Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

夜を放つ

2007/04/04 07:09:39
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 太陽はすとんと落っこちて。世界は夜に包まれた。
 星は眼を覚まし。かすかにわずかに夜を削る。
 月はそれを見て軽く笑って。どうだ見たか、とばかりに夜に穴を開ける。
 空には姿はないけれど、色々な光が笑っていた。

 眼を下ろして、眺めてみる。
 煌々とあがる松明。人間の里には様々な色の光が点いている。
 焼き焦がすような白。
 宝石のように煌く藍と金。
 心臓を思わせる古い赤。
 弾丸のように突き進む青白。
 年老いた水先案内人の黄色い白。
 機織りの純白と、牧牛を引く若い白。
 死者を連れた老獪な薄い黄色。
 昴に続く幸運の予兆の橙。

 様々な色が夜を削っている。様々な心が夜を削っている。
 夜に抗うように、夜を恐れるように。

 後ろの方でやかましい音がした。振り返ってみるとまた違う光があった。
 今日も今日とてどんちゃん騒ぎ。神を祭らない社に、妖が宿ってどんちゃん騒ぎ。
 爛々と光る松明に照らされ、夜から引き戻された桜が見えた。
 風に吹かれて光が揺れる。つられて削れた夜も揺れる。

 ゆれて。ずれて。くずれて。それの形が現れる。
 まわって。かわって。もどって。それの心が現れる。

 闇を砕いたような黒のワンピース。麦星のように輝く金の髪。
 両手を広げて、夜なのに太陽のような笑顔をしている。

 夜を纏ってくるりと回って、翻って。
 削れて崩れた夜を着飾って、軽いワルツを踊って。
 光に崩れた夜を探して、空を漂って。
 夜をかき混ぜて。
 それは渦になって。
 
 夜は夜へ帰る。また削れられるために帰る。
 それはいつものこと。

 そうして今宵も、夜を放つ。



コメント



1.ルドルフとトラ猫削除
受け止められることの素晴らしさ