◇旅路の果て
空がある。
青い空。
しかし、所々に白の混じったそんな空だ。
その空の中央には光輝く太陽が置かれ、大地を照らしていた。
大地には草原が在り、川が在り、山が在り、人が在り、妖怪が在り、生きていた。
脈動は続く。
世界が終わる日まで、出会いと別れを繰り返し、それでも続く。
喜びが生まれようとも、怒りが燃え上がろうとも。
哀しみが落ちようとも、楽に世界が騒いだとしても。
止まらない。
止まらずに動いている。
この世界は。
この幻想郷は。
「動いているわよ、皆」
空を見上げて少女は呟く。
草原の中に己の身を立たせて少女は空へと言葉を送る。
今もまだ動いている。
人が一人消えても、妖怪が一人消えても。
自然が少し消えようとも、世界の欠片が消えた所で世界は揺るがない。
だけど。
皆が残した標は確かに残っていた。
少女は隣に立つ人形を見る。
とある魔法使いの少女達と共に創り上げた自分の愛娘を。
「行きましょうか、上海」
風が吹くと共に少女の姿が消える。
それでも、世界は止まらない。
▽○▽
◇記憶の影
夢を、夢を見ている。
過去といつかの騒々しくも楽しい思い出。
一人だった自分を輪に入れてくれた友人達との思い出だ。
今はもう振り向いて見る事しか出来ない記憶。
「―――」
その中で夢の主は楽しそうに笑っていた。
心の底から笑っていた。
楽しかった、そう思う。
もう一度、夢の中に入り込んで皆と一緒に楽しき宴を、とも思う。
でも、彼女達はもう居ない。
それでも、彼女達は最後まで笑っていた。
駆け抜けた。
ならば、自分が止まってどうするのだろう。
弱音を吐くなよ、とどこかの魔法使いは言った。
アンタは強いわね、とどこかの巫女が言った。
友達、と皆が言った。
止まれない、彼女等のためにも。
自分の事を友達と言ってくれた彼女等を汚さないためにも。
体が浮くような感覚。
夢から醒める時に来る予兆だ。
だから、鬼の子は言った。
思い出へ、精一杯の笑顔を向けて。
「さよならは言わないよ」
また巡り合う日まで。
輪廻の果てにまた会える日まで。
「さぁ、百鬼夜行をもう一度始めようか」
世界のどこかで、強い歯車が一つ動き出した。
▽○▽
◇君がくれた想い
『約束をしよう』
彼女はいつだったかそう言っていた。
『私はお前を守ってみせる』
自分より弱い癖に何を言っているのかと最初は思っていた。
『あの人間には手を出させない!』
でも、違った。
強かった。
彼女は自分なんかよりもずっと強かった。
単純な強さでは自分には及ばない存在。
だけど、彼女は輝いていた。
強く、輝いていたのだ。
最後まで。
「もこー様?」
「ん?」
久しぶりの晴天を見上げていると不意に声をかけられた。
少女の優しい声だ。
だから、不死の少女は振り向く。
「なんだい?」
問いかけると少女は頷き、背を向けて手招きし始めた。
それに釣られて出てくるのは数十という数の人々。
「うん、今日はお礼に来たの、皆で」
「?」
お礼をされるような事をしただろうか、と首を傾げるが彼女達は笑うばかり。
出てきた人々は子ども大人、老若男女関係なく笑顔を浮かべていた。
「あのね?いつも私達の事守ってくれてるでしょう?」
「警備隊として当たり前の事よ」
「それでもね」
少女は代表者として背に隠していた手を差し出した。
花束を持った手を。
「ありがとう、って皆からなの」
一瞬、呆然としてしまった。
自分はとある友人との約束の延長として行動していただけだった筈なのに。
それだけだった筈なのに。
それなのに―――なんでこんなに心が温かいんだろう。
気付けば、涙が出ていた。
「!?」
周囲が騒がしくなり始める。
だけど涙は止まらない。
嗚呼、まだ守られていたのか、自分はあの強い友人に。
そう思うと、悲しくも嬉しくも―――喜怒哀楽が全て湧き上がってきた。
