オッス、私リリカ。ウチの姉さんたちってば相変わらずなのである。
「あ、ちょっと待って。あともう少しで思いつきそうなの、苦しまずに涅槃へ旅立つ方法」
「そんなこと言ってる場合じゃないわ姉さん! 今日はライブでしょう!」
「ライブ……“live”……ふふ、なんて皮肉な言葉かしら……」
「そう、音楽とは生命そのものなの!」
「確かに似てるわね、唐突に始まって唐突に終わる」
「それより見てよ姉さん!」
メル姉がなんかでっかい桶みたいなのと砂袋みたいなのを持ってきた。
「今日のライブは新たな演目を加えようと思うの」
「……もういつもの即興演奏でいいじゃん……」
「守りに入っちゃダメ。何事もアグレッシヴに、常に革新し続けなければ死んでるのも同然よ」
「つーか私たち自体死んでるのも同然よね」
騒霊って生き物……にはカテゴライズされないんだろうなぁ、たぶん。
「それでね、今度のライブでは外の世界の音楽をやろうと思うの」
「革新とか革命とか言ってる人の九割は誤解」
「茶番に腹くくってあえてやる姿勢、って格好良いじゃない」
「そういう言葉遊びはロック歌手にでも任せておけばいいと思う」
「でー、やろうと思ってるのが『ミュージックコンクリート』っていうジャンルの音楽なの」
「どうでも良いけど、そういう知識はどこがソースなの」
「スキマ放送局」
「あー……うん、まあ、いいや」
私も好きだよスキマ放送局。放送内容を一切信じないのが楽しむコツ。
「その音楽がね、外の世界では高く評価されてるらしいの」
「あ、待って、爪にささくれがあった」
「それで、私なりに色々調べたんだけれど」
「ぎゃー取ろうと思ったら指の皮まで裂けたー」
「ジャンル名からしてコンクリートが要るんだろうなー、って思ったからご用意しました」
「ねえ、絆創膏とって、ばんそうこう」
「ねえリリカ、とりあえずそこにコンクリートぶちまけてみて」
「ああ……血が……死ぬのかしら私」
なんかでっかい桶に混凝土とやらをあけてみた。
「じゃあシャベルがあるからそれで水とかき混ぜてー」
「それだけの土を混ぜるのにどれだけの水道代がかかると思ってるのか」
「新たな音楽のために出費を惜しんではいけないわ! そうそうリリカそんな感じ」
つーか幻想郷って水道引かれてたのか。
「あ、はい姉さん絆創膏」
「……どう見ても板東英二です本当にありがとうございました」
「絆創膏って地域で呼び名に差があるらしいわよ」
「え、全国共通でバンドエイドじゃなかったの」
混凝土かき混ぜるの結構しんどい。えいほらさ、えいほらさ。
「冥界の人たちはカットバンって言ってた」
「ふうん。……で、ミュージックコンクリートとやらはどう演奏するの」
「実はよくわかんないの」
「ええー」
「でもほら、今リリカがかき混ぜてる音とかがミュージックコンクリートじゃない?」
ざっくざっく、えいほらさ、えいほらさ。
「まあ音さえ出ていれば音楽として文句はないけれど」
「そうね、今日のライブはこれで決まりよ!」
「でも、ライブが終わったらどうするのこのコンクリート」
「このあとスタッフが美味しく頂きました」
「……責任を持って食べてね」
「そういうことにしておいて廃棄すればいいと思う」
「こういうの廃棄したら巫女あたりが黙ってないんじゃない」
「幻想郷の自然はこれくらいで破壊されるほどヤワじゃないわよ」
えいほらさ、えいほらさ。
「あ、そろそろ家出ないとライブの時間に間に合わないわ」
「待って、日課の天井のシミ数えがまだ終わってない。あと48時間くらい待って」
「そう言わずに行くわよ! お客さんが私たちの音楽を待ってるわー」
「あーうー」
えいほらさ、えいほらさ。
「ほら、コンクリート係はリリカに任せるから。姉さんはいつも通り弦を弾いてればいいの」
「……ほんと……?」
「はい、行くわよ! おやつは300円まで!」
「丸ごとバナナ持って行って良い?」
「許可!」
「じゃあ行く」
「ほらリリカも準備してー!」
えいほらさ、えいほらさ、はいよー。
あ、板東さんは歩いてお帰り下さい。
【 True End ξ・∀・) 】
エラーを探せで全部見つかったときは嬉しかったなあ。