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「師匠、患者さんです」
「こんな夜中に一体なんなの。明日来て貰いなさい」
「……お嬢様は昼間は外出できませんので…。
それに、明日からしばらく雨が続くという天気予報だったので、どうしても今でなければならなかったのです」
「! アンタ達はたしか、紅魔館の…」
「八意先生、どうかお嬢様を…」
「咲夜、こんなヤツに頭を下げるのは屈辱だわ」
「いけませんっ!!お嬢様っ!お嬢様が助かるにはもうこの先生を頼るしかないのですよ?」
ギロリ
「随分と嫌われたものですね…」
「当たり前よ。アナタの胡散臭さはスキマ妖怪についでトップレベルだと有名よ」
「師匠の悪口は許しませんよ?」
「払うものべきを払って戴ければちゃんと診ますよ。
さあ、どんな病気だか知らないですけどその花粉症だか風邪っぴきのような大層なマスクを取ったらどう?
そんなものをつけていられてちゃ診察できないんでね」
「ふん、診察なんか…どうせもう助からないわ」
「ちょっと、やりもしないうちから助からない、なんて言うんじゃないわよ」
「大した自信だわ。これを見てもまだそんなことが言えるかしら…」
すっ
「うっ」
パサッ
「これは…」
「牙があんなに伸びて…」
「ドラキュラサーベル症候群か……」
―――――――――――ドラキュラサーベル症候群―――――――――――――
吸血鬼特有の病気で女性に多い。
吸血鬼の特徴である吸血行為に使用する2本の犬歯が異常に伸び続ける奇病で
その高い再生能力ゆえに発病するといくら削ってもすぐにまた伸び始めてしまう。
最終的には伸びた犬歯が自分の心臓に絶対突き刺さり死に至る。
「先生っ!どうかっ!どうかうちのお嬢様をっ!」
「…………」
「咲夜、みっともないマネはやめなさい。こうなることは運命、そう運命だったのよ…もうどうにもならないわ」
「そんなことはありませんわっ!」
「いいえメイド長さん、そこの吸血鬼の言うとおりよ」
「先生まで!」
「いいですかメイド長さん、この病気はね、放っておいたら伸びた犬歯が心臓を貫いてしまう。
それを防ぐには2本の犬歯を抜くしかない。
でもそうすると、牙を無くした吸血鬼は噛み付いた時に肉に刺さるモノがないから血が吸えなくなって結局餓死してしまう。
そこの吸血鬼の言うとおり、いくら私でもこればっかりはどうにもなりませんね」
「私だってそんなことはわかっていますっ。いくら考えても、助かる方法がないことなんて!それでも……先生なら……」
「仕方がないのよ咲夜。今までこの病気にかかって助かったヴァンパイアはいないの。
皆、己の牙に怯えそれを抜き、そして飢えに苦しめられて死んでいったわ。
だから私ももう覚悟はできてるの。
だって、牙を無くした吸血鬼が生き残る術なんて、この世のどこを探しても有りはしないのだから。」
「私はイヤですわお嬢様!先生、黙ってないで助けて下さい!先生だったらお嬢様を救えます!」
「……3千万円いただきましょう」
!
「なっ……」
「ただし、助かるかどうか分からない手術に3千万」
「この夜の帝王に向かって言うにことかいて、3千万ですって?この…恥知らずめっ……」
「何が恥知らずなのかしら、ええ?お嬢さん。世の中にはね、全財産を取り上げられて、親から引き離され地上に落とされ、竹の中で赤子として貧しい家庭で一からやり直さなきゃいけなかった子もいるんですぜ?それに比べたら3千万ぐらいがなんだって言うんです?」
「くっ…」
「払えないんならこの話しは無しよ。私も自信のないオペはしたくないんでね」
「……払います」
「咲夜…ダメよ……やめて」
「払いますわっ!」
「払えばいいんでしょう?ええ、払いますとも!銀のナイフも売るし、パチュリー様の貴重な魔道書も売るわ。
ダメなら紅魔館も売り払います!どうです?先生!」
「それじゃまだ足りませんなぁ」
「だったら!この懐中時計もつけます!どうですかっ?完全で瀟洒なメイド長のシンボルでもありいつも肌身離さずつけていた懐中時計ですよっ?」
「咲夜、それだけはっ…」
「いいでしょう、それだけあれば引き受けましょう。」
「先生!」
「そうと決まれば早速手術室へ。やるなら早いほうがいい。優曇華、オペの準備よ。」
「アッチョンブリケ。この先生はいつも急なのよさ」
「この強つく張りめ…治ったらアンタのノド元に食いついてやるわ」
「それだけ元気があれば大丈夫かも知れないわね、
それとメイド長さん、アナタにひとつ頼みたいことがあるんだけど…」
◇
◇
◇
「先生、あれから1ヶ月経ちますがお嬢様は…」
「さあ?」
「さあ…って先生!」
「まあまあ慌てないで。この手術は全くもって運次第なの。なんていっても私も初めての手術でね。
そうね、今日あたり包帯を取ってみましょうか。
ほら。そこの吸血鬼のお嬢さん、睨んでないでこっちへ来なさい。
優曇華、ハサミ。」
「はい師匠」
「いい?それじゃ包帯を切るわよ。うまくいってなくても恨まないでね」
ジョキジョキ
シュルシュル
パサ
!