何も言えなくなる前に言葉を出そう。
涙で、喜びの涙で何も言えなくなる前に、精一杯の笑みを浮かべて。
「ありがとう――ありがとう……っ!」
人々は呆然の後に笑みで向かえる。
世界のどこかで錆びついた感情の涙が落ちた。
▽○▽
◇抗えない運命の波を壊して
世界は数多の運命によって構成されている。
そう紅き館の主たる吸血鬼は思っていた。
それは抗えず、どれかを意図的に手繰り寄せたとしてもその先はわからない。
複雑すぎる迷路のようなものだ。
それ故に、失った悲しみというのも一入というもの。
だけど、時を止める従者は言った。
『誇り高き主に仕えれた幸せは忘れませんわ』
嗚呼、なんとも甘美な言葉だろう。
そして、なんとも凶悪な枷だろう。
従者の言葉は歩みを止める事を禁じた。
誇り高きが故に諦める事を、運命に屈する事を許さない。
許せない。
だから、例え這いずり、朽ちる時が来たとしても最後まで誇り高く居ようと決めた。
でも、という前置きをして吸血鬼は思う。
「私は果たして貴女の誇った主のままで居られているのかしら……」
問いに正面に座っていた魔女は頷いた。
吸血鬼は何気ないその仕草に苦笑。
ならば、と背にしていた扉を開いた。
ここを出よう、と誰かが言った。
世界は広い、と魔法使いが言っていた。
世間知らず、とどこかの誰かが揶揄した。
だけど、皆が優しかった。
どれもこれも壊したくないと思える程に。
狂気が身を染めようとも、それだけは変わらず思える事だった。
皆が、彼女達が信じてくれたから。
一緒に居ても大丈夫、と信じてくれたから。
だから自分は――。
「行こう」
宝石の翼を広げて破壊の吸血鬼は立ち上がる。
その目の前では扉が勝手に開いていた。
先には自分の姉。
おせっかいだ、と思うが、それも今では暖かい。
破壊の吸血鬼は差し出された姉の手を取り、歩き出した。
暗い、闇の夜が広がる空が窓から見える。
だが、それすらも。
「眩しいね」
「えぇ、とっても」
歌うように呟く。
「進もうか」
「誇り高き王者の如く」
手を取り、二人は歩き出した。
己達を待つものの元へと。
彼女等を見送る魔女の視線はどこまでも暖かかった。
世界のどこかで、皆が進む事を決意した。
▽○▽
◇Never Stop!
「また来たの、鬼?」
火の鳥を背負う不老不死の少女は困ったような笑みを浮かべつつ言う。
視線の先には頭の左右に角を生やした鬼の少女が一人。
「とーぜんっ!百鬼夜行を止まらせるなんて、言語道断!退けるわけなし!」
拳を握って叫ぶ鬼の少女は愛らしいものだが、あれに何度殺された事か。
鬼は一通り憤った後、不老不死の少女を勢い良く指差し、
「さぁ、ここで会ったが百年目!今日こそ通してもらうよ!」
「駄目」
「即答!?」
焔の翼を揺らしながら不老不死の少女は笑う。
「当たり前でしょ」
両手に焔を移し――。
「この先は私の宝箱」
その言葉を聞いた鬼も笑い。
「じゃ、その宝は鬼の私が貰おうか」
力のある笑みと鋭い睨みを両者は止めずに。
しかし、楽しそうに不老不死の少女は叫びと共に走り出した。
「生憎、守りたいものばっかりでね!」
「あら、仲が良いようで何より」
「げ」
「あら、人形遣い。珍しいわね、アンタがこんなところに居るなんて」
紅き館の広間で三人の少女が向き合う。
そのうち、破壊の吸血鬼は何故か姉の吸血鬼の後ろに隠れていた。
恐いのだろうか。
「……怖がらないでいいわよー?」
「アンタ、この子に何したのよ」
姉の吸血鬼が半目で見て来るが人形遣いは笑みを崩さない。
「楽しい事よ?」
告げると同時に破壊の吸血鬼の肩が跳ね上がった。
「ね?」
震える少女の姿というのもまた乙なものだ。
姉の吸血鬼は溜息を一つ。
破壊の吸血鬼の頭を撫でつつ、呟いた。
「世の中、本当に上手くいかないことばっかりね」
