真夜中の部屋に突然携帯電話のベルが鳴った
♪ か~ごめ かごめ……ガチャ
「ふわぁ……もしもし?」
12時ちょうど……こんな時間に電話してくる人が……居たか……
『あ、メリー? 私、私』
「……わたしの知り合いに”わたしわたし”という人は居りませんが……?」
『つれないわねぇ……私よ、蓮子よ』
「……で? その蓮子が何の用よ?」
「今からサークル活動を始めるわよ! 集合場所はいつもの場所! 15分後に集合ね! じゃ!」
ガチャ! ツー・ツー・ツー
まったくもう……蓮子ったらいつもこうなんだから……はぁ……
15分といったらいつものカフェまで歩いてギリギリだ。わたしは走るのは嫌なのでパジャマを適当に着替えただけで時計も持たずに外に飛び出した。……携帯電話まで忘れたのは不覚だったけど。
案の定蓮子はまだ来ていなかった。どうせまた30分ぐらい待たせるんでしょう。
しょうがないので近くのコンビニで飲み物を買い蓮子を待つことにした。初夏とはいえ、夜は少々肌寒い。
っと、ついでに時計も見ていかないとね。……って
「まだ12時5分?!」
「どうしたんですか? お客様?」
「すみません……店員さん、そこの時計って合っているのよね?」
「合っているはずですけど……まだ12時ちょっとか ……うん、携帯も確認したけどあってるみたいだよ」
「そうですか……」
そんなに急いだつもりは無かったんだけど……私の携帯が間違ってたのかしら?
「でも、確かに今夜は長く感じますねぇ」
「わざわざすみません、ありがとうございました」
「いやいや、今後ともごひいきに」
時計は無いけど30分ほど待っただろうかやっと蓮子がやってきた。大きく膨らんだリュックと、いつものつぶやき声と共に。
「……12時14分59秒………………………………………………12時15分ジャスト」
おかしい、テンポがかなり遅い、それに、今が12時15分ちょうどですって?!
「こんばんは、今日はちょうどに着いたわよ? メリー」
「……はぁ? 時間の進み方が遅くなってるですって?! うそじゃないわよね?」
さっきまでの出来事は気のせいじゃなかってこと?!
「こんな面白い日じゃなきゃ急にサークル活動を始めないわよ。っていうか時計を持ってこなかったの? 抜けてるわねぇ」
普通は忘れないわよ、貴方に急かされなきゃ、ね。
「はいはい、自分が迂闊だったのは認めるわ。それはそうと、貴方が背負っている荷物は何よ?」
「お菓子よ、今日の夜は長くなりそうだから。」
「その”夜”のタイムリミットは?」
「さあ、ね? …………もう一つ気になることがあるからねぇ…………」
蓮子は空を見上げながら少し、気になることを言った
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幻想郷
わずかに欠けた月の光を受けながら、二つの影が飛んでいた。
「ねえ紫? 今日の夜を止めているのは貴方なのよね?」
「そうよ。それがどうかしたの?」
「たいしたことじゃないわ。ただ、この術って外にも影響あるのかなって思って」
「今日と明日の境界を弄ったからそういうことになるわねぇ。でも、心配は要らないわよ?
人々の認識も変わってるはずだから。霊夢、貴方あの蛍の時といい、らしくないわよ?」
「……そうね、先を急ぎましょうか」
まだまだ、永い夜は始まったばかり……
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「さあ、張り切って探すわよー!」
「一体何を探そうってのよ?」
乗り気じゃないわねー、メリーは。
「こんなに変わったことが起こっているのよ? その原因に決まっているじゃない!」
「……そもそもなんで気づいたのよ?」
「面白いことが無いかなーって空眺めたら、ね。気づいちゃったのよ」
星の動きが遅いのと、今日満月のはずの月がわずかに欠けてるのが、ね。
「まあ、お菓子をたくさん持ってきてくれたから許してあげるとするわ」
「ねぇメリー?」
「何よ?」
「今日の月ってどう見える?」
「どうって……普通に満月よ?」
「ふーん……」
ま、普通は気づかないか。 ……メリーだったらもしくは、って思ったんだけどな。
「お菓子食べないのー?」
やれやれ、お菓子を持って来たのは私なんだけど……
「……それでね、あの教授ったら……ってメリー、聞いてる?」
今は……2時、か。6時間分ぐらいはお菓子持ってきたのにもうなくなりそう。
メリーはぼー、としてるし……ん?
「メリー、”また”何か見えてるの?」
「……! あ、蓮子…… ん……そうね、人が空を飛んでるのが見えたって言ったら、信じる?」
今夜の異変、やっぱり”向こう側”が関係あるのかしら? だったら私達の手には負えない、かな?
「メリーが見えたって言うんだったら、ね。……で、見えたのね?」
「蓮子~、どうしよ~」
う、その顔は可愛すぎる! …………そうね、対処としては……
「知らない振りしちゃうってのは、どう?」
それぐらいしか思いつかなかったのよー!
「そうね! 知らない振り、知らない振り、しらないふり……」
……ねえメリー? 貴女はいったい何を見ているの?
私は少しでもメリーが見ているものに近づこうと、その夜に視線を向けた。
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幻想郷
だんだんと激しくなる敵の弾を避けながら、敵の本拠地が近づいてきたことを感じる。
「霊夢、ちょっと逸り過ぎじゃない?」
「これが急がずにはいられないでしょう? あんな所で魔理沙に邪魔されるなんて思わなかったし」
「でもおかげであの兎を見つけられたでしょう?」
「だからなおさら急がないと、見失うじゃない」
「やれやれ、ね」
「はぁ、はぁ……何なの、あれ? もう使いが来たの? 早く屋敷に戻って襖を閉じなきゃ……」
兎は逃げる、大切な人を護るため、師匠との約束を守るため。
「永琳、準備は出来ているの?」
「はい、順調に。……姫、くれぐれもここから出ないでくださいね」
「……分かっているわ。 ……その間、暇になるわね」
見破るは永遠の嘘。永い夜に、終わりが差し掛かってきていた。
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しばらく黙っていたメリーが突然立ち上がり、ふらふらと歩き出した。
「メリー?」
呼びかけてみたが反応はない。これはもしや……
メリーが何で”夢”として”向こう側”のことを話すのか、ちょっと分かったような気がした。
「”向こう側”に行くときは無意識の時、なのね……」
私はメリーの服を掴んで一緒に歩き出す、せっかくのチャンス、逃すわけにはいかない。
「……?!」
一瞬視界が歪む、私達はいつの間にか長い廊下に立っていた(しかも板張りの)。
「? ここ……は……?」
「おはよう、メリー?」
やれやれ、ようやくお姫様の覚醒だ
「また……夢? ……でも、蓮子が……いる?」
「ええ、私もこんな夢を見るのは初めてよ」
メリーにはこのまま夢の出来事と思わせておいたほうがいい、そんな気がした。
「……ここはどこなんだろ」
メリーも意識がはっきりしてきたらしい。
「見上げるような天井ってのも先が見えない廊下ってのもなかなかお目にかかれないわよね」
ためしにすぐそばの襖を開けてみよう……開かない。
「どうなってんの?!」
これじゃあ探索も出来ないじゃない。
「ん~……蓮子、わたしも試していい?」
「? いいわよ?」
メリーが襖に近づいて手をかける。……拍子が抜ける位あっさり開いた。……ちょっとカチンと来る。
「うがー! 襖! 私よりメリーの方が好みなのか! そうなのか!」
「蓮子、襖に当たらなくても……」
「いいわよね! 美人さんは! なんでも都合よくことが進んで!」
「蓮子……」
はっ! 私ったらつい熱く……
やめてっ! メリー! そんな顔で見ないで!
「こほん……とりあえず、進んでみましょうか?」
「…………(じと目)」
わーん! メリーの視線が痛いよー!
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「さあ、そこの兎! 観念しなさい!」
「ひーん!」
暗い廊下に声が響く。
「もういいでしょう、霊夢、さっさとさっきの奴を追うわよ」
「そうね。……? ねえ紫、そこの襖が開いてるけど……?」
「?! 閉め忘れ?!」
「ふーん、そんなに慌てるってことは……」
「こっちが正解ね!」
二人は素早く進む方向を変え、襖の奥へと消えていった。
「あっ! 待て! ……っ! ……だめか。でも、なんで? 確かに全部の襖を封印したはずなのに……」
そこには一羽、傷ついた兎だけが取り残された。
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「……これは……何?」
「何……って、月……よね?」
私達の目の前には大きな満月が浮かんでいた。
……これは、私の知っている月ではない私の目がそう言っている。しかし、”本物の”月でもあると。
「メリー……帰るわよ」
「えっ……でも、どうやって」
「どうやってでも!」
……コノツキハキケン 私の勘が告げている。
私はメリーの手を掴み、月を背に駆け出した。
君子危うきに近寄らず。いい言葉だわ。
「蓮子……っ、そんなに慌てて引っ張らないで……って、きゃ!」
しまった、焦り過ぎたみたいね。
「ごめん、メリー」
「いいのよ、これにつまずいたみたいだけだから」
メリーが持っていたもの、それは一体の日本人形だった。こういうところで見るとなかなかに不気味だ。
「せっかくだからもらっていきましょうか?」
「あ、だったらメリーが持っててくれない?」
ちょっと怖いし。
「もうすぐ、あの襖に着くわね」
私達は走って戻っていた、さっきの恐怖で心臓はバクバクいっている。
だけど、それだけではない。”楽しい”方のどきどき、もあるのだ。
「だけど、無事に帰り着きゃ無きゃ、ね」
途中、不思議な人達とすれ違った。どちらも空を飛んでいて、そのうちの巫女のような人は私達に気づかなかったようだが、もう一人、傘を持った金髪の人はこっちを見てウインクをしてきた。
……こっちに来て初めてあった人だが、なぜか初対面ではないような気がした。……なんでだろう?
「メリー?」
ふと、メリーを見るとまた先ほどのような状態になっていた。あの、夢でも見ているような表情だ。
「待ってました! どうか、私めに帰り道をお教えください、姫?」
なーんて言ってみる、そして……
「……ん……あれ?」
「おはよう、メリー?」
夢の中でも聞いたことがあるようなセリフを、彼女は言ってきた。
「……何があったんだっけ……?」
「私達いつの間にか眠ってたんだよ、時間もいつの間にか戻ったみたい」
蓮子はちょっと苦笑いをしている、きっと、時間が戻る瞬間を見れなくて悔しかったんだろう。
「ね、その夢の話なんだけど……」
「あー……その夢ね、あまり覚えてないのよ、メリーと一緒に走ってた夢だった気がするんだけど……」
「! じゃあ、もしかして……」
わたしはポケットの中に手を入れてみる、あった!
「ほら、この人形!」
思ったほど蓮子は驚かなかった。
「また、夢の中で取って来たんでしょ?」
「うん……そうなんだけど……ほんとに覚えてないの?」
「ええ、残念だけどね」
うーん、ほんと、残念。……そういえば
「今、何時!?」
「ん? 4時だよ」
「もう?!」
「そろそろ寝ないと明日に響くわね~」
「そんな悠長に言わないでよ~」
「ふふっ、それじゃ、今日の活動はこれでおしまい、また明日、ね」
「はぁ……またそんな自分勝手に……ま、いいわ。おやすみ」
「おやすみ~」
二人の少女が歩き出す。その空で沈み行く満月はいつもより、煌々と輝いていた。
おしまい
発想力もさることながら、それを表現できる執筆力も素晴らしい。
作品の雰囲気に浸れました。
これは素敵なお話だ。