上海、おたま取って。
――うん、おいしい。
色もきれいに仕上がって良かった。
玉葱は先に火を通した方が甘みが出るけど、シチューに使うときはうっかりすると色が濁っちゃうのよね。
慎重に炒めた甲斐があったわ。
メインの皿はこれでよし、と。
ケーキもあと少しで焼き上がるわね。
お手伝いごくろうさま、上海。
……魔理沙、ちゃんと来てくれるかな。
このシチュー、おいしいって言って食べてくれるかな。
借りた本を返しに来るって言ってたけど、そんな理由いらないのに。
いつでも来てくれれば、頑張ってごはん作ってあげるんだけどなぁ。
そう、料理は愛情。
大切な人のために料理を作るとき、キッチンは愛のダンスホールになるのよ。くるくる~♪
あらパセリさんこんにちは。後でシチューに彩りを添えてちょうだいね。
――どうしたの上海? そんな隅っこに下がって。
そろそろ食器をテーブルに並べておいてくれるかしら。お願いね。
そうそう。飲み物も忘れちゃ駄目よね。
ワインはロゼ。
絶対ロゼ。
なぜって、魔理沙と二人っきりのときに赤とか白とか言いたくないから。
魔理沙って宴会のたびに結構飲んでるけど、酔い潰れて寝ちゃったりしないのかしら。
もしそうなったら、わ、私が介抱してあげるわけよね。
そ、そのまま泊まったりなんかしちゃったりして……むふー。
ワイン、もう一本出しておこうかしら……。
――えっ、ケーキ?
あらいけない。そろそろオーブンから出さなきゃ。
ありがとね上海。
うん、ちょうどいい感じに焼けてる。
ケーキって、型から取り出すときが一番緊張するのよね。
くっつかないように気をつけて……っと。
じゃ~ん! 本日のスペシャルデザート、森のマジックハーブを使った七色シフォンケーキ~☆
どう上海? 綺麗でしょう?
これはね、ただおいしいだけじゃないのよ。
一口食べればあら不思議。毒、麻痺、混乱からアホ毛まであらゆる状態異常が治る究極のケーキなの。
魔理沙が喜びそうな一品でしょ?
なないろ……七色といえばこの私、アリス・マーガトロイドのことよね。
七色を……喜んで食べる……魔理沙……ふ、うふ、うふふふふふふふふふ。
魔理沙まだかな~♪ あら上海、リボンが曲がっていてよ。
えっ?
私のリボンも曲がってるって?
――や、やだやだ私ったら! 料理に夢中でお洒落のこと忘れてたわ!
ああ、でも今から着替えなんかしてたら魔理沙が来ちゃうかもしれないし……七色ピーンチ!
……なんてね。
どうやらあのカードを切るときが来たようね。
魔法使いは常に切り札を用意しておくものよ。
いくわよ上海! みんなも出てきて!
――いざ、装符「レギオンドレイパー」ッ!
ワラワラワラワラワラワラワラワラウラワラワラワラ
~メガネ的説明カットイン~
説明しよう!
七色の人形使いアリスは、無数の人形達に手伝わせることにより瞬時におめかしを完了させるのだ!
ちなみに一瞬だけ全裸になるが、苺度の高い部分には上海と蓬莱と魔理沙人形がしっかり張り付いてガードするので全年齢対象でも安心なのだ。
……ところで上海君、がっつくようだがそのチェリーくれないk(リトルレギオン
~死亡確認……そして時は動き出す~
乙女の変身、可憐に完了!
これでもう恐いものなしよ!
あ、でもやっぱりエプロンは着けておこうかなぁ。
その方が料理への期待感を高めるには有効かもしれないわ。
いやいや、でも初見のインパクトとしてはこの可愛いワンピースを見せた方がいい気もするしー……。
あぁんどうしよう。
ねえ上海? あなたはどっちが――
ちりんちりん。
Σ(゚Д゚ )
「おーい、来たぜアリスー。開けてくれー」
(゚∀゚)
上海、このエプロンしまっといてっ!
あら魔理沙、こんな時間になにしに来たのよ。
――えっ? 本を返しに来るって言ってただろうって?
はっ。あんたが約束どおり物を返しに来るなんて、異変の前触れかしら。
こっちは期待なんかしてなかったから、魔理沙が来ることなんてすっかり忘れてたわよ。
……で、用件はそれだけなの?
――寒いから入れてくれ?
ふんっ、そんなこと言ってまたなにか持ち出すつもりでしょう?
いつものことなんだから、魂胆は見えてるのよ。
――ちょ、ちょっと! いきなり帰ることないでしょ! まだ話の途中よ。
……ま、まあいいわ。
本当に寒そうだし、しょうがないから入れてあげる。
ほら、そこの箒かけに箒置いて上がりなさい。
――ひゃあぁっ!?
い、いい、いきなりなにするのよ!? 心臓が止まるかと思ったじゃない!
ほっぺたが冷たい? だ、だからってそれを私に押し付けないで!
こここ、今度やったら殴るわよ!?
……たぶん。
……ほら、もうあったかいでしょ。
いつまでもそんなに着ぶくれしてないで、帽子も――なに? 今度は暑い?
あんたねえ、喧嘩売ってるの? いちいち贅沢言わないでよ。
まったく……私が誰のために薪をいつもの倍ゲフンゲフン。
い、いやいやこっちの話よ。おほほほほ。
――いい匂いがするって?
相変わらず、こういうときは鼻が利くのね。
晩ごはん作ってたのよ。これから食べるところだったのに、とんだ邪魔が入ったわ。
あんたまさか、それを狙ってわざわざこんな時間に来たんじゃないでしょうね。
いかにもその通り? 図々しいわねえ。
ふ、ふん。でも運が良かったわね。今日は偶然たまたま事ほど左様によもや作りすぎちゃったのよ。それはもう一人では食べきれないくらい。
腐らせるのももったいないし他に食べさせる相手もいないから、食べてっていいわ。
感謝しなさいよ?
――えっ? 準備がいいなって、なんのこと…………あ。
……しゃ、上海のバカ!
魔理沙専用皿(略してマリサラ)は後から出せって言っておいたのに!
あー、ううん。なんでもないなんでもない。
お皿を二人前出してあるのはー……えー、そにょー、あれよ。分身の術。
花の異変のとき、あんたも分身使ってたでしょ? 私も練習してるのよ。
な、なによその目は!
――ワインが二本ってのはさすがに多いだろうって?
こ、こう見えても酒豪なのよ私! あんたは知らないでしょうけど!
いいわ、私がどれだけお酒に強いか見せてあげるわよ。
ほら、ごはんにするからとっとと席について。
冷めないうちに食べなさいよね! 好きなだけ!
「ぅ~ん、魔理沙……まりさぁ…………」
私のマスターが、テーブルに突っ伏して寝言を呟いている。
酒というものに疎い私から見ても、いかにも飲みすぎだったと思う。
「……さっきから魔理沙魔理沙うるさいなぁ」
客人の方はというと、料理やケーキの残りをせっせと風呂敷に包んでいた。
余ってしまったのは、単純に量が多かったからだろう。
むしろ、体格の割に彼女はずいぶん沢山食べてくれた。
今もこうして持ち帰ろうとしているところを見ると、味はお気に召したに違いない。
そんなことを考えながら客人の動きを見守っていると、目が合った。
「――ほう。お前さん、ご主人が寝てても動けるのか。偉いな」
恐縮です。
「お前も苦労するよなあ。素直じゃない主を持つと」
違いない。
でも、素直じゃないという点ではこの人もいい勝負だと思う。
風呂敷を結び終えた彼女は、部屋の隅にある本棚の前まで歩く。
そして、ろくに選んだ様子もなく、無造作に一冊の本を取り出した。
「借りてくぜ」
持ち主が眠っているからか、彼女は私に向けてそう言った。
「そのうち、また返しに来る」
風呂敷包みと本を抱えて、彼女は私に軽く手で会釈した。
もう帰るらしい。
椅子にかけてあった帽子を取って、身支度は終わったようだった。
彼女は眠っているマスターを一瞥してからテーブルに背を向け、
「んっ……まり……さ…………」
それを察したわけでもないだろうが、マスターがもぞりと身じろぎした。
彼女の足が、止まる。
「……あー、これで何度目かね。呼ばれたのは」
帽子を被りかけた頭をさすって、溜息をつく。
そして、くるりとマスターに向き直った。
「――――……」
静かに、手を伸ばす。
指先がマスターの前髪に触れる。
熱を計るように押し当てた掌をそっと持ち上げて、マスターの額があらわになる。
そこへ彼女はそっと顔を寄せ――
「…………」
ちらり、と私を見た。
ちょっと決まりが悪そうな表情で。
――暖炉にしばらく薪をくべていなかったのを思い出した。
百八十度方向転換して二人が視界から消え、私は壁際の暖炉へと向かう。
念入りに選んだ一本の薪を、熾火の中に投げ込む。
火が燃え移ったのを確認して振り返ると、客人は帽子を被りなおしているところだった。
「……じゃあな」
軽く私に笑いかけ、彼女は踵を返す。
私はぺこりとおじぎをして、その背中を送り出した。
「……不覚だわ……」
――数刻後、マスターは落ち込んでいた。
「あ~あ。どうして私って、いつも素直になれないんだろう」
お水どうぞ。
「……ありがと上海。ねえ、私が寝てるとき、変な寝言とか言わなかった?」
いえ。わりといつも通りでした。
「そう。……まあ、悪いことばっかりじゃなかったわよね。魔理沙、おいしそうに食べてくれてたよね?」
そう見えました。
「はぁ……いつまでも後悔してたってしょうがないわね。ちゃんと寝なおしましょ」
それがいいと思います。
「……っと。その前に、今日もこの切ない気持ちを綴っておこうかしら」
マスターはそう呟いて椅子を立ち、部屋の片隅へと歩いてゆく。
「――あ……れっ? あれ?」
どうかしましたか。
「ねえ上海、ここの本棚にあたかも普通の本のようにカモフラージュして隠しておいた私の秘密の日記知らない?」
――やべ。知ってる。
――未明。
半泣きのマスターに率いられて霧雨邸を強襲。
ここまでしなくてもいいのになあ――と思いながら、自慢のレーザーを放つ。むぴー。
「お、おいおいアリス! 本の一冊くらいでなにをそんなにエキサイトしてるんだよ!?」
「う、うるさいうるさーい! あれは誰の目にも触れてはならないモノなのよ! かくなる上はあんたが本を開く前に消させてもらうわっ!」
「だったら私じゃなくて本を狙えーーーーーーっ!!」
むぴちゅどーん。
明けの明星が煌めく空に、マスターの想い人がパジャマ姿で吹っ飛んでゆく。
その光景はとても綺麗で、少し楽しかった。
よし、アリス株が上昇したので今度アリスで勝負だ。
アリス株買いですな。
ところで上海君、チェリーをとは云わない。すこしだけチェリーソースをk(ドールズウォー
> 百八十度方向転換して二人が視界から消え、私は壁際の暖炉へと向かう。
ちょっとこの表現は鳥肌が立ちましたよこの野郎!ペチカ燃えろよ燃えろよ萌えろ~
上海人形も大変だな。
そして「やべ。知ってる。」で吹きましたw
ちょっ、オレも人形に(リトルレギオン
そして
そにょー
グッ・・・・・・ジョ・・・b(バタッ
しっかり者の上海が良い感じでした~