「まったくよ。でも、立ち向かうのを止める気なんてないんでしょ?」
問うと同時に彼女は何を当たり前と言う風に笑みを浮かべた。
「当然」
「それじゃあ、行きましょう」
流石に次の言葉は予想して居なかったのか目の前の吸血鬼姉妹は呆然とした顔になる。
それを可愛らしいと思いつつも人形遣いは片目を閉じて、人差し指を口元へ運び、
「楽しい事を探しに、だぜ?」
▽○▽
◇答えがそこにあるなら
「幻想は紡ぎ続ける」
女性の声が歌うように告げる。
そこは何もない空間であり、しかし、どこにでも繋がる空間であった。
「どこにでもある様な物語を、どこにもない様な物語を」
女性の声は歌い続ける。
「誰かが信じてくれる限り幻想はなくならない」
金の髪を流しながら女性は楽しそうに、嬉しそうに、夢を見るように。
「でも――その幻想の中で、自分自身の答えを諦めずに見つけ出せたなら」
女性は傘を広げて身を翻した。
「それは幻想ではなくなるのかもしれないわね」
女性が一回転すると、傘がどこかへと飛んでいき、女性の顔が見えた。
「そして、この幻想の中では誰しもが諦めなかった」
その笑みはまるで語りかけ、挑戦している様な笑み。
「進めば、何かが得られるから止めない――いや、そうでなくとも歩みは止めない」
傘が落ちる音がどこからか響き。
「それが生きるという事――運命に抗い、ただひたすらに突き進む者達の行く道」
そして、彼女は更に口を開いた。
「だから、諦めない。諦められる筈がない」
呟きから段々と声を大きく。
彼女は顔を上げ――、
「――そう思うでしょ?貴方も!」
空がある。
青い空。
しかし、所々に白の混じったそんな空だ。
その空の中央には光輝く太陽が置かれ、大地を照らしていた。
大地には草原が在り、川が在り、山が在り、人が在り、妖怪が在り、生きていた。
脈動は続く。
世界が終わる日まで、出会いと別れを繰り返し、それでも続く。
喜びが生まれようとも、怒りが燃え上がろうとも。
哀しみが落ちようとも、楽に世界が騒いだとしても。
止まらない。
止まらずに動いている。
この世界は。
この幻想郷は。
「動いているわよ、皆」
空を見上げて少女は呟く。
草原の中に己の身を立たせて少女は空へと言葉を送る。
今もまだ動いている。
人が一人消えても、妖怪が一人消えても。
自然が少し消えようとも、世界の欠片が消えた所で世界は揺るがない。
だけど。
皆が残した標は確かに残っていた。
少女は隣に立つ人形を見る。
とある魔法使いの少女達と共に創り上げた自分の愛娘を。
「行きましょうか、上海」
風が吹くと共に少女の姿が消える。
それでも、世界は止まらない。
▽○▽
◇記憶の影
夢を、夢を見ている。
過去といつかの騒々しくも楽しい思い出。
一人だった自分を輪に入れてくれた友人達との思い出だ。
今はもう振り向いて見る事しか出来ない記憶。
「―――」
その中で夢の主は楽しそうに笑っていた。
心の底から笑っていた。
楽しかった、そう思う。
もう一度、夢の中に入り込んで皆と一緒に楽しき宴を、とも思う。
でも、彼女達はもう居ない。
それでも、彼女達は最後まで笑っていた。
駆け抜けた。
ならば、自分が止まってどうするのだろう。
弱音を吐くなよ、とどこかの魔法使いは言った。
アンタは強いわね、とどこかの巫女が言った。
友達、と皆が言った。
止まれない、彼女等のためにも。
自分の事を友達と言ってくれた彼女等を汚さないためにも。
体が浮くような感覚。
夢から醒める時に来る予兆だ。
だから、鬼の子は言った。
思い出へ、精一杯の笑顔を向けて。
「さよならは言わないよ」
また巡り合う日まで。
輪廻の果てにまた会える日まで。
「さぁ、百鬼夜行をもう一度始めようか」
世界のどこかで、強い歯車が一つ動き出した。
▽○▽
◇君がくれた想い
『約束をしよう』
彼女はいつだったかそう言っていた。
