いつの間にかアリスの手は神綺に両手に包まれてて逃げられなくなっていた。
なんだかお母さんというよりも娘になっているようだ。
歳をとると精神年齢が下がっていくというけれども、そういうことなのだろうか。
「なんか失礼なこと考えた?」
「いえ、滅相もございません。」
「誰が疫病神ですって?ペペロンチーノ」
「えっ、ちがっ・・えっと~・・そ、そう・・
も、目標の神!目標の神だぜーっ! って何言わせるのよ!」
「流石はアリスちゃんね♪」
こんな親子漫才を挟みつつ会話をしていく。
どうしても神綺はアリスと一緒に黄金週間を過ごしたいらしい。
しかしいくら断っても諦めてくれない母親にアリスは苛立ちを覚え始めていた。
「お母さん、これでも私は魔法の研究で忙しいの。そろそろ帰ってくれないかしら?」
「ひどーい!ママ、仕事の合間を縫って(メイドの目が離れた隙に)
アリスちゃんに会いにきたのにぃ!」
「でもあんまりゆっくりしてられないでしょ?そろそろ帰らなきゃ皆に迷惑でしょ?」
「アリスちゃんが一緒じゃなきゃヤダヤダー!」
「ちょ、ちょっと何してるのよ!?」
テーブルに身を乗り出し・・・どころか乗り越えてアリスに抱きついてきた神綺。
テーブルの上にあるお茶が入ったカップやお茶菓子など無視だ。
ちなみに人形たちも乗っていたが、全ての人形が無事に回避した。
避ける瞬間に人形たちの頭に光の線が走ったように見えたが、
それはきっとアリスが操ったから・・・だといいな。
「えぐっ、ぐすっ・・・」
本当にこの人は神か?というか大人か?
泣き出してしまった。
流石にこういうのには弱いアリス。
抱きながら自分の母の頭を撫でてあやすのだった。
「あーもう・・・これ以上困らせないでほしいなぁ。」
「困らせてるのはそっちでしょぉ・・・。」
「はぁ・・・じゃあこうしましょう?」
「?」
「今日は泊まっていいから、明日には魔界に帰ってあげてね。」
「!! やったー、アリスちゃん大好きー!」
「ちょっ、ちょっと、そんなに頬擦りしなっ・・・ひゃっ・・あっ・・んっ、んちゅぅ・・。」
というわけで『いきなり黄金週間!!~ドキドキっ!一晩母を泊めろ!~』の幕が開いた。
なんだかんだであまり娘に会う機会の無い神綺。
ここまでアリスにべったりなのも仕方が無いのかもしれない。
それを察してかどうかはわからないが、
初めはイヤイヤだったアリスも母といるのを許していた。
「じゃあそろそろ夕ご飯の支度をしましょうかね。」
「あ、今日はママが作るわよ。久々にママの味が恋しいでしょぉ?」
「ふふっ、そうね。じゃあ私は食器を出すわ。」
「わかってるじゃない。」
神綺はキッチンへと向かう。
最後に母が料理している姿を見たのは何年前だろう。
あまり覚えていない。
でも、この光景を見て切なさを覚えたのなら随分前なのかもしれない。
「んふ~ふ、ふ~ん♪」
母が料理のときにいつも歌っていた鼻歌。
キッチンに立つ母の姿。
いつも見ていた後ろ姿。
野菜を切る心地いい音。
鍋が煮えたぎる食欲をそそる音。
味見をして、おいしいと笑った眩しい母の笑顔。
そんな懐かしい母の姿に・・・
(ぎゅっ)
「おっとと・・こぉらっ、危ないでしょ?」
「あ、ご、ごめんね。なんか私・・・」
「うぅん・・・わかってるわよ、アリスちゃん。」
「?」
「料理している女の後ろ姿ってそそるものねぇ。」
「・・・・・」
「ぅふふっ、冗談よぉ。」
「もうっ、お母さんったら。」
「お風呂かベッドの時までお預けね。」
「冗談じゃねぇのかっ!」
アリスはただただ「魔界の風(空気)は扱いにくいな」と思うのだった。
それはさておき、夕ご飯の準備できて、久々に親子二人で食べることになった。
「さ、たぁんとお食べぇ。」
「あ、いい匂い。これはロールキャベツね。」
「久々にお母さん張り切っちゃったわ。」
「おいしそう・・・いただきまーす。」
(ぱくっもぐもぐっぱくっ)
「うふふっアリスちゃんったらぁ・・・そんなに慌てなくてもいいじゃない。」
「あ、あはは。久々にお母さんの料理が食べれると思ったら興奮しちゃって。」
「おかわりはまだまだあるわよ。」
「はーい。」
(もぐもぐ・・・)
「体が温まってきたわ。辛味はないけど・・・何か入れたの?」
「ふふっ・・・スッポンと鹿の睾丸。」
「ぶっ!!!」
「きゃっ、アリスちゃんお行儀悪いわぁ。」
「じ、自分の娘に食わせる料理か!?」
「だ、だって幻想郷では最近暑かったり寒かったりで風邪引いてる人もいるでしょ?
