Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

そして頓悟した妖忌は行動した

2007/04/10 08:12:45
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 ――数年前、白玉楼


     ○ ○ ○


 草木も眠る牛の三つ時、言葉の通りこの時間帯は殆どの生き物が眠りについて静まり返る。
 だが、現世から隔てられた冥界は逆にこれからが活発に活動する時間帯。
 住人の幽霊達は意味も無く只雲の様に冥界内を飛び回っている者、
 近々満開になるだろう桜を待ちきれずに早くも花見と洒落込んでいる者など、個々が気の向くままに夜を楽しんでいる。
 幽霊は喋る事が出来ない為無音で静かな世界だが幽霊達が動き回る夜の冥界は見た目はとても賑やかな場所だと言えるのかもしれない。
 そんな賑やかな夜の冥界の中でも例外として夜は静かな場所が存在する。
 西行寺家の持ち家、白玉楼。
 本殿には西行寺の家系の者と代々西行寺に仕えてきた魂魄家以外は無断で立ち入る事は出来ない為活動的になった幽霊達も近づく事は無い。
 その本殿の一室、畳み六畳程の質素な部屋の中で静かな寝息を立てながら眠りにつく少女が一人。

 魂魄家の一人、魂魄妖夢。

 幼い体には少し大きい布団を覆い被さり、枕元には彼女の半身である青白く半透明な魂魄が丸くなって呼吸するかの様に規則的に脹れたり萎んだりを繰り返している。
 雑音一つ無い安眠する中、部屋の襖が音も無く開き、その奥の闇から一人の男が襖を開けた時の様に音も無く眠っている妖夢に歩み寄ってきた。
 男は純白の長着に深緑の羽織と袴を身に纏い、腰には刃渡りが三尺は有ろう長刀と二尺程の小太刀を差し、
 長年生きてきた事を物語る深い皺を刻んだ顔には首近くまで下がっているがだらしなく無い様に整えられた白い髭、
 頭髪は全て後方になでつけられ、肩より下の部分で何も飾らない布で先端が結わかれている。
 背中には男の身長よりも一目見ても大きいと思わせる程の巨大な魂魄が音も無く付き添っていて、それが妖夢と同種である事を物語っている。

 男の名は魂魄妖忌。

 妖夢とは血縁関係にして剣の師でもある西行寺家の現御庭番。
 入ってきた妖忌がそのまま枕元にまで近寄るが妖夢は気配にまったく気付かないで呑気に眠り続けている。
 なんとも警戒心のなさに妖忌は顰めて顔の皺を更に深めてしまう。
「まったく、気配は消していないというのに……この未熟者め」
 つい溜息を吐いて小言を零してしまうがすぐさま本来の目的を思い出し、ある物に手を掛ける。
 岩の様な質感を思わせる分厚い皮膚で覆われた大きな手である物を妖夢の枕元に音を立てない様に丁重に置いていく。
 置かれたそれは腰に差されていた二本の刀だった。

