Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

永琳先生のはちみつ診療 出張診療編

2007/04/08 05:57:06
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「レミリアさんは、大変、言い出しにくいのですが、極めて厄介なご病気にかかっています」
「なっ……!?」
「せ、先生、それは……!?」
 今朝になって、レミリアがベッドから起きてこないことを不思議に思った咲夜が彼女の部屋を訪れると、レミリアは「何か調子が悪い」と呻いていた。その後も食欲がなかったり元気がなかったりで、彼女の調子の悪さを不安に思った咲夜が、ここ、八意永琳医療相談所に彼女を連れてやってきたのが、今から三十分ほど前のこと。お医者はいやだ、とぐずるレミリアを何とか説得し、無事に診療を終え――そして、ここの所長兼主治医である永琳から、その言葉が告げられていた。
 ちなみに、どうして吸血鬼なのに朝っぱらから活動しているんだ、というツッコミは受け入れないのであしからず。
「ど、どういうことよ!?」
 座っていた座布団から思わず立ち上がり、めまいでもしたのか、ふらっとよろめく彼女を、慌てて隣の咲夜が押さえる。
「はい。レミリアさんがかかっている病気ですが、まず、特効薬というものが開発されていません」
「そんな……。つ、月の頭脳と言われる天才の、八意先生でもですか!?」
「はい。私でも、それはかなわないことでした」
「……嘘。
 ど、どんな……病気……なのよ……」
 すでに、レミリアの顔は顔面蒼白だった。子供らしい、赤みをいつでも帯びているほっぺたも、完全に真っ白だ。それほど、永琳の言葉がショックだったらしい。永琳は沈鬱な表情のまま、「患者には真実を伝えることにしています」と前置きを置いた。
「まず、この病気にかかると、今のレミリアさんのように体の不調が最初の症状として出てきます」
「え、ええ……」
「その後、倦怠感、喉や鼻の粘膜の炎症が発生し、呼吸困難の症状が現れることもあります。そのまま気管支の侵食が進んだ場合、最悪、肺炎を起こして死に至る可能性も……」
「しっ!?」
「せ、先生!?」
「また、発熱症状が顕著なものとして現れてきます。
 この場合、その発熱に伴う頭痛や全身の筋肉、また関節への炎症が発生する場合もあり、その場合は、ベッドに寝ているのも辛いほどの苦痛となるでしょう」
「嘘……でしょ? 嘘って言いなさいよ!」
「残念ですが、真実です」
 愕然とするレミリア。
 先ほどのめまいや体の不調と関係なしに天地が逆転したような感覚に囚われたのか、そのまま、咲夜にふらふらと寄りかかってしまう。
「また、この症状は消化器系への侵攻も確認されています。
 こちらに症状が出始めると、急性の腹痛に襲われ、嘔吐感、また、実際に食べたものを戻してしまったり、激しい下痢などに伴う脱水症状に見舞われることも考えられます。こうなりますと、満足に栄養をとることも出来ず、大変な苦痛に苛まれることでしょう」
「あ……ああ……そんな……」
「お嬢様……」
「この病気の特徴して、日々の生活の不摂生や、それに伴う免疫力の低下などが原因となることも多々あります」
 お心当たりはあるでしょう? と、永琳は断定的な口調で言った。
 確かに自慢ではないが、日頃の生活の不摂生にかけてはレミリアはかなりのものである。好き嫌いが多い、生活リズムが不規則、咲夜の言葉には耳を貸さないわがままっぷりなどなど。そうしたものが積み重なった、まさしく因果応報だというのか。
 レミリアをしっかりと支える咲夜が、「お嬢様……」と絶望的な口調でつぶやく。
「レミリアさんは、『風邪は万病の元』という言葉をご存知ですか?」
「し、知ってる……けど……」
「風邪と侮っていたら、より重たい病気を併発した。風邪と侮っていたら、実は深刻な病気だった――」
 そこで、永琳は言葉を句切った。不吉な想像をかき立てまくる言葉に、ついにレミリアが咲夜の服の袖をぎゅっと握った。無意識に、普段は傲岸不遜な彼女であっても頼れる相手に身を寄せてしまう姿だった。咲夜が、そんな彼女をぎゅっと抱きしめる。
「レミリアさん。風邪は万病の元、ですよ」
「……わ、わたしは……どう……なるの?」
「――本来なら、打つ手なし、といったところでしょうか。
 ですが、ご安心ください。特効薬はございませんが、その症状を抑え、また、改善に持って行けるお手伝いが出来るお薬でしたらご用意できます」
『鈴仙』と、小さく、永琳が言った。
 普段、自分の助手のことを『ウドンゲ』と呼ぶ彼女が『鈴仙』と呼ぶと言うことはよほどのことである。体を硬直させるレミリアの元に、鈴仙が、コップに一杯の水と粉薬をお盆の上に載せてやってきた。
「レミリアさんは、お薬が苦手と言うことは承知の上です。しかし、レミリアさん。どうかご理解ください」
「わ、わかったわ……。
 ……そうよ、わたしは紅魔館の主で……まだまだたくさんやりたいことがある……わたしには、残していけないもの達が一杯いる……。こんなところで死ぬわけにはいかないのよ!」
 意を決したように、彼女は粉薬を手に取り、それを飲み干した。口の中に広がる苦みに顔をしかめはしたものの、「こ、これでいいの!?」と悲鳴にも近い声を上げる。
「はい、確かに。
 では、咲夜さん。一日三回、毎食後にこちらの薬をレミリアさんに服用させてあげてください」
「……はい、かしこまりました」
「また、レミリアさんは安静を心がけてください。それから、栄養のある食事をしっかりと摂ってください」
「……ええ、わかったわ。今だけはわがまま言わない……我慢する」
「はい。
 では、お大事に。また何かありましたら、すぐにご連絡くださいね」

