昔ながらの良き空気が満ちた空間。
その中に畳の独特な匂いが漂い、湯気が揺らぐ。
湯気の出所は部屋の中央に置かれた金属製の釜からだ。
その釜を挟む様にしてあるのは二つの人影。
片方は十二単の様な着物を纏った黒い長髪の少女。
日本人形の如き整った顔立ちは、笑みを浮かべて真正面を向いている。
表情の向かう先に居るのはもう一つの人影だ。
笑顔を浮かべる少女とは対象的にムスッとした表情を浮かべる白い長髪の少女。
彼女の身は、白い長袖の上着と赤い所々に符の張られたモンペという妙な服装に包まれている。
白髪の少女は目の前の釜の下で燃える炎を赤い瞳で見つつ、薪をくべて火加減を調整。
そして、頭の上に乗せた符を折って作ったリボンを揺らしながら顔を上げ、
「で、何しに来たのよ、輝夜」
睨むようにして黒髪の少女――輝夜を見た。
それに対して、彼女は笑顔で頷きを一つ。
「ちょっと……色々あってね」
白髪の少女は怪訝そうな顔をするが、直ぐに理解した。
彼女の笑みが苦笑、というものである事に。
「アンタがそんな顔をするなんて珍しいわね。お気楽道楽がアンタの信条じゃなかったのかしら」
何時もは殺し合う仲だとしても、悩みがあるならば聞いてやる位は長い付き合いだ。
薪を三本投げてから、足を組み直して改めて真正面を向く。
目の前では口元に手を当て困った様な笑みを浮かべている輝夜が居た。
「で、何?悩みがあるなら聞くわよ?」
「あら、妹紅がそんな事いうなんて珍しいわね。明日は雨かしら?」
薪を全力で投げてやった。
なにやら色々飛び散った様な気がするが、彼女は自分と同じ不死だ。
放っておけば治る。
「あーだー」
治った。
相変わらず自分よりも0コンマ何秒か早い再生速度に驚くが、それを口に出すと調子に乗るので言わない。
白髪の少女――妹紅は取り敢えず肩を落として、体の力を抜く。
この目の前の宇宙人とまともに話し合おうと思った自分が馬鹿だった。
そもそも輝夜の思考は常人には理解不可能なのだ。
昨日も殺し合い中にいきなり空を見上げて、
『月は、出ているか!?出ているかほぼぁー!』
等と謎の叫びを上げていた程だ。
ちなみに最後は妹紅が火の鳥で焼いてやった悲鳴なのであしからず。
「酷いわよ、妹紅。相変わらず乱暴ね……」
片手を紅潮させた頬に当てて、悩ましげに呟くこの思考が理解出来ない。
というか、理解出来てもしたくない。
「人聞きのわる――」
と、まで言って言葉が途中で止まった。
原因は、襖の開く音であり――、
「……」
そこから現れた人物によるものだ。
銀の長髪を持った青を基調とした服をキッチリと着込んだ少女。
その頭の上では妙な形の帽子が揺らぐこと無く鎮座していた。
「慧音?」
「あら、上白沢じゃない」
疑問の声と共に首を傾げてみるが、銀髪の少女――上白沢慧音が動く気配は一向になかった。
まるでその場だけ時が止まっている様にモノクロになっていたが、残念ながらメイド長はいない。
「も……」
「「も?」」
彼女は驚愕と言った表情で口を開き、
「妹紅と輝夜殿が遂に行き付くところまで行ってしまったぁああああああっ!?」
叫びながら回れ右して即座に走りだした。
「……え?」
「……」
呆然とする妹紅。
見てみれば輝夜も同じ様な顔で慧音が走り去って行った襖の奥を見ていた。
派手な破砕音と共に慧音の叫び声が聞える。
何を言っているのかわからないが、取り敢えず興奮しているようだ。どうしたのだろう。
「……良いの、あれ?」
「……良いのよ、いつもの発作だから」
慧音という人物は実はかなりのドジッ子である。
真面目な反面、無理をしようとして色々拙い事態になった事も少なくは無い。
例えば、プリン様消失事件などが有名だ。
間違えてプリンの歴史を隠してしまったというだけなのだが――。
それに、マヨイガに住んでいる八雲紫のおやつを消してしまったという事柄が付加され、
恐ろしい規模の事件になった事は記憶に新しい。
最終的に、
『プリン様の恨み!』
などと叫びながら飛びかかってきた紫を博麗の巫女がテンプル入れて張り倒して収拾させたが。
……結構アホな集団よね、幻想郷の強者って……。
自分を棚に上げまくりながら、妹紅は溜息をつく。