 妖怪が鍛えた長刀、楼観剣。
 魂魄家の家宝、白楼剣。

 二本の刀はそれぞれ黒い鞘に納められており丹念に磨かれているのだろう、暗い室内だろうと己の存在を主張するかの様に微かな艶を発している。
「後の白玉楼と幽々子様を任せるぞ」
 これから妖忌は白玉楼を去る。
 主である幽々子にも肉親である妖夢にも何も伝えずに姿を暗ますつもりでいた、だがその前にここに残され二代目の庭師として幽々子に仕える事になる妖夢にこの先必要となるだろうこの二振りの刀を譲る為に妖夢の前に現れたのだ。
 本来なら妖夢が起きている昼に後任の伝えと共に刀を渡すべきなのだろう。
 しかし今伝えても妖夢は拒絶すると予測した為妖忌はこの様な行動に出た。
 妖夢は妖忌の目から見て明らかに修行不足で半人前、それを自覚している真面目な妖夢に今後任させようとしてももっと指南して欲しいと請いてくるだろう。
 白玉楼を出ると言ったら尚更の事、もしかしたら付いて来るとさえ言ってくるかもしれない、
 そう懸念した妖忌は何も伝えずに刀だけ残して妖夢の前から消えようと考えたのだ。
「すまぬな妖夢、結局俺はお前に優しくしてやった事など殆どなかったな……」
 常に肉親とでは無く剣の師として振舞ってきた事に妖忌は少しだけ後悔の念を抱いてしまったのだろうか、つい膝を付いて妖夢の頭を優しく撫でてしまう。
「うんー、ん……」
 撫でられた妖夢は小さく唸りはするが軽く閉ざされた目蓋が開かれる事は無かった。
「……まったく触られてもまだ眠り続けるとはな、これからはお前が幽々子様を守ると言うのに……」
 呆れて何とも言えないといった台詞だが妖忌の顔には目を細め、先程まで硬く締められていた口を微かに緩めて微笑んでいる。
 それが無意識なものだったのかは分からない、
 せめて最後は優しくする事が出来たと言う達成感からかも知れない、或いはこんな事でしか優しくする事が出来ない自分に対する自嘲だったかも知れないし。
 やがて小さな微笑は消え、元の厳格な顔に戻った妖忌は少し名残惜しそうに撫でていた手を放して立ち上がると入ってきた時と同じ様に足音を立てずに襖の前まで歩き手を掛けた所で一旦動きを止めた。
「妖夢よ、こんな馬鹿な俺を許してくれ。さらばだ」
 誰も聞いていないだろう懺悔を妖忌は眼を瞑って独白を済ませると音も無く襖を開け、部屋から出ていった。


 屋敷から延びる大陸の意匠が施された階段を妖忌は下りていく。
 その歩みは一段下りる度に今までの白玉楼、冥界での思い出を一つずつ噛み締めるかの様にゆるやかな速度で、
 それでいて力強く吸い付くようにしっかりと踏み締める。
 階段の両脇には桜並木が均一の距離で立ち並び、暗くて見えない階段の終わりまで導くかの様に続いている。
「妖忌」
 喋る者も鳴く者も居ないはずの静かな階段の上で自分の名前を呼ばれた事に妖忌は足を止めて呼ばれた方向、真後ろに振り返り見上げる。
 見上げた階段の中央には何時からそこに居たのだろうか、
 桜の花びら模様と所々に西洋風のひだをあしらった小袖を纏い、ややウェーブの掛かったショートヘアーに紙被を付けたキャップを被った少女が妖忌を見下ろしていた。
「幽々子様、どうしてここに居られるのですか?」
 質問された少女、妖忌の主にして冥界の幽霊の管理者の西行寺幽々子が渋い顔をする妖忌とは裏腹に明るく浮いた笑顔を浮かべる。
「どうしても何も、ここは私の庭よ? 夜のお散歩に来たのよ。そういう妖忌だってこんな所で何をしてたの?」
「それは……」
 主にさえ内緒で冥界を出ていくなどと言える訳が無く、何か良い誤魔化し無いかと考え込んでしまい口が止まって目を逸らしてしまう。
「――やっぱりここを飛び出すつもりなのね~」
 内緒にしていた事を当てられて驚いた妖忌は目を見開いて幽々子の顔を見るが、先程と変わらない明るい笑顔を絶やしていない。
 全て見透かされていたと悟った妖忌は観念し、誤魔化す為の言葉を考えるのを止めて素直に話そうと思い口を開く。
「どうにも幽々子様はその様な事に関しての勘が鋭うございます、隠し事は出来ませぬか」
「貴方とはかれこれ300年近く一緒に暮らしてきたのよ。『あの出来事』の後にはきっとこうすると思ってたわ」
 幽々子の言う『あの出来事』を思い出したのだろう妖忌は今までに無い位に顔を顰めて俯いて腕を組み、その妖忌の動作に幽々子は微かに目を細める。
 何処からともなく一陣の風が通り過ぎ、風に煽られた花びらが吹雪となって二人を包む。
 風も過ぎ去り、舞った花びらも地に落ちた頃になって妖忌は組んでいた腕を解きながら顔を上げて重い口を開いた。
「……私は今まで己が剣こそ如何なるものにも勝るものだと信じて疑わずに参ってきました」
「妖忌の剣術はいつでも最高よー。おかげで庭の剪定とかも楽ですもの」
「しかしそれも自惚れに過ぎぬ事でした。私は奴に、天狗との勝負に刀の切先一つ掠る事も出来ずに終わり更には私の心を砕かれて負けを認めてしまいました」
「あんなの勝負とは言わないわよ、相手は弾の一つ撃ってきてないんだから」
「それでも私は負けを認めてしまいました、そして知ったのです。現世には私の剣よりも更に強いものが存在すると、そしてそれに打ち勝つには相手を知る事にある、そしてそれは冥界に居るだけでは見出す事は出来ない、と」
 そこで一旦言葉を切り少し躊躇するかの様に間を空け、そして覚悟を決めたのか睨みつけるかの様に幽々子を見据える。
「幽々子様、どうか私に暫しの休暇を頂きたいのです。大変身勝手である事は重々承知の上ですが幽々子様に仕える者として、私が天狗にも負けない力を手に入れる為にどうかお願いいたします」
 自分の全ての思いを告げた妖忌は深く頭を下げて微動だもしなくなった。
「良いわよいってらっしゃい、妖忌がそこまでするって事は本気なんでしょう。それに今まで貴方には沢山我侭してきたんだから今回位貴方の我侭を聞いてあげる」
 拒否されるかも知れないと思っていたのに大して考えたとは思えない合間で返ってきた了承にも妖忌は顔を上げない。
 ひたすら頭を下げ続ける妖忌をそのままに幽々子は更に話を続ける。
「でもね」
 そこまで口に出した所で妖忌はようやく顔を上げて幽々子の顔を見て息を呑む。
「でもね、早く帰ってくるのよ。私はまだ大丈夫だけど貴方が居なくなったら妖夢が悲しむんだからね」
「っ!!」
 幽々子の顔には浮いた笑顔が今も張り付いているがその目にはどこか悲しみの篭った色をしているのが妖忌には理解出来た。
 主を悲しませてしまうと言う従者としてしてはいけない事の一つを犯してしまった事に妖忌は酷く胸を締め付けられる。
「大変申し訳ありません幽々子様……一分一秒でも早く貴方様の、妖夢の下に帰ってくる様努力致します」
「その時を待ってるわ、何時までも。ここが私の居る場所、そして貴方の帰るべき場所なんだから」
「はい、必ずや……行って参ります」
 妖忌は再び深く頭を下げた後踵を返して幽々子に背を向けると再び階段を下りていく。
「約束よ、妖忌……」
 ゆっくりとながら確実に階段を一段ずつ下りて段々小さくなっていく妖忌の背中を名残惜しそうにいつまでも見送る。
 再び一陣の風が幽々子の背後から吹きつけ、桜並木も去り行く妖忌を送迎するかの様に桜色の吹雪を舞い散らしていた。


