天才の直感が叫んでいた。
罠だ。
だが、気がついてしまった以上、永琳には逃亡中の身でありながらそれを無視するという選択肢は許されていなかった。
ぬいぐるみ。
デフォルメされたうどんげの。
無意味に倒置法になるほどらぶりーだ。
絶妙に気の抜けた顔といい、置いてあるだけでは絶対に見えないスカートの中身といい、何処に出しても恥ずかしくない逸品だ。製作者はいつぞやの夜に襲撃してきた人形師だろうか。
魅入られたようにふらふらとぷりちーなぬいぐるみに近づきかけていた永琳は、はっとしてその歩みを止めた。
てゐだ。
理屈もへったくれもない。
永琳の自慢の弟子である鈴仙は兎たちにからかわれながらも慕われている。だからそのぬいぐるみを持っているものがいても不思議ではないが、それをわざわざ永遠亭の庭にこんなものを置いておくのはあの兎詐欺以外に考えられない。
ぬいぐるみを見た瞬間の直感は、てゐの存在を思い出したことによって確信に変わる。
あぶなかった。
呟いた永琳は出てもいない汗を拭った。
そして姿の見えないてゐに対して戦慄を覚える。的確すぎる餌だった。
けれど、私は罠だと見破った。
永琳の口元が笑みに歪む。
罠と見破った獣の目に、ぬいぐるみの手前の不自然な色の地面が映っていた。
こんな、程度の低い罠を。
てゐらしからぬ手を抜いた罠のように感じた永琳はそう考えたが、すぐに思い直した。
十分に手を尽くした餌。それがあれば手の込んだ罠は却って無粋。
永琳は落とし穴を飛び越え、ぬいぐるみに手を伸ばす。
ああ……。
己を陥れるために用意されたそれを、腕に抱く。
見た目に違わぬふかふかと柔らかな質感。
何よりも。愛らしい弟子の似姿。
ああ!
……がらがらがらどがしゃーん!
「はっ!?」
「はーい、予定通りの行動をありがとう。
これにてえーりんを捕まえようチキチキ☆捕獲作戦2007春を終了しますー。
ご協力感謝感激あめあられ~」
感謝の気持ちがかけらも篭っていない口調でそんなことを言いながらてゐが現れた。
庭に出ないように言い聞かされていたのか、あちらこちらから他の兎たちも顔を出す。
「私の罠は心の隙を付く二段構え。
技の隙を誤魔化すための二段構えとはモノが違うのよ」
渋くそう呟いたてゐは木の上から降ってきた鉄檻に閉じ込められた永琳に向かって疲れた笑顔を向けた。
「まったく。私ぁなんだか情けないよ。
食休みするのをやめて動くようにしたおかげでダイエットはそれなりに成功したのに、
疲れたからってそのまま歯磨きせずに寝ちゃって虫歯って……
もーちょっとこう……いや、やっぱりもういいや……」
「そのあきらめきったため息は何!?」
「んー? いや、なんてーかねー。
……うん、それじゃ鈴仙ちゃんトコ逝こうか」
「待って! 本気で!? 私に死ねと!?」
「えーりん死なないでしょうに」
「肉体的には死ななくても精神的に死ぬことはありえるのよ!」
「いいじゃない。愛する弟子の治療を受けられるんだよ?」
「だから嫌だって言ってるのよ!
ああ、檻ごと運ばないでー!?」
「どうせ鈴仙ちゃんに涙目で両手を組んでおねがい、
とか言われたら一発で陥落するくせに。
無駄に手間をかけさせるんだから……」
「じゃ、じゃあ師匠の虫歯を治療します!」
ぎゅいぃーん……。
ごりごりごりごりごりごりごり……ぐごごごごご。
「れーせんれーせん!
そこ歯じゃない! 肉削ってるよ!!」
「え? あ、ホントだ!?
