レティとチルノが晩酌をしていた時のことである。
「フト思うんだけどね」
大吟醸的なものを啜りながら、チルノ。
「どだい氷の精というのはいるけど、炎の精というやつはいないのかしらん」
さぁね、とレティは肩をすくめ、
「サラマンダだかイーフリトだのっていうのは聞いたおぼえがあるけれど、見たことはないわね」
なんで急にそんなことを? と、つまみっぽいものをポイと放る。
「(パクリとつまみらしきものを口にして)拍手は片手じゃ出来ない、喧嘩はひとりじゃ出来ないっていうじゃないの」
だから対になるような相手が欲しいわけ。
「なるほどね」
いわば杯の類をなみなみ満たし、クイッと飲み干すレティ。
「やぁやぁ。雪見酒とは風流しごく」
と招かれもしないのにやってきたのは天狗の文である。
「なぁにさ? あいにく、面白いことなんて何もありゃしないよ」
唇をとがらせるチルノ。
「面白いかどうか、記事にし得るかどうかは全て私の心算しだい」
勝手に持参の瓢箪で相伴にかかる。
「ところで、炎の精でしたっけ? そんなものに興味がおありとは意外も意外ですね」
この地獄耳め、といいたげなチルノ。
「良ければ、私がひとつ骨を折りますよ」
許可も得ずにつまみじみたものを口に入れつつ、天狗。
「へぇ。火の精に知り合いがいるの?」
文のおとものカラスに、つまみ風のものを分けてやるふりをしつつ、レティ。
「いや、知りませんよ。でもまぁ、心当たりがないわけじゃない」
(つまみかつまみでないかでいえば)つまみを咀嚼しながら、身を乗り出す。
「どうです? 氷の精と炎の精、宿命の対決! というような塩梅で……木戸銭も取れそうな一戦だなぁ」
ブン屋というより興行師のような口ぶりの射命丸である。
「見世物になんてなりたかないわよ!」
とは言いつつ、炎の精との一勝負には興味シンシンな雰囲気を漂わせていなくもないチルノ。
「まぁ、あんまり期待されても困るんで、ほどほどにお楽しみに」
それにしても、とレティ。
「そんなに喧嘩がしたいの?」
そういうわけじゃない、というチルノ。
「目に見える敵が――欲しいのよ」
目に見えない敵。迷い。不安。そういうようなもの。
「そいつらには、どだい、冷気も効かない。氷柱も投げられない」
不味そうに杯のフチを舐める。
「だから、欲しいのよ。見える相手。闘える相手が」
ひどく冷えた空気だ、と文は感じた。
(何も、寒気を操ったわけでもないでしょうにねぇ)
チラとレティを見ると、チルノを眺めながら旨そうに飲んでいる。
(彼女を肴にして楽しんでいるのか、それとも見守っている心持ち?)
あるいは、現在のチルノの心情は、レティの仕業なのかも知れなかった。
(冷やせるのは気温だけではないのかしらね)
心を冷やし、寒気おびた風を吹かせられるのだとしたら。
(それはうんと厄介なことだけど)
思えば自分がフト彼女たちの輪に加わったのも、
(ちょっと心が冷えていたせいかも知れない。……)
そんな文の心中を知った風も無く、
「まぁ、彼女が火の精を用意してくれるそうだし。それで熱くなれば良いじゃない」
チルノの空いた杯を満たしてやりながら、うっすらと唇をほころばせるレティ。
「そうね! 思うさま叩きのめしてやれば、ウンと気も晴れるだろうしね」
袖をまくって今にも出陣しそうな剣幕である。
「どうもプレッシャーだなぁ」
そうボヤきつつも、さほど悪い気はしない文。
(もう酔っているのかも。……)
酔おうが酔うまいが、どうあれ冬の夜はふけていくのである。
「フト思うんだけどね」
大吟醸的なものを啜りながら、チルノ。
「どだい氷の精というのはいるけど、炎の精というやつはいないのかしらん」
さぁね、とレティは肩をすくめ、
「サラマンダだかイーフリトだのっていうのは聞いたおぼえがあるけれど、見たことはないわね」
なんで急にそんなことを? と、つまみっぽいものをポイと放る。
「(パクリとつまみらしきものを口にして)拍手は片手じゃ出来ない、喧嘩はひとりじゃ出来ないっていうじゃないの」
だから対になるような相手が欲しいわけ。
「なるほどね」
いわば杯の類をなみなみ満たし、クイッと飲み干すレティ。
「やぁやぁ。雪見酒とは風流しごく」
と招かれもしないのにやってきたのは天狗の文である。
「なぁにさ? あいにく、面白いことなんて何もありゃしないよ」
唇をとがらせるチルノ。
「面白いかどうか、記事にし得るかどうかは全て私の心算しだい」
勝手に持参の瓢箪で相伴にかかる。
「ところで、炎の精でしたっけ? そんなものに興味がおありとは意外も意外ですね」
この地獄耳め、といいたげなチルノ。
「良ければ、私がひとつ骨を折りますよ」
許可も得ずにつまみじみたものを口に入れつつ、天狗。
「へぇ。火の精に知り合いがいるの?」
文のおとものカラスに、つまみ風のものを分けてやるふりをしつつ、レティ。
「いや、知りませんよ。でもまぁ、心当たりがないわけじゃない」
(つまみかつまみでないかでいえば)つまみを咀嚼しながら、身を乗り出す。
「どうです? 氷の精と炎の精、宿命の対決! というような塩梅で……木戸銭も取れそうな一戦だなぁ」
ブン屋というより興行師のような口ぶりの射命丸である。
「見世物になんてなりたかないわよ!」
とは言いつつ、炎の精との一勝負には興味シンシンな雰囲気を漂わせていなくもないチルノ。
「まぁ、あんまり期待されても困るんで、ほどほどにお楽しみに」
それにしても、とレティ。
「そんなに喧嘩がしたいの?」
そういうわけじゃない、というチルノ。
「目に見える敵が――欲しいのよ」
目に見えない敵。迷い。不安。そういうようなもの。
「そいつらには、どだい、冷気も効かない。氷柱も投げられない」
不味そうに杯のフチを舐める。
「だから、欲しいのよ。見える相手。闘える相手が」
ひどく冷えた空気だ、と文は感じた。
(何も、寒気を操ったわけでもないでしょうにねぇ)
チラとレティを見ると、チルノを眺めながら旨そうに飲んでいる。
(彼女を肴にして楽しんでいるのか、それとも見守っている心持ち?)
あるいは、現在のチルノの心情は、レティの仕業なのかも知れなかった。
(冷やせるのは気温だけではないのかしらね)
心を冷やし、寒気おびた風を吹かせられるのだとしたら。
(それはうんと厄介なことだけど)
思えば自分がフト彼女たちの輪に加わったのも、
(ちょっと心が冷えていたせいかも知れない。……)
そんな文の心中を知った風も無く、
「まぁ、彼女が火の精を用意してくれるそうだし。それで熱くなれば良いじゃない」
チルノの空いた杯を満たしてやりながら、うっすらと唇をほころばせるレティ。
「そうね! 思うさま叩きのめしてやれば、ウンと気も晴れるだろうしね」
袖をまくって今にも出陣しそうな剣幕である。
「どうもプレッシャーだなぁ」
そうボヤきつつも、さほど悪い気はしない文。
(もう酔っているのかも。……)
酔おうが酔うまいが、どうあれ冬の夜はふけていくのである。