『私はお前を守ってみせる』
自分より弱い癖に何を言っているのかと最初は思っていた。
『あの人間には手を出させない!』
でも、違った。
強かった。
彼女は自分なんかよりもずっと強かった。
単純な強さでは自分には及ばない存在。
だけど、彼女は輝いていた。
強く、輝いていたのだ。
最後まで。
「もこー様?」
「ん?」
久しぶりの晴天を見上げていると不意に声をかけられた。
少女の優しい声だ。
だから、不死の少女は振り向く。
「なんだい?」
問いかけると少女は頷き、背を向けて手招きし始めた。
それに釣られて出てくるのは数十という数の人々。
「うん、今日はお礼に来たの、皆で」
「?」
お礼をされるような事をしただろうか、と首を傾げるが彼女達は笑うばかり。
出てきた人々は子ども大人、老若男女関係なく笑顔を浮かべていた。
「あのね?いつも私達の事守ってくれてるでしょう?」
「警備隊として当たり前の事よ」
「それでもね」
少女は代表者として背に隠していた手を差し出した。
花束を持った手を。
「ありがとう、って皆からなの」
一瞬、呆然としてしまった。
自分はとある友人との約束の延長として行動していただけだった筈なのに。
それだけだった筈なのに。
それなのに―――なんでこんなに心が温かいんだろう。
気付けば、涙が出ていた。
「!?」
周囲が騒がしくなり始める。
だけど涙は止まらない。
嗚呼、まだ守られていたのか、自分はあの強い友人に。
そう思うと、悲しくも嬉しくも―――喜怒哀楽が全て湧き上がってきた。
何も言えなくなる前に言葉を出そう。
涙で、喜びの涙で何も言えなくなる前に、精一杯の笑みを浮かべて。
「ありがとう――ありがとう……っ!」
人々は呆然の後に笑みで向かえる。
世界のどこかで錆びついた感情の涙が落ちた。
▽○▽
◇抗えない運命の波を壊して
世界は数多の運命によって構成されている。
そう紅き館の主たる吸血鬼は思っていた。
それは抗えず、どれかを意図的に手繰り寄せたとしてもその先はわからない。
複雑すぎる迷路のようなものだ。
それ故に、失った悲しみというのも一入というもの。
だけど、時を止める従者は言った。
『誇り高き主に仕えれた幸せは忘れませんわ』
嗚呼、なんとも甘美な言葉だろう。
そして、なんとも凶悪な枷だろう。
従者の言葉は歩みを止める事を禁じた。
誇り高きが故に諦める事を、運命に屈する事を許さない。
許せない。
だから、例え這いずり、朽ちる時が来たとしても最後まで誇り高く居ようと決めた。
でも、という前置きをして吸血鬼は思う。
「私は果たして貴女の誇った主のままで居られているのかしら……」
問いに正面に座っていた魔女は頷いた。
吸血鬼は何気ないその仕草に苦笑。
ならば、と背にしていた扉を開いた。
ここを出よう、と誰かが言った。
世界は広い、と魔法使いが言っていた。
世間知らず、とどこかの誰かが揶揄した。
だけど、皆が優しかった。
どれもこれも壊したくないと思える程に。
狂気が身を染めようとも、それだけは変わらず思える事だった。
皆が、彼女達が信じてくれたから。
一緒に居ても大丈夫、と信じてくれたから。
だから自分は――。
「行こう」
宝石の翼を広げて破壊の吸血鬼は立ち上がる。
その目の前では扉が勝手に開いていた。
先には自分の姉。
おせっかいだ、と思うが、それも今では暖かい。
破壊の吸血鬼は差し出された姉の手を取り、歩き出した。
暗い、闇の夜が広がる空が窓から見える。
だが、それすらも。
「眩しいね」
「えぇ、とっても」
歌うように呟く。
「進もうか」
「誇り高き王者の如く」
手を取り、二人は歩き出した。
己達を待つものの元へと。
彼女等を見送る魔女の視線はどこまでも暖かかった。
世界のどこかで、皆が進む事を決意した。
▽○▽
◇Never Stop!
