「あぁ,そろそろ花見の季節だな。」
赤と白の衣装を着た,神社の娘。
いわゆる,巫女さんはつぶやいた。
春が来る。
冬の終わり,暖かくなりつつある季節の変わり目。
感じる。生命の息吹。草花の香り。
もう既に日中は過ごしやすい暖かさ。
だからといって,何が変わるわけでもない。
しかし,心が浮き立つのは仕方がない。
寒い冬を越え,暖かい春がやってくる。
それだけで,どうしてこう楽しくなってくるのだろう。
それはきっと,桜のせいだ。
あの美しくも儚い,春の風物詩。
その下に皆で集い,騒ぎ,心地よい一時を過ごす。
その気持ちを思い出すからだ。
柔らかな午後の日差しを受ける,ここ博麗神社の巫女,
博麗霊夢は,そんなことを考えながら家屋部分の縁側でお茶を飲み,
まったりと無為の時を過ごしていた。
午前中のうちに神社の掃除を終え,今日も今日とて参拝客のいない午後。
社務所にいるのも面倒で,1人,お茶とお茶菓子の日光浴。
黒カリントウを盛った皿,急須と熱い茶を満たした湯のみを載せた盆を隣に置き,
足袋を吐いた足を豪快に前に投げ出し,両手を斜め後ろに身体の支えとして,
空を見上げて1人ごちる。
「やっぱり,暇ね。しょっちゅう,怪異が起こるのも面倒だけど,
こう何もないのも退屈だわ。誰か来ないかしら。」
盆からカリントウを一つ摘み,ぼり,ぼり,ぼり。
「ん~,美味し。これ,妖夢がお土産に持ってきたんだっけ。
どこのお店のかしら。今度,聞いてみよっと。」
至福の表情で食べる。その顔からはとても退屈しているようには見えない。
また一つ,皿からカリントウが霊夢の口の中へと消えていく。
お茶を飲む。カリントウを食べる。カリントウを食べる。お茶を飲む。
それは陽気な午後にふさわしい情景。
幻想郷が幻想郷たる所以の,時の流れさえ忘れさせてくれるような時間であった。
「って,なにやってるのよ,霊夢。」
いつの間にいたのか。
顔を前に向けると,そこには呆れ顔の友がいた。
金髪碧眼のかわいらしい顔立ちに,それとマッチしたかわいらしい服装。
右手には袋を,左肩にはこれまたかわいらしい人形を乗せた七色の人形遣い。
アリス・マーガトロイト。
魔法の森に住む,引き篭りがちな霊夢の友人である。
「なにってお茶の時間よ,今は。あなたもどう?」
「いつもお茶の時間のくせに。あんまりだらしない格好しないの。」
「だって,とても気持ちいいのよ。それに楽だし。いいじゃない。」
「もう。一応,女の子なのよ,あなたも。」
「一応・・・」
いつものとおりに,いつもの挨拶代わりの軽口を交わす。
アリスは盆を挟んで,霊夢と正反対の位置に座り,
言葉に甘えカリントウを摘み上げる。
「和菓子なんて久しぶり。」
嬉しそうに食べる。一口,二口,三口で一本。
上質な,品のいい甘さが口中に広がる。
いい仕事をしていることが分かる。
どこのお店かしら。
霊夢と友人になってから,和菓子を食べる機会が以前より増えたアリス。
そこはやっぱり女の子。彼女も甘味には目がなかった。
「お茶,淹れ直してくるわ。」
「おかまいなく。」
「一応」に軽く傷つきながらも,客はもてなさねばならぬ。
霊夢,立ち上がり,台所へ。
アリスはそのまま縁側に。
アリスの肩にいた人形が,宙に浮かび霊夢の後を追う。上海人形。
お手伝いをするつもりだろうか。
七色の人形遣いと呼ばれるアリス。
彼女は人形を自在に操る。まるでそれらが生きているかのように。
そう,彼女は人形を操ることができるだけで,彼女の人形に魂はない。
しかし,つい先日,なんの奇跡か偶然か。
アリスは意思持つ上海人形を作り上げることに成功した。
言葉を喋ることはできぬども。
主人の意を汲み取り,適切な行動を取ることのできる賢い人形。
今はまだ一体しか作れていない。もしかしたら,もう二度と作れないかもしれない。
未だ,アリスにも原因はわかっていない。
ただ,それでも愛しい人形が,独自の意思で動く。
それを目の当たりにできただけで満足だった。
彼女のような魔法使いには,時間は悠久に等しく存在する。
ゆっくり解明していけばいい。焦ることはない。
「ねぇ,霊夢。」
上海人形とともに新しい湯呑みを棚から取り出していた霊夢に,声がかかる。
「なぁに?」
取り出しながら応じる。少し大き目の声を出して。
「そろそろ花見の季節だと思わない?」
「あぁ,あなたもそう思う?」
「ええ,思うわ。だって,こんなにも楽しい気分だもの。」
本当に楽しそうに言う。
波長が合う。2人が友人である理由。
こんなところでもそうなのか,嬉しくなる。
上海人形と目が合い,微笑み合う。
「そうね。私もそうだわ。」
「ふふ,でしょう?だからね,霊夢。
今日はもっと楽しくなるものを持ってきたの。」
「あら,何を?」
新しい湯呑みと急須を盆に持ち,縁側へと戻りながら問いかける。
もちろん,上海人形も一緒に。
見ると,アリスは持ってきた袋からワインを取り出し,笑顔で言った。
「宴会しましょ?少し早いけど,お花見前の前夜祭ってことで。」
「・・・久しぶりに出てきたと思ったら。」
アリスはあまり外に出てこない。研究やらなにやらで忙しいのかしれない。
単なる引き篭り体質なのかもしれないが。
それが久しぶりに家を出て,自分に会いに来たので,
どうしたのかと思った,その答えが宴会。
座り直し,呆れ顔でまた空を見上げながら霊夢。
が,次の瞬間には苦笑を浮かべ。
「いいわ。やりましょうか,宴会。
ちょうど,私達の春度につられて,
春を運ぶ妖精もそこにきたことだしね。」
指を上に向ける。アリスが顔を上げると,そこには満面の笑顔のリリーホワイトがいた。
「春を告げにきたわ。」
ただ一つ気になるのは、句読点が多いかなぁ…と思いました
これからもがんばって下さいね
にしてもアリスかわいいよ
にしてものんびりしてて良いですねコレ