音が出れば楽器です

「姉さん、新しい音を探しにいきましょう。」
「は？」

話を切り出したのはメルランだった。
食後のいっぱいを優雅に楽しんでいたルナサは、思わず目を線にする。
まぁいつものことだけど。

「わたし達の求める音、それは何！？はいリリカ！」
「え、んーと、FM音源！」
「シャラップッ！！」
「ドハッ！？」

秋葉の６Ｃもびっくりのヤクザキックをリリカに繰り出すメルラン。
そしてそのまま壁へと吹っ飛んでいった。
血を口から吹き出しながら、がくりとうなだれるリリカ。
さらばリリカ。
お前のことは二度と忘れない。
いやもう設定上死んでるんだけどね。

「はい姉さん、答えは！？」
「…騒音だろ？」
「グゥレイトォッ！」
「グハッ！？」

ちょうしんちゅうＢを完全にルナサにヒットさせるメルラン。
どうやら格ゲー進出を狙っているらしい。
音使いじゃ無理だろ。

「大丈夫！リメイク版デスティニーでジョニーは最強だった！」

らしいですね。
イーノも十分戦ってるしね。
まぁそれはともかく吹っ飛ばされて頭から地面にたたきつけられるルナサ。
飛べよ。

「何故殴る…」
「正解のご褒美。」
「そのうち死ぬわ！」

大丈夫、もう死んでるようなもんだから。
具体的にいうと違うんですけどねあんたら。
そして全身打撲をとりあえずできるだけに気にせずに、ルナサはメルランに話しかける。

「…で、新しい音っていうのは？」
「ねぇ姉さん、よく考えて。」
「何を。」
「ヴァイオリンのどこが騒音じゃい！」
「グヘァッ！」

物の見事に決まったヘビィボンバー（仮称）
上空に吹き飛ばされたルナサは全身のありとあらゆるところから血を噴出す。

「どうやら…アバラが三本折れたみたいね…」

ねーよ。
そしてメルランはさらに倒れたままのリリカのほうに向かって走り出す。

「キーボードも同罪よリリカー！！！」
「ギャァァァッ！！！！」
「倒れている実の妹になんて事をーーーーーーっ！！？？」

素晴らしく美しいフォルムを描いて決まったフライングニーキック。
そのままリリカが声を発することはなかった。
いやだからもう死んで（略）

「そういうわけで姉さん、新しい音を探しに行くわよ！ヴァイオリンのように無駄に辛気臭くならず、かといってキーボードみたいになんかやたらめったらぷーぷか言うような音でもない素晴らしく煩い！ただ煩いだけの楽器を！」
「そんなのでいいのかお前はァァァぁーーーーーっ！！！」

天井にぶち上げられたルナサが叫ぶ。
するとメルランはこちらを見て笑顔を見せた。
それは、間違いなくあるひとつの物事を物語っていた。

「いいんです。」
「いいならいいんです。」

もう諦めた。





「というわけで姉さん、五月蝿い楽器をいくつか持ってきたわ。」
「ずいぶん手が早いな…」

ルナサの目の前には、ありとあらゆる楽器がそろっていた。
主に打楽器が多い。
まぁたしかに五月蝿い。

「じゃあまずはカスタネットから行きましょうか。」
「いやごめんメルランちょっと待って。」
「何？」

カスタネットを取り出して、ルナサに手渡そうとするところをルナサに止められる。
ルナサの糸目っぷりが少しパワーアップしているように見えた。
というか眉毛がハの字。

「えぇー？」
「なにその不満な目は。いつものことだけど。」
「まぁいつものことだけど…いやそういう問題じゃない。」

カスタネットって。
カスタネットって。
トライアングルランクに地味なポジションじゃない。
シンバルはまだいいよ、五月蝿いし。
これなにこれ。
カスタネットじゃない。
五月蝿くないとかそういうレベルじゃないんですけど。

「メルラン…これは無いでしょ。」
「どうして？打楽器じゃない。」
「いや、五月蝿くないし…」
「…姉さん。」

途端に、メルランの目が鋭くなる。
そう、それでいて悲しく。
悲哀と怒り、その二つを含めた。
ルナサも、思わず真剣な表情になってしまう。
そしてメルランは―――言った。



「音が五月蝿くないからって、カスタネットを仲間はずれにしないで！」
「お前が騒音が大事って言ったんだろうがぁぁぁぁぁ！！！」



ごもっともです。

「でもカスタネットはカスタネットじゃない！打楽器じゃない！」
「だからってここでの選択に入れる意味がわからない！まだシンバルのほうがいい！」
「シンバルなんて楽器じゃないわよ！バンバン音が五月蝿いだけじゃない！」
「お前、だからさっき自分で言った台詞はなんなんじゃぁぁぁぁぁぁぁ！！！」
「じゃあいいわよ！わがまま姉さん！トライアングルでいいでしょ！」
「馬鹿野郎お前これもっと地味だろうがぁぁぁぁぁ！！！」

