里のラーメン屋のことを知ったのは、つい最近のことだった。
棚ボタ的に降ってきた休暇の時に食べに行ってみたら、これがおいしくて、私はすっかり気に入ってしまった。
出る時にまた来ますと言うと、おやじさんは「出前もするよ」と言ってくれた。
門番隊に支給される食料は、申し訳ないが正直味気ない。
私は喜んでラーメン屋の出前を利用するようになった。
「……あー。あーん。早く、こーなーいーかーなー」
ここ最近、正午の私はいっつもこんな感じだ。草の上に寝転がりながら、出前のラーメンを待つ。待ち遠しい。
今朝は朝食を全部妖精に食べられてしまったので、おなかも空いている。
というか、暇だ。寒さと格闘する必要が無くなった最近は、大体こうして昼間っからゴロゴロしつつ空を眺め
ている。雲が、ひー、ふー、みー。寝返り、うつぶせ。
……はりきる犬のポーズ! アウッ!
「何やってんのあなた」
「フガ!?」
えびぞりの私を咲夜さんが見下ろしていた。死にも勝る屈辱! そして下克上の決意!
「ぎろり」
「……わん」
咲夜さんの一睨みで燃える野心は瞬間鎮火。私はごろりと腹を見せる。降伏のポーズ。ごめんねマイ野心。
咲夜さんは小さく肩を竦め、溜息を吐いた。
「ま……いいわ。昼食はいつも通り、支給ナシでいいのよね?」
「あっ……はい、わざわざすいま――ハッ!?」
肩が震えておられる!
「ちょ、咲夜さ」
「ブフッ」
噴出した!?
――次の瞬間、咲夜さんの姿はどこにも無くなっていた。
狼を前にした子犬のような格好の私だけが、その場に残される。
……笑われた! きっと今頃どこかで爆笑してるんだ畜生!
「……いいもん」
体を起こして体育座り。
ちょっといじけてみた私だけど、もうちょいすれば、ラーメンでハッピーなのだ。このくらいのことは簡単に
帳消しだ。それだけ、あのお店のラーメンはおいしい。
と。館の近く、湖の方の気の流れが変わった。
誰かが、飛んでこちらにやって来る。
すわ侵入者か、と私は身構えてそちらを向く。もし弾幕などを展開することになった場合、空腹なのは不利だ
が、空腹ゆえの心の荒みっぷりで何とかフォローできるだろう。
と、思ったら――
オカモチが、飛んでる。いや、誰かがオカモチを持って飛んでいる。
いつもならラーメン屋の息子さん(語尾にだじょって付ける。足がマジで速い)が届けに来る筈なのに。空を飛
べるアルバイトでも雇ったのだろうか。
……とにかく。
ラーメンだ!
誰かはわからないけど、ついに来たのだ!
私はわくわくしながら待つ。が、遅い。見えているのになかなかこちらに到着しない。……なんかやけにふわ
ふわしている。
私は目を凝らした。オカモチを持っているのは誰なのだろう。
と。
目に入ったのは、小さな体と白い服。それから、半透明の綺麗な翅(はね)だった。
「――妖精?」
私は小声で呟く。見覚えのある姿だ。一年で、この時期にのみ見かける妖精。
くりくりしたその目と、私の目が合う。
「らーめんですよー」
春告精――リリーホワイトは、片手でぶいぶい手を振った。
「はーい。おまたせしましたー」
「え、あ、うん……あれ? 何で?」
やっと私の目の前に降りたリリーは、にこにこしながらオカモチを置いた。私はと言うと、不思議だった。
春を告げる妖精がなんでオカモチなんか持ってるんだろう?
「アルバイトですー」
「あ、そうなんだ……」
一発で答えが提示され、納得したんだかなんだか変な気分になった。
ともあれ、私はオカモチを開けてみる。
「……あっ」
声が漏れる。
湯気をたてるラーメンの丼の横に、摘み取ったつくしや菜の花が、ちょこんと置いてあった。
私は思わずリリーを見る。
リリーは、褒められた子供のように、にぱっと微笑んだ。
「春ですよー」
とても上手で楽しい春の届け方ですね。
リリーらしくて気持ちいい作品ゴチでした。
>ラーメン屋のせがれ。語尾にだじょって付ける。足がマジで速い。
謝れ!○清に謝れ!!w