だから活力をつけて負けないようにっていう母の愛情よ。」
「ふはぁあああっ!何これマジで暑い!暑いっていうか体が熱い!」
「あはぁん、アリスちゃん激しいわぁ・・・今夜が楽しみ♪」
「結局それが目的かっ!!しかもなんで完璧に臭みが無いのよ!?」
「だから言ったでしょ?お母さん張り切っちゃったってね。」
「こんな時だけ器用になるなっ!!」
それでも二人でおいしくいただきました。
その後、お風呂は別々に入った。
神綺も同じ物を食べていたので、アリスは貞操の危機を感じたのだ。
とりあえず神綺には先に入ってもらって、アリスはベッドメイキングをした。
「たまには母親に甘えるのもいいかな」と思っていたアリスだが、
こんな調子では親と子の一線を越えさせられそうで怖かった。
ので、神綺には自分とは別の部屋で寝てもらうことにした。
まぁ一度は越えたと思われる部分もあると思うが、
それは凄く仲の良い親子ってことでまだセーフなのだ。
「これでよしっと。」
「アリスちゃーん、出たわよー。」
「はーい。」
お風呂場に向かったアリス。
脱衣所には神綺の姿はない。
どうやら既に出て居間にでも行ってるようだ。
服を脱いでいざお風呂へ。
「と、見せかけて実は風呂場にいたり!!」
(がらっ)
中を見ても誰もいない。
どうやら本当に行ったらしい。
風呂場の鍵をかけて、完全な密室を作る。
安全は確保された。
「なんで自分の母親でこんなビクビクしなきゃいけないの!?」
当然思うことである。
しかし相手は魔界の神。
扉を壊して入ってくる恐れもある。
とりあえず今晩はカラスの行水で済ませて、明日神綺が帰ってから再び入ることにした。
10分も経たないうちに風呂を出て、すぐに寝巻きを着た。
「お母さん、お風呂上りの牛乳はいかが?」
まだ神綺もお風呂の熱が下がってないだろうと考え、牛乳瓶を二つ持って居間へと行った。
しかし居間に神綺はいなかった。
「お母さーん?どこに行ったのー?」
いくら呼んでも出てこない。
一体どうしたのだろうと思って人形たちに尋ねてみる。
すると人形たちは床のある部分を指した。
そこには母からのメッセージが残されていた。
「お母さん・・・いつも突然なんだから・・・帰る時ぐらい何か言って欲しかったわ。」
爪跡だらけの床には『夢』という赤い文字があった。
その晩、アリスは安心して眠ることができたという。
『夢』の存在に感謝しつつアリスの大変だった一日が終わった。
非常に「か、かわいい…」です
しんきさまは
かわいい
な
面白かったです
魔界神。
上海達はずっと静観してたのだろうかwwwww
でも新しい世界が見えた
し
か
な