春も来たというのにまだ寒い日が続くある日のことだった。
私、八雲藍は用事を済ませ座敷に腰を下した。
今日も忙しかった、というのもいつも寝ている我が主のかわりに結界の状態を見てまわっているからである、さらに家では家事を行わなければならない。
じっと手を見ることはないが働けど働けど楽にはならない。
床に座り込み半生を振り返ってみる。
考えてみると私は何千年と苦労してきたものだ。
朝は主人を起こそうとするも「後二時間~」と言われ、起こさないでおくと「何で起こさなかったのよ!」と変にキレられる、実に理不尽だ。
昼は昼で「またカップ麺~?私はもっとエレガントなランチが取りたいわ」と言われ、夜は私が何時間も考えて作った献立を「今日は何かカップ麺でいい」と言って一蹴りする。
風呂も熱いやらぬるいやら注文が多いし、そのくせさっさと寝る。
そんな理不尽に理不尽を重ねたような生活を何千年と続けてきた。
確かに私はれっきとした式神であって主人に行使されている以上何も言えない。
しかし、こう長くやっているとだんだんと私にもストレスというものが溜まってきて大変精神によくない。
そんな私にも心癒されるオアシスがある。
私の式神『橙』の存在だ。
橙の可愛さを表現するには原稿用紙何枚あっても足りない、というかぶっちゃけ三途の川の距離を求めるよりも時間がかかるので割愛する。
で、私は考えた。
『橙にはもっと強くなって欲しい、そして私のようにはなって欲しくない』と
主人にこき使われるような式神にはなってほしくない、もっとも私はそんなことはしないけどな。
でも、紫様はいっぺんこき使われてしまえ。
すまない本音が出てしまった。
しかし橙には早く強くなって欲しい、それこそ私を超えるくらいに。
私は考えた。
そして一つの答えを出した。
私たち式神は式をつけることでより力をつけることができる。
私も紫様に使えて長いので少しばかり外の物の知識があるので知っているが。
外の世界のパソコンとか言う式は「CDディスク」なる物を使い「データ」「メモリー」を憑け強化すると聞く、強化すれば「ウイルス」などという外敵を倒したりできるらしい。
つまりそれらを実装すればてっとり早く強くなれる、ニュータイプの式の誕生だ。
それが正しい答えなのだろうか分からない、しかし、何度考察しても私の脳はそれが最も最適な判断だという答えしか返ってこない。
しかし、そんな物をどうやって手に入れようか?
試案を巡らせた結果、この計画を実行に移すべく私はとりあえず香霖堂に飛んだ。おそらく香霖堂なら外の物であるそれらの一つや二つぐらい売ってるだろうと考えたからだ。
紫様に頼むのが一番手っ取り早いのだが、紫様に頼んだら代償に何されるか分かったもんじゃない。
◆ ◆
香霖堂に行ってみると予想通りいくつか置いてあった、値段は書かれていない、って言うか香霖堂の商品は基本的に値段が書かれていない。
幻想郷で手にはいるものならまだしも外の世界の物だ、大概とんでもない値段であることは目に見えている。
しかし、この程度でへこたれるわけにはいかない。私は店主に話しかけた。
「あ~、この商品の値段はいくらだ?」
やる気無く座っていた店主はその言葉を聞くと顔を上げ商品を手に取った。
次の瞬間店主が私の方をチラリと見たのを私は見逃さなかった。こっち見んな。
『ああ、どうせあの隙間妖怪の気まぐれだろう』と思ってくれたらしく特に気にした様子では無かった。久しぶりに紫様に感謝した。
「ん~これは外の世界の物だからね~」
しばらく考えた後、店主が一声を上げた。
不味い……この店主絶対にふっかけるつもりだ。
「まあ大体これぐらいかな」
店主は机の上で本に潰されていた算盤を引っ張り出し素早い手つきで値段をはじき出し私に突きつけた。
(高っ!!)