ともあれ、と気持ちを一転させ改めて輝夜の方へと身を正して視線を向ける。
それに気付いたのか輝夜も身を動かして、姿勢を正す。
流石に生まれが良いというだけあって、その動作すらも優雅に感じられた。
一応貴族の者である妹紅としてはその差が微妙に悔しかったので、後で靴に画鋲に仕込んでやる事にした。
思う存分ティウンティウンして、恐怖に慄くが良い。
「で、なんなのよ。いい加減言いなさい。先生怒らないから」
こうやってあやして聞きだした後に頭突きでコミュニケーションを取るのが大人だ、って慧音が言ってた。
「……聞いてくれるの?」
輝夜が可愛らしく首を傾げたが、むかついたので画鋲をまきびしに変えておこうと決意。
取り敢えずは腕を組み、
「早く言えって言ってるでしょ。私もあんまり暇じゃないのよ、このニート」
「ひどーっ!?」
事実だろうに。
嘘泣きを開始しようとした輝夜の尻に火をつけてやると彼女は飛び起きて二転、三転。
その後、飛びかかってきた輝夜と殴り合いになったが、そこは割愛しておく。
「……それじゃあ、言わせてもらうわ」
ゴクリと血反吐を飲む。
いかん、まだ喉の奥に溜まっていたのか。
「あのね」
真剣な表情。
こんなに真剣な表情を見たのは初めてで思わず目を見開いてしまう。
なるほど、これでは男達も魅了されるはずだ。なにせ、女の自分が見入ってしまうほどの美しさなのだから。
遥か昔、妹紅の父も言っていた。
『むぅ、おかっぱ少女に宇宙人属性とは新ジャンルな……ッ!』
その後すぐさま背中を押して海に叩き落としてやったが。
「……」
見れば、正座の状態になった輝夜は膝の上で両手を強く握っていた。
それほど重大な告白なのだろうか。
……だったら永琳にでもすればいいのに。
ちなみに永琳とは輝夜の従者であるものの、実力は輝夜より遥かに上という変わった人物である。
この輝夜の人柄に惹かれたのだとしたら、相当な変わり者という事になるが。
意識を現実に戻すと、輝夜が大きく息を吸っている最中だった。
叫ぶ気か、と両手で耳を塞ごうとした刹那――。
「私、恋をしたかもしれないのよ――ッ!」
「は?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
輝夜は今、なんと言った。恋をしたと言ったか?この万年無職怠惰恋愛要素とは関係皆無な姫が。
彼女が恋をするとすれば、永琳、もしくは従者の中でも目立つ存在の鈴仙かてゐか。
まさか自分という事はあるまいし、慧音だったならば色々覚悟せねばならない。輝夜が。
……まずコイツの行動範囲は狭いし、それ以上は――。
「あの雄々しき褌……野性的な――って、妹紅聞いてるのかしら」
「へ?」
褌。褌と言えば下着の一種の名称である。
色は豊富で、赤、白、黄色、咲いた咲いたターゲットの花が。いけない、また思考がずれた。
「ちょっと待て。そいつはどんな奴だったのよ?」
「え?どんな人っていえば――褌?」
「アンタの目には褌しか映ってないのか」
「褌め、ハハハ」
「ハハハ!」
取りあえず薪で殴って一回リザレクションさせておいた。
「えーっと……確か眼鏡かけてたわね」
「一発で特定できるような人物じゃない」
眼鏡で褌、この組み合わせから導き出される人物は広き幻想郷と言えども一人しか居ない。
否、探せばいるとは思うが、あれほどまでにインパクトのある褌使いは他にはおるまい。
かくいう妹紅も一度、行水しているアレと遭遇して色々とバイオレンスなイベントを起こした記憶がある。
「で、なんでまたあんな変哲な店主を……」
「だから褌」
ああ、コイツ、そういえば変人だったんだ。
「なに虚ろな目で遠くを見てるのよ、妹紅」
「いや、アンタって、凄いなぁ、って思ったのよ」
「あら、褒めてもらえるとは思って無かったわ」
口元を袖で隠して楽しそうに輝夜が笑うが、妹紅はどうしようかと真剣に悩んでいた。
これから人の話を聞くときは相手を見よう。そうしよう。
「……で、本気?」
「う、そ☆」
薪をありったけ投げつけてやった。
そして、リザレクションの光が部屋に満ち、
「痛いじゃないの、妹紅」
「うっさい、黙れ」
