本作は プチ東方創想話ミニ 作品集その13 にある『またあえるひまで』の続きとなっています
そちらを先にお読み下さい
穏やかな日の光が部屋を照らす、暖かな部屋で一人の女性が机に向かって何かを書いていた
静かな部屋には、その女性が筆を持って書く音のみが鳴っている
『今でもはっきりと思い出せるあの情景を待ち続けて、幾年の時が過ぎたのでしょうか
浅はかな私は、きっと待っていればあの頃へと戻れるのだと、たった一人でずっと思っていました』
女性はそこで、最後の文字が掠れて居ることに気がつき筆を止める
そして綺麗な紅い羽で作られた筆の先端を、傍に置いてあった茶碗に似た墨入れにつけて筆を再度動かし始めた
『レミリア様達が居れば、あの頃へと戻れるのだと想っていました
けれどもその考えが間違っているのだと、それを教えて下さったのも、やはりレミリア様でした
あの時の大きな喜びと先への希望、それとほんの少しの喪失感を、私は何年経とうとも忘れはしないでしょう』
其処まで書いた女性がまた墨入れへと筆を伸ばせば、軽い音を立てて転げ、墨を机の上一面へと零した
けれども女性は何をしたのか、一瞬驚いたかのように目を見開いたけれど左手をさっと一振りすれば全てが元通りになっていた
『此処、幻想郷にて忘れる事の無いレミリア様とフランドール様の気を感じ取った時の感情は、何と表現してよいのか今でも分かりません
その時行っていた全てを放り出し、あの娘達に何も言わずに飛び出した私は只々お二人との≪再会≫への喜びしか頭に無かった気がします
しかし私は、人も妖怪も見当たらず日の光が届かないとある洞窟の奥底でお二人を見た時に思い知りました
私からその小さな体で誰かを守るように立ちはだかるフランドール様と、何かに怯えるようにその影に隠れているレミリア様を見た時に私は』
女性は其処まで書いてからふと首を傾げ、机の引き出しを開一冊の本を取り出した
本の表紙には『レミリア』との題名だけが記されている
その本の頁をペラペラと捲り、目当ての頁を見つけたのか文字を指でなぞりながら読み始める
女性の指でなぞられた文字は、丁寧だが少し力を入れ過ぎて書かれたような文字が記されていた
『その頃の私は、私と言う存在がフランにとって重荷としかならない事実に、幻想郷に来てからは心苦しく感じていた
運命を操ると言う能力、その力を扱いきれずに振り回される私をフランは血の繋がる姉と言うだけで慕ってくれているのだと思っていたから
運が悪かったのか、それとも運が良かったのか
今では幸運だったと断言できるあの日、きっと私に取っての運命の分岐点だったあの出来事
無限の可能性、手繰り寄せるはずの運命を見定めることも出来ず暴走、目を背ける事も出来ず見たくも無い未来
私の死ぬ運命、フランの死ぬ運命、死や絶望の溢れる運命
それに怯えることしか出来ず、フランに守って貰う事しか出来なかった私は見た
あれだけ私を取り囲んでいた死や絶望を消し飛ばして現れた紅い光
それは例えるならば、吸血鬼である私達には決して感じる事の無いだろう暖かな太陽の光だった』
女性の指がその頁の最後の文字をなぞると、頁はまるで意思を持つかのようにふわりと捲られた
捲られた次の頁に記された文字を指でなぞりながら、女性は何かを思い出すかのようにそっと目を瞑る
『能力ではなく自身の眼で見れば、目の前に現れたのは貴女だった
無限とも言える選択肢の中では、フランでさえ悲しそうな顔で私を壊すと言う選択肢があったのに、私達を傷つける事を絶対に行わない貴女
私達に手を伸ばし、私を守る為にフランがその手を壊し、悲しそうな顔をした貴女
なおも壊そうとするフランを慌てて後ろから抱き止めて、大丈夫だと伝える事しか出来なかった私を今思えば恥ずかしい
そうして貴女に手を引かれ、連れて来られたこの館で、私達は貴女の娘として迎え入れられた』
文字をなぞっていた指が頁から離れ、本を閉じ机の引き出しへと戻す
女性は閉じていた目を開き、筆で記す行為を再開した
