あらすじ:
仕事前に いつもおまえは やかましい
クール
仕事は静かにやるもんだろう
幻想郷の粋な連中には、弾幕を出現させるのに媒体を用いる者もいる。
鈴仙・U・イナバも、そんな一人であった。
「あっちゃ~……」
「れーせんちゃん、ごめんね……」
竹林に静かに佇む、永遠亭。その一室で、月の兎がため息をついていた。
ため息の原因は、目の前にある黒い鉄の塊――鈴仙の拳銃だった。
実弾発射こそされたことは無かったが、長年に渡って弾幕出現の媒体として
酷使され、いい加減くたびれてきた所で床に落とされたのだから、たまらない。
スライドが、真っ二つに割れてしまったのだ。
事ここに至ったのは、単純な話だった。
鈴仙の部屋に遊びに来ていたてゐが、鈴仙にじゃれついてホルスターから銃を
抜き取り、取り返そうとする鈴仙と追いかけっことなり、走って逃げている最中に
敷居に躓いて放り投げてしまったのだ。
「まぁ……事故だから」
「本当にごめんなさい」
いつもの勢いは、どこへやら。腹黒兎も、好きな人に嫌われかねないハプニングに
意気消沈してしまっている。
「ごめん、れーせんちゃん。弁償するから」
「え、でも……」
「謝って済むことじゃないけど、せめて弁償させて」
そう言うと、てゐはもう一度頭を下げてから、部屋を出て行った。
迷いの竹林を出た所に、奇妙な道具屋がある。
不可思議ながらくたを、売る気があるのか無いのかも分からない店――香霖堂に、
てゐはやって来た。
チリンチリン
古めかしい鈴音とともに戸を開け、てゐは入店した。
「いらっしゃい。おや、君は……」
「森近さん、こんちはー」
「……今日はどんなご用で? 生憎、何も買い取る気は無いよ」
「やだなぁ、そんな警戒しないでよ」
「この前、千円の品を買って、『先に払った千円と、この品を返品した分で、この二千円の
品を貰っていくねー』って詐欺ったのは、どこのどちら様だったかな」
「男が細かい事を気にしちゃ駄目だよ。今日は、真面目な用事で来たんだけど」
「真面目ねぇ。まぁ、伺いましょうか」
ため息とともに、霖之介は読んでいた本を置き、てゐに向き直った。
「森近さんは、れーせんちゃんの武器を知ってる?」
「あぁ。外の世界からの流れてきた拳銃だな」
「あれと同じような物を、用立てて欲しいんだけど」
真面目な商談だと悟り、霖之介は取り合うことにした。
「同じような物――と言うと、同型の拳銃かい?」
「んー、出来れば、もっと頑丈なのがいいな。落としても壊れないのが」
「頑丈となると、難しいな。外から流れてくる銃は、壊れているものばかりなんだ。
それを、僕がパーツ取りして組み立てているんでね」
「なんとかならない?」
言って、てゐはまとまった額の紙幣を霖之介の前に置いた。
「……流石、商人を動かすコツをご存知で」
「この注文は、今出したのの倍額まで出す用意があるわ」
「承った。それだけ頂けるなら、同型銃を職人に渡し、改造させよう」
「よろしくね。早ければ早いほどいいから」
「伝えよう」
じゃあね、と退店しかけたてゐを、霖之介は呼び止めた。
「しかし、珍しいね。君が値段交渉をしないなんて」
「これは、値切るわけにいかないのよ」
詐欺して貯めたお金だって、使いどころでは使うのよ。
そう嘯いて、てゐは出て行った。
3日後。
魔理沙が、永遠亭の書庫を襲撃がてらに、霖之介の伝言をてゐに伝えた。
ご注文の品、受け取りに来られたし
「こんちわー」
「待っていたよ」
「なんだ、お前が依頼人だったのか」
勇んで香霖堂へと飛んでいったてゐを待ち構えていたのは、霖之介と――
「あんた、スキマの式の……」
「八雲 藍だ。今まで、あまり話す機会もなかったな」