こんな奴の話を聞いてやろうと思ったのが間違いだった。
そうそうに立ち去ってもらおうと、決意した瞬間だ。
「うわっ!?なにすんのよ、輝夜!?」
輝夜に後ろから抱きしめられた。
何時の間にか目の前から消失した輝夜は妹紅の後ろに出現。また妙な妖術でも身に付けたのか。
「ふふ、本当は――貴方が」
耳元で、
「好きなの」
思考が全停止した。
顔が赤くなって行くのが自分でも分かった。何時も身に纏っている熱とはまた別の熱さ。
「え?ああ、えあ……」
まともに喋れなくなるのを情けないと思いつつも思考を走らせる。
……ななな、何を慌ててるの、私は。こいつは仇、仇、仇なの。
頭の中に彼女のせいで死んだ父の顔を思い浮かべる。
彼女の父は過去の記憶の中、良い笑顔で、
『あの幼女は良いものだ……』
過去を殴り飛ばして捨てた。
「だから」
輝夜の声が耳から脳へ響き、痺れるように身が震える。
同時に何かが顔の前に差し出された。
それは、赤いものであった。まるで血の様に赤いそれは、愛を表す情熱の色か。
そう、人はそれを――。
「この褌、付けない?」
「アンタって人わぁああああああああああああっ!?」
○
「痴話喧嘩、五月蝿いわね……」
「そういうなら師匠、姫様を焚きつけるのはやめましょうよぅ」
「あら、だって楽しいじゃない。姫も満更じゃなさそうだし……」
竹林の中で溜息を付くのは兎の耳を生やした紫色の長髪を持った少女だ。
ブレザーとミニスカートという組み合わせのせいか、妙に子どもっぽく見える。
対して頬に手を当てながら微笑するのは、長い銀髪を後ろで三つ編み状にした女性。
彼女の笑顔はどこまでも楽しげに視線の少し先で乱舞する少女達を見ていた。
……まぁ、長い間生きてると、色々楽しみが欲しくなるのよね、きっと。
そんな風に納得して兎耳少女は燃え盛る竹林を見る。
……後処理するのは私達なんだけどなぁ……。
楽しそうな師匠を見るのは嬉しかったが、それでも溜息が止まらない兎耳少女なのであった。
その中に畳の独特な匂いが漂い、湯気が揺らぐ。
湯気の出所は部屋の中央に置かれた金属製の釜からだ。
その釜を挟む様にしてあるのは二つの人影。
片方は十二単の様な着物を纏った黒い長髪の少女。
日本人形の如き整った顔立ちは、笑みを浮かべて真正面を向いている。
表情の向かう先に居るのはもう一つの人影だ。
笑顔を浮かべる少女とは対象的にムスッとした表情を浮かべる白い長髪の少女。
彼女の身は、白い長袖の上着と赤い所々に符の張られたモンペという妙な服装に包まれている。
白髪の少女は目の前の釜の下で燃える炎を赤い瞳で見つつ、薪をくべて火加減を調整。
そして、頭の上に乗せた符を折って作ったリボンを揺らしながら顔を上げ、
「で、何しに来たのよ、輝夜」
睨むようにして黒髪の少女――輝夜を見た。
それに対して、彼女は笑顔で頷きを一つ。
「ちょっと……色々あってね」
白髪の少女は怪訝そうな顔をするが、直ぐに理解した。
彼女の笑みが苦笑、というものである事に。
「アンタがそんな顔をするなんて珍しいわね。お気楽道楽がアンタの信条じゃなかったのかしら」
何時もは殺し合う仲だとしても、悩みがあるならば聞いてやる位は長い付き合いだ。
薪を三本投げてから、足を組み直して改めて真正面を向く。
目の前では口元に手を当て困った様な笑みを浮かべている輝夜が居た。
「で、何?悩みがあるなら聞くわよ?」
「あら、妹紅がそんな事いうなんて珍しいわね。明日は雨かしら?」
薪を全力で投げてやった。
なにやら色々飛び散った様な気がするが、彼女は自分と同じ不死だ。
放っておけば治る。
「あーだー」
治った。
相変わらず自分よりも0コンマ何秒か早い再生速度に驚くが、それを口に出すと調子に乗るので言わない。
白髪の少女――妹紅は取り敢えず肩を落として、体の力を抜く。
この目の前の宇宙人とまともに話し合おうと思った自分が馬鹿だった。
そもそも輝夜の思考は常人には理解不可能なのだ。
昨日も殺し合い中にいきなり空を見上げて、
『月は、出ているか!?出ているかほぼぁー!』
等と謎の叫びを上げていた程だ。
ちなみに最後は妹紅が火の鳥で焼いてやった悲鳴なのであしからず。