     ○ ○ ○














 ――現在、人間の里



「おっす慧音、遊びに来たよ」
「あぁ妹紅か。まぁゆっくりしていくと良いぞ」
「そうさせて貰うよ。あ、本見てるのか、誰が書いた本なの」
「『天桜 魂忌』と言う数年前から現れた作家でな、子供も楽しめる小説から大人も納得の論文まで幅広い文学を取り扱えて絵も上手いと言う凄い人さ。これだけの事をこなせるのだから相当の年季を持った人に違いない」
「ふーん」

「ペンは剣よりも強し」と言う言葉を襲来した天狗の新聞記者によって思い知らされた妖忌、
天狗の記者に勝つためには相手が使う技、文学を知り極める事だと悟った妖忌は修行の旅に出た。
幽々子と妖夢を残していったと言う背徳心を抱きつつ今日もペンを握る。
目指すは究極のペン使い、その日が来るまで戦え妖忌!

なんか悟り方間違ってる気もするけど立ち止まらず突き進め
更待酉
コメント



1.名無し妖怪削除
オチが上手いですな
確かに間違ってる気がするw
2.名無し妖怪削除
なるほど、こういうオチですかw
3.卯月由羽削除
そう落とすかww
とりあえず妖忌のじっちゃんなにやってんのww
4.蝦蟇口咬平削除
どんな戦いだったかきになりますw
5.時空や空間を翔る程度の能力削除
ちっとマテwwwwww
6.名無し妖怪削除
間違ってるような、間違ってないようなw
とりあえず妖夢にはしられないように気をつけろw