湯飲みを持って店内に座っていたのは、八雲 紫の式。
マヨヒガのおさんどんこと、八雲 藍だった。
「彼女は、熱烈な武器の収集家でね。手先が器用なこともあって、収集した武器の
模造をしたり、改良品を作ったりするんだよ」
「ま、趣味の延長だがね」
「ふーん。で、どんなの作ってくれたの?」
「ああ。見てもらおう―――
「だ め だ ね」
「へ?」
「店主? 駄目とは、一体――」
脇に置かれた木箱を取り上げようとしていた藍は、霖之介に止められた。
霖之介は、悲しそうにかぶりを振った。
「藍君。君には、職人の心意気というものが無いのかね? どんな良品だって、
そんな適当に紹介するようでは、下に見られてしまう」
「……『アレ』をやれというのか?」
「Exactly!」 (シュビッ)
躊躇う藍だったが、霖之介の気迫に負けてか、しぶしぶといった調子で言葉をつむいだ」
「……例の物 仕上がっております」
「ほう 見せてくれ」
「今 おとどけしようと思っておりましたが…」
ゴトッ
ガパッ
「! はは… これは…」
「対蓬莱人戦闘用13mm拳銃 『ジャッカノレ』
今までの454カスール改造座薬使用ではなく 初の専用座薬使用銃です
全長39cm 重量16kg 装弾数6発
もはや 人類では扱えない代物です」
「専用弾13mm炸裂徹薬弾」
チキッ
「弾殻は?」
「親水製ポリエチレングリコール加工弾殻」
「装薬は?」
「グリチルレチン酸科学薬筒NNA9」
「弾頭は? 坐薬式か? 軟膏か?」
「法儀式済み坐薬弾頭でございます」
「パ ー フ ェ ク ト だ 八雲 藍」
「感謝の極み」
「……いかがかな? 僕がデザインして発注をかけたんだが」
「ほーーーーーーっ」
スゴイんですか ソレと、額に青筋を浮かべててゐは睨んでいた。
付き合わされた藍は、額を押さえてため息をついている。
「あれ、お気に召さない?」
「召すかーっ!」
ついにキレたてゐが叫び、ジャッカノレとやらが載った机をひっくり返した。
「ま、待った! それなら、こっちは!?」
「え!?」
大慌てで、霖之介は棚影から長い木箱を取り出した。
「よっ……こらしょーっ!」
ガチャ
ズハッ
カノン
「30mm 対蓬莱人用「砲」 『ハノレコソネソ』
弾は2種 坐薬弾及び軟こ……
「なんじゃこりゃあああ!!」
兎の声帯から出たとは思えない「ギニャアアアアア」という叫びとともに、
てゐは香霖堂を粉砕した。
結局、鈴仙の銃は、割れたスライドをご飯粒でくっつけて継続利用となった。
「うぅ……れーせんちゃん、ごめん……」
>じゃれついホルスター
「て」の脱字と思われます。
>鴨井
「鴨居」の誤字+「敷居」との混同と思われます。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B4%A8%E5%B1%85
>外の世界から流れ物
「の」の脱字と思われます。
しかしジャッカル装備のうどんげなら見てみたいかも。
>13mm炸裂徹薬弾
患部で止まって効能が炸裂と申したかw
>翼 様
その前に、慧音にCaved! されている893を助けませんと(笑)。
>お一人目の名無し妖怪 様
誤字・脱字のご指摘、ありがとうございました。
鴨居は、頭をぶつけるもので、躓くものじゃあないですよねぇorz。
>蝦蟇口咬平 様
外から流れてきた赤い吸血鬼のマンガを持参して依頼したんですよ、きっと。
もしかしたら、このやり取りの間中、彼は帽子とマントを装着していたのかもしれませぬ(笑)。
>お二人目の名無し妖怪 様
ヴラディーミルは、故郷の月まで届けとばかりに撃つんです、きっと。
止まって治すから、効くんですw