『レミリア様を見た時に私は、もうあの頃へと戻る事は出来ないのだと判ってしまいました
それから数日間の私の行動は、今になって思い出しても顔から火が出るほどに恥ずかしいです
お二人にとっては初対面に近しいはずの私がそのまま≪レミリア様≫≪フランドール様≫と呼んでお二人に怯えられあの娘達に邪推されて
仕舞って置いた懐かしい服を着て、館の門番をやろうとして皆に泣いて止められ
咲夜さんとパチュリー様が居ないからだとそこらを探し飛び回った挙句に、幻想郷を掻き乱し八雲紫様に怒られ
無理なのだと判っていても諦め切れず、皆に迷惑をかけ、気がつけば見っとも無く一人で泣いていました』
筆は止まらず、癖の無い文字だけが書かれて行く
『その後に落ち着いた私は、今も変わらずにこの館で暮らしています
思い起こせば、本当に色々な出来事がありました
レミリア様とフランドール様のお二人が、この館に住む娘達と同じメイド服を着ている姿を見た時の気持ちは筆舌にし難いです
あれだけ探しても見つからなかった咲夜さんが、気がつけばレミリア様の傍で一緒にメイドをしていた時は驚きました
図書館へと、あの懐かしい白黒の魔法使いのように本を奪いに来たパチュリー様と使い魔の小さな悪魔を見た時には笑ってしまいました
私の書いた日記のようなこれを読んでしまい、幻想郷を巻き込んでまで私を此処に引き止めようとしたあの娘達の行動は素直に嬉しかったです』
日も落ち、窓からは涼しい風が部屋へと流れ、月の光が部屋を照らしていた
『もう、待ち続ける事は出来なくなりました
前へと、歩んで行かねばならなくなりました
諦め切れずに夢を見て、色褪せる事の無い思い出を振り返りる事があります
あの頃と同じである今の何かを、気がつけばふと探してしまう時があります
悲しくはありません、辛くはありません
けれど時々、無性に泣きたくなる時があります
幸せの筈なのに何かが足りなくて、胸の奥底で止まったままの私が泣いていました』
風に紅い髪が靡き、月の光が女性の着る紅いドレスを幻想的に彩る
そんな光景を覗き見ていた誰かは、息を呑んだ
『だから泣いている私を、止まったままの私を切り離し、もう一人の私として懐かしいあの時へと還します
こんな事が出来る様になっていた私に私自身が驚きましたが、あまり気にはしません
ただ願うのは、もう一人の私が、この娘があの頃へと届いて笑顔で居られる事
願いが叶うと信じます、そして私は前へと歩んで行きます
此処に居る、この幻想郷に居る皆と一緒に歩んで行きます
私は、幸せです』
其処まで書いた女性は、書き綴った紙を持って窓へよる
すると月の光を浴びた紙が女性の手から消え、窓辺にぼんやりとだが女性と同じような姿が見えたかと思うとそれも消え去った
空に浮かぶ月だけが、その意味を知っている
そちらを先にお読み下さい
穏やかな日の光が部屋を照らす、暖かな部屋で一人の女性が机に向かって何かを書いていた
静かな部屋には、その女性が筆を持って書く音のみが鳴っている
『今でもはっきりと思い出せるあの情景を待ち続けて、幾年の時が過ぎたのでしょうか
浅はかな私は、きっと待っていればあの頃へと戻れるのだと、たった一人でずっと思っていました』
女性はそこで、最後の文字が掠れて居ることに気がつき筆を止める
そして綺麗な紅い羽で作られた筆の先端を、傍に置いてあった茶碗に似た墨入れにつけて筆を再度動かし始めた
『レミリア様達が居れば、あの頃へと戻れるのだと想っていました
けれどもその考えが間違っているのだと、それを教えて下さったのも、やはりレミリア様でした
あの時の大きな喜びと先への希望、それとほんの少しの喪失感を、私は何年経とうとも忘れはしないでしょう』
其処まで書いた女性がまた墨入れへと筆を伸ばせば、軽い音を立てて転げ、墨を机の上一面へと零した
けれども女性は何をしたのか、一瞬驚いたかのように目を見開いたけれど左手をさっと一振りすれば全てが元通りになっていた
