警告
劇中に書き手の《趣味的独自設定》及び《独自設定登場人物》が登場します。
その手の独自設定やオリジナルキャラクターが許せない性質の方は、
これ以上ご覧にならない様、お願い申し上げます。
幻想郷のある所に、一人の師匠と一人の弟子が居ました。
師匠はその道では右に出るものはいないと言われるほどの達人でした。
その事で彼女に勝てる人間や妖怪は、幻想郷中を探しても一人しか居なかったのです。
そんな師匠の元で学ぶ弟子は、今、伸び悩んでいました。
ライバルとでも言うべき一人の少女との差が開き過ぎ、それを縮める事ができずに居たのです。
弟子は師匠に教わった通りに修行を繰り返しました。
自分でアレンジして、何度も繰り返しました。
時には師匠に直接指導して貰い、毎日のように教わった事を身に付けようとしていました。
それでも弟子は、ライバルの少女に置いて行かれていたのです。
『わたしには何が足りないのでしょうか』弟子は師匠に聞いてみました。
でも何度尋ねても、師匠はいつも『自分で掴め』としか言ってくれませんでした。
ある日の事。
伸び悩み壁にぶち当たっていた弟子は、師匠の親友の所へと赴きました。
師匠の事を一番知っていると言うその人なら、何かを教えてくれるかもと思ったのです。
弟子はその人に尋ねました。自分はどうすれば良いのかと。
どうすれば師匠の弟子として恥ずかしくない腕を手に入れられるのかと。
すると師匠の友人はこう言ったのです。
あいつはそんな事、自分の師匠にすら聞きはしなかったわ。
そして師匠の友人は昔話を始めたのです。
昔、まだ弟子が産まれていなかった頃。幻想郷に一人の魔法使いが居ました。
魔法使いは未熟者の少女で、魔法の威力も使い方もまるでなっちゃいませんでした。
それでも魔法使いは修行を続けていたのです。
二人の友人に置いて行かれないように。
自分を慕ってくれる少女と少しでも長く一緒に居られるように。
親友であり、また最大のライバルと心に決めた少女に、少しでも追いつけるように。
魔法使いは幻想郷の誰よりも努力家でした。
そして同時に、幻想郷の誰よりも恥ずかしがり屋でした。
だから魔法使いは、誰にも知られないように修行を繰り返しました。
でもせっかく隠れて繰り返していた修行も、親友にしてライバルの少女には全てお見通しだったのです。
だけど親友にしてライバルの少女は、魔法使いの修行の事を誰にも言いませんでした。
見てしまったからです。
ほんの一時期、彼女の師であった人の名を呪文のように繰り返す姿を。
――――その名を呼ぶ事で、その人が傍らに居ると思えるように。
普通の人間なら根を上げてもおかしくないほど厳しい訓練を、涙も流さず繰り返す姿を。
――――涙を流すだけの余力が在るならと呻いて、唇を噛み破りながら。
その歳の少女なら絶対に逃げ出すだろう辛苦を、敢えて求める姿を。
――――否。仮令誰であっても逃げ出すだろう事を。
そして何より。
汗よりも血に塗れ、見ているこっちの心臓が冷えるほどに血を吐いても。
握り締めたてのひらを爪が突き破り、食い縛った歯が唇を噛み裂いても。
膝が砕けて何度と無く崩折れて、黄金の髪と愛らしい顔が血泥に染まっても。
それでも立ち上がり、それでも這い上がり、それでも灼揺とした睛で前だけを見て。
『……あいつが一日一万歩歩くって言うなら、私は一日三万歩進んでやる』
壮絶な、凄絶な、輝くほどの笑顔で自分に刻み込む姿を。
鮮烈な、苛烈な、灼けるほどの決意で自分に言い聞かす姿を。
結局魔法使いは、一日三万歩進む心算で五万歩進んでしまったのでした。
そう括って、師匠の親友である女性は昔話を終えました。
弟子は自分を顧みました。
果たして自分はそれだけ壮絶な覚悟で修行に望んだだろうかと。
それだけの決意を以って修練に向かっただろうかと。
そして弟子は自分を省みました。
昔話の魔法使いと比べて、自分はなんて到らないのだろうと。
ただ一人、誰にも頼らず知られないようにして、文字通り想像を絶する修行に明け暮れた魔法使い。
しかも昔語る女性が言うには、普段の生活はきちんと営んでいたと言うのだから。
……それだけの人物が自分が生まれる前から居たのに、では自分はどうなのか。
どうせ人に尋ねて恥を晒すなら徹底的に晒してしまおう。
そう考えた弟子は、師匠の親友である女性に尋ねました。
『その魔法使いは、今、何処に?』―――と。
そしてその女性は答えました。
あいつなら森の片隅で魔法使いやってるわよ。相変わらず。
少し前に『見所在り過ぎて末恐ろしい弟子を拾ったぜ』とか、自慢しに来やがったわね。
確かそう、季節が一巡するよりは短かったから、九ヶ月ほど前ね。
森の片隅、魔法使い、九ヶ月前に拾った弟子。
何より『~ぜ』と言うそのオトコマエな言葉遣い。
真逆、そんな筈は無い。
自分は見所があるどころか落ち零れの未熟者で、現在進行形でスランプ中。
だけど師匠は今まで、そんな事で嘘を言った事は無い。
なら自分は本当に、師匠がそう言うだけの力を持っていると言う事になる。
そんな自分がするべき事は、一体何なのか。
そうぐるぐると考える弟子を横目で見ながら、師匠の親友は昨夜の事を思い出していました。
『弟子が伸び悩んでてな。
スランプに陥った時の対処法なんて身に覚えが無いぜ。
どうやったら良いのかね』
『偶にやって来たと思ったら愚痴?