全国の吹奏楽において、トライアングル、カスタネット、シンバルを担当している皆様、
まことに申し訳ありません。
作者が代表してお詫び申し上げます。

「何よ、姉さんったらわがままばかり言って！」
「いや、明らかに楽器の選択がおかしいって！もっと五月蝿いやつあるでしょ！？」
「…じゃあこれ。」

そういってむくれた顔でメルランが持ってきたのは、巨大なもの。
そう、異常なまでに。
人一人が、余裕ではいることができそうな大きさを持っている。
それは、釣鐘上の大きな物体だった。
ルナサはなんとなくこれについてわかっていたが、とりあえず聞くだけ聞いてみた。

「なにこれ。」
「鐘。」
「楽器ですらねぇよぉぉぉぉーーーーーーーっ！！！」

思いっきり天空に鐘を放り投げる。
記録、20.471Km
幻想郷新記録です。

「ああ、折角某神社から持ってきた鐘が天空のグリニッジ！？」
「何で神社に鐘があるの！？普通あれって寺にあるもんでしょ！」
「くそう、月面ツアーへようこそ！」
「何で大空魔術なんだよ！」
「五月蝿いのをもってこいって言ったから五月蝿いのを持ってきたんじゃない！」
「五月蝿すぎるって言うか、あれは楽器でも何でもなーーーーいっ！」
「音が出れば楽器です！」
「黙れ！テレビのどこが楽器だ！」

ギャーギャーと言い争う姉妹。
美少女とはいえ、ヒステリックとは恐ろしいものですね。
そしていい加減争いつかれたのか、ぜーぜーと両者息を切らせて会話がとまる。
メルランは諦めたように、ある楽器を取り出した。

「…じゃあ、姉さん、これなら大丈夫よ。」
「これ？」

メルランが取り出したもの。
それは六本の細く張った弦がついた、不定形の盤上の楽器。
細き糸の振動は、空気を震わせ、音となる。
即ち、ギターである。

「これなら結構いい音出すわよ。」
「うん…まぁ、今までの中じゃ一番マシか。」

ルナサはそのギターを手に取る。
愛用のヴァイオリンと外見はかなり似ているが、操作の仕方は天と地ほど違う。
ただし、弦楽器であることに変わりは無い。
ならば私の得意分野だ。
そう考え、ルナサは弦を―――弾く。



びーん。



「…」
「…」

沈黙。

「…」
「…」
「メルラン、あまり五月蝿くない。」
「そうね。」

二人の間に流れる微妙な空気。
するとメルランは何かを思い出したかのように手を叩く。

「そうだ、大事なものを忘れてたわ。」
「なに？」

そういって、メルランは何かを持ってくる。
丸い形状をして、網目模様を持った何か。
何かコードのようなものが着いており、しかもその先にもまた網目状がついた物体がある。
唯一の違いは、その先につけられているものは球状だということだろうか。
メルランはその球状の網目物体をギターの弦に近づけて、ルナサに言う。

「それじゃあ、姉さんもう一回。」
「うん。」



ぎゅぃーーーん。



天空中に響き渡るような騒音。
まるで、そのすべてを一気に包み込むかのように。
その音は、その球状を通して網目模様の物体から出ていた。

詰まり、マイクとスピーカーである。



「メルラン。」
「なに、姉さん。」
「ヴァイオリンでこれ使えば問題解決のような気がしない？」
「考えもしなかったわ。」



ギターがメルランの頭を直撃した。





終

こんにちは、初めての人は始めまして。
というかこの名前だと間違いなく初めましてになります、秦稜乃（はた　りょうの）と申します。
えーっと、元HN『遼魔』というと何人か『ああ、あの馬鹿か』と思っていただけると思います。
しばらく受験でこれなかったので、リハビリとしての意味も兼ねて一作挙げました。
今後、この名前でもどうぞよろしくお願いします。

プリバではルナサが一番好き。っていうか東方キャラの中でも個人的トップ３だったり。

●返信。感想感謝いたします。
以下、下の方の方から順番に挨拶を返させて頂きます。

＞名無し妖怪さん
テレビは楽器ですよ（違います）
鍵カッコの中の。ですか。なんか癖で出しちゃうみたいなので気にしないでください。

＞しずさん
そういえばそうか。あくまで霊体として生み出されたわけだし。

＞名無し妖怪さん
私の中ではメルランはこんなイメージです。

＞名無し妖怪さん
えーだって地味ですｙ(ｺﾝﾁｪﾙﾄｸﾞﾛｯｿ