「お会計の方、これでよかったかしら?」
 咲夜が取り出したのは、ワインの瓶である。「金銭の用意をすることが出来なかったの」という彼女の言葉の通り、ここ、八意永琳医療相談所にはお金の用意できないもの達もやってくる。そういう相手に要求されるのは、治療費の対価となるようなものだ。早い話、物々交換というわけである。
 鈴仙はそれを受け取ると「充分ですよ」とにこやかに微笑んだ。
「けれど……。ねぇ、ウドンゲ。お嬢様は……一体何の病気なの?」
 待合室の一角では、何やら思い詰めたような表情のレミリアが座っていて、ぶつぶつとつぶやいている。彼女には聞こえないよう、小さな声で問いかけてくる咲夜に「ああ」と鈴仙は気軽に答えた。
「風邪ですよ」
「……風邪……そう、風邪なのね……」
 と、うなずいて。
「え? 風邪?」
 間抜けな声を上げてしまう。
 はい、と鈴仙はうなずいた。
「ち、ちょっと待って。だって、八意先生は、そんなこと一言も……!」
「言ったじゃないですか。『風邪は万病の元』って」
「だ、だけど! それ以外にも、症状とか……!」
「あれ、全部、風邪の諸症状ですよ」
 言われてみて、永琳の言葉を思い返す。
 確かに、鈴仙の言った通り、頭痛も腹痛も熱も関節痛も、咳に下痢、鼻水は立派な風邪の諸症状。肺炎云々、脱水症状云々は合併症。
 そう考えると、『確かに』だった。
「……何であんな大げさに……」
「レミリアさんって、お医者さん、嫌いじゃないですか。やれ、薬は甘いシロップじゃないとやだだの注射はいやだだの。挙げ句、聴診器もいやがるんですもん」
「……それは……確かに……」
 っていうか、典型的な子供の、医者に対する反応の数々である。それを言われると情けないものがあるのか、咲夜の勢いはしょぼいものに変わっていく。
「だから、師匠が考えたんですよ。それなら、治療を受けないといけないようにしたらどうかしら、って。
 まぁ、風邪なんて、美味しいもの食べて、きちんとお水を飲んで、あったかくして寝ていたら一発ですけどね。あ、ついでに、そのお薬、かなり効きますから。多分、三日も経たずに治ると思いますよ」
「……そう」
「この話、くれぐれもレミリアさんには内密に」
「ええ……そうね……」
「では、お大事に」
「……ええ……ありがとう……」
 何だかもう、色んなものが一撃で蹴散らされたような気持ちだった。あほらしいやらバカらしいやら情けないやら笑い出したいやら、とにかく色んなものがごちゃ混ぜになった状態で戻ってくるメイド長に「また何か悪い話を聞かされたのかしら?」と、レミリアが不安そうな顔で訊ねた。
 しかし、咲夜は努めて笑顔になると「それでは帰りましょう、お嬢様。今夜は栄養のつくお料理をご用意致します」と、その場をきれいに収めた。そんな二人に、鈴仙は笑顔を送る。
『また何かありましたらどうぞ』
 その表情は、見事に、そのように語っていたのだった。


「八意永琳恐るべし……。っていうか、吸血鬼って風邪引くのかしら……?」
「何か言った? 咲夜」
「いいえ……何にも……」





「あらあら。
 皆さんも、風邪には気をつけましょうね」


 ~本日の診療は終了致しました 八意永琳医療相談所所長兼主治医 八意永琳~
季節の変わり目は風邪を引きやすいのです。皆さん、風邪には気をつけましょう。
それにしても、どんどんレミリアがへたれていくのはなぜでしょう?
haruka
コメント



1.BP削除
言い回し一つでこの説得力ww 流石は八意先生ですね~
2.名無し妖怪削除
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/DHMO
これ思いだした。
3.卯月由羽削除
さすがえーりん、ちょっと考えれば分かったけどすごい説得力…
4.名無し妖怪削除
>特徴して 脱字?
5.名無し妖怪削除
さすが永琳先生。途中で風邪かぁ~って思いましたけど、
いやはや。
吸血鬼も風邪をひくんですね~。
6.蝦蟇口咬平削除
あー、風邪の特効薬ってまだですもんねえ
ただお嬢様のへたれっぷりに笑うよりもすこし呆れちゃいましたw