大体わたしにスランプの抜け方なんて解るわけ無いでしょ。
そんな事は別のやつに聞きなさいよ』
『そう言うな。腹を割って話せる相手は少ないんだ。
ほら、魔法使いってのは人付き合いが悪いもんだろ?』
『魔法使いの癖に交友関係が広すぎるあんたが言うな』
『そう言いながら茶まで出して聞く体勢になってくれるお前が好きだぜ』
『十年前と同じ事をまた言うな。刺されるわよ?』
結局、師匠も師匠で弟子の事を心配していたのです。
でも師匠はそれを弟子には伝えませんでした。
魔法使いは誰よりも恥ずかしがり屋だからです。
だから師匠の親友は弟子に伝えませんでした。
魔法使いの親友は知っていました。
誰にも知られないように、誰にも知らせないように。
魔法使いは挫折する度に泣いて泣いて夜通し泣いて。
それからいつもの何倍も自分を痛めつけて。
そうして次の日には以前よりも綺麗に笑顔を輝かせて。
師匠の親友はそれを知っていました。
だから弟子には何も言わずに居たのです。
あいつの弟子なら絶対に、嫌でも気付く。
そんな確信を胸に抱いて。
やがて弟子は師匠の親友に丁寧な礼をして、帰って行きました。
その顔は、昔話の魔法使いが何かを決めた時にそっと見せていた顔と良く似ていました。
帰る道すがら、弟子は考えました。
自分はどうすれば良いのだろう、と。
間違いなく、あの昔話の魔法使いは自分の師匠だから。
師匠は自分が普段やっている修行が子供の遊びに思えるほど苦しい思いを自分で求めたのだから。
それでも何も言わずに、それでもきっと足りないと思って、あんなに強くなったのだから。
自分は師匠の弟子なのだから。
師匠は自分の事を見込みが在り過ぎて怖いと言っていたのだから。
それなら自分は多分、きっと、絶対に。
――――その見込みの、千手も万手も先を行ってやるのだから。
弟子は広鍔の黒いとんがり帽子を深く被り直すと、にぃ、と唇を吊り上げました。
その不敵な横顔は、それはそれは師匠によく似ていました。
十数年・・・普通のから本物の魔法使いになったみたいだから数十年百年の方がいい気もするけど、霊夢が死んじゃってる可能性もあるもんなあ
まあ、交友関係広いっちゃ広いな。後彼女の師匠は人というより悪霊だけどその辺は無粋か
あ、なんか最後の弟子の笑顔を読んで魔理沙と弟子二人で大図書館でルパン三世やってる所想像しちゃった
やはり魔理沙のライバルは霊夢かぁ。
それにしても、けっこう描写がリアルなのは作者さんの実体験もあったりするのでしょうか?
感想、有難う御座います。
霊夢の位置は『明陽の丘の~』内の発言からのチェインです。
人間以外のキャラも『ひと』と呼ぶのはお約束なので御気になさらず。
手スタメンとさん
感想、有難う御座います。
秋霜玉のtxtにそれっぽい事が書いてあった気がするので、敢えて霊夢で。
アリスやパチュリーは“魔法の同志”のイメージの方が強かったので。
あざみやさん
感想、有難う御座います。
元気が出るような展開に取って貰えるなら、嬉しい誤算です。
描写色々の半分は実体験で、もう半分は家訓ベースの努力観です。