「酷いわよ、妹紅。相変わらず乱暴ね……」
片手を紅潮させた頬に当てて、悩ましげに呟くこの思考が理解出来ない。
というか、理解出来てもしたくない。
「人聞きのわる――」
と、まで言って言葉が途中で止まった。
原因は、襖の開く音であり――、
「……」
そこから現れた人物によるものだ。
銀の長髪を持った青を基調とした服をキッチリと着込んだ少女。
その頭の上では妙な形の帽子が揺らぐこと無く鎮座していた。
「慧音?」
「あら、上白沢じゃない」
疑問の声と共に首を傾げてみるが、銀髪の少女――上白沢慧音が動く気配は一向になかった。
まるでその場だけ時が止まっている様にモノクロになっていたが、残念ながらメイド長はいない。
「も……」
「「も?」」
彼女は驚愕と言った表情で口を開き、
「妹紅と輝夜殿が遂に行き付くところまで行ってしまったぁああああああっ!?」
叫びながら回れ右して即座に走りだした。
「……え?」
「……」
呆然とする妹紅。
見てみれば輝夜も同じ様な顔で慧音が走り去って行った襖の奥を見ていた。
派手な破砕音と共に慧音の叫び声が聞える。
何を言っているのかわからないが、取り敢えず興奮しているようだ。どうしたのだろう。
「……良いの、あれ?」
「……良いのよ、いつもの発作だから」
慧音という人物は実はかなりのドジッ子である。
真面目な反面、無理をしようとして色々拙い事態になった事も少なくは無い。
例えば、プリン様消失事件などが有名だ。
間違えてプリンの歴史を隠してしまったというだけなのだが――。
それに、マヨイガに住んでいる八雲紫のおやつを消してしまったという事柄が付加され、
恐ろしい規模の事件になった事は記憶に新しい。
最終的に、
『プリン様の恨み!』
などと叫びながら飛びかかってきた紫を博麗の巫女がテンプル入れて張り倒して収拾させたが。
……結構アホな集団よね、幻想郷の強者って……。
自分を棚に上げまくりながら、妹紅は溜息をつく。
ともあれ、と気持ちを一転させ改めて輝夜の方へと身を正して視線を向ける。
それに気付いたのか輝夜も身を動かして、姿勢を正す。
流石に生まれが良いというだけあって、その動作すらも優雅に感じられた。
一応貴族の者である妹紅としてはその差が微妙に悔しかったので、後で靴に画鋲に仕込んでやる事にした。
思う存分ティウンティウンして、恐怖に慄くが良い。
「で、なんなのよ。いい加減言いなさい。先生怒らないから」
こうやってあやして聞きだした後に頭突きでコミュニケーションを取るのが大人だ、って慧音が言ってた。
「……聞いてくれるの?」
輝夜が可愛らしく首を傾げたが、むかついたので画鋲をまきびしに変えておこうと決意。
取り敢えずは腕を組み、
「早く言えって言ってるでしょ。私もあんまり暇じゃないのよ、このニート」
「ひどーっ!?」
事実だろうに。
嘘泣きを開始しようとした輝夜の尻に火をつけてやると彼女は飛び起きて二転、三転。
その後、飛びかかってきた輝夜と殴り合いになったが、そこは割愛しておく。
「……それじゃあ、言わせてもらうわ」
ゴクリと血反吐を飲む。
いかん、まだ喉の奥に溜まっていたのか。
「あのね」
真剣な表情。
こんなに真剣な表情を見たのは初めてで思わず目を見開いてしまう。
なるほど、これでは男達も魅了されるはずだ。なにせ、女の自分が見入ってしまうほどの美しさなのだから。
遥か昔、妹紅の父も言っていた。
『むぅ、おかっぱ少女に宇宙人属性とは新ジャンルな……ッ!』
その後すぐさま背中を押して海に叩き落としてやったが。
「……」
見れば、正座の状態になった輝夜は膝の上で両手を強く握っていた。
それほど重大な告白なのだろうか。
……だったら永琳にでもすればいいのに。
ちなみに永琳とは輝夜の従者であるものの、実力は輝夜より遥かに上という変わった人物である。
この輝夜の人柄に惹かれたのだとしたら、相当な変わり者という事になるが。
意識を現実に戻すと、輝夜が大きく息を吸っている最中だった。
叫ぶ気か、と両手で耳を塞ごうとした刹那――。
「私、恋をしたかもしれないのよ――ッ!」
「は?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
