あらすじ:
改札を タッチ アンド ゴー
萃香「どこ触ってんのよ!」
「よぅ香霖、お客が来てやったぜ」
「霖之助さん、お茶は玉露でお願いね」
荒々しく戸を開けながら、白黒の魔女と紅白の巫女がやって来た。僕は溜め息をつき、新着の品を机に置いた。
「お代を払わないものは、お客とは言わないんだよ」
いつも商品を持ち逃げされている身としては、とてもじゃないが「いらっしゃい」なんて言えやしない。
――否、持ち「逃げ」なんてしていないか。品を持ち出す時は、いつも堂々と玄関から出て行くからな。
「何言ってるのよ。むしろ、こっちが払って欲しいわね。ちゃんと奉納しないから、素敵なお賽銭箱の方から出張してあげたわ」
そう言う霊夢は、背中に何か背負っている。賽銭泥棒とは、賽銭箱から金を盗む事では無く、賽銭箱に金を入れるために盗む事を言うらしい。またもや、溜め息をついてしまった。
「今日は何を盗みに来たんだい?」
「盗むとは心外だな。商品のテストのために持ち出しているんだぜ」
「なら、持ち出した品を返してくれ」
「テストは、あと100年はかかるな」
「そんなのどうでもいいから、お賽銭を入れなさい。不浄な売上金はどこかしら?」
霊夢は霊夢で、勝手に僕が向かっている机の引き出しをあさっている。
背中の賽銭箱の角が、さっきから僕の顔面に当たっている。あ、血が。
「なによ、一銭も無いじゃない」
「当然だよ。なにせ、うちにお客は来ないからね」
来るのは、商品テスト係と賽銭回収員ばかり。
「そんなに賽銭が入りようなら、これをあげるよ。1束10万円だ」
「わぁい♪ ……って、ナニコレ」
「紙じゃないな。鉄でも木でもないぜ」
僕が投げた灰色の板束を、霊夢と魔理沙はうろんそうに見た。
「なぁ香霖、こいつはなんなんだい?」
「味がしないわね……」
板を光にかざしながら訊く魔理沙の横で、霊夢は板を口に入れ、しかめっ面をしていた。
なんでも口に入れようとするな。
「これは、外の世界のお金さ。この板に書かれた額面分の価値があるらしい」
灰色の板を引っくり返すと、鮮やかな絵が描かれており、隅には「1000」と記されていた。
「外の世界の金? 外の世界では、コインを使わなくなったのか?」
「いや、これは一種の代用通貨のようだ。僕の能力では、この板を通貨の代わりにして、切符を買ったり改札を通過できるとあったよ」
「なんだそりゃ? こいつは切符なのか金なのか?」
「どっちでもあるんじゃないかな」
僕にも、その辺の事は分からない。未知のアイテムの名称と用途がわかる程度という僕の能力は、
便利なようで痒いところに手が届かないのだ。
「これは八雲紫のスキマに流れついた品で、それを僕が譲り受けたんだよ。そう言えば……この板が幻想入りした原因は、伊吹の鬼のせいだと言っていたな。」
「萃香のせい?」
「なんで、あの酔っぱらいが外の世界の金と関係があるんだ?」
「この板は『じきしきいおかーど』と言って、切符の代用品として一世を風靡したんだそうだが、萃香に取って変わられたんだそうだ」
「じき」というからには焼き物かと思ったが、どうも違うようだ。
大体、紙のように薄い磁器なんて、焼く前に割れてしまうだろう。
「ちょっと待ってよ。鬼が幻想の存在になったから、萃香は幻想郷に来たんじゃないの。外の世界に影響力があるとは、思えないわ」
「僕に言われても、わからないよ」
「萃香が取って変わった……。なぁ、霊夢」
「なに、魔理沙」
「つまり、今は
萃香にお金と同じ価値がある
……んじゃないか?」
魔理沙が言うやいなや、店の中に突風が巻き起こり、咄嗟に目をかばった。
嵐がおさまった店内に、霊夢と魔理沙の姿は無かった。ついでに言うと、南の棚にあった商品も消えていた。
北の棚の商品も――こっちは、魔理沙の仕業だな。マジックアイテムがあった筈だ。
「本日も、大赤字なり……とね」
本日何度目とも知れぬ溜め息とともに、僕は呟いた。
「萃香! 出て来なさい! 隠れても無駄よ!?」
「んー? うるさいなぁ……霊夢、なーに……」
「うおっしゃあ、歩くお賽銭ゲットぉっ!」
「痛、いたいたいた角はらめぇっ!」
その後、身ぐるみ矧がされて縄でふんじばられた萃香が香霖堂に持ち込まれたとか――。
終われ
火事場泥棒以上に図々しい二人に吹いたw