その算盤を見た私の第一印象はこうだった。やっぱりぼったくりだ。
普段はやる気はないくせに絶対に買わなきゃならない時に限ってこれだ、っていうかどうせ中古だろそれ、なのにそんなにふっかけやがって銭ゲバめ!
「で、どうするんだい?」
店主の眼鏡がキラリと光った気がした。ちっ!こっちの足下見やがって。
くっ……どうするか……。ギリギリではあるが確かに買えない値段では無いがこの代償は大きい。
生活費を落とせば何とか……いや橙にひもじい思いはさせてはいけない、紫様はカップ麺でも良いがな。
こうなったら殺してでも……いやいや……。
数秒間考えた
仕方ないのでそこらに落ちてた葉っぱを術で金に換えた。よかった、ホント妖狐でよかった。
「毎度あり」
その金を手に取り店主はそう言った。
私はニコニコした店主を後目に店を出た。店主も満足してるようだしまあいいだろう。今が幸せならそれで良いと思うよ、私は。
お金で買えない物もある。
とりあえず必要なものは手に入った、後は全てを実行に移すのみである。
余りのうれしさに叫びそうになった。
「念願のギャルゲーなるものを手に入れたぞ!」、と
ふう、ありのまま 今 起こった事を話す……。
『私はウイルス対策ソフトを買おうと思ったのに、いつのまにかギャルゲーに手が伸びていた』
別に最近は猫の教育ばっかりで橙が私をあんまり構ってくれないということが不服なわけではない。
パッケージに書かれてたネコミミ少女がかわいかったから……その……つい…。
で、でもな!これをインストールしたらちょっと口では言えないほど強くなるくね?っていうか最強じゃね?
つーか言いたいことは燈とにゃんにゃんしたいってこと。
ははは、待ってろよ橙~今行くぞ~。
私は家路を急ごうとした
「なんだ藍じゃないか? 買い物にでも来たのか?」
その時、霧雨魔理沙に偶然にもエンカウントした。くそっ!こんな時に!
「お? 何買ったんだ?」
霧雨魔理沙は私の持っている袋に興味を示したようだ、まずい……。
「だ、だめだ!これはダメだ!」
「怪しい……そう言われるとすごい見たくなるぜ……」
完全にロックオンされてしまった。
「見せろよー」
「ダメだ!」
「見せろよー」
「ダメだダメだダメだ!」
「みせーーゴフッ!!」
私の拳は霧雨魔理沙の鳩尾をとらえていた。
「許せ……」
「な、なんで私が……」
崩れ落ちる魔理沙を後目にこう言った。
「坊やだからさ・・・」
十八歳以下はやっちゃダメ、お姉さんとの約束だ。
◆ ◆
そしてまよいがにあったかな春がやってきた、主に私に。
「橙~橙~ちょっとこっちに来なさ~い」
沸き立つ衝動を抑えながら平静を装って橙を呼ぶ。
「はい、何でしょうか藍様」
橙は障子を開けて顔をちょっと出してそう言った。
その愛らしさに私のボルテージが急上昇したのだがそこはグッと押さえて
「ま、まあちょっとそこに座りなさい」
私の正面に橙を座らせる。
橙はてっきり怒られるために呼び出されたのかと思って縮こまってビクビクしている。
あ~もう、ホントかわいいな。本当に怒るとしてもこれじゃ怒るにも怒れない。
「あ~橙、別に私は怒ってるわけでもないし、橙を叱るために呼んだのではないから楽にしなさい」
「は、はい!」
そう言ってはいるが耳や尻尾を見る限りまだ緊張している事が見て取れる。
「橙……もっと強くはなりたくないか?」
さあ、私のお芝居の始まりだ橙をだますのは気が引けるが……。
「強く……ですか?」
きょとんとする橙。
「そうだ」
「私……強く…強くなりたいです!!」
「そうか…」
平静を装っていたが正直心は小躍りしていた、。
後はこいつをインストールするのみである。
「じゃあ――――」
「強くなって、もっと藍様のお役にたちたいです!」
燈ははっきりとした口調でそう言ってくれた。
くっ……泣かせてくれる。私の心の中で罪悪感が広がっていくのがわかった。
しかしここで心が折れてしまったら今までの苦労が水の泡だ…ごめんね橙。
「それじゃいくよ橙……」
「……はい」
◆ ◆
よしっ完璧だ。後はインストールが終わるのを待つだけだ。
……。
って、ああ!トースト焼いてないよ!トースト!
やっぱ出会いが大切だろ、第一印象大切が大切なのに!出会いと言えば街角&トーストのコンボしかないというのに……くそっ!
と、ディスクが排出され飛んできた、どうやらインストール終わったみたいだ。それを掴み再びケースに入れ箱に戻す。
仕方ないトースト無しのぶっつけ勝負だ。
「あ、ちぇん――」
橙に話しかけようとした時だった。
橙が何かを握っていることに気がついたのは……。
振り返った橙が握っていた物は 大きく ぶ厚く 重くそしてあまりにも大雑把すぎた
それが スコップ と気づいた時にはすべてが遅かった。
「おぶっ!!」
思いっきりスコップで引っぱたかれ私は吹っ飛んだ。
「な、何をするんだ橙」
すると吹っ飛んで倒れている私に容赦なく蹴りを入れてくる橙。
「おぶっ!こらー!私はサーカーボールじゃないぞ!」
あ~、何だ? 新手のツンデレ属性か? そんなキャラいたっけ?
そう思ってパッケージをもう一度読む。うむ変わりはない。
んで中身は……。
「って! 中身『Pos○al(○スタル)』に換えたの誰だぁぁっ!!!」
中身がPos○al(○スタル)に入れ替えられていた。
「話は全て聞かせてもらったわ」
突然、宙にスキマができて紫様が顔を覗かせた、つーか見てたのかよ。
「っていうか紫様でしょ。中身入れ替えたの」
正直な話こんな悪趣味な事をするのは紫様しかいない。
「ゆかり知らな~い」
「 知 ら な い じ ゃ な い で し ょ!う が!」
かわいこぶってとぼける主の襟首を掴んで問いつめる。
「まあ、まあそんなにカッカしないでよ、血圧上がるわよ。ウイークエンドバージョンの方が良かったの?」
「紫様の所為でしょうが!!しかもやっぱりあんたか!」
くそっ早めにあんな式は落としてやらないと……。
でも、今の橙に近づく事はとっても危険、近寄ろうものなら余裕でスコップ振り回して来る。だがこのまま野放しにしとくのはもっと危険、幻想郷滅ぼしかねない。
「橙を元に戻すにはあの式を落としてあげる必要があるわね」
「……もちろん紫様がやってくれるんでしょうね?」
「自分の式神に責任を持ちなさい」
「理不尽だ~! 第一近づけませんよ、あんな最凶な式に」
紫様はため息をついて面倒くさそうに隙間から出てきた、ってかあんたのせいだから。
「仕方ないわね、少し手伝ってあげるわ」
「本当ですか?」
「ええ、あなたにも強い式を憑けてあげるわ」
そう言うと紫様は隙間から一枚のディスクを取り出した。
「はあ……ちなみに紫様、何を憑けるつもりですか?」
「『Gra○d Theft Auto(グランド・セフト・○ート)』」
「ちょっ!!」
「ドラゴンインストール!!」
アーッ!!
これはいいヤバいDISKがINした橙ですね
ちょwww紫様wwwそれGTAじゃなくてギルギアwwwww
盗んだ車で紫と橙を轢く藍
……マヨヒガ炎上エンド(3)のフラグが立ちましたwwww
(ゴッドファーザーのディスクなら
脅迫か金でどうにか出来たかもしれないのにwww)
後々気付くことになるのだが、紫様がインストールしたのは最弱殺しのプロで有名な『香○97』であった。まあ、因果応報ってね。
○スタルで撃沈2
G T Aで撃沈3
このマヨイガは素敵過ぎます。大好きです。