『此処、幻想郷にて忘れる事の無いレミリア様とフランドール様の気を感じ取った時の感情は、何と表現してよいのか今でも分かりません
その時行っていた全てを放り出し、あの娘達に何も言わずに飛び出した私は只々お二人との≪再会≫への喜びしか頭に無かった気がします
しかし私は、人も妖怪も見当たらず日の光が届かないとある洞窟の奥底でお二人を見た時に思い知りました
私からその小さな体で誰かを守るように立ちはだかるフランドール様と、何かに怯えるようにその影に隠れているレミリア様を見た時に私は』
女性は其処まで書いてからふと首を傾げ、机の引き出しを開一冊の本を取り出した
本の表紙には『レミリア』との題名だけが記されている
その本の頁をペラペラと捲り、目当ての頁を見つけたのか文字を指でなぞりながら読み始める
女性の指でなぞられた文字は、丁寧だが少し力を入れ過ぎて書かれたような文字が記されていた
『その頃の私は、私と言う存在がフランにとって重荷としかならない事実に、幻想郷に来てからは心苦しく感じていた
運命を操ると言う能力、その力を扱いきれずに振り回される私をフランは血の繋がる姉と言うだけで慕ってくれているのだと思っていたから
運が悪かったのか、それとも運が良かったのか
今では幸運だったと断言できるあの日、きっと私に取っての運命の分岐点だったあの出来事
無限の可能性、手繰り寄せるはずの運命を見定めることも出来ず暴走、目を背ける事も出来ず見たくも無い未来
私の死ぬ運命、フランの死ぬ運命、死や絶望の溢れる運命
それに怯えることしか出来ず、フランに守って貰う事しか出来なかった私は見た
あれだけ私を取り囲んでいた死や絶望を消し飛ばして現れた紅い光
それは例えるならば、吸血鬼である私達には決して感じる事の無いだろう暖かな太陽の光だった』
女性の指がその頁の最後の文字をなぞると、頁はまるで意思を持つかのようにふわりと捲られた
捲られた次の頁に記された文字を指でなぞりながら、女性は何かを思い出すかのようにそっと目を瞑る
『能力ではなく自身の眼で見れば、目の前に現れたのは貴女だった
無限とも言える選択肢の中では、フランでさえ悲しそうな顔で私を壊すと言う選択肢があったのに、私達を傷つける事を絶対に行わない貴女
私達に手を伸ばし、私を守る為にフランがその手を壊し、悲しそうな顔をした貴女
なおも壊そうとするフランを慌てて後ろから抱き止めて、大丈夫だと伝える事しか出来なかった私を今思えば恥ずかしい
そうして貴女に手を引かれ、連れて来られたこの館で、私達は貴女の娘として迎え入れられた』
文字をなぞっていた指が頁から離れ、本を閉じ机の引き出しへと戻す
女性は閉じていた目を開き、筆で記す行為を再開した
『レミリア様を見た時に私は、もうあの頃へと戻る事は出来ないのだと判ってしまいました
それから数日間の私の行動は、今になって思い出しても顔から火が出るほどに恥ずかしいです
お二人にとっては初対面に近しいはずの私がそのまま≪レミリア様≫≪フランドール様≫と呼んでお二人に怯えられあの娘達に邪推されて
仕舞って置いた懐かしい服を着て、館の門番をやろうとして皆に泣いて止められ
咲夜さんとパチュリー様が居ないからだとそこらを探し飛び回った挙句に、幻想郷を掻き乱し八雲紫様に怒られ
無理なのだと判っていても諦め切れず、皆に迷惑をかけ、気がつけば見っとも無く一人で泣いていました』
筆は止まらず、癖の無い文字だけが書かれて行く
『その後に落ち着いた私は、今も変わらずにこの館で暮らしています
思い起こせば、本当に色々な出来事がありました
レミリア様とフランドール様のお二人が、この館に住む娘達と同じメイド服を着ている姿を見た時の気持ちは筆舌にし難いです
あれだけ探しても見つからなかった咲夜さんが、気がつけばレミリア様の傍で一緒にメイドをしていた時は驚きました
図書館へと、あの懐かしい白黒の魔法使いのように本を奪いに来たパチュリー様と使い魔の小さな悪魔を見た時には笑ってしまいました