輝夜は今、なんと言った。恋をしたと言ったか?この万年無職怠惰恋愛要素とは関係皆無な姫が。
彼女が恋をするとすれば、永琳、もしくは従者の中でも目立つ存在の鈴仙かてゐか。
まさか自分という事はあるまいし、慧音だったならば色々覚悟せねばならない。輝夜が。
……まずコイツの行動範囲は狭いし、それ以上は――。
「あの雄々しき褌……野性的な――って、妹紅聞いてるのかしら」
「へ?」
褌。褌と言えば下着の一種の名称である。
色は豊富で、赤、白、黄色、咲いた咲いたターゲットの花が。いけない、また思考がずれた。
「ちょっと待て。そいつはどんな奴だったのよ?」
「え?どんな人っていえば――褌?」
「アンタの目には褌しか映ってないのか」
「褌め、ハハハ」
「ハハハ!」
取りあえず薪で殴って一回リザレクションさせておいた。
「えーっと……確か眼鏡かけてたわね」
「一発で特定できるような人物じゃない」
眼鏡で褌、この組み合わせから導き出される人物は広き幻想郷と言えども一人しか居ない。
否、探せばいるとは思うが、あれほどまでにインパクトのある褌使いは他にはおるまい。
かくいう妹紅も一度、行水しているアレと遭遇して色々とバイオレンスなイベントを起こした記憶がある。
「で、なんでまたあんな変哲な店主を……」
「だから褌」
ああ、コイツ、そういえば変人だったんだ。
「なに虚ろな目で遠くを見てるのよ、妹紅」
「いや、アンタって、凄いなぁ、って思ったのよ」
「あら、褒めてもらえるとは思って無かったわ」
口元を袖で隠して楽しそうに輝夜が笑うが、妹紅はどうしようかと真剣に悩んでいた。
これから人の話を聞くときは相手を見よう。そうしよう。
「……で、本気?」
「う、そ☆」
薪をありったけ投げつけてやった。
そして、リザレクションの光が部屋に満ち、
「痛いじゃないの、妹紅」
「うっさい、黙れ」
こんな奴の話を聞いてやろうと思ったのが間違いだった。
そうそうに立ち去ってもらおうと、決意した瞬間だ。
「うわっ!?なにすんのよ、輝夜!?」
輝夜に後ろから抱きしめられた。
何時の間にか目の前から消失した輝夜は妹紅の後ろに出現。また妙な妖術でも身に付けたのか。
「ふふ、本当は――貴方が」
耳元で、
「好きなの」
思考が全停止した。
顔が赤くなって行くのが自分でも分かった。何時も身に纏っている熱とはまた別の熱さ。
「え?ああ、えあ……」
まともに喋れなくなるのを情けないと思いつつも思考を走らせる。
……ななな、何を慌ててるの、私は。こいつは仇、仇、仇なの。
頭の中に彼女のせいで死んだ父の顔を思い浮かべる。
彼女の父は過去の記憶の中、良い笑顔で、
『あの幼女は良いものだ……』
過去を殴り飛ばして捨てた。
「だから」
輝夜の声が耳から脳へ響き、痺れるように身が震える。
同時に何かが顔の前に差し出された。
それは、赤いものであった。まるで血の様に赤いそれは、愛を表す情熱の色か。
そう、人はそれを――。
「この褌、付けない?」
「アンタって人わぁああああああああああああっ!?」
○
「痴話喧嘩、五月蝿いわね……」
「そういうなら師匠、姫様を焚きつけるのはやめましょうよぅ」
「あら、だって楽しいじゃない。姫も満更じゃなさそうだし……」
竹林の中で溜息を付くのは兎の耳を生やした紫色の長髪を持った少女だ。
ブレザーとミニスカートという組み合わせのせいか、妙に子どもっぽく見える。
対して頬に手を当てながら微笑するのは、長い銀髪を後ろで三つ編み状にした女性。
彼女の笑顔はどこまでも楽しげに視線の少し先で乱舞する少女達を見ていた。
……まぁ、長い間生きてると、色々楽しみが欲しくなるのよね、きっと。
そんな風に納得して兎耳少女は燃え盛る竹林を見る。
……後処理するのは私達なんだけどなぁ……。
楽しそうな師匠を見るのは嬉しかったが、それでも溜息が止まらない兎耳少女なのであった。
あ、あと「収集したが」のところは「収拾」な気がします。
いいかぐもこだった。
とりあえず妹紅父、表へ出ろwww
(中略)
そう思っているはず。
あなたも!
どこの総会屋の祖父ですかwww