す、すみません師匠……ってああ、ドリルが!」
たまたま襲撃してきた妹紅が、その治療風景を見て輝夜と手に手をとってガタガタと震えることになったのはあまり知られていない事実である。
罠だ。
だが、気がついてしまった以上、永琳には逃亡中の身でありながらそれを無視するという選択肢は許されていなかった。
ぬいぐるみ。
デフォルメされたうどんげの。
無意味に倒置法になるほどらぶりーだ。
絶妙に気の抜けた顔といい、置いてあるだけでは絶対に見えないスカートの中身といい、何処に出しても恥ずかしくない逸品だ。製作者はいつぞやの夜に襲撃してきた人形師だろうか。
魅入られたようにふらふらとぷりちーなぬいぐるみに近づきかけていた永琳は、はっとしてその歩みを止めた。
てゐだ。
理屈もへったくれもない。
永琳の自慢の弟子である鈴仙は兎たちにからかわれながらも慕われている。だからそのぬいぐるみを持っているものがいても不思議ではないが、それをわざわざ永遠亭の庭にこんなものを置いておくのはあの兎詐欺以外に考えられない。
ぬいぐるみを見た瞬間の直感は、てゐの存在を思い出したことによって確信に変わる。
あぶなかった。
呟いた永琳は出てもいない汗を拭った。
そして姿の見えないてゐに対して戦慄を覚える。的確すぎる餌だった。
けれど、私は罠だと見破った。
永琳の口元が笑みに歪む。
罠と見破った獣の目に、ぬいぐるみの手前の不自然な色の地面が映っていた。
こんな、程度の低い罠を。
てゐらしからぬ手を抜いた罠のように感じた永琳はそう考えたが、すぐに思い直した。
十分に手を尽くした餌。それがあれば手の込んだ罠は却って無粋。
永琳は落とし穴を飛び越え、ぬいぐるみに手を伸ばす。
ああ……。
己を陥れるために用意されたそれを、腕に抱く。
見た目に違わぬふかふかと柔らかな質感。
何よりも。愛らしい弟子の似姿。
ああ!
……がらがらがらどがしゃーん!
「はっ!?」
「はーい、予定通りの行動をありがとう。
これにてえーりんを捕まえようチキチキ☆捕獲作戦2007春を終了しますー。
ご協力感謝感激あめあられ~」
感謝の気持ちがかけらも篭っていない口調でそんなことを言いながらてゐが現れた。
庭に出ないように言い聞かされていたのか、あちらこちらから他の兎たちも顔を出す。
「私の罠は心の隙を付く二段構え。
技の隙を誤魔化すための二段構えとはモノが違うのよ」
渋くそう呟いたてゐは木の上から降ってきた鉄檻に閉じ込められた永琳に向かって疲れた笑顔を向けた。
「まったく。私ぁなんだか情けないよ。
食休みするのをやめて動くようにしたおかげでダイエットはそれなりに成功したのに、
疲れたからってそのまま歯磨きせずに寝ちゃって虫歯って……
もーちょっとこう……いや、やっぱりもういいや……」
「そのあきらめきったため息は何!?」
「んー? いや、なんてーかねー。
……うん、それじゃ鈴仙ちゃんトコ逝こうか」
「待って! 本気で!? 私に死ねと!?」
「えーりん死なないでしょうに」
「肉体的には死ななくても精神的に死ぬことはありえるのよ!」
「いいじゃない。愛する弟子の治療を受けられるんだよ?」
「だから嫌だって言ってるのよ!
ああ、檻ごと運ばないでー!?」
「どうせ鈴仙ちゃんに涙目で両手を組んでおねがい、
とか言われたら一発で陥落するくせに。
無駄に手間をかけさせるんだから……」
「じゃ、じゃあ師匠の虫歯を治療します!」
ぎゅいぃーん……。
ごりごりごりごりごりごりごり……ぐごごごごご。
「れーせんれーせん!
そこ歯じゃない! 肉削ってるよ!!」
「え? あ、ホントだ!?
す、すみません師匠……ってああ、ドリルが!」
たまたま襲撃してきた妹紅が、その治療風景を見て輝夜と手に手をとってガタガタと震えることになったのはあまり知られていない事実である。
へたれ永琳もまた良し、ですね
気になるのはアリスへの謝礼ですが……魔理沙(本物)だったり?
ザナっさん?
でもうどんげ人形を抱きしめる師匠を幻視して全俺が萌えた
次は紫様でしょーか、霊夢人形か藍人形かな?
舌にからまっちゃった
急に喋らないでください師匠
これが最もグロくなるパターンでしょうか!