Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

煙る銀糸に千年世の夢を

2007/01/24 06:59:37
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警告
 劇中に書き手の《趣味的独自設定》が登場します。
 その手の独自設定が許せない性質の方は、これ以上ご覧にならない様お願い申し上げます。









































幻想郷の人里から少しばかり離れたとある場所。
何処とも知れないお屋敷の簀子に、几帳も立てず御簾も下げずに二人の姫が佇んでいた。

片や絹糸の如き流れる黒髪の娘。
片や星屑を溶かした銀の髪の娘。

似ていると言えば何処か似て、似ておらぬと言えばやはり違うその二人。
幾重にも重ねられたみしりと重い衣を纏いながら、その重さと煩わしさを微塵も感じさせない風情。
ならやはり、その二人を指すには 『娘』 よりも 『姫』 と言うのが相応しい。


黒髪の姫は物憂げに空を、銀髪の姫は厭いた風に地を。
さぁさぁと葉が揺れ擦れささめくような微かな音が耳に入っているのか、それとも入っていないのか。


「止まないわね」
「ああ」

黒髪の姫が物憂げに見やる先には、鈍色のくもがさらさらと銀の糸を吐き出していた。
くもは際限なく糸を吐いてはぐるぐると唸る様な奇怪な音を立て、また厭きもせずに糸を吐いての繰り返し。
釣られて目を向けた銀髪の姫は、やはり厭いた風にくもの様子を眺め、すぐに視線を地に戻した。
くもの様子などには興味が無いのか、それとも吐き出される糸が蟠る様子の方に興味があるのか。


「…………………」

す、と黒髪の姫の視線が空へと上がる。
折悪しく暗い空には月も星もなく、なのに何を見るでもなく黒髪の姫は空を見やる。
ほぅ、と溜息を吐いたのは黒髪の姫か銀髪の姫か。


「ああ」

つと漏れ出た声に引かれ、黒髪の姫が目を移した。
隣にはいつの間にか地から目を上げ、何かに思い至ったかの様な銀髪の姫。

「どうしたの?」
「もしかしたら、お前がわたしの母親だったのかも知れないんだな、って」
「まあ」

そこまで言って銀髪の姫は、照れたように 『義理のな』 と付け加えた。
成程。二人の因縁を考えればその発言も解る事。
或いはそう言えるまでに、銀髪の姫は黒髪の姫を悪しかれとは思っていないのか。



「甘えてみますか、藤原の姫?」

唐突に。
それは常の姿を知る者が見れば色々と疑っただろう。
毒か薬が見せる幻覚か、それとも毎度お馴染み隙間の悪戯か、或いはどこぞの軍師の罠か。

だが生憎と、そのどれでもなかった。
優しくどこか儚げな微笑みも、すぃと広げた両の手も、微かに光さえ纏うに見えるその姿も。

悪気など無いのだろう。在るとすればちょっとした悪戯心か。その字面だと悪気が在りそうな気もするが。
成程、甘えてみますかと問うには相応しいかも知れない、母親にはなりきれない者の姿。
その母性的な何かを埋めるかの如く、さあ甘えろと挑むかのようにも見える。

狐に化かされた様な表情になる銀髪の姫だが、生憎人を化かす様な狐は現在隙間の世話役で忙しい。




「………止めておくよ、赫夜姫」
「残念」

内心が読めたのか、或いは単に照れたのか。銀髪の姫は一瞬だけ戸惑う様を見せて首を横に振った。
そして黒髪の姫も予想済みであったのか、零れたのはさして残念そうに聞こえない声音でしかなかった。

にぃ、と。銀髪の姫は笑みを浮かべる。その雅やかな姿に似合わない笑みを。
ふわ、と。黒髪の姫は笑みを浮かべる。その雅やかな姿に似合う笑みを。





「止まないわね」
「ああ」


さぁさぁと囁く笹の葉を眺めながら、二人の姫はほぅと息を吐いた。


























そのうち流石のくもも厭いたのか、残った糸を纏めて何処かへ去って行った。
ぐるぐると唸る声も遠ざかり、やがてうっすらとゆっくりと光が差す。
日の光を遮るとは、余程に大きなくもであった様だ。


長く鈍色のくもを見続けていた所為か、姫たちの目は暗所に慣れていたのだろう。
先触れも少なに慌しく顔を出した光を翳した扇で日を遮り、僅かに目を眇めた。


やがて目が慣れ扇を退かすと、くもが洗った空に美しい七色の川が流れていた。
先程までの鈍一色とはまったく違うその瑞景に心奪われた黒髪の姫は、
またも地に目を落としている銀髪の姫の裾を引き、手にした扇で空を指した。

「ねえ、空を見て。きっとあの鈍色のくもが織ったのね」
「……いや」

引かれて見上げた銀髪の姫は、しかし違うと首を振ると黒髪の姫の手を引き。

「くもが織ったのは、あっちだ」

すい、と銀髪の娘が指差す先には、それは見事な景色が広がっていた。
青く蒼く碧く澄み渡る色の地に綿の様な白い彪、大きく広がる七色の羽根。

舞い落ちる銀の糸が竹に絡んで留まり溜まり、透いた一枚布を織り上げたのだろう。
くもはその織り上げた一枚布に最後の仕上げとばかりに、碧い地と、白い彪と、七色の羽根で彩った。


「あら。こっちの方が綺麗ね」
「ああ。こっちの方が綺麗で、しかも身近だ」

銀髪の姫はにやりと笑い、つられた黒髪の姫もまたくすりと笑みを零した。
















「いやー、参った参った。輝夜と巫山戯てたらいきなり降ってさー」
「妹紅ったら急に 『雨の日は役立たずだから止めだ』 なんて言い出すんだもの」

先程までの雅やかな姿は何処へやら。
如何にもな姫装束を景気良く脱ぎ捨てた黒髪の姫と銀髪の姫は、いつもの姿に戻っていた。

やはり姫を思わせる和洋が絶妙に入り混じった姿の黒髪の娘、
緋のもんぺをサスペンダーで吊るした活動的な姿の銀髪の娘。

「まったく。双方びしょ濡れで飛び込んで来た時は何事かと思ったぞ」

それともう一人。
結構奔放に脱ぎ捨てられた雅な衣二人分を丁寧に畳む青い衣の娘。
娘と言うには鋭い視線と丸みに乏しい言葉遣い、青い房を持つ銀髪の。

「こっちも驚いたよ。なんで慧音が居るのさ」
「昨夜 『明日は永琳殿に医学を教わる約束だ』 と言っただろう」
「ああ、納得」

この青い衣の娘、何を隠そう獣人である。それもハクタクと言う聖獣霊獣瑞獣の類。

この獣人が住まう人の里にも医者や薬師は居るものの、やはりできる事には限度がある。
重病人が出るたびに竹林まで走るわけにも行かず、まして走って辿り着くかも怪しい。
竹林に住んでいる健康マニアの焼鳥屋に頼めば良いとは言え、毎度毎度では件の焼鳥屋も疲れると言うもの。

そこでこのハクタク(半分)が考え付いたのが、竹林の奥に住む医師から医術を学び、
更にそれを里の寺子屋や井戸端で広めようと言うものだった。
無論広めるのは単純な予防法や葱など、リスクが少なく安全な物ばかり。
ある程度までなら里の医者とハクタク(半分)でも大丈夫な事ではあるし。
とは言え流石のハクタク(半分)も一日二日で医術のすべてを修めるなど無理の一言。
満月の夜だけは別として、週に一度は教わりに行くと言う。


……どこぞの兎が嫉妬に燃えているかも知れないがそれは完全に別の話。















「ところで上白沢さま、永琳は何処へ?」
「ああ、永琳殿なら 『母の会』 がどうとか言って出かけたよ。迎えに来た隙間と共に」
殆ど間を置かずにもう一本、藤村たかのです。
何故か月から来た兎が強烈な波を放ち、書けと囁き倒してくれました。


主役(一応)は、東方ボスチームで特にカリスマ不足と言われている輝夜姫。
そんな輝夜姫にも素敵な所が在るのです……な話になる筈が、
いつの間にか輝夜と妹紅が平安絵巻な服装で暢気に語り合うと言う奇怪な展開に。

前回振った『母の会』も不完全。
趣味的な独自設定っぽい物も満載。

……ああ、色々な方面から散々に怒られそう。


 タイトル
  けぶるぎんしにちとせのゆめを

 赫夜姫
  しずるさん

 最後の輝夜の台詞
  姫っぽくしたら輝夜っぽくなくなった悪例

追記
 なお張った伏線はハクタク(半分)の夜食になりました。
藤村たかの
http://folklore.bufsiz.jp/
コメント



1.名無し妖怪削除
身のうさを思ひしらでややみなましそむくならひのなき世なりせば
2.削除
ハクタクの満漢全席ぶんの伏線を期待しておきましょうかw
3.蝦蟇口咬平削除
まあ、でもこんなてるもこもいいかなー、と
4.名無し妖怪削除
これは連作になりそうな
5.名無し妖怪削除
むしろこんな扱いがちょうどいい >母の会
6.思想の狼削除
だから母の会ってどんなんDEATHかーっ!?
しかも紫さんもいるんですかいぃぃぃ!? …って当たり前かw
7.藤村たかの削除
はぅあ。いつの間にか感想が……。

名無し妖怪さん(一番下)
 感想、有難う御座います。
 ……なの、かな。この不吉さが滲み出る詩は……。
 詩で返すには力不足なので、えーっと…………(悩)
翼さん
 感想、有難う御座います。
 き、期待されるとプレッシャーが……が、頑張ります。
 夜食のつもりが間食にならないように。
蝦蟇口咬平さん
 感想、有難う御座います。
 リザレクション連打のガチバトルの後は、きっと歳相応だと思いたい私。
 二人とも平安貴族なお姫様だと言う噂な事ですし。
名無し妖怪さん(真ん中)
 感想、有難う御座います。
 一話完結の短編の連続……という意味での連作なら、どうにか。
 長いのは難しいのです、受信する電波的に。
名無し妖怪さん(一番上)
 感想、有難う御座います。
 そう言って頂けると幸いです。
 実は何も考えてなかったなんて事は……無いです、多分。
思想の狼さん
 感想、有難う御座います。
 優しくて、近くに娘相当の人が居て、胸の大きなイメージの人。
 ……でも胸は正直関係無いかも知れない、そんな妄想です。
8.deso削除
前半の雰囲気がかなり良いです。個人的には、後半無くても良いくらい。
甘えてみますか、が破壊力高いなぁw
9.藤村たかの削除
desoさん
 感想、有難う御座います。
 確かに虹を見た時点で切っても纏まりますね……精進しなくては。
 なお、もこてるでいちゃつかせたかっただけと言うのは秘密です。