「また来たの、鬼?」
火の鳥を背負う不老不死の少女は困ったような笑みを浮かべつつ言う。
視線の先には頭の左右に角を生やした鬼の少女が一人。
「とーぜんっ!百鬼夜行を止まらせるなんて、言語道断!退けるわけなし!」
拳を握って叫ぶ鬼の少女は愛らしいものだが、あれに何度殺された事か。
鬼は一通り憤った後、不老不死の少女を勢い良く指差し、
「さぁ、ここで会ったが百年目!今日こそ通してもらうよ!」
「駄目」
「即答!?」
焔の翼を揺らしながら不老不死の少女は笑う。
「当たり前でしょ」
両手に焔を移し――。
「この先は私の宝箱」
その言葉を聞いた鬼も笑い。
「じゃ、その宝は鬼の私が貰おうか」
力のある笑みと鋭い睨みを両者は止めずに。
しかし、楽しそうに不老不死の少女は叫びと共に走り出した。
「生憎、守りたいものばっかりでね!」
「あら、仲が良いようで何より」
「げ」
「あら、人形遣い。珍しいわね、アンタがこんなところに居るなんて」
紅き館の広間で三人の少女が向き合う。
そのうち、破壊の吸血鬼は何故か姉の吸血鬼の後ろに隠れていた。
恐いのだろうか。
「……怖がらないでいいわよー?」
「アンタ、この子に何したのよ」
姉の吸血鬼が半目で見て来るが人形遣いは笑みを崩さない。
「楽しい事よ?」
告げると同時に破壊の吸血鬼の肩が跳ね上がった。
「ね?」
震える少女の姿というのもまた乙なものだ。
姉の吸血鬼は溜息を一つ。
破壊の吸血鬼の頭を撫でつつ、呟いた。
「世の中、本当に上手くいかないことばっかりね」
「まったくよ。でも、立ち向かうのを止める気なんてないんでしょ?」
問うと同時に彼女は何を当たり前と言う風に笑みを浮かべた。
「当然」
「それじゃあ、行きましょう」
流石に次の言葉は予想して居なかったのか目の前の吸血鬼姉妹は呆然とした顔になる。
それを可愛らしいと思いつつも人形遣いは片目を閉じて、人差し指を口元へ運び、
「楽しい事を探しに、だぜ?」
▽○▽
◇答えがそこにあるなら
「幻想は紡ぎ続ける」
女性の声が歌うように告げる。
そこは何もない空間であり、しかし、どこにでも繋がる空間であった。
「どこにでもある様な物語を、どこにもない様な物語を」
女性の声は歌い続ける。
「誰かが信じてくれる限り幻想はなくならない」
金の髪を流しながら女性は楽しそうに、嬉しそうに、夢を見るように。
「でも――その幻想の中で、自分自身の答えを諦めずに見つけ出せたなら」
女性は傘を広げて身を翻した。
「それは幻想ではなくなるのかもしれないわね」
女性が一回転すると、傘がどこかへと飛んでいき、女性の顔が見えた。
「そして、この幻想の中では誰しもが諦めなかった」
その笑みはまるで語りかけ、挑戦している様な笑み。
「進めば、何かが得られるから止めない――いや、そうでなくとも歩みは止めない」
傘が落ちる音がどこからか響き。
「それが生きるという事――運命に抗い、ただひたすらに突き進む者達の行く道」
そして、彼女は更に口を開いた。
「だから、諦めない。諦められる筈がない」
呟きから段々と声を大きく。
彼女は顔を上げ――、
「――そう思うでしょ?貴方も!」