「あ、ああ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「咲夜?」
「ああ お嬢様。元のお嬢様。元のお嬢様の顔だわ。あははははうふふふふふう う ううウッ よかった ほんとに よかった…」
「私も今回は自信がなかったのだけど、うまくいって何よりだわ」
「ふん、私は潔く死ぬつもりだったのに、余計なことをしてくてたもんだわ。まあでも、礼くらいは言ってあげるわ」
「お礼ならそこの小さい子に言ったらどう?」
「ねえさま…」
「フラン!」
「ねえさま!治ったんだね?よかった。」
「こら、フラン、抱きつかないで。苦しいわ」
「あら、随分仲が良いんですね~?私と師匠も仲がいいですけど…」
「当たり前よ。フランは私の大切な妹よ。愛していない方がおかしいわ。
それよりも、どうやって治したの?この病気は絶対助からないと言われていたのに。それにお礼をフランにって?
……まさか」
「そう。そのとおり。その子の犬歯をアナタに移植したのよ」
「そんな。それじゃフランは。フランの牙は…。
この…殺してやる……殺してやるわ」
「待っておねえさま!」
「いいえ待たないわ!私が助かってもフランが。フランが今度は死んでしまう。私のために愛する妹が犠牲になるなんてこの身が裂かれるより辛い。
八意永琳!
覚悟しなさい…アナタは八つ裂きでも足りないわっ!」
「やれやれ、どうして吸血鬼っていうのはこう血の気が多いのかしら?アナタの妹も大丈夫よ」
「先生の言うとおりなのねえさま。ほら、フランの口を見て。ちゃんと牙があるでしょ?
ねえさまも助かったし、私も死なないの。ね?」
「…………ほんとだわ、ちゃんと牙がある…これは一体、どういうことなの?」
「お嬢様、妹様はまだ乳歯だったのです。だから牙を抜いてもまた生えてきたんですわ」
「こんな偶然あるものね。血の繋がった姉妹だから移植もうまくいったわ。それとも……
これもアナタの能力が引き寄せた運命ってやつだったのかしら?」
「ほんとによかったね、ねえさま。もうお金もおうちも無いけれど、わたしにはねえさまがいる。
またみんなで弾幕ごっこしよ?咲夜もパチェも美鈴も一緒だよ?」
「フラン…」
「おっと、湿っぽい話の最中だけど今回の料金の件よ」
「無粋な先生ね」
「そんなことを言うもんじゃないわ、ほら。おつりよ」
ギャッ
「2999万9千円の小切手(紅魔館地権書付き)っ!!?」
「先生?」
「それだけあれば元の生活用品も買い戻せるかしら?あ、あとこの懐中時計も返すわね?普通の時計もあるし使わないから」
「どうしてこんな、っていうかこんな回りくどいことを…」
「どうして?フフ。それはね、アナタが妹さんを地下室から出さないからよ。出れてもよくて館の敷地内。」
「それは…フランのためを思って……」
「でもこの手術には妹さんの外出は絶対条件だった。しかし紅魔館当主の命令は絶対。私はこういう事もあるかと思って紅魔館を買い取ったのよ。」
「だったら報酬くらい受けとりなさい。このままでは紅魔館当主である私の面子が丸潰れだわ」
「そう?でも返すわ」
「なんでっ?」
「妹さんは館を売って、自分の杖を質にだしてもアナタが助かったほうがいいと言ったわよ。
本当はお金を返すつもりは無かったのだけれど、つい、姫と昔の私が重なってね。
そのお金がないと乳歯が抜けたお祝いを買えないでしょう?」
「……」
「美しい姉妹の絆ね。もう閉じ込めたりしちゃいけませんぜ?フフフフフ」
>小町は安楽死担当
キリコはどっちかというとゆゆ様の気が。
とか考えてないですよ?
お持ちかえりしてもよいですかダメですか
いいブラックジャックでした
アッキュンブリケ
>ノド元の食いついて
ノド元に の誤字だと思います
無粋ですね。いい黒男さんでした。