太陽はすとんと落っこちて。世界は夜に包まれた。
星は眼を覚まし。かすかにわずかに夜を削る。
月はそれを見て軽く笑って。どうだ見たか、とばかりに夜に穴を開ける。
空には姿はないけれど、色々な光が笑っていた。
眼を下ろして、眺めてみる。
煌々とあがる松明。人間の里には様々な色の光が点いている。
焼き焦がすような白。
宝石のように煌く藍と金。
心臓を思わせる古い赤。
弾丸のように突き進む青白。
年老いた水先案内人の黄色い白。
機織りの純白と、牧牛を引く若い白。
死者を連れた老獪な薄い黄色。
昴に続く幸運の予兆の橙。
様々な色が夜を削っている。様々な心が夜を削っている。
夜に抗うように、夜を恐れるように。
後ろの方でやかましい音がした。振り返ってみるとまた違う光があった。
今日も今日とてどんちゃん騒ぎ。神を祭らない社に、妖が宿ってどんちゃん騒ぎ。
爛々と光る松明に照らされ、夜から引き戻された桜が見えた。
風に吹かれて光が揺れる。つられて削れた夜も揺れる。
ゆれて。ずれて。くずれて。それの形が現れる。
まわって。かわって。もどって。それの心が現れる。
闇を砕いたような黒のワンピース。麦星のように輝く金の髪。
両手を広げて、夜なのに太陽のような笑顔をしている。
夜を纏ってくるりと回って、翻って。
削れて崩れた夜を着飾って、軽いワルツを踊って。
光に崩れた夜を探して、空を漂って。
夜をかき混ぜて。
それは渦になって。
夜は夜へ帰る。また削れられるために帰る。
それはいつものこと。
そうして今宵も、夜を放つ。