さらさらと風が吹けば、山吹色の波が起こる。雲一つない晴天より注がれる光を万遍に受けて、
太陽の畑は今日も変わらず、何も変わらず、しつこいくらい平和であった。
人の姿は存在せず。誰も居ないように見えて、物陰では妖精達が遊びまわっている。
広々と伸びるひまわりの絨毯、外から見ては解らぬ程の奥、明らかに周りと大きさの違う花が
一つだけ咲いていた。具体的に言えば、人一人が悠々と寝そべる事ができるくらいに大きい―――と、
そこに体を横にし熟睡する影がひとつ。初夏のやわらかな日差しを全身に受けて、風見幽香がすぅすぅと
穏やかな寝息をたてていた。
上着を押し上げる胸部、二つの見事な膨らみが上下している。
若葉を思わせる鮮やかな緑の髪が、ふと吹いた風に揺れて小さく踊る。
頬を撫でた良風に、その意識はまどろみから帰還することなく、幽香はくすぐったそうに身を
よじり、寝返りをうった。
彼女を撫でたのは、天狗の魔力が生み出す風。
それは心地良くて、敵意もなくて、幽香が目を覚まさなかったのも仕方がない。
新聞を届けに来た射命丸文は、おやおやと小さく笑う。
幽香を起こさないように、その隣にそっと新聞を置いた。
そして身を引こうとして、止まる。
両のまなこを大きくひらき、それをまじまじと凝視した。
幽香の呼吸と共に動くそれを。
すぅーっと息を吸い込むと上昇。
ふぅーっと息を吐き出すと下降。
小さくないが大きすぎず、普通よりはちょっと大きめ。
それでいて張りがあって、形が良くて(想像)、触り心地の良さそうな事と言ったら、どうさ。
いや、どうさって言われても……。
ところが射命丸さんは。
躊躇することもなく。
新聞を置いたまま止まっていた手を再び伸ばして。
思いっきり、触ってしまいました。
「お……おぉぉ……」
あろうことか、揉んでいます。
「ん……」
幽香さんの口から、甘い寝息がこぼれます。
「おぉぉぉう……こ、これは……これはなんと……」
ど、どうなんですか。えぇ、その二つもある至宝の手触りと言ったら、どうなのですか。
「違う、これは、私は、おっぱいを触っているんじゃない。だって自分のと違いすぎるもの!」
な、なんだってぇ!? じゃああなたが遂に両手で鷲掴みしてしまったそれは一体なんなの!?
「ぼ、―――ボQ」
―――太陽はやや西に落ちてくる。ひまわりが風に揺れて擦れる以外には、太陽の畑に木霊する
音らしき音もない。遠くの空で鳴く鳥も、それを打ち破ったりはしない。
「……あら。人間が珍しい淹れ方をしていたから真似してみたけど、これはなかなか」
純白のカップから立つ香りを吸い込み、幽香は「ほぅっ」とため息を一つ。
(それは良かったですねぇ。できれば私も頂いてみたいのですが)
あいづちを打った文の声は、響きを失いくぐもって聞こえた。何故なら今の彼女は、幽香が座る
巨大ひまわりの隣に咲いた、同じくらい巨大なパッ○ンフラワーに上半身をパックンされている
からである。あれ、なんか伏字の意味なくない?
「寝込みを襲うようないやらしい方には、何もあげません」
そんな、パッ○ンフラワーの口からでろんと生えた文のお尻に、幽香が「めっ」と咎める。
(それは誤解です。幽香さん、私の話を聞いてください)
お尻を左右に揺らしながら訴える文。
はて誤解とな。鼻息荒く人の胸を鷲掴みして奇声を発していている、という状況から察した
プロファイリングに、間違いが入る隙なぞあったろうか。
静かにカップへ口付けて、お茶を少量喉に流し込む。
そして一息吐いて香りを堪能し、
(まずですね、私はいやらしい気持ちを抱いて、おっぱいタッチした訳じゃないのですよ)
油性マジックの蓋を、きゅぽんっと取った。
(いいですか? おっぱいとはですね、母親が子供に与える最初の栄養の元でして)
ばさーっと豪快に、文のスカートをめくり上げた。
(生き物は根源に、おっぱいに惹かれる因子を持っているのですよ)
ドロワーズに目を書き込んだ。
(かの有名なナポレオン・ボナパルトも言いました。『我が辞書にはおっぱいの文字しかない』て)
鼻と口も書き込んだ。
(そこで幽香さんのおっぱい登場ですよ! そのおっぱいが歴史を変えるんですよ!)
うーん、なんか足りない……。
(つまり私は、歴史が紡いだおっぱいという未来に、この身を任せただけでして)
ねこひげも書き込んでみよう。
(だからこの事件に犯人はいない。悪者は誰もいなかったのです!)
おお、これは。
のどかな昼下がり。
鳥達が歌い、蝶が舞い、揺れるひまわり達が拍手を送る。
日差しは全てを愛しく包み、温め。
遊び疲れた妖精たちも、そこここの影で寄り添うように、静かな寝息をたてていた。
幽香は残っていたお茶を飲み干し、ふぅっとため息を吐く。
一仕事終わった、という感慨にひたる。
一気に言葉をまくし立てた文は、未だお尻だけであった。
流石に疲れたらしく、今は静かだ。お尻が呼吸に合わせて上下している。
ドロワーズに書かれたねこひげの顔は、にっこり笑ってどこかを見つめる。
「ぼーくードロワえも~ん」
幽香が呟いて、お尻はびくりと震えた。
~終~
ドロワえもん想像して吹いたwww
ドロワえもんはちょっと破壊力高すぎました。
それじゃあポケットの中の道具でも見せてもらおうかな……