私の書いた日記のようなこれを読んでしまい、幻想郷を巻き込んでまで私を此処に引き止めようとしたあの娘達の行動は素直に嬉しかったです』
日も落ち、窓からは涼しい風が部屋へと流れ、月の光が部屋を照らしていた
『もう、待ち続ける事は出来なくなりました
前へと、歩んで行かねばならなくなりました
諦め切れずに夢を見て、色褪せる事の無い思い出を振り返りる事があります
あの頃と同じである今の何かを、気がつけばふと探してしまう時があります
悲しくはありません、辛くはありません
けれど時々、無性に泣きたくなる時があります
幸せの筈なのに何かが足りなくて、胸の奥底で止まったままの私が泣いていました』
風に紅い髪が靡き、月の光が女性の着る紅いドレスを幻想的に彩る
そんな光景を覗き見ていた誰かは、息を呑んだ
『だから泣いている私を、止まったままの私を切り離し、もう一人の私として懐かしいあの時へと還します
こんな事が出来る様になっていた私に私自身が驚きましたが、あまり気にはしません
ただ願うのは、もう一人の私が、この娘があの頃へと届いて笑顔で居られる事
願いが叶うと信じます、そして私は前へと歩んで行きます
此処に居る、この幻想郷に居る皆と一緒に歩んで行きます
私は、幸せです』
其処まで書いた女性は、書き綴った紙を持って窓へよる
すると月の光を浴びた紙が女性の手から消え、窓辺にぼんやりとだが女性と同じような姿が見えたかと思うとそれも消え去った
空に浮かぶ月だけが、その意味を知っている
始まらないんだろうなぁ
パチェⅢ世はパチェと黒白の孫と考えるんだ。
パチュリー・ザ・3rd!
前編と合わせて良い物語すぎて何か色々盗まれた気がします
GJとしか
ちょっともーたまらなくカッコよすぎるんですが。
美鈴の新たな能力が気になります。
しかしこれは良作だ
凄いなきたくなった・・・
いや終わっとくのが綺麗なのはわかるんですが、娘さん'sからの視点で是非
それとも美鈴が二人?
これ見た瞬間、前作も合わせて「そういう」幻想郷が脳内に一気に作られましたよ。
これで、物凄く綺麗に完結してると分かるんですが、番外みたいなのが見たくなる。レミリアフラン視点とか、真実を知った時に美鈴を引き止めようとした娘たちとか。
というかこっちは旧作の幻想郷か…いいな
送り先無制限。千年前だろうが別次元だろうが。
で、あの頃(ry。シャドウ美鈴(MEGAMARI)が千年パンチとかする。攻撃力3000。
>この館に住む娘達と同じメイド服を着ている姿を見た時の気持ちは筆舌にし難いです
しょうじょしゅうめ、わたしのじゃまをするな
なんと正統派なヒロイックサーガ!
娘の誰か? それともゆかりん?
素敵なお話でした。
パチュ「あ~ばよ~、紅のねえちゃ~ん!」
相棒は早撃ち帽子の魔理沙と、斬れぬものなど多分ないの妖夢ですか?
あれ? つまり小悪魔は不〇子ポジションにな(ry
つーか健気だなおいここの姉妹
こんなイイ作品を見つけられなかった自分が泣けるorz
森羅万象 遍く 氣は存在するが故に 氣を操る美鈴は すべてを操るとか、
大妖怪となった彼女はそんな感じなのかなと思ってみたり。
最近、根っこさんがいらっしゃらないみたいですけど、この世界観の
創作をもっと読んでみたいです。
また来てしまった
他にも似たような人がいて嬉しい。
様付けだし
何度読んでも込み上げてくるのです
根っこさんはもう投稿しないのかなぁ…。
つかこの設定で続き読みたい
すごくうずくまりたくなる
心のどこかが切なくなる。根っこ氏戻ってきてくれないかな
そしてこの設定で色々妄想する。
ああ畜生この話の続き読みたいなぁ。
この雰囲気はいい
切ない世界観がぐっときます。
うん、やっぱりこの世界観はいい。
また来よう。
根っこさんの別SSも読みます。
いつか泣きたくなったらまた来ます。
世界観や主人公の切なさが良すぎて、何度読んでもこみ上げてく
る物がある。
とても良い話でした。
もう、何回読んだか覚えていない
絶対的一方通行を思い出す…
思い出